第2幕〜蜘蛛の花嫁・1
薄暗い洋館の大広間を、そわそわしながら動き回る物体……。
緊張なのか……興奮なのか……荒々しい息づかいが響く……。
洋館の外で多くの野犬が騒いでいる……。
???
「外が騒がしいですね……式の邪魔になりそうなので……お腹を空かせた眷族に掃除してもらいましょうか……」
と、大勢の眷族を洋館の外へ送り出す!
……
……
鳴き声が止み……静まり返る洋館の外……。
???
「……片付いたようですね」
(愛しのフィアンセは、そろそろお目覚めになるかな)
愛しのフィアンセの前で、落ち着き無く待つ
……
…………
(なんか力が入らない……身動き取れない?)
意識を取り戻すフィアンセと呼ばれる生物。
━━!
大きな蜘蛛の巣に捕獲され、身動きが取れない!
フィアンセと呼ばれる生物は弱々しい声で
「ちょっと……何、これ?……あなた……誰よ?」
???
「嗚呼!お目覚めになりましたか!我が愛しのフィアンセよ!」
フィアンセと呼ばれる生物
「……フィアンセ……じゃない……これでもちゃんと……名前くらいあるんだから!」
???
「すまない!愛しのフィアンセ!……まだ恥ずかしくて……呼べないんだよ!」
フィアンセと呼ばれる生物
「……アミュ……」
弱りながらも名乗るアミュ!
(何で私こんな所に居るの?)
濃い紫色した全身、腹部には赤い細目なラインで縞模様な蜘蛛。
???
「嗚呼!愛しのフィアンセよ!なんて愛らしい名前!」
アミュ
「で、あなた……誰?」
素っ気なく聞く。
???
「連れ去る前に申し上げましたが……お忘れになられましたか?愛しのフィアンセ」
アミュ
(………連れ去る?)
━━━!
(確か1匹巣に乗り込んで来て……私以外皆殺ししてたような……)
じわじわと怒りが込み上げて来るアミュ!
しかし衰弱してるため抵抗すら出来ない!
(どうしよう……白馬に乗った王子様でも……来てくれないかな?)
???は再度名乗った
「僕はネチルラルビスタ=タランチュラ!タランチュラ族の伯爵!是非貴女を生涯の妻とするため、連れて参りました!」
全くの悪気無く己が正義と言わんばかりに!
アミュ
(名前……長っ!)
「だから、フィアンセでも無いし……結婚なんてしないわよ!第一名前が長い!呼びづらい!」
ネチルラルビスタ
「嗚呼!それは失礼致しました!……ネチル伯爵、とお呼びくだされば光栄です」
薄い灰色の身体、腹部、頭部、脚に至るまで長めな体毛が揺らめいている。
なんか呆れるアミュ。
アミュ
「……私の仲間皆殺ししたでしょ?そんな野蛮な蜘蛛と一緒になんて嫌!それに……なんか自分に酔いしれてるし……」
━━━!
ネチル伯爵の地雷を踏んだアミュ。
ネチル伯爵は、口元を引きつらせながらも
「そうですよね。……では再度お静かにしててもらいますよ!」
アミュを捕獲してる巣へ飛び跳ねて近づき、よじ登るネチル伯爵……。
アミュの腹部に噛み付き眠らせる………。
ネチル伯爵
「全くじゃじゃ馬とはこう言う者なのでしょうか?……いや、じゃじゃ蜘蛛、ですね」
と、高らかに笑う。
昏睡になりかけのアミュ
(私、あいつと結婚なんてしたくない!いずれ餌にされるのが目に見えてる……。誰か……助けて……白馬に乗った……王子……様……)
捕獲されてる巣で、もがき続けるが意識が遠退き……眠りに落ちてしまうアミュ………。
洋館へ向かっているオボロ達━━
蔦の絡まる樹木、そして垂れ下がる無数の蔦……。
樹木の根本には明らかに危険そうな色のキノコが……。森全体は水分が多めで湿気が多く感じる……。
垂れ下がる蔦をかき分け、日が暮れそうなくらいに洋館にたどり着く。
━━━!
空気が冷たい……。
洋館の入り口から伸びる通路は凸凹の石畳……隙間から雑草が生い茂ってる……。
両脇の煉瓦の花壇と見られるところにも雑草……。
長期間どこも手入れは全くされていない様子……。
庭には食い散らかしたであろう野犬や鳥の残骸……。
洋館を見ると━━!
ドア、窓、全てに蜘蛛の巣が頑丈に張られていた!!
オボロ・クロネ
(なんか嫌な雰囲気)
洋館へ静かに近づく2匹……。
オボロはオーラで五感を強化、クロネは魔力を溜めている。
クロネ
「オボロ様!来ますわ!」
━━!
