第7幕〜ナナ帰還する
━━ゼクセンの隠れ家
スーデルの冒険者達のピンチをあっさりと助けたナナ。隠れ家へ戻る道中では目立ってしまったことと、空想魔法コスプレのことをゼクセンからの質問攻め、じわじわくる説教で雄大な景色を堪能する事すら間々ならなかった。
【空想魔法コスプレ】
結界を身体全体で包んだ魔法。それだと味気ないため空想魔法で衣服のように魔力を変化させ身に纏った。維持するのに魔力消費が問題であり時間切れが今後の課題。コスプレをしたかったナナならではの発想。
陰湿な森の奥地にあるゼクセンの隠れ家に到着。御神木のドリアードの木が成長していて、陽を遮らぬよう枝を生やし、実を付け、可愛らしい小鳥が巣まで作っていた。根元には薬草らしき物が生茂っていた。のんびり口調のドリアードは優しく「おかえり」と告げ、ゼクセンとナナを見守った。出発時にはナナの手が回せるほどの太さだったのに、戻ってきたら数倍も太くしっかりとした木に成長したのに喜んだ。
陽も落ち森が暗闇になる。
魔力を使い込んだのかナナは早々に寝室へ行ってしまう。
庭へ移動するゼクセンは、ディナンの町で購入した雑貨をD=Bから無造作へ放り出し、てるてる坊主姿で整理整頓し始める。ナナのための食器類、衣類、草花の苗、ランプ、農機具などを出しながらナナとの出会いから今までを思い返してしまっていた。物音がする中、ドリアードは何か落ち込んだゼクセンを気にかけた。しばらく無言のゼクセンが口を開く━━
「戻る道中……ちとナナに説教ばかりしてしまっての。長く生きていたせいかの……つい口数が多くなっての」
「ゼクセェェンはぁぁ、もおぉぉ死んでるよぉぉぉ」
広角をあげゼクセン
「確かに、な。今は魔力が無ければ動けん身体じゃて」
小屋の方を見つめ
「ナナが元の世界へ戻ってしもうたら……わしもドリアードも……」
「でもぉナナはぁぁ、行き来したいぃぃってぇぇ」
「そうなれば有り難いことじゃがの」
整理整頓が終わりD=Bに腰掛けたゼクセンは話を続ける。
「のおドリアードよ。わしも結婚しておったらナナくらいの孫が居たかのお?」
「なぁぁぁに言ってんのさぁぁ!たった一度しかぁぁ会った事の無いぃぃ女性にぃぃ想いを寄せてたくせにぃぃ!」
━━!
ドリアードの言葉に若き日の事を思い出したゼクセン!
魔法の修行で各地を旅していた若き日のゼクセンはとある町でそれはもう全てを奪われるような美しい女性と出会っていた。透き通るような純白な肌、焼けた砂浜のような色のサラサラな長い髪、凛とした姿に時折浮かべる微笑み。雑踏の中偶然見かけたその女性に一目惚れし想い続けていた。ちなみに初恋である。しばらくその町に滞在し情報を集めたが全く足取りが掴めず以来再開は出来なかった。
突然、御神木がほんのり輝く!
木の裏側から光る人型が地面から少し浮きゆっくり現れた!胸の膨らみがあり髪も長く女性のよう。その姿を見たゼクセンは固まった!一目惚れしたあの女性に似ていたから!人型の女性は小屋へ向かい壁を通り抜けて行ってしまった!
「なんと……また会えた……のか?」
固まったままのゼクセンは過去の記憶と先ほど現れた人型の女性を比べてしまっていた。
━━寝室
薄い毛布に包まり寝息を立てて眠っているナナ。そのベッドの脇に光る人型の女性が立つ。手を触れるか触れないくらいに寄せる。細かな顔のパーツは無いが、どこか切ない顔の光る人型女性。
しばらく経ち、ナナが何か寝言を言い始めた。
「通行……料は……記憶……願う力が……動……力」
寝言を確認したかのような光る人型女性はナナの頬へ触れぬよう最大限寄せて口づけをし、光を失うかのように消えて行った。
庭では、動かず固まったゼクセンを不思議そうに見ていたドリアードがいて、光る人型女性の事は全く気がついていなかった。
━━翌朝
興奮気味なナナが小走りでゼクセンの元へ。昨日の光る人型女性の事がまだ頭から離れていないゼクセンは驚き少し距離を取ってしまった。ナナは鼻息荒く昨晩の出来事を身振り手振りで伝えた。
「優しそうな顔のわからぬ女性がじゃと?」
ふんふんと鼻息を漏らし首を縦に振るナナ。
「通行料が記憶?動力は願う力、じゃと?」
なおも同じ動作のナナは興奮しているのか早口で
「これってさ!お告げみたいなやつ?なんとなくだけど、戻るためのヒントみたいじゃない?」
しばらく考え込むゼクセンは、とりあえず地下の転移魔法陣の所へナナを連れて行く。
━━地下
周りは岩壁だらけの広めな空間。周囲に明かりを灯す。床にはゼクセン特性の魔法陣。機能はしておらずただ描かれた状態。疑心暗鬼なゼクセンは……
「で、どうするつもりじゃ?」
ナナはじっと魔法陣を見つめている。
(こっちに来た時は……何か私を呼ぶ声……だから戻るには……元の世界の事を願う?)
