第1幕〜八百長決闘
川までの道の整備が進んでる中、オボロはトツと双子猿を連れて川まで来ていた。クロネも空を飛び同行。
川に着きオボロは流されないようにと危険性を指摘した。トツたちも真剣に聞いている。そのあと魚を捕獲する方法を伝え始めた。流れが緩やかな所で石で囲いを作りその中で手掴みで捕るやり方。これなら猿でも可能だろうと。とりあえず手掴みを双子猿にやらせてみた。
……
……
苦戦はしたが楽しんで手掴みをしていた。囲いまで誘き寄せるまでは根気がいることは伝えた。
クロネは上流でいつものようにかぎ爪で狩りをしていた。それをトツが見ている……。どうやらトツはクロネの狩り方に興味を持っているようだ。クロネと同じように槍を構えて水面を見つめている……。何回もしてるが上手くできない様子……。クロネはポンポン魚を捕らえている……。オボロはトツにアドバイスをした。
「集中して、魚の動きをよく見て、真上から槍を!」と。
……
……!
びしゃ━━ん!
魚の腹に槍が刺さり小振りだが捕獲出来たトツ!顔には出ていないが満足してる様子!クロネも羽を叩いて喜んでいる!
魚は生で食べるときは骨があるから気をつけることと、開いて内蔵取り出して天日干しして食べる方法も教えた。
━━集落へ戻ったオボロは……
クロネとダリルを入り江まで呼び出した。長の交代の件で……。
オボロは流れを話し始めた……。
ダリルがオボロに長の交代の決闘を申し込む。オボロは戦いたくないから、コイントスで勝負しようと持ちかける。ダリルは承諾してコイントス勝負へ。コイントスはやらせでダリルが勝つよう仕組む。ダリルには少し演技をしてもらうことにはなるが、無理矢理納得させた。
コイントス……コインは無かったので手頃な木片を使うことにした。表には〇裏には✕。やらせ用に両面〇両面✕を各一枚。周りの猿たちにこの木片を見せるときは、木片を2枚重ねて裏表をはっきりと〇、✕とアピールしておく。ダリルには好きな方を選べとは言ったが、〇を宣言しろと伝えた。
木片を投げるのはクロネに任せた。木片をクロネに渡すのがオボロ。2枚重ねた木片をクロネの嘴に挟むように渡す。クロネは飛びながら両面✕の木片は嘴の奥へしまい、両面〇の木片だけを地面に落とす算段。落ちた木片を素早くオボロが拾う。両面〇とわからぬよう手のひらで木片を覆うように他の猿たちにアピールする。
クロネは理解してくれたようだが……ダリルは不安な表情……。初めて会った時の威勢が良いダリルはどこへ行ったのかと思うほどに……。
オボロはまた明日3人で打合せしようと言って解散した。
翌日━━
集落の見回り終わりで3人で打合せ。
こっそり3人の後をつけているミリルがいた……。
オボロは昨日と同じように段取りの確認をしていた。やはりダリルの演技力が……乏しい……。オボロはダリルに、もっと自信を持て!弱気なダリルは見たくないぞ!とアドバイス。ダリルはそれに応えるように拳を握りアピール。クロネは心配なさそうだ!
明日、結構することにした。
少し遠くの木の後ろで、3人のやり取りを見聞きしていた内気なミリルが、そこにはいた……。
そして翌日━━
広場中央でキョロキョロしてるダリル……。
岩陰から覗いているオボロ……。
(ったく!しっかりしてくれよ?ダリルさんよ!)
ダリルが口を開く!
「あぁ━━俺はもう……うんざりだぁ━━!」
作業してる猿たちに聞こえるように叫ぶ!
棍棒を肩に担ぎ
「オボロのアニキ!居るか?」
ゴクリと唾を飲み込み
「……悪いが……長の交代だよ!」
岩陰から現れるオボロ。
「なんだよ?騒々しいなぁ」
ダリル、言うことを思い出しながら
「あんたのやり方じゃ、なんか駄目だ!長の交代の決闘を申し込む!」
作業してる猿たちの手が止まる。
クロネは高台から見守っている。
オボロはダリルに近寄り
「せっかく手を取り合って仲良くなれたと思ったのに……。やっぱり仲良しこよしより、独裁的なのが好みか?」
ダリル
「あぁ!アニキの言うとおりだね!今まで通り、長が中心が……俺はいいね!」
ミリルは周りをキョロキョロしながら見ている。
オボロ「……わかった!けど前みたいに戦いで決めたくない!」
ベルトに挟んだ木片を取り出す。
「この木片トスで勝負しよう!」
……
ダリルはしばらく間を開けて計画通りに
「あぁそうだな!そういうのも悪かねぇ」
オボロは猿たちを広場に集めた。オボロの後ろには誰も居ないように猿たちを誘導した。そして木片トスの説明をし始めた……。
クロネを呼んだ。
嘴に○✕の木片を咥えて。
オボロは例としてこんな感じだよと、数回やってみせた。
……
……
納得したかどうかわからないが、仕組みとルールを提示することに意味があった。
そして━━
ダリルは○と宣言した。
必然とオボロは✕。
両者宣言し終えて、用意しておいた2枚重ねの木片をクロネの嘴へ運ぶ……。
小声でオボロは
「頼んだぞ。クロネ」と。
クロネが空高く飛ぶ……
飛んでる途中、猿たちに見られないように✕だけの木片は嘴の奥へ留めておいき、両面〇の木片のみを嘴に咥え変えた!
