第1幕〜繋がる父娘①
オボロを両足で掴んで洞窟へ戻るクロネ。
オボロの記憶はダリルに眉間を強打され、クロネが自分の名前を叫び、足で掴んで飛び立ったところまでだった……。
クロネはオボロを静かに横に置く……。
洞窟の少し奥に、山積みにされた野ウサギ……。
(もしかして……私の食事を保管してくていたの?)
感極まるクロネ。
「手当てしなくては!」
………何からして良いか、辺りを見渡し、あたふたするクロネ………。
━━!
砂浜で助けられたことを思い出すクロネ!
(オボロ様は一生懸命、私を手当していたわ!同じように!)
クロネ「まずは、お水を……」
湧き水を嘴の中に溜め込む。
オボロの口元へ嘴を運び……嘴の先で口をこじ開けようとするクロネ。
お互いの顔が……近い……。
………
………!
(こ、こ、これは……く、口づけでは?)
高鳴る心音……。
頬を赤く染めるクロネ……。
さて、お察しの方もいるようだが……クロネは黒鳥の【♀】である!!
(い、異性の♂と、く、口づけなど………)
体をくねらせるクロネ。
(いや、こ、これは手当のため!!)
クロネは、静かに目を閉じ、優しくオボロの口を開け、嘴から水を流し込む……。
遠目で見れば、二匹は口づけをしてるようにも見える。
痛々しい眉間にも、嘴に溜めた水を落とし血を洗い流す……。
薬草を嘴でガサッとはさみ、地面に落とし、かぎ爪で石を掴み、磨り潰したり、叩いたりする。その薬草を眉間の傷口に乗せ、黒く大きな羽の先で優しく押さえる……。
(オボロ様、早く回復してください……)
クロネは願いながら、同じ手当てを繰り返す。
━━━━━
……自分の周囲しか見えない。
……手が届く先には、薄っすらと霧。
オボロはそんなところに居た。
(生きてるのか、死んでるのか、わからい)
と、霧が晴れ、先にはドア━━━
その前に人の形をしたもの。
ゆっくり近づくオボロ。
ドア付近に来ると……その人型はドアに吸い込まれていった……。
ドアに肉球を当てる……。
キーー。
中へ恐る恐る進入………。
━━━━!
(見覚え……が、ある)
高校の渡り廊下!!だけれども……延々と渡り廊下……。
その先に、制服を来た少女が後ろ姿で立っている。
キキー……バタン!
ドアが閉まる音!
━━━!
オボロ「マ、マキちゃん!!?」
そう、この渡り廊下は、マキと初めて出逢った場所!
と、マキに似た少女は、振り返り、にっこりと微笑む。
そして先を歩き出す。
と、ここでオボロは自分が制服を着た青葉爽太に変わっていることに気付く!!
【願いの首輪】は、付けたまま………。
マキを見失わないよう少し早歩きで進む!
中々距離が縮まらない!
渡り廊下の手すりに何か浮いている!
近づく爽太………!
ナナが幼稚園の時にクレヨンで描いた家族3人の絵。画用紙いっぱいに、なんとなく3人居るみたいな……。
懐かしむ爽太。
先にも何か浮いている!
見に行く爽太………!
小学1年の時の父の日の作文の最後の方の一文。
(………お仕事も頑張ってて、優しくて、かっこいいパパが、大好きです!)
その先にも
小学3年の時の写生大会。
公園の噴水の絵。噴水の水色が滲みまくってる………。
進んで行く爽太。
体操服と赤いハチマキが浮いていた!体操服には、4年3組青葉ナナとゼッケン。
(あーこれ!ナナが初めて短距離走で1番になったやつだ)
小学5年の時の工作!
これも、紙粘土で作ったきぬとその仔猫!!
(ナナが、紙粘土は白だから、色塗らなくて楽だしー!とか言ってたな!)
その次は━━━!
【家族】6年2組青葉ナナ
と書かれた習字!
(確か夏休みの宿題だったな……。きぬが邪魔しに来て、中々終わらなかったっけな)
スーと、涙が自然と頬を伝う。
さらに進む爽太。
1枚の家族写真が浮いている。
これは━━━!
前倒しでナナの13歳の誕生日をした記念の写真!!
ケーキを仲良く3人で囲んでいる写真。
みんな………笑顔………。
前を見るとマキに似た少女がこちらを向いている。
先へ進もうとするが、足が前へ進もうとしない!!
爽太はなんとなく気付いていた!
(この流れだと………次は………もう………あの………事故関連)
マキに似た少女の手を取りたい爽太と、先へ進むのを拒む爽太!
━━━マキに似た少女が近寄ってくる!!
爽太の真横に立ち、何かを耳打ちする………。
━━━!
よく聞き取れなかった、が、その少女に勇気をもらったような気がした!
決意し先へ進む爽太!
あの事故の新聞の記事が、ネットニュースの記事が、渡り廊下の手すりの上に沢山浮いている!
その中で気になった記事が1つ!!
「事故の生存者の少女発見・そして保護」
これは━━━!
爽太は確信した!
「ナナ!……ナナちゃんだ!生きて……たんだな!!」
その記事を発見した爽太に、マキ似の少女は手を引き案内する。その先には━━━
窓ガラス越しではあるが、病室のベッドに寝ているナナ!
窓を叩き、力強く呼びかける爽太!
「ナナ!ナナちゃーん!パパだよ?……助かったんだね?……パパはもう……居ないけど………」
頬を伝う涙………。
(家族を守る!とか言っといて、この様だよ!惨めすぎるよ)
爽太「ナナちゃん!起きて!起きよう!!」
(ナナの声が聞きたい!ナナの笑顔がまた見たい!)
願いの首輪が━━━鈍く輝く!
爽太「そうだ!パパはそっちには居ないけど、別の世界で生きてるよ!!」
鈍く輝いてる首輪
爽太「ナナ!ナナ!生きて!頑張って起きよう!パパにまた……素敵な笑顔を見せておくれよ!!」
ベッドでは身動きしないナナ。
輝きが増し、線香花火の最後のように消えていく………。
と同時に、目の前の窓ガラスと、マキ似の少女は、ぱっと消えた……。
1人取り残された爽太……。
(俺の声……ナナに届いただろうか?)
……?
入ってきたドアの方で声が、する!
走って戻る爽太!
走りながら聴こえて来る声は━━!
爽太「ナナ?ナナの声、か?」
耳を澄ませながら、走る爽太!
雑音混じりだが、聴こえてくるのは━━
ナナ「ナナは……パパとママのこと……ずっとずっと……忘れない!……パパ、ママに逢いたい!パパとママの声が………聞きたいよ!」
はっきりとではないが、ナナの声であることは間違いない!言ってることも、なんとなく理解できた!
涙を拭いながらドアへ向かう爽太!
速度を上げる爽太!
(あぁ!ナナは、頑張り屋さんだもんな!!ナナに会うために、守るために、パパも頑張らないとなー!)
両手を交差させてドアをぶち壊す爽太!!
爽太「俺はぁー!青葉ぁー爽太!だぁぁーー!!!」
壊れるドア……。
壊したドアの先に消えていく爽太………。
━━━
クロネはせっせと、オボロを手当てしていた。
━━!
オボロの目が見開き、むくりと上体を起こす!!
オボロ「俺はぁー!青葉ぁー爽太!だぁぁーー!!!」
驚くクロネ!!!
「ひゃっ!!」
(アオバ……ソウタ??……何かの食べ物かしら?)
と、考えてたクロネ。
オボロは遠くを見つめ……
(もしかして……マキちゃんが、ナナに……逢わせてくれたの、かな……?)




