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第7幕〜ナナ、罠にかかる

 

 ナナは偶然か必然かヘレンと遭遇していた。先程のナナの投げ掛けに目を丸くしているヘレンは聞き返す。


「今?……なんて仰いました?」


 聞こえなかったと感じ少し声を張り上げて伝えるナナ。


「べっこう蜂の討伐をー、ヘレンお嬢様達がぁ仕留めた事にしてはぁ……いかがでしょうか?」


 少々息を切らすナナは返事を待つ。


(私達が討伐したことに?……誰が討伐したか今は不明のままよね……あら?……んふふふ)


 お付きの兵士2名を集め小声で話す……。


「ねぇ!私達が討伐したことにしちゃいましょうよ!」

「俺達は、お嬢様の思うがままで良いですよぉ」


 お付きの兵士は特に興味は無さそう。


 ナナの方へ向きビシッと指を指し━━


「その提案貰ったわ!地味なくせに機転が利くのね!それで━━」


 返答を確認するなり━━


『良し!今じゃ!』


『うん!』


 魔力で身体強化をしておいたナナはゼクセンの号令で全速力で逃げた!


「━━謝礼はどのくらい差し上げれば良ろしいかしら?そうねぇ……口止め料として」


「……あの……もう居ませんが……」

「逃げられました」


 お付きの兵士は伝え、辺りを見渡すヘレン!……ナナの姿はもう見えない。


「な、な、何よ!あの小娘!言うだけ言って逃げるなんて!」


 ぷんぷんするヘレン。


「良いわ!べっこう蜂の件、私達が討伐したことにしますわよ!それと……大銅貨1枚でも、あの地味な小娘に渡しておいて下さる?」


 お付きの兵士達に伝えたヘレンは草原の方を見て


「依頼の獣が罠にかかるまで休みましょう」



 ━━ディナン寄りの高台の街道


 スーデルの町で数日滞在し、橋が崩壊し川が渡れないのを猫獣人オボロ達に助けてもらい、馬車で自身の領地であるアルス領へ戻るエレナータ達。馬車の脇と後方には専属従者で狼の獣人ジルファスと護衛兵がアースランナーに乗り共に進む。馬車の中では、オボロ達との出会いや妖精ホムンクルスのメル達と心通わせたのを思い返す。


(もっと早く……知り合えていたら……)


 オボロからお礼としてもらった自身の髪色に近い桜色のハンカチをポケットから出し、両手で優しく包み込んだ。


 ━━コンコン


 ジルファスが窓を叩く。

 カーテンを開け小窓を開けたエレナータ。そよ風で桜色の髪がなびく。


「お嬢、1度休憩します。こいつらも休ませたいんで」


 乗っているアースランナーの首を数回撫でる。



 ━━草原


 ヘレン達から魔力による身体強化で全速力で逃げるナナ!砂煙や雑草を撒き散らし疾走しながら会話をする。


「先生ぇ!ナイスアイデアだよぉ」


「そうじゃろそうじゃろ!年の功ってやつじゃ!」


 得意気なゼクセン。


「私じゃ思いつかなーい!」


 草むらを走り続けるナナ。


 ……


 ……


 ━━!


 スピードが落ちない!

 方向も変えられない!


「せ、先生!先生!どうしよ!と、と、止まらなーい!」


「なんじゃと?魔力放出し過ぎか?」


 止まろうとするが身体が勝手に動き続ける!


「えー!わかんないよぉー!」


「無理矢理でも良いから、倒れられるか?」


 ……


「む、む、無理ぃー!」


 完全に魔力の制御が出来なくなっていたナナ。


 ━━ガッチーン!!


 鉄がぶつかる音が!


「ん!ぎゃっ!!」


 その音と同時に前のめりで地面に倒れ丸くなるナナ!罠にかかった衝撃で魔力の身体強化が解除された!鋭いギザギザの歯型が足に食い込んで行く!


「うぅ……い、痛いよ……痛いよ……」


 てるてる坊主のゼクセンが出て来て声を掛ける━━


 ナナの左足にトラバサミの罠が!


「こんな所に罠、じゃと?」


「うぅ……痛いよ痛いよ……先生!」


 膝を曲げトラバサミ付近を手で触れているナナ。食い込んだ箇所からは出血し垂れている。


(ナナが自力で外すのは……難しいのぉ……うーむ……溶かすか)


「待っとれ!少し熱いかも知れぬが我慢せぇ!」


「……わかっ、た……」


 弱々しく返答するナナ。

 てるてる坊主のゼクセンは魔法陣を繰り出す!


