第1幕〜青葉ナナと水嶋サキ
昏睡状態から目覚めたナナは身体的にはほぼ回復し、個室へ移動していた。
点滴も減り、包帯も取れ、ベッドから起きて個室内なら動ける程度には回復していた。
個室へ移り数日後、警察の事情聴取的なことをされて、あまり思い出したくないことを聞かれたり答えたりしたため、情緒不安定になっていた………。
それもそのはず。あの事故と土砂崩れは、しばらくニュースやネットで話題となっていたからである!その話題の中心は………生存者の少女━━そう、ナナのことである。
警察から聞き取りされたことが、ニュースやネットで取り沙汰されている。
嫌でもサキやダイキの目や耳に入る。
サキはマスコミにしばらく取材され続けて、ナナの所に行けない状態。
そこへ奥原さんから電話があり、借りていた所持品を返却したいから取りに来て欲しい連絡を受ける。
そこで返却された所持品……
ナナのお気に入りのポーチ。
マキと爽太の結婚指輪。
マキの財布とメモ紙。
……
見るたびに、目頭が熱くなるサキ。
奥原さんからは、マスコミもそろそろおとなしくなることと、自衛隊の派遣が7月いっぱいで打ち切りになり、捜索が地元の消防に縮小されることを告げられた……。
落胆するサキ━━でも少数でも捜索してくれる人がいて期待はしていた。とは言え、そう長い期間は捜索しないことは、なんとなくわかっていたサキ。
(せめて骨か遺留品だけでも……)
サキは警察を後にし、自分の不動産を管理してる不動産屋に赴き、事情を説明。利益の見込めない不動産の売却へ踏み切る!捜索の活動資金として。その後、馴染みの弁護士のところへ行き、捜索協力の募金、ボランティア募集のホームページの作成の依頼と管理。やれることはやる!サキの信条。
(ナナちゃん!必ず見つけるから!)
7月下旬、サキはようやく目覚めたナナの病室へ来ていた。
すやすやと眠っているナナ。
起こしちゃいけないと思い、窓側へ腰掛け、外とナナの顔を交互に見るサキ。
……ナナの顔を見ると、同じくらいな年のマキに面影あるなと思うサキ……。
ふと、マキと爽太の初デートのことを思い出す。
二人が住んでるマンション近くのコンビニでマキを待つ爽太に偶然居合わせたサキ。
声をかけたサキに驚き、同級生だったことを言うと、思い出してくれた。そこへマキが来て……爽太はさらに驚いてたっけな……。二人が姉妹ってことに!姉として心配だからと無理矢理、後部座席に乗り込んで初デートを邪魔しちゃったんだよねー。
(マキにしばらく口を聞いてもらえなかったけ……)
苦笑いするサキ……。
(ごめんねマキ!初デート邪魔しちゃって)
ナナの顔を見つめる。
まだすやすや眠っているナナ……。
水嶋姉妹について少し語っておこう。
看護師だった母、そこで入院していた父と出会い、二人は生を受けた。入退院を繰り返す父は、早くに病死。母は二人を必死に育てた。夜勤を増やしたり休日も働いたりと。
そうなると家のことは子供達ですることになり、子供ながらも家事をし、母を助けていた。周りの友達は、遊んだり習い事をする中で……。
そして━━サキ12歳マキ9歳の時に勤務中に倒れ、そのまま帰らぬ人に………。過労認定すれすれな勤務をしていたためかと思われる……。
こうして両親が居なくなった二人は、父方の母が引き取る事になった。祖母は、二人を大事にしてくれた。そんな祖母に、二人も応えるように学校、祖母の手伝い、もちろん友達との遊びも楽しんだ。
その祖母も、サキ18歳、マキ15歳の時に亡くなった。祖母には多くの不動産があり、祖母の遺言で、18歳のサキが相続することになった。
その後に爽太の通う高校へ転校してきた。
そして、爽太とマキは出逢って付き合いだした。
爽太21歳マキ18歳で結婚。
1年後にナナが産まれた。
一方サキは………
高卒でインテリア関連の商社に就職した。その商社、爽太の建設会社とも取引をしていて、しばしばサキと顔を会わすことがあり、会社で初めて会った時は、お互い指を指し合ってゲラゲラ笑ってしまい周囲をドン引きさせてしまった。
サキ20歳の時、妊娠発覚!当時付き合っていた彼氏である。その彼氏、既婚を隠しサキと付き合っていたのであった!サキは行動力がめっぽう早い!すぐ弁護士に掛け合いDNA検査し、彼氏の家まで上がり込み、夫婦を目の前にし認知させ、慰謝料と義務教育終了までの養育費を勝ち取ったのである!
サキ21歳ダイキ生まれる。
このことからサキは近寄ってくる男や軽そうな男には、警戒心をやたらと持つようになった………。
そんなことを思いつつ窓の外をぼんやり見ているサキ。
━━「ママ?」
ナナが起きたようだ。少し弱々しい声で呼ばれた。
振り向けないサキ。
どう返答してよいか迷うサキ。
……
サキはにっこり微笑んで振り返り━━
「ざーんねんでしたっ!サキ叔母さんでした!」
ナナは両手を口に当て
「サキ叔母さんだったのか……やっぱりパパとママは……忙しくて来れなかったんだね……」毛布に顔を半分埋める……。
「……パパの声がしておきたんだけどな……」
毛布越しにつぶやく、ナナ。
サキはこのまま嘘で誤魔化すのか、正直に答えるのが最善なのか迷っていた……。
おそらくまだナナ自身、記憶が混乱してたり、ショックで思い出したくないのだろうと考えた。
サキは、ナナの手を両手で優しく包み込み
「早く身体治して……お家に帰ろうね」
本当は(ナナちゃん!生きててくれて、ありがとう!)
と、叫びたくなるくらいなサキ。
ナナは窓の景色を見ながら
「……うん……」
寂しくも弱々しい返事。
外では蝉の音が鳴り響いている……。




