第7幕〜ナナ人助けをする
『ねぇ先生?大きな蛇みたいのに睨まれてるけど……教えてあげたほうが良い?』
『いきなり現れては大声出されるやも知れぬ……』
ブレインマウスにて会話するナナとゼクセン。
兵士二人と女性は狩りを成功させ、女性は大喜びし兵士はそれを過剰に褒め明らかに気が緩んでいる……。
背後の木の枝に擬態したかのような表皮の大蛇!舌をピロピロと素早く出し入れし、ぬるりぬるりと這う!
まだ気付かない3人……。
大蛇が大きく口を開き鋭い牙を剥き1人の兵士の首近くへ!
(やっぱり見てられない!)
大蛇の真横に魔法陣を出しアクアカッターで仕留めるナナ!
━━ズバッ!
大柄な男性の太ももくらいあろうかと言う胴体を断ち切った!
(良し!仕留めた!)
「う、うわぁぁ!」
「きゃぁぁぁ!」
突如の出来事に兵士も女性も悲鳴を上げた!女性は腰が抜けたのか尻もち、兵士は周囲を見渡す!
「━━誰だ?」
少し離れた岩の隣に立つナナを発見!
(あっ!見つかったかも)
二人の兵士はナナの方を指差し相談している。
『ナナよ!とりあえず逃げるぞ』
『わ、わかった!』
レッドポニーにまたがり、全速力で逃げるナナ!
その姿を尻もちを付きながら目で追う女性。
(あの子の魔法で助けられたの?)
まだピクッピクッと微かに動く寸断された大蛇を見て思っていた。
……
……
崩壊した古びた小屋にあった壊れそうな椅子に座るナナ……。どうやら先ほどの兵士達は追っては来ていない様子……。
「はぁぁ……余計なお節介だったかな……」
ため息まじりのナナにゼクセンは
「人命は助けられたのでは?あのような不意打ちをする大蛇では誰かを犠牲にせんと逃げられん。見たところ大した訓練もしてなさそうな輩とわしは見た」
青い空を見上げ話を聞くナナ。
「すまぬナナよ。いくつか約束をしてくれぬか?」
空を見上げたまま
「んー?いいよぉ」