(まだ魔力はある!大丈夫じゃ!)


 魔法陣からファイアボールがトラバサミ目掛けて放たれた!痛みと出血でぼんやりしているナナ。


「前に話したじゃろ?対象のみ魔法を当てる技術!」


 ゼクセンの言うとおり多少熱は感じるが、それよりも罠の痛みの方が強いナナ。


(頼む!溶けてくれい!)


 トラバサミの形が熱で変形して行くのを見守るゼクセン!


 ……ぐにゃあ


 そのタイミングで万能ナイフを差し込み、ナナの足からトラバサミを外し遠くへ飛ばした!さらに出血が酷くなる!


「止血出来そうな物を探してくるわい!」


 と言い残しD(ディメンション)B(ボックス)へ潜り込むゼクセン!


 呼吸の荒いナナ!

 激痛を耐えるナナ!


(身体強化……し過ぎたの、かな?……駄目だな……私)


 静かに起き上がり足の傷を見る。踝まで隠れるブーツを避けてトラバサミの歯型の傷!そこから血が溢れて垂れる……。


「そ、そうだよ……こういう時こそ……ヒール、じゃん?」


 両手を傷口へ近付け集中する……。

 目を閉じ、痛みを堪え呼吸を整える……。


 魔法陣が2つ重なり魔力供給の状態!


(あと……1枚!)


 ナナの脳内では、現代で傷を負った時の対処方法を思い描く!


(消毒……脱脂綿で止血……針で……縫う……)


 今は痛みを抑えたい!血を止めたい!の一心で正しいかどうかなんてどうでも良く、ナナの知り得る限りで思い描く!


 すると━━!


 3枚目の魔法陣が展開!


(……良し!)


 3つの魔法陣をそれぞれ違う方向で回転させる!


 魔法陣からほんのり暖かさを感じた!揺らぎのような波のような!


(これが……ヒール?)


 その温もりある揺らぎが傷口を包み……血が止まりだ!


 と、D=Bから布切れを大量に持って来たゼクセンが━━


「━━あれは……ヒール!なのか?」


 寄るゼクセンはナナのヒール的な魔法で止血され傷口が閉じて行くのを観察している。


(こんなにも早く傷口が塞がる……こやつの豊富な魔力のせいか?)


 止血され傷口も塞がり少し気分が良くなったナナは


「ヒール……で良いのかな先生?」


「……すまぬ!わしの出来るヒールとは……何か違う気がするんじゃよ」


(わしのヒールは深い傷は塞がるのに時間はかかるはずじゃ)


「……痛っ!まだ痛みはあるみたい……歩けそうに無い……かも……」


 座っていたナナの身体が揺れ次第に瞼がゆっくり閉じて行く……。


「あ、れ?……疲れ……た、のかな……眠……た……く……」


 言い終わらずに横に倒れ眠ってしまった!


(初めてで慣れないヒールで魔力使い果たしたかの?)


 そう考えたゼクセンは布切れを折りたたみ枕にしナナを気遣った。

 しばらく見守るゼクセン……。


(ヒールとは魔力を自然治癒力へ変換する魔法とエルフから教わったが……あれほど早く再生するのは……エルフの神官くらいじゃて)


「時折お主に嫉妬してしまうんじゃよ……魔力の多さと発想力に」


 ━━!


「うぅ……はぁ……はぁ……う……」


 ナナの呼吸が速くなり呻き出す!


 ━━!


 見れば額から汗が異常に噴き出す!さらに良く見ると……首から頬にかけて紫色の斑点が!


「これは!……毒か?」


(まさかあのトラバサミに毒が仕込まれておったか?)


 焦るゼクセン!


(……ヒールを使いたいが、ファイアボールを使ってしもうたせいで無理じゃ!)


