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第1幕〜ナナの退院、きぬの出産

 

 今日はナナの退院の日━━

 お盆も終わり残暑厳しくなる8月末……。


 サキは今現在とても多忙。

 シングルマザーとして、社会人として、ナナの叔母として、事故の遺族会の代表として……。倒れてもおかしくないほどに……。息子のダイキは、そんな母を見兼ねてか、自分の事は自分でするようになった。元々家事の手伝いはしていたが、それ以上にするようになった。頼ってしまい申し訳ないこと、日々成長してるなと言う二つの気持ちがあるサキ。

 会社では、連日報道されるような事故でサキが関係者と知るやいなや、部長から、有給使っても構わないし、多少の遅刻・早退は多めに見る、と伝えられた。どうやら上層部から言われたらしい。しかも後で知ったことだが、上層部に圧力かけたのは……爽太の勤務していた会社=取引先の社長直々だったらしい。なのでそこは多いに活用させてもらうサキ。

 事故の遺族会は……本当はやりたくはなかったサキ。事故直後の弁護士に依頼したホームページやらボランティア募集やらが、マスコミに取り上げられてしまい、それを見た他の遺族らが集まってしまい流れで、代表になってしまった。とは言えマスコミのおかげで一般の知らない人や似た境遇の団体から募金や寄付をもらい捜索の活動はしばらく可能になった事が嬉しく思っていた。なにより、今はナナが回復して平穏に日常が送れれば良いと考えてるサキ。実質遺族会の代表は名ばかりで弁護士にほぼ丸投げな状態。


 ナナは病室でサキを待っていた。身体は回復したが……心はまだ回復していない……。心の方は長い時間がかかるだろう。

 笑顔でサキが迎えに来た。

 ナナもにっこり微笑む。どこか悲しげな微笑み……。

 手続きや支払いを済ませ車へ。ダイキは助手席に座っていた。素っ気なく退院おめでとうの一言のみ。ナナも久しぶりのダイキとの再会なのだが、よそよそしくしてる。サキが運転席に乗り込み、車を走らせる。

 運転しながらサキは

「ねぇナナちゃん?叔母さんたち、ナナちゃんと一緒に住もうかと考えてるの。これからナナちゃんも大変だろうから、お手伝いしたいなぁって」

 それを聞いてダイキはサキを見て

(え?マジ?初耳なんですけど……)

 サキの目が真剣なのを見て

(あっ!文句言えないパターンだ……)と、諦めたダイキ。


 ……

 ……

 ナナ「うん……ありがとうサキ叔母さん」景色を見ながら答えるナナ。

 ……

 ……

 ナナ「あっ……パパとママが……帰って来るまで、だよね?」


 ━━━サキもダイキも言葉を失う……


 サキは冷静になり

「え、ええ!もちろん……そのつもりよ!」


 ……

 ……


 この沈黙が我慢できずにダイキが友達のバカ話をサキにした。サキも合わせるように同僚の話やら、上司の愚痴を言い始めた。

 ぼんやり景色を眺めるナナには……二人の会話が、ただの雑音としか認識できていなかった。



 ━━ナナが退院する数日前、青葉家では━━


 サキがきぬの世話をして青葉家を後にしていた。

(きぬちゃん調子悪かったのかな?隅っこで顔だけ見せて、威嚇されちゃってたけど……)


 きぬはお産準備に取り掛かっていた。


 陣痛を耐え

 気張るきぬ


 ━━!


 子猫が産まれた!


 きぬは匂いを嗅ぎ、羊膜を剥がし、ざらざらした舌で優しく全身を舐める。


 母猫となったきぬ。



 ━━━青葉家に到着したサキたち


 玄関を開け、ナナが入る。

「ただいま……」

(きぬ迎えに来てくれるかな?)期待してるナナ。


 リビングへ行くナナ……。


「きぬーただいまだよー」

 小声で呼ぶナナ。


 ━━と


 隅のほうで物音が!


 子猫を口に咥えたきぬが出てきた!


 きぬの再会と子猫に喜び、驚くナナ!


「きぬー!子猫産んだんだー!嬉しい!」近寄るナナ。


 きぬは子猫を降ろし、ナナの足元の匂いを必要以上に嗅ぐ。


 ……なんとなくナナの匂いを感じ子猫の方へ行きペロペロ舐める。


 荷物を持ったサキとダイキがリビングへ来る。


 ナナは興奮して

「ねぇねぇ!サキ叔母さん!ダイにぃ!きぬにね!子猫産まれたんだよ!」事故前の可愛らしい笑顔で!


 サキもダイキもナナの後ろにいるきぬと子猫を確認する……。


 全身キジトラ柄の子猫……。


 3人で子猫を観察……。


 よく見ると……眉間の体毛が、無い!ひし形で地肌が丸見え。


「そのうち生えてくるよ!」

 と、ナナ。


 ━━━!


「そうだった!」

 思い出すようにナナが声を出す!


 驚くサキとダイキ。


「きぬを飼い始めた時に……パパとママに言ったことがあるの!……きぬに子猫産まれたら、名前付けていい?って」


 サキ「あら、もう考えてあるのかしら?」


 ナナは、静かにきぬから子猫を取り


「もう決めてるの!」


 子猫を高々と持ち上げ命名するナナ!



「おぼろ!」



「この子の名前はおぼろ!」



 リビングの窓から夕日が射し込みナナとおぼろを照らす。




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