第1幕〜オボロとクロネ
目は覚めたものの、ぼぅーと一点を見つめているオボロ。
(……ナナの……声……だったよな……。マキちゃんが、導いてくれたのか……?)
クロネは声をかけようとするが、見守っていた。
(ナナ……生きててくれよ!元気になって、また笑顔を見せてほしい……)
立ち上がるオボロ!
「……目標が、できた!」
クロネ
(目標?)
オボロは心に誓っていた。
(この島を出て、ナナにもう一度会う!)
とは言え、ここはもと居た世界ではない………。
どうするつもりだ?オボロよ?
と、クロネの方を振り向くオボロ。
クロネ「……オボロ……様?」
オボロ「クロネ!喋れるようになったんだな?」
クロネ「ええ」
羽で嘴を覆うように、少し照れながら。
オボロ「あの時……連れ去ってくれて、助かった!反撃する余力なんてなかったんだよ……」
と、後頭部を、ポリポリしながら。
クロネ「私の勝手な判断でした……。いても立ってもいられなかったので……あの、その、あの時仰ってた……私を相棒と……。とても嬉しかったです」
体を揺らしながら、羽で顔を隠しながら。
オボロはある違和感を覚える━━━!
「あー。えーと……クロネってーーー♀だった?」
クロネ「あら?てっきり、わかってらっしゃってたのかと……」
━━━━!!!
オボロ的には驚愕の事実!!
(喋れるのはありがたいとしてだな………クロネが♀とは……。俺は男友達と言うか後輩のように接してた………。ごめん!マキちゃん!これを浮気認定しないで欲しい!)
複雑な気持ちのオボロ。
鈍感な男、オボロ。
クロネ「オボロ様?体の具合のほうは?」
オボロ「あー、うん、眉間痛いけど、とりあえず平気、かな」
クロネが♀と知り、少しよそよそしいオボロ。
クロネ「いけません!まだ痛むのであれば………その……私の羽の中で━━━」
照れながらも……羽をバサリと広げ求愛的なポーズ!
オボロ「い、いやー大丈夫!大丈夫!……うん!大丈夫だから」
動揺し、棒読みなオボロ……。
続けて
「砂浜ぁ散歩してこようかなー」
両手を後頭部へ回し砂浜へ向かうオボロ。
これまた、棒読み………。
速座にクロネ
「では、私もご一緒に!」
後を追う。
砂浜散歩中━━
岩場を見つめるクロネがいた。
「クロネ!そいつ食べようとしてないか?」嘴の前に手を割り込ませるオボロ。
クロネ「?」
オボロ「そいつは吸血ヒトデ(勝手にオボロ命名)張り付かれたら………三日間は離れないぞ!!しかもジワジワ血を吸う………」
クロネ「まぁ、そんな野蛮な生き物!!」羽先を嘴へ持っていく。
オボロ「ここに来て間もない頃に……俺はこいつに張り付かれて三日間寝込んだんだ……」
青ざめそうなオボロ……。
クロネ「どうやって治したのです?」と、首を傾げる。
オボロ「朝起きたら、居なくなってた……。多分、血を満足するまで吸ったから移動でもしたんだろ?」
オボロは、そう言って砂浜の走り込みを始めた。
オボロの後ろ姿を見つめるクロネ。
(はぁ……近くにいるだけで……心音が高くなってますわ……)
夕方━━
眉間の傷に薬草をしてもらってるオボロ。
オボロ「傷口ってどんな感じ?」
クロネ「……縦長の菱形と言うのでしょうか?地肌が丸見えです……」
(……猫の眉間なんて、撫でてもらうところ上位なのに……。ダリルめっ!許せん!)
イラッときてるオボロ。
オボロ「体毛は生えない感じ?」
クロネ「……残念ながら、そう思われます……」
増々怒りが込めるオボロ。
両手を握りしめてる!
クロネは、それを見てオボロの気分が優れないことに気付き━━
「私は、勇敢な証だと思いますわ!」励ますクロネ。
オボロ「そ、そうかなぁー」
満更でもない様子。
洞窟内で、ダラダラしてる二人。
クロネは水を飲んでいる。
オボロは木の実を食べている。
オボロ「あのさ、クロネ?」
振り返るクロネ。
オボロ「気分を悪くしたら申し訳ない……。その、群れには戻らないのかい?」
仲間の所へ戻って欲しい気持ちと、このままの関係も良いかと言う気持ち、半々なオボロ。
……洞窟の外を見つめクロネは
「少し潮風に……当たりませんか?オボロ様」
洞窟外の岩場に腰掛けるオボロ。
その隣にクロネが、両足を揃えて立つ。
波打つ海面を二人眺めながらクロネは語ってくれた。砂浜までの経緯を。
黒鳥は定住しない鳥で、森や山、湖畔で群れで生活していること。
あの日は群れで移動中に海も上空も荒れ、クロネだけはぐれてしまったこと。そしてこの島の砂浜でオボロに助けられたこと。オボロのオーラとは違うが、魔力があること。
クロネは遠くの空を見つめている……。
クロネは体の向きをオボロに向け、数歩後退りし、黒い羽をゆっくり広げ、頭と胴体を水平にする!そして━━━
クロネ「私、オボロ様に助けられてから、決めておりました!どうか私、クロネをオボロ様の隣に置いていただけないかと!!」
と、言い終え━━
先ほどの態勢のまま━━
ゆっくり両足を折り曲げるクロネが、目の前にいた!
