第7幕〜ナナのギルド生活
━━べっこう蜂の巣を探して討伐━━
とは言え、巣を探し回るのは疲れるし危険と判断したナナは━━
レッドポニーを魔法陣へ戻し、手のひらサイズのグリーンスワローを出し空から探してもらうことに。
「お願いね」
待つこと数分……
スワローはナナの前で旋回し少し先の枝に止まり、嘴をさらに奥の方へと突っ付く。その方向へブルーキャットと共にゆっくり進む。ナナの見える場所で止まっては方向を突っ付くスワロー。実に賢く頼もしい。
耳に残る嫌な羽音が聞こえてくる!
太めな木に身を潜め先を覗くと……
ゼクセンが話していたような地面の盛り上がりが!そしてべっこう蜂が忙しなく出入りしているのが確認出来た!
ブブブブゥゥ!
後方からべっこう蜂の襲撃!
肩に乗っていたスワローが翼を広げその翼が刃のようになりべっこう蜂を切り裂いた!キャットは尻尾をゆらゆらさせ、先からアクアカッターで斬る!ナナは前方から襲ってくるべっこう蜂をロックシュートで胴体を貫通させる!見事な連携!
しばらく応戦し襲撃が一段落ついた様子……。
「ふぅーはぁ……ありがとうみんな!」
(わしが口を出す隙を出さぬとは……空想魔法の方が賢いかものぉ)
ゼクセンの感想。
「先生?うじゃうじゃ居て……気持ち悪いから……近付いて討伐するの無理だよぉ」
泣き言を漏らすナナ。
「うーむ……今の距離で巣に魔法陣出せそうか?」
何か策がありそうな言い方のゼクセン。
巣を必死に凝視するナナ。
「んんんー……やってみる!」
さらにゼクセンは巣の中へファイアボールを放つよう指示。
集中し深呼吸するナナ……。
その間何体か襲ってくるがキャットとスワローが守ってくれていた。
べっこう蜂が出入りする地表の真上に魔法陣が展開された!
「んんー!ファイアボール!」
巣の中へファイアボールが放たれた!
地表から煙が立ち昇る!
巣の周囲は混乱するべっこう蜂で群がり、巣から逃げ出すべっこう蜂!
「もう1発じゃー!」
吠えるゼクセン!
「わ、わかった!」
同じように魔法陣を展開し逃げ出すべっこう蜂を巻き込みファイアボールを放つ!
巣穴から火柱が立つ!
……
巣の周囲は未だ混乱状態の多くのべっこう蜂。火柱が落ち着きモクモクと煙が立ち昇る。
……
地表からはべっこう蜂が出て来なくなった……。
「先生!チャンスだよね?」
「無論じゃ!」
見通しの良さそうな場所へ走るナナ!
杖を前へ突き出し……
渾身のエアショットを放つ!
木々をも薙ぎ倒し混乱状態のべっこう蜂を多く巻き込み風圧で奥の岩壁へ激突させた!その衝撃で我を取り戻したべっこう蜂は一斉にナナ目掛けて襲撃して来る!
即座にプロテクトを展開!
自分の前に様々な角度で魔法陣を複数展開!
「ロックシュート!」
やはりノーコン気味なのか半分命中!貫通したべっこう蜂はボトボトと地面へ落ちる!
今度は小さな魔法陣を前方へ自分を取り囲むように展開しアクアカッターを放つ!無数の水の刃が多方面へ放たれる!
やはりこれも半分命中すればから方……。
それを補うかのように魔法陣を重ね同様に放つ!
アクアカッターの連射!
「ナナよ!そんなに連発して大丈夫か?」
心配するゼクセン。
「うん!……大丈夫だよ」
キャットとスワローはナナの仕留め損ねたべっこう蜂を退治する!
どれほど魔法を放ったであろうか、辺りはべっこう蜂の死骸で溢れ返っていた!
分断された死骸、穴の開いた死骸……潰れて体液がねっとり垂れている死骸……。
「━━うっ……ぐっ……」
思わず戻しそうになり手を口に当てたナナ!
「だいぶ大きな巣じゃったのかも知れんのう」
「はぁ……ふぅー、そ、そうなんだ」
新鮮な空気を取り込みながら返事するナナ。
巣穴から細い煙が立ち昇っている……。
「先生?あの巣穴ってさ……塞いだ方が良くない?」
「うむ……可能であればそれが最善かも知れぬ」
ナナはスワローとキャットを魔法陣へ戻した。
(何をするつもりじゃ?)
大きな魔法陣からブラウンベアーが現れ、のしのしとゆっくり巣へ歩く。ベアーの重さが解るかのように地面に落ちた死骸を次々と踏み付けて進む。
ナナは集中している!
ブラウンベアーの両手から鋭い爪が!
奥の岩壁に爪を刺し、くり抜くかのように引っ張り出した!それを太い両腕で抱え込み……
巣穴に突き立てるようにめり込ませた!
