第1幕〜終幕から開幕へ
……波の音、か
……潮の香り
……砂、浜
……俺、生きてる、のか?
……ゆっくり目を開ける
……あまり整備されてなさそうな砂浜にうつ伏せ。
……ん?
……んん?
目の前には、ピンクの肉球。
(なんだ、肉球か)
え━━っ!?
はぁ━━っ!?
慌てて立ち上がり、その肉球で体を触りまくる。腹・肩・腕・足、そして、顔。
……
……
……猫っぽい。
全身もふもふな、二足歩行な猫。
(ありえない、だが俺の意識は確かにココにある)
言葉を発してみよう。
「あ━━」
「え━━」
とりあえず、アレ、だよな。
「おはようございます」
「こんにちは」
「こんばんわ」
「おやすみなさい」
最後に
「俺は、青葉爽太」
なんとか言葉は話せるようだ。
何故か妙に落ち着いている自分が居る。もう諦めたのか、それとも夢や幻だと言い聞かせるように。
周りを見渡す。
濃い紫の淀んだ海。
死骸や木片やら色々散乱してる浜辺。
切り立った岩場。
遠くの方では岩場に波が打ち寄せる音。
見上げれば雲一つない青い空。
……
カモメっぽい鳥が数羽旋回している。
目線を砂浜に向ける。
少し遠くの盛り上がった岩場に見たことが無いカニのような生物が数匹。
考えれば考えるほど、頭の中が混乱する。
(やはりココは、自分が生きていた世界とは違うのか?……漫画にあるような異世界と言う世界?……もう考えても仕方ないので、落ち着ける場所を探そう)
付近を見渡す。
浜辺の奥は木々が生い茂る深そうな森。
右手の方の岩場に洞窟のようなものを発見する。
「おっ。良さそうだ!」
走って向かおうとすると上手く二足では走れず、よろめく。
「まじかぁー」
「くそっ、猫らしく振る舞えってか!」
猫の歩き方を頭に浮かべ、砂浜をサクサクと歩き出す。
(……ほぼ、猫じゃん……)
爽太は、凹んだ。
岩場に着き、壁に手を添えて、赤ちゃんのヨチヨチ歩きのようにして洞窟へ向かう。
(とりあえず二足歩行に慣れないと、何かあったら危険)
ゆっくり慎重に、洞窟へ侵入する。
猫だからか、匂いに敏感。
「うっ……!」
何かが腐ったような、鼻に刺す匂い。
片手で鼻を覆い、壁づたいに奥へ進む。
行き止まり……。
侵入した入り口は、ほんのり陽の光が当たっている。
(寝床には、ちょうど良いかな。まぁ、匂いは我慢)
振り返ると、ちょろちょろと湧き水が出て池のようにもなっている。
爽太は思わず
「うぉぉ!水!水!」
一人で、いや一匹で興奮。
湧き水を口を開けて、がぶがぶ飲む。
「水━━最高っ!」
こんなに上手い水、初めてではないかと心の中で思う爽太。
池を鏡代わりに、自分を見てみる。
……
……
(やっぱり、顔も、猫。わかりにくいけど……これ茶トラ柄、かな)
と、「ふにゃ━」と、大あくび。
体は疲れてないが、頭が疲れてる事に気付く。
(ちょっとひと眠りするか)
壁にぴったりと体を寄せ付け、顎に腕を乗せ丸くなる。長めなしっぽも、くるりと寄せ付けて。
……
……
━━!!
眠りについたであろう時━━!!
断片的ではあるが━━
脳裏に蘇ってくる記憶。
マキちゃんと最後を迎えたこと。
ナナをなんとか安全な所へ行くよう指示したこと。
その時渡した、僕らの結婚指輪とマキちゃんの財布。
家族を守れなかった悔しさ。
何より、娘のナナを独りにさせてしまったであろう罪悪感。例え事故であっても、そう考えてしまっていた事。
━━━後悔と無念
━━━死んだ後でも、ナナだけは守りたいという信念。
続けて薄っすらと、何もない空間の出来事が浮かんでくる。
光る球体のようなものに、色々話しかけられている。
確か、何を言ってるかさっぱり理解出来なかったような。
最後のほうで、聞き取れた事は思い出した。
「これは【願いの首輪】いずれ貴方の助けになろう」
もう一つは
「そなたの信念と覚悟に、幸あらんことを」
と、ここでハッと目を覚まし、首を持ち上げる。
(やはりこれは、別な世界への転生と言うものか)
爽太は、
半信半疑ながらも、受け入れるしかないと考える。
猫の背伸びをし、口元のちょこんと生えた髭のあたりを数回撫でる。まるで猫のように。
………
………
「さて、もう青葉爽太の人生は幕を閉じた!この世界では、猫獣人?として生き抜こう」
小さなまん丸の手をグッと握りしめる!
(名前、どうしよう)
爽太は静かに目を閉じる。
ふわっと頭の中によぎるのは━━
3人と一匹で暮らしていたあの頃。
「ねぇママー?あのさ、あのさ、きぬにさ、子猫産まれたらさ、ナナが名前つけていい?」
ちょっと興奮気味に話すナナ。
きぬは、我が家で飼ってる、真っ白な白猫(♀)である。
「良いと思うわよ」
優しく微笑むマキちゃん。
「パパたちも呼びやすい名前にしてな」
爽太はコーヒーを飲みながら話す。
「えーと、ね」
少しもじもじしてるナナ。
爽太とマキは目を合わせ
「もう決めてるんだろ?」
「もう決めてるんでしょ?」
二人同じタイミングでナナに問いかける。
「えへへーさすがパパとママー」
と、可愛らしい笑顔で言う。
抱っこしてるきぬを、むぎゅっと優しく抱きしめ
━━「おぼろ」
満面の笑顔で、私達に告げる。
ここで記憶は終わった。
爽太はゆっくり目を開け、洞窟の外へ走って行った。
外はもう暗い。
星一つない夜空にあるのは、月と思える明かりのみ。
打ち寄せる波の音。
(決めた!)
大きく息を吸い込み言い放つ!
「今日から!……いや!今から……」
大きく息を吸い込み━━
「俺の名前は、オボロだぁ━━!」
少しむせてしまったオボロ。
こうして青葉爽太改め、オボロとしての生活の幕開けとなった!
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