第1幕〜記憶の旅・1
7月7日、ナナの誕生日である。
お察しの通り……名前は誕生日からである。安易ではあるが、爽太は自信満々であった。
妻のマキちゃんに
「爽太さんに名付けて欲しい」
と頼まれたからである。
仕事の都合で誕生日には無理だったが、週末になんとか仕事の休みは取れた。
ナナの13歳の誕生日と僕とマキちゃんの結婚記念日も兼ねての温泉。まぁ、近場ではあるが。
道中の車内。
助手席はマキちゃん。
後部座席にナナ。
爽太はもちろん運転席。
流れてる曲は、ナナの好きなアニメや特撮、子どもが好みそうなものばかり。とは言えナナも中学一年生。
(もう少し大人になってもらいたいものだ)
爽太は考えてしまう。
特に女の子向けだと、可愛い系やら、愛らしい小動物系やら、お決まりの魔法少女ほにゃらら━━とか。
ナナは小さい頃から魔法少女系は好んで見てたし、おもちゃ振り回して遊んでたっけ。
(散々、俺、悪役やらされてたっけな)
爽太は信号待ちで、窓の外を眺める。
しばらく車を走らせると、いつも向かうルートが工事のため通行止めになっていた。
「なんだと!?」
慌てる爽太。
仕方なく脇に車両を止めて、ナビで検索。
(んーこっちのルートにすっか)
爽太は、車両を旋回させ、ナビ通りに走り始めた。
ナビをじっと見つめるマキ………
妙な不安感が襲う………
「パパに、まっかせなさーい!」
マキやナナを不安にさせぬよう元気に話しかけた。
ナビ通りに走り始めしばらく経ち
「ねぇママー、きぬ一人でお留守番平気かなぁ?」
お菓子を頬張りながらナナは言う。
「姉さんに、夕方くらいに見に行ってもらうから、安心よ」
と、マキは微笑む。
「サキ姉さんなら、大丈夫だな!」
続けて、爽太が運転しながら言う。
「そうだね!サキおばさんなら」
と、ナナは後部座席に横になり、寝る態勢になっていた。
それを見るやいなや、マキは毛布を取り出しナナに掛ける。
(はぁ、なんてマキちゃんは気が利くんだろ)
半分惚気ながらハンドルを握る爽太。
チラリと後ろに振り向きナナの寝顔を見る。
マキと目が合う。
━━━!!
マキの目から……涙が溢れそう。
「え、あ、マキちゃん?」
爽太は声をかける。
涙を拭きながらマキは言う。
「あっ、ごめんなさい爽太さん」
しばらく間を置き
「爽太さん……私……今、幸せよ」
ハンドル握る爽太は前を見ながら頷く。
続けてマキは
「明日も明後日も、来年も……ずっとずっと家族で……居られたら、良いよね」
言葉を詰まらせながら、独り言のように言う。
爽太は
(なんで今のこのタイミングだ?)
と思いつつ
「マキちゃん!何も取り柄ない俺だけど、マキちゃんとナナは、何があっても、守る!」
続けて
「あー!きぬもね」
二人見つめ合って、軽く笑い合う。
━━━━━
車を数時間走らせ都会から離れ始めた。車の窓を開け自然の風を楽しむ。山は新緑で天気は快晴。
(たまに来る自然な所は落ち着くなぁ)
爽太は感じた。
カーブの多い山道を登り始めて、渋滞になっていた。
「ここで渋滞?」
爽太は言う。
片側一車線だから、追い抜くのは危険。登坂車線もまだ無い。
後方からサイレンの音。
何やら拡声器で警官が話している様子。
「ドライバーの皆さん!先でダンプ同士の事故です!我々の指示に従って速やかに移動のご協力お願いします!」
後に続いて救急車・消防車も数台。
「こりゃ参ったね……マキちゃん。ナナ起こすの待とうか」
爽太は、小声で言う。
頷くマキ。
しばらくすると反対車線から1台の乗用車が降りて来る……。
(上から誘導してるのか)
爽太は考える。
━━━と、結構なスピードで対向車線を登ってくる1台の乗用車!!
爽太はミラー越しに
(おいおい、アホか?)
降りてくる乗用車は爽太達の車両を通過し走って行く!
(これ対向車、気づいてない?)
━━━クラクションを数回長く鳴らす!
「気付けよ!気づいてくれ!」
思わず声に出す爽太!
間もなくカーブ!
━━━━ドーン!!
カーブの先で衝突音!
そして━━━━
━━━ドドーン!ボーン!
爆発音!!
ミラー越しには、黒煙と燃える数台の車。
「マキちゃん……これやばい、よね?」
弱々しく投げかける爽太。
「大丈夫……落ち着きましょう」
爽太に手を重ねて、微笑むマキ。
(できることを、やろう!)
爽太は気持ちを切り替える。
━━━━と、車の上の方で、ゴゴゴーと、地鳴りのような音!
(今度はなんだ!?)
━━━ゴゴゴゴゴォ
━━━ドゴドゴドゴォ
雷と勘違いしそうな音!!
車から除くと━━━
左の斜面から一気に寄せる土砂!!
「土砂崩れ!?」
(そう言えば、何日か前に大雨で地盤がどうのこうのったニュースで言ってたな)
爽太は思い出す。
前方の車両が土砂で潰されたり、押し流されいる。
その光景を目の当たりにし爽太は考えてしまう。
(もう、ダメ、か)
その瞬間━━━━
爽太たちの車両にも土砂が━━━
横から、ドゴドゴドゴォ━━━
爽太たちの車両は、ほぼ真横に押し流され、ガードレールを突き破り、土砂ごと崖の下へ……。
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