こんもりと盛り上がった地面に縦長の岩が少し傾いて突き刺さっている……。
まるで墓石のように……。
大きく息を吐き出すナナは誇らしげに
「どう?これなら出入り出来ないよね!」
「そ、そうじゃの」
(あの大きさの熊を精密に操りおった……ポニー、猫、燕……どれも素晴らしい活躍じゃの)
かなり高評価なナナの空想魔法の獣達。
(少しはマシにはなったがやはり……命中率は相変わらず低いのぉ……)
ナナ自体から展開される魔法陣からの魔法は……ノーコン気味。
意気揚々とランクゼロの薬草採取の依頼をこなしたナナはレッドポニーにまたがりその場を後にする。
無数のべっこう蜂の死骸を残したまま……。
━━戻り道
町から一番近い採取場所、道端にはまだ馬車が待機していた。馬車付近で休憩中の冒険者達が確認出来たので、話しかけられぬようポニーの全速力で駆け抜けた!
「おい!今、馬みたいのが駆け抜けて行かなかったか?」
「あぁ……なんか女の子っぽいのが乗ってたな」
そんな会話をされていた。
今日は陽射しが強い。途中大きな木陰がありそこで休憩するナナ。買っておいたパンをかじる。
「このパン……かったーい!」
「保存を利かすには仕方ないじゃ」
やはりパンはふわふわなのが良いと改めて思ったナナ。
━━ディナンのギルド館
完了した依頼を報告するナナ。今日は男性のスタッフ。籠に満杯の薬草と毒消しの実を確認するため奥へ行った。
待つこと数十分、スタッフに呼ばれカウンターへ。
「ランクゼロの指定依頼をこんなに早く完了させた方は珍しい!それに毒消しの実の質が凄く良かったので依頼報酬にボーナスがつきます」
本来報酬は銅貨1枚なのだが、さらに豆銅貨が5枚追加された。
ギルドパスを手のひらから出し依頼完了とGランクへの昇格が記録された。ちょっぴり嬉しいナナ。
「お疲れ様でした。次回よりGランクの依頼も受けられますのでよろしくお願いします」
男性の割には丁寧な口調のスタッフに会釈をし、足早にギルド館を出て行くナナはそのまま気になっていたカフェっぽい店舗へ直行した。お目当てはスィーツ。年頃の女子は甘い物には目がない。店内には甘い香りが漂う。鼻からその匂いを吸い込むナナ。店員に1番人気の物とジュースを注文。
(わからない時は1番人気を頼むのがベスト)
店内を見渡しそわそわしながら待つナナ。待ち時間すら楽しく感じていた。
出て来たのは、包みパイのような焼き菓子。お皿からはみ出そうなくらいのパイ!こんがり焼けた生地の匂いと甘っとろい匂い。フォークを刺しナイフで切る!サクサクっと音を立てると……中からほんのり湯気が立ち込め、ジャムがとろりとお皿に流れた!そのジャムすら勿体なく思いナイフでパイに乗せ……大きな口を開け━━がぶりっ!
数回噛み、飲み込む!
外の生地はサクサク、内側の生地は甘いジャムでしっとり!幸せそうなナナ!異世界ガイアールへ来てやっと現代に近い味が堪能出来た!
そして想い出すのは……母の味。
ナナの母、青葉マキの得意料理の1つ━━アップルパイ!
食べた包みパイはマキの作るそれとは程遠いが、似たような食感、甘さが当時の味を思い出させた。
包みパイを食べ終えたナナの目から一筋の涙が流れる。
(……ママのアップルパイ……懐かしいなぁ……また食べられたら良いのに……)
と、同時にナナは現代の事も心配になっていた。いきなり消えて心配しているであろう義母のサキ、義兄のダイキ、飼い猫のきぬ、おぼろ……。
(なんとかして戻らなくちゃ!先生に協力してもらって!)
再度、現代へ戻ると言う目的を心の中で確認した。
━━街道
数名の冒険者がディナンへ戻る途中。先頭には一つ縛りのおっとりした雰囲気の女性、その後方には男性の冒険者が1人と荷馬車を引く冒険者。のんびりと進んで行く。
「ララさん、これであの集落の畑の麦食い被害、しばらくは問題ないですね」
後方の冒険者が話す。ララと呼ばれた女性は
「はい、人数が欲しかったので助かりました」
礼儀正しく話す。
━━!
何か焼け焦げたような匂い!
一行は歩みを止め警戒。
荷馬車に立つ冒険者が声を上げた!
「煙です!わずかですが煙が昇ってます!」
うっすらと細くゆらゆらと灰色の煙が立ち昇っている!
(あの方面は!採取場所から近いわ!)
「皆さん……歩いて向かいましょうか」
馬を木に縛り付け徒歩で煙を頼りに向かうララ達。
周囲を警戒しつつ冒険者が居ないか探しながら進む……。
しばらく進むと数体のべっこう蜂の死骸!