嘴から離れる木片!
空から木片がゆっくり回転しながら落ちてくる!
猿たちはの目線は木片に集中してる!
ミリルは木片よりもオボロとダリルを見ている。
地面に落ちる木片!
数回跳ねて……
地面に落ちる……
○が見えている!
落ちた瞬間にオボロは木片を手に取り裏面が見えないように○をアピールしていた!
この時点で○を宣言したダリルの勝利!!!
周り猿たちは、興奮して騒いでいる!
クロネは高台へ戻り嘴の中の木片を吐き出し、かぎ爪で粉々にしていた。
……
……「……違う」
騒ぐ猿たちの中から言葉を発する猿が居た!
「……これ、違う」
オボロとダリルへ歩み寄るのは━━
ミリル!
割り込まれたのも驚いたが、それよりもオボロ、ダリル、クロネはミリルが言葉を発する方に驚いていた!
ミリルは片言であるが
「……違う……だめ……お、にいちゃん、オ…ボロ……さん……みんな……なか……よし」
オボロの手とダリルの手を引き寄せるミリル
ミリル「……わた…し…も、ほかの……猿たち……も……ふた、り、とも……好き」
ミリルの言葉に大泣きするダリル。オボロも涙目になる。
(そうか……こんな茶番劇しなくても……良かったのか)と思うオボロ。ダリルは長い腕で目を隠しながら、まだ泣いている。
……
……
ダリルが泣き止むまでしばらく待った……。
オボロは再度全員を集め、説明した。
訳あって島を離れたいこと。だからダリルをもう一度長にしたかったこと。皆を騙すような形になり、すまなかった、と頭を下げた。自分が島を出る前日にダリルと交代にしたいとも伝えた。
ダリルは、それで良いと頷く。ミリルもトツもほかの猿たちも、手を叩いたり声を上げて賛成した様子。
━━夕方食事の後
無風なのに入り江の構造なのだろうか、ヒューヒュー音が鳴っている……。
オボロは入り江で製作中のイカダを見ていた……。
(このイカダで5号目……。帆も大きくオールも2本……仮に……自分とクロネが乗っても広めな大きさ……。あとは水と最低限の食料……何日航海するかわからぬ不安……遭難して、また死ぬかも、な……)
クロネが隣へ来る……。
初めて見る不安そうなオボロを目の当たりにしてだろう。
オボロ「クロネ……」
黙っているクロネ。
「オボロ様……先日のお話の件ですが……」
クロネの顔を見上げるオボロ。
クロネ「多少は迷いましたわ……私自身の生き方……群れとはぐれた鳥は合流するのがとても難しいのです……。オボロ様に助けてもらった時から気持ちは変わっておりませんわ!」
クロネはオボロの前へ移動する。
両羽根を広げ
頭と胴体を水平にし
両足をたたみ
頭を上げて
「二回目、ですわね……。私クロネは……何があろうと!オボロ様のお供をさせていただきます!」
頭を下げ地面すれすれに張り付くクロネ。
確かに見るのは2度目……。オボロは顔を上げるよう優しく言う。
オボロ「クロネの覚悟、感謝するよ!迷惑かけるかもしれないが、全力でクロネを守る!」
(クロネはもう家族みたいなものだな)と思うオボロ。
その夜は素直にクロネの羽に包まれて寝ることにしたオボロ。
寒いのか……寂しいのか……不安なのか……。
クロネはオボロの寝顔を見ている。
(茶トラの毛並みも素敵。そして可愛らしい寝顔ですわ……戦っている時とは、まるで違いますわね)
好意と母性が入り混じっているクロネであった。
……
オボロの【願いの首輪】が、ほんのり光る……。
……
……
……「……ろ」
……「……ぼろ」
……「おぼろ!」
……「……の名……は……おぼろ!」
オボロの頭の中で響く声……。
寝ているのに聴こえてくる声……。
ナナの声……だ!
俺を……呼んで……いる?
ナナ……。パパは……ここに……居るよ!
頭の中で聴こえてくる声に、呼びかけるオボロ。
入り江にはまだヒューヒューと音が鳴り響いている……。