段々と顔が険しくなるナナ。
(何を?誰を?……ママは居ない……居るのはサキさん、ダイ兄……友達のモモカちゃん)
目を瞑り、元の世界の事を思い出す。事故の事は思い出さずに楽しかった事を思う。
魔法陣は特に何も起きない。
自然と首から下げている二つリングの通ったネックレスを両手で握りしめていたナナは飼い猫の存在を思った。
(きぬ……おぼろ……抱っこしたり、遊びたいね)
ナー……ナー……ナー……ナー
おぼろの鳴き声が聴こえた!
━━!
(おぼろの鳴き声?あの鳴き方はおぼろ!)
床の転移魔法陣から一気に光る柱になった!
「おぉ!おの光りの柱はー!」
驚くゼクセン!
目を開き、一歩一歩魔法陣へ向かうナナ。
「先生?戻れる!私を呼ぶ声がするの!」
「な、なんじゃと?」
魔法陣の中心へ移動するナナ。
「先生、異世界楽しかったよ。魔法教えてくれてありがとう」
涙ぐみ顔が歪むナナ。
てるてる坊主姿のゼクセンはゆっくり手を伸ばす。
「説教ばかりで……嫌になったじゃろ?」
黙って横に首を振るナナ。
「そうか……安心したわい」
ナー……ナー……
おぼろの鳴き声はナナにだけ聴こえている。
「先生?戻っても魔法使えるのかな?」
「どうじゃろか……」
少しはにかむナナは
「先生にもわからないこともあるんだね」
「わしかて万能ではないわい!」
ナーナー……ナーナー
ナナだけ聴こえるおぼろの鳴き声。短い間ではあったが異世界で先生との生活を思い出し涙を一筋流した。
「絶対に……またこっちに来るから!」
魔法陣の光が増す!
「お主の……ナナの魔力なら大丈夫じゃて!」
励ますゼクセン!
二つリングのネックレスを握りしめ、首を少し傾げ微笑んだナナ。
「先生!先生!行ってくるね!」
ナナの声が段々と小さくなり光の柱が収束し消滅した!
静まる地下……。
隙間風が通る音……。
残されたゼクセン……。
━━現代・青葉家
残業終わりの義母サキは買って来た弁当で遅めの夕飯。義兄ダイキも小腹が空いたのか冷凍パスタを食べている。飼い猫のおぼろが壁側で鳴いている。
ナー……ナー……ンナ
テーブルにはあと一人分の食事が……。失踪したナナのぶんである。ナナの好物の豆腐料理を眺めサキ
「ねぇダイキ。何か変わったことは?」
おぼろはその場をくるくる歩き出し鳴いている。
ンナ……ナー……ナー……ナー
「……何も。それよか賞味期限切れそうな豆腐あったぞ」
ナナがいつ帰ってきても良いように冷蔵庫には豆腐の買い置きが所狭しと詰まっていた。
「朝のお味噌汁に使うわ」
キャットタワーで爪研ぎをしながら鳴くおぼろ。バリバリと爪研ぎの音よりも大きな鳴き声で!
ンナーナ!ナー!ナーナー!
「そう言えば……母ちゃん帰る前から、おぼろがこうなんだよ」
思い出したかのように話すダイキと缶ビール片手のサキはおぼろに視線を送る。仔猫から成猫になり多少は落ち着いてはいたが、普段に比べて落ち着き無く感じた。
ナーナー!ンナーナー!
まるで「ナナ」を呼んでいるかのように。
━━キランキラン!
おぼろの首輪の肉球型のアクセサリーが蛍光灯の光で反射したように見えた二人。
━━!
と、同時におぼろを中心にリビングが光に包まれる!思わず目を強く閉じたサキとダイキ!
……
おぼろの鳴き声が優しそうな鳴き声へ変化した。
ナー……ナー
サキとダイキはゆっくり目を開ける━━━!
床には全裸のナナがうつ伏せで丸くなっていた!自分の匂いを擦り付けるように擦り寄っているおぼろ。
━━!
「ナナ、ちゃん?」
「……え?マジ?」
手に持つ缶ビールを床に落とすサキ!口に含んでいたパスタを目の前に吹き出してしまうダイキ!
うつ伏せで顔は確認出来ないが、髪の長さ、体型でナナと察したサキは慌てて椅子に掛けていたジャケットを被せ、ダイキに目で何か合図する!それを受けダイキはリビングを飛び出し、バスタオルを持って来てサキへ渡し、ナナとは反対方向を向いた。
10分ほど経ったろうか、モゾモゾと動くナナ。
ゆっくりと手を付き起き上がるナナ。そして目を開けると━━
見慣れたリビング!
食べ物の良い匂い!
もふもふしたおぼろの手触り!
(戻って……来られた?)
少し目線を変えると、今にも泣きそうなサキと背を向けているダイキが!両手で口を塞ぎナナは━━
「うぅ……サキさん、ダイ兄……」
黙って頷くサキと後ろ向きでさっと手を振るダイキ。
━━!
自分が裸なのに気づいたナナはバスタオルを慌てて巻き座り直す。
(やっぱり……裸なんだ……)
そして、広角を上げ微笑み━━
「ただいま」
無事に現代へ戻れたナナ。
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