(確か……べっこう蜂の討伐依頼がありましたよね)
「近くに冒険者は見当たりません!」
「では……奥へ行って見ましょう」
ララの指揮の元進む。
━━薬草採取場所
特に荒らされた形跡は無く、誰かが採取したと思われる薬草を多数確認。
「怪我人、冒険者は居ませんねぇ……」
冒険者は報告。
━━と、もう人の冒険者が駆け足で戻って来た!息を切らせながら報告する!
「はぁ!はぁ!向こうに、べっこう蜂の死骸が!しかも大量に!」
━━!
「んだと?」
「本当ですか?」
案内され現場へ向かうと━━
へし折れた木が何本もあり、地面には無数のべっこう蜂の死骸!木の枝に刺さりねっとりと体液が垂れている……切断された死骸、頭部や腹部が貫通された死骸、何か圧迫されたのか潰れて体液まみれの死骸……。酷い有り様。
「んぐっ!こりゃ酷い!」
「大型の獣にでもやられたのか?」
冒険者2人は話す。そしてララは
「獣でしたら……食べるためもう少し綺麗に仕留めるはずです」
(これでは殺戮に近いです……)
━━あれは?
地面に大きな岩が斜めに傾いて置かれていた!
死骸を除けながら近づく……。
盛り上がった地面……
その中央の穴に押し込まれるように岩が埋まっていた!
「んー?ララさん!ここ、べっこう蜂の巣です!」
「そのようですね」
(誰か討伐依頼を受けた?……複数で?それとも1人で?……いや複数でも1人でも……無傷ではいられない……)
なおも思案しているララ。
(べっこう蜂の大群に襲われて、やむ無く戦った?)
考えても仕方ないので、状態の良い死骸を選び運ぶ事に。妙な出来事に遭遇したララ達はディナンへ向かう。
━━宿屋
カフェから雑貨屋へ移動し買い物をして部屋に戻っていたナナ。
「あーあ……今日の報酬カフェで全部使っちゃったね」
「相場が今ひとつわからぬが……妥当な金額とわしは思うがの」
ベッドの上にD=Bを置き、中から大量に物を引っ張り出しながら答えるゼクセン。ベッドだけでは収まらず、床にまで置かれていく……。すかさず紙と羽ペンを確保しテーブルに向かうナナ。
頬つえをし羽ペンをくるくる回している……。
ゼクセンは購入してきたであろう編み籠や木箱を並べ、整頓し始める……。
物音だけが響く室内……。
外からは町の人の笑い声や話し声が聞こえてくる……。
(んーこんな感じかなぁ!)
ナナは小さい頃から絵心がありアニメや漫画のキャラを真似て描いたりしていた。こっそりオリジナルキャラを描く事もあった。そうナナが描いていたのは……
━━魔法少女のバトルコスチューム
机の隅にはボツの紙が何枚も重なっていた。
飽きたのか片付けをしているゼクセンを目で追うナナ。
「ねぇ先生」
「なんじゃい?」
「私にも結界とヒールって使えるようになる?」
てるてる坊主のゼクセンは体も手も動かしながら話す。
「結界ならもう出来るじゃろ?ほれ、あれだ……プロテクトの応用じゃて」
「?」
「自分中心に魔法陣を展開して、魔法陣からプロテクトじゃて」
(こ、こうかな?)
ナナを中心に魔法陣が床に展開されドーム型の魔力障壁が出来た。
その結界に要らなそうな鉄鉱石を投げつけたゼクセン!
━━コーン!
弾かれた鉄鉱石!
「おっ!おぉぉ!やるじゃん私!」
「まぁ強度や範囲、持続性能は……ざっくり言って使う魔力量じゃな」
大きく頷くナナ。結界が出来てかなり嬉しそう。
「ヒールは……そうじゃな……」
身を乗り出し話を聞く姿勢のナナ!
「魔力供給と似たような感じじゃて。魔法陣2枚重ねで魔力供給。最低でも魔法陣3枚重ねでヒール」
「うんうん!」
「それぞれ違う方向へ回転させるんじゃ」
「なるほど!」
「ナナの魔力の多さなら訓練次第で使えるやも知れぬ」
「ありがとう先生!またわからなかったら聞くね!」
ベッドの上へ移動しヒールの練習を始めるナナ。
まだ片付け中のゼクセンは、結界やヒールを教えた事に特に後悔はしていない。結界もヒールも元々はエルフが扱う魔法。当時転々と旅をしていたゼクセンは同じように旅を楽しむエルフの旅人に泣きつき、土下座をし、貢ぎ、そうしてやっと教えてもらった。その時、旅人のエルフから言われた言葉があった。
「なぜ貴方が習得出来たかは不明ですが……心が透明な清らかな人間になら扱えることでしょう」
その言葉をふと思い返していた。




