第2幕〜蜘蛛の花嫁・2
オボロをステンドガラスに投げ込んだ後のクロネは━━
急旋回し、バルコニーの手すりを掴み庭の方を向く。
残り数十匹くらいの蜘蛛が飛び跳ね、カサカサと地面を擦るように迫ってきていた!
(……では、試してみましょうか!)
両羽根を広げ魔力を込める!
同時に羽根を数回羽ばたかせる!
━━!
黒色の小さな竜巻が作り出され庭の蜘蛛達へ進んで行く!
その竜巻に呑み込まれて行く蜘蛛達!そして竜巻から勢い良く放り出され地面に落下!
(出来たわ!)
喜ぶクロネ!
「闇巻き」(クロネ命名)
闇巻きの範囲外の蜘蛛達が、両脇から飛び掛かって来る!
手すりから上空へ飛ぶクロネ!
羽釘弾で数を減らすクロネ!
残り数匹……。
地面に降り立つクロネ……。
一斉に襲ってくる蜘蛛達!
両羽根でバシッバシッと羽根のビンタで遠くへ飛ばすクロネ!
夕陽が眩しい……。
羽根で影を作り顔を覆うクロネ……。
(雑魚は終わりましたわ!オボロ様の方へ行きましょう)
━━━洋館内
静かに対峙するオボロとネチル伯爵……。
背負っている白いカーテンを踊り場から1階へスルリと落とす……。薄暗いロビーに白が映える……。4つの青い目が光り……
ネチル伯爵
「どちら様、でしょうか━━?」
踊り場の手すりから飛び跳ね8本の脚を広げオボロへ覆い被さるように襲いかかる!オボロの数倍はある体格!
五感オーラを使い、オボロはすんなり真後ろへ避ける!
ロビーの床にずしりと落ちるネチル伯爵。砂埃が舞う!
オボロ
「お前こそ!誰にゃ!庭の蜘蛛の親玉にゃ?」
ネチル伯爵
「私の眷族達がもてなしてくれたようですね!」
オボロ
「悪いが……掃除させてもらったよ!」
ネチル伯爵━━━!
(私の可愛い眷族を、だと?)
「ま、まぁ良いでしょう……もう少ししたら、私達の結婚式が始まりますので……お引き取り願いたいものです!」
オボロは状況を整理していた……。
(この世界の蜘蛛ってこんなデカイのか?それに結婚式って……。蜘蛛の巣に絡まってるヤツは、どう見ても捕らわれている感じ……)
構えを解かないオボロ!
「悪いがそうはいかないにゃ!」
ネチル伯爵は口の牙をもぞもぞ動かせながら
「ほぉ……結婚式の邪魔をしようと?」
オボロは爪を出し
「勝手ながら……参列させてもらうにゃ!ご祝儀は━━」
裂空爪をネチル伯爵の真正面へ放つ!
「これにゃ━━!!」
ネチル伯爵はお尻から糸を天井へ出し、飛び上がりぶら下がる!
床と階段手すりに裂空爪の跡が残る……。手すりに亀裂が入り崩れ落ちた……!
ネチル伯爵は前足を擦りながら
「威勢がよろしい列席者ですねぇ」
口から群青色の液体を吐き出した!
避けるオボロ!
━━が、尻尾に液体がかかる!
じゅじゅ━━
尻尾の先の体毛が溶ける!
(まともに食らったらやばいにゃ!)
五感オーラを活用し、隙を狙うことにするオボロ!
ネチル伯爵は糸を天井に付け空中ブランコのように、オボロの頭上を、横を、体当たりや手足を広げ仕掛けてくる!
オボロはその場で身体を反ったり、前かがみになったり避ける!
(……鬱陶しい攻撃してくるにゃー!)
━━━と、天井から糸を離しネチル伯爵が後方から噛み付いて来る!!
振り向き、右へ避けるオボロ!
━━がじゅがじゅ……
オボロの左肩を浅く噛み千切るネチル伯爵!!
「ぐっ!ぎゃゃゃ━━━!」
痛みで叫ぶオボロ!左肩を手で押さえ片膝をつく……。左肩からじわぁっと溢れ出る血液!
叫び声で目を覚ますアミュが居た……。片膝ついてるオボロを見て……。
(……アミュの……王子様……)
噛み千切った左肩の肉片を、吐き出すネチル伯爵!
「これはこれは、前菜にも……なりませんねぇ……」
前足で口元を拭う。灰色の足の体毛がオボロの血で染みた。
━━ガシャガシャーン!!
クロネがオボロが突入したステンドガラスから現れた!
負傷してるオボロを見て━━!
「オボロ様!お怪我は━━?」
(……あの灰色の蜘蛛がオボロ様を……)
クロネの状況判断が冴える!
うずくまってるオボロ……。
クロネはオボロを庇うように前で低空飛行!ネチル伯爵と対峙する!
ネチル伯爵の4つの青い目が光る!
「嗚呼!これは何と美しい黒鳥!!私達の結婚式のメインディッシュにふさわしい!」
口元から涎が垂れている……!
痛みを堪えているオボロ。
(どいつもこいつも……クロネは食い物じゃねーよ!)
前例があるだけに余計に腹が立つ。
クロネの黄色の目が光る!