まるで、羽を広げた鳥が地面に張り付いているかのように!
オボロは、そんなかしこまったクロネに………
「そんなに、丁寧にされても━━━」
言い直すように
「いや、クロネの気持ちはわかった!……まぁ、その今まで通りにお互い対等な関係が、俺は良いと思ってるんだよ!」
頭を上げ、オボロを見つめるクロネ。
オボロ「んーだから、これからもお互い出来る事をしていこうよ!」
手を差し出すオボロ。
クロネも立ち上がり羽先をオボロの手に重ねる……。
すっかり辺りは日が落ちて夜に変わっていた……。
今夜は三日月━━
水平線との距離が近く
海に小船が浮いているようにも見えた………。
翌日━━━
オボロは砂浜にて、飛び跳ねたり、走り込んだりして体の動きを確かめていた。
それを少し遠目に観察してるクロネ。
一段落したのか、隣に来るオボロ。
少し緊張するクロネ。
クロネ「あっ!オボロ様。あの向こうの奥の岸壁、登れるようになりましたか?」
沈黙が嫌だから話題を振るクロネ。
オボロ「まぁ、なんとか、な!……クロネは飛べるから簡単だろうけど………。クロネ居なくなった時は必死で登ってさ、あの水分多めな果実取りに行ってたんだよ?」
クロネ「そ、それは失礼いたしましたわ……」
オボロ「ねぇクロネ?……俺も空、飛んでみたい……」
上空見上げてつぶやく。
続けて「出来たらでいいんだけど……クロネの背中に乗ってみたいな……」
━━━!
しどろもどろな、クロネ。
クロネ「あのオボロ様……私たちには異性を背中に乗せる、と言う事は……その、つがいになる、と言うか、お互いを認め合った者のみ、なのです……」
(クロネは、飛び上がるほど喜びたいが、しきたりが邪魔をして、もどかしい)
オボロ「え?あー!………ご、ごめん!何も知らずに、言っちゃってさ」
(どこの世界でも種族が違うと、自分の常識は通用しないな……)
クロネ「でしたら……この前のように足で。足なら問題ありませんわ」
喜ぶオボロ!
早速クロネの両足を掴むオボロ!
ふぁーと浮かび、羽の音が近くに感じる!
ゆっくりと砂浜の上、海の上を高度を上げながら飛んでくれるクロネ。
足が地についてないので、妙な感覚のオボロ。そんな感覚はこの風を切る感覚!見下ろす景色が、かき消してくれた!
砂浜にオボロをゆっくり降ろすクロネ。
「どうでしたか?空の旅は?」とクロネ。
オボロは背伸びしながら
「んー最高!クロネ!頼み聞いてくれて、ありがとう!」
━━━━!!
オボロの耳と髭が反応した!!
ゆっくりクロネに近付き……
お互い目を合わす!
二人とも、ひそひそと
クロネ「オボロ様。見られてますわ私たち」
オボロ「あぁ、クロネも気付いたか?」
首を縦にコクン、とクロネ。
オボロ「おそらくダリルの手下の偵察だろう……。気付かないふりして行こう!」
と、二人意見を合わせる。
そして素知らぬふりで洞窟へ戻るオボロとクロネ。
その日から猿たちの偵察は毎日あった……。
その間、オボロとクロネは素知らぬふりで、対応していた……。
偵察から三日目……。
オボロは自分の考えをクロネに話す。
お互い以前の怪我も回復してること。偵察してると言う事は、気になっている、もしくは、こちらに攻めてくること。
では攻めてくるなら、どう攻めてくるか?
オボロは淡々とクロネに説明していく。
クロネは理解しようと必死……。
ダリルの姑息な手段を考えれば、以前と同じように手下使ってスタミナ減らして、ダリルがとどめを刺す流れ、と。
さらに、ここまでの距離を考えれば、いくつかのグループで時間差で来るかも、と。
オボロは、最終的には砂浜で以前と同様に、一対一で勝負したいことを、クロネに告げる!
(これは男同士いや、♂同士の戦い)と、心に誓うオボロ。
クロネの頭がパンクしそうなのを尻目にオボロは━━
「クロネ!今度は俺たちが迎え撃つ番だ!!なにせそこの砂浜は、俺の庭みたいなものだからな!!」
クロネはオボロの意気込みを聞き
(とりあえずオボロの指示に従うことにしましょう)と。