洋館の両脇から、屋根から大量の灰色で毛だらけの蜘蛛が湧き出て来た!
ためらわずオボロ、クロネに襲いかかってきた!!
五感オーラ、両手両足にオーラで構えるオボロ!
(何だよこの数!)
クロネは即座に真上へ飛び上がり魔法陣を展開!
「オボロ様、退治でよろしくて?」
オボロは向かって来る蜘蛛から目をそらさずに
「当然でしょ!」
飛び跳ねながら迫る蜘蛛たち!
エアカッターを数発叩き込むクロネ!
軽く数十匹は減った……。
魔法の精度が上がってるクロネ。
オボロはあまり動かず向かって来る蜘蛛を避けつつ、裂空爪で斬り倒していく!
(爪だけオーラで放たなければ、いけるな!)
飛び跳ね、襲いかかる蜘蛛達を各々撃破して行く!
庭にはおびただしい数の蜘蛛の残骸……。灰色の絨毯のよう……。
クロネが━━!
「洋館の中に強い魔力がありますわ!」
オボロ
「あれか?親玉?」
蜘蛛達を撃破しながら洋館を見るオボロ。
クロネは上空から魔法と羽釘弾を使い分け撃破している!
襲いかかる蜘蛛が減り始めた!
オボロの周囲は蜘蛛の残骸だらけ!それでも回し蹴り、裂空爪で散らしている!
……
……!!
オボロは叫ぶ!
「クロネ!洋館のバルコニー!あのステンドガラスに俺を投げ込んで━━━」
クロネは蜘蛛を避けながら、オボロを両足で捕まえバルコニーへ向かう!
(オボロ様!申し訳ありません!)心で誤りつつ
「行きます!オボロ様!」
バルコニー前で、オボロをステンドガラスへ投げ飛ばした!!
オボロ達が洋館で蜘蛛達と戦闘し始めた頃━━━
洋館の吹き抜けのロビーで結婚式の準備をしてるネチル伯爵がいた。
ネチル伯爵
「おや?眷族達がまた暴れてますね。全く今日に限って騒々しい!」
眠っているアミュを眺めるネチル伯爵。
(もうすぐ!もうすぐですよ!愛しのフィアンセ)
捕獲されてるアミュの前に豪華な添え物(野犬の死骸)が数体並べられている……。
まだステンドガラスから夕陽が差し込んでいる。
ネチル伯爵はロビーを行ったり来たり、忙しない!
(嗚呼、早く満月にならないのか!)
━━!
(そうです!あの部屋の白いカーテンを添え物に被せましょう)
と、ロビーを後にするネチル伯爵。
静まり返る大広間のロビー。
夕陽がステンドガラスに照らされ鮮やかに床に映される……。
洋館の外から叫び声がする━━
「うにゃ━━━━━!!」
夕陽で照らされるステンドガラスに、飛び込むオボロの影が重なる!!
影がどんどん近くなりステンドガラスの中央だけが暗くなる!!
バッリ━━━━━━ン!!!
ガシャガシャ━━━ン!!!
両腕を交差させ、顔をガードしつつステンドガラスを破壊して突入するオボロ!!
割れた破片が不規則に回転しながら落ちていく。夕陽に照らされ破片がキラキラと輝いている!
叫び声とステンドガラスの割れる音で目を覚ますアミュがいた。
………
意識はぼんやりなアミュ……
……
………!
ステンドガラスから突入し、そこには滞空時間中のオボロがいた!
夕陽に照らされ茶トラの毛が黄金色に優しく光る!まるで後光がさしてるかのような!
ここだけ切り取ると、オボロが宙に浮いているように見える!
………!!!
(助けに……来てくれた……アミュの……王子様)
安心したのか、また眠りに落ちてしまうアミュ……。
━━ぐちゃぐちゃ!ぐっちゃ!
両腕を下ろし目を開けるオボロ。
(あっ!何か踏み潰した?)
見ると数体の野犬の死骸!!
サッと横飛びし位置を変える。
━━━!
前方に幅の広い、豪華だったであろう階段が!その先の丁字の踊り場に大きな蜘蛛の巣が!そして捕らわれている蜘蛛がいた!
そこへ鼻歌混じりのネチル伯爵が白いカーテンを背負って2階から踊り場へ向かって、のそのそやって来た!
………?
オボロを発見するネチル伯爵
「はて?今宵の私の結婚式に、招待客は呼んでないのですが……」
オボロは構えて
「庭の蜘蛛の親玉は……お前かにゃ?」
静かに対峙する2匹……。