「誰がメインディッシュですって?……私はオボロ様のメインディッシュ!……残飯みたいな輩に資格はありませんことよ!」
思わず本音っぽい事を漏らしてしまい照れるクロネ。
オボロは顔を上げクロネを見て
(え?俺のメインディッシュがクロネ?どういう事?)
ネチル伯爵の地雷を踏むクロネ!
口の牙を立ち上げ、クロネに襲いかかる!
大広間のロビーが広いとはいえ、クロネには狭すぎる!
天井まで飛び上がり羽釘弾を浴びせる!!
2本の後ろ脚、腹部に突き刺さる!
ネチル伯爵は動じず、壁を這いまわり群青色の液体を吐き出す!
オボロは
「身体溶けるぞ!クロネ!」
と、叫ぶ!
クロネは狭い室内での戦いには慣れていない!羽根をばたつかせ必死に避ける!羽先に液体が擦る!先端の羽がじゅわっと溶ける!よろけるクロネ!
━━壁を這いまわるネチル伯爵は脚を踏ん張り腹部を持ち上げ、お尻から糸を出す!!
網の糸がクロネを覆いそのまま天井付近の壁に張り付けにされてしまう!!
「メインディッシュは丁重にもてなさないと!ですね」
涎を垂らしながら、呟くネチル伯爵。
クロネは蜘蛛の巣に絡まり身動きが取れない!
(狭い所では……お役にたてませんわね……)
壁に張り付いているネチル伯爵……。
戦いを薄ぼんやりと見ているアミュ……。
左肩を押さえているオボロ……。クロネを見て心配しながら
(やはり糸による動きを何とかしないと……)
と、はぐれ島から脱出した時の航海でのクロネの言葉を思い出す!
(「オボロ様?大雨で羽根がびしょ濡れになると、水分で羽根が重くなり飛べませんの!その時はイカダで休ませてくださいませ」)
……
……水分
ネチル伯爵を見るオボロ。
……
……芝生のような体毛……
━━━!!
オボロは動く!
左肩を押さえながら手すりを駆け上り、壁に張り付いているクロネ近くの、シャンデリアが付いていくいたであろう1本の鎖を右手で掴む!
ぶら下がりながらオボロ
「クロネ!……出せるか?あいつにアクアボール浴びせて欲しい!」
もがきながら頷くクロネ!
鎖にぶら下がってるオボロ。
クロネ・オボロのほぼ対称に位置してるネチル伯爵!
小さめな魔法陣を出すクロネ!
ぶら下がってるオボロは魔法陣を隠すように身体を大きく見せる……。
壁に張り付き口元の牙をもぞもぞ動かしているネチル伯爵。
クロネ
「行けます!」
鎖を揺らし……床へ落ちながら威嚇するオボロ!
放たれるアクアボール!
威嚇するオボロに気を取られるネチル伯爵!
アクアボールがネチル伯爵に当たり、芝生のような体毛に吸収され、ペタリとしなり細身な身体になった!!
(魔法、ですか?)
ネチル伯爵
「フッ!水も滴る良い男!でしょうか?」
と、壁から床へ飛び跳ねようとするネチル伯爵!
━━が、水分を吸収した体毛で重いため、摺り落ちるように床へ転げ落ちる!!
(な、なに……!)
オボロは辺りを見渡し、点滴台ほど長い燭台を手に取り、くるりと回す!
3本立てられる燭台の先端には太めな刺し針!三叉の槍のようである!
右手で燭台を持ち、左肩の痛みを堪えながらロビー中央の階段を駆け上がる!
少し後ろには捕獲されているアミュ!燭台を持つ後ろ姿のオボロを見つめている……。
(……アミュのために……傷ついてまで……はぁ……王子様……)
口元の牙の先端を、触れるか触れないかくらいな距離でくるくると回し続け、8つの赤い目で憧れの眼差しをオボロに向けている。
ネチル伯爵は床で身体を大きく揺らし水分を飛ばしている!
踊り場の手すりに立ち、右手で燭台を振り上げ、ネチル伯爵の真上へ飛ぶオボロ!
(狙うは……腹部と胸部の境目!)
痛みを堪え両手で燭台をしっかり爪で固定し挟み込む!
そのまま落下するオボロ!
━━!
狙い所に突き刺さる燭台!
そのまま貫通し押し潰し燭台を床に固定させた!
床に刺さる天地逆の燭台……。
「断罪のぉぉ燭台ぃぃ!」
(オボロ命名)
口から体液を吐き流すネチル伯爵。腹部と胸部が燭台により切り離された!!
しばらく身体はピクピク動いていたが……踏ん張っていた全ての足が伸びきった……!
息が上がっているオボロ……。
燭台を握り締めたせいで左肩から血が溢れてくる……。
(チャクラ……)
残り少ないオーラで回復を試みる!
……
オボロはネチル伯爵の死骸に向かい、呟く。
「悪いな……クロネは仲間だ!……メインディッシュは……燭台で……勘弁してくれ……」
……
呟きを聞き逃さないクロネ!
(そんなにも……私の事を!)
舞い上がりたいが……蜘蛛の巣に捕らわれている……。
痛みと溢れる血が、少し緩和したオボロ……。
【戦歴】
オボロ・クロネ
VS
ネチル伯爵
クロネのアクアボール
オボロの断罪の燭台で
腹部と胸部を貫通させ、勝利。
【能力】
クロネ
・闇巻き