 ━━街道


 休憩を取るため街道から少し離れ平坦な草原へ移動したエレナータ達。護衛兵2名は簡易テーブルと椅子を出し準備する。遮蔽物がほとんど無いため緩やな風が通り抜ける。

 用意された椅子に座るエレナータの桜色の長い髪がなびく。


「風が……気持ち良いですね」


「たまには360度全てが見渡せる所でと思いまして!こう……駆け回りたくなるような!」


 鼻息荒く両手を広げ話す狼獣人のジルファス。


「ふっ……ふふ!あはは!それは……私じゃなくて……ジルがそうしたいのでしょう?」


 目尻に涙が貯まるほど笑うエレナータ、釣られて笑ってしまう護衛兵達。

 図星を突かれたジルファスは……


「あーそのお嬢?たまに“ジル”って呼ぶのは……照れくさいんですよ……」


「ふふ!そうなの?良いじゃない私とジルの仲でしょ?」


 笑い顔から笑顔へ変わるエレナータ。


「ジルと呼んで良いのは……バルスとお嬢と……隊長だけですよ」


 ふと過去を思い出してしまったジルファス。きょとんとした顔でエレナータは


「他にもジルと呼ぶ方が居ましたの?」


「いやいや、もう昔の事なんで!気にしないで下さい」


 軽く頷き紅茶を口にし飲み干すエレナータ。それを確認しジルファス達は片付けを始める。邪魔にならぬよう馬車付近へ移動するエレナータは


「では予定通り、ディオーレ経由で戻りましょう」


 スーデルで土産の焼き菓子を婚約者であるクラン殿下へ渡すためである。


 強めの風が通り抜けた!


 ━━!


 エレナータは乱れる髪を押さえ、兵士達は作業を一旦止めたがジルファスだけは反応が違った!狼特有の嗅覚!

 風上へ鼻先を向けひくひくさせている!


(血の匂い!)


「お前ら!警戒!お嬢は馬車の中へ!」


 言われた通りにするエレナータ達!


「近くで血の匂いを感じた!お前らはお嬢守ってくれ!俺は様子を見に行く!」


 首を左右にゴキゴキ鳴らし匂いのする方へ走った!


 ━━草原


 不規則に呼吸をし異常な汗、ナナの首から頬にかけて紫色の斑点が広がりつつある!ゼクセンは慌てるばかり!


(ぐぬぬ!ナナの魔力量に頼り過ぎていたのかも知れぬ!こう言う事態を想定出来なかったとは……)


「先生失格じゃな……」


 思わず漏らすゼクセン。


 ━━近くで声が聞こえる!


「誰か!誰か居るか?」


 咄嗟にD=Bへ飛び込み身を隠すゼクセン!


 ……


 ……ザッザッ……ザッ……


 狼の獣人が低い雑草を踏み倒し現れ、ナナを発見!駆け寄る獣人は生死を確かめている様子。足に巻かれた布切れから血が滲むのを確認した獣人。その場で立ち上がり周囲を見渡している。ナナの額に触れ、首元の斑点を見てすぐ様お姫様抱っこで抱え立ち上がった!


 D=Bから見ていたゼクセンは気づいて欲しく、自ら装飾されたD=Bを何度も揺らし音を出した!


(気づいてくれると……ありがたいのじゃが!)


 D=Bと地面がぶつかり音が出る。


 ガコガコ……ガタガタ……


 ━━!


 音に気づく獣人は、過度に装飾された箱に目線を向けた!ナナを1度静かに降ろし匂いを嗅いだり、木の棒で突付いたり……。


 D=Bの中でだんまりを決め込むゼクセン。本当は事情を説明したくて仕方ない。


 D=Bとナナを交互に何度も見る獣人……。


 ナナを再度お姫様抱っこし、仕方ないなと言うような顔でD=Bを片足で蹴り上げ、鼻先で勢いを殺し静かにナナのお腹へ置いた!


(これだから獣人は野蛮なんじゃ!)


 扱いが雑で声を出しそうなゼクセンであった。


 そして狼の獣人はどこかへ移動し始めた。


 ━━高台


 ナナに逃げられたヘレン達は、依頼の獣捕獲のための罠に獲物がかかるまでのんびり過ごしていた。


(本当何なの?あの地味な小娘!少しおどおどしていたから、口止め料で黙らせちゃいましょう)


 と、屈曲な兵士の方が罠を仕掛けた方面を指差し


「罠にかかりましたぜ!」


「罠って以外と時間かかりますのね」


 イケメンふうな兵士が得意気に


「お嬢様、今回の罠は少し特別でして……睡眠効果と毒の効果の2重のトラバサミなんですよ」


 どこから仕入れたのか謎ではあるが……余計な事ばかりするヘレン達……。


♢私とキャットふぁーざぁーを見つけて下さりありがとうございます!

♢不定期更新ですが、ブックマークや応援、コメントよろしくお願い申し上げます!

      ⇩⇩⇩⇩⇩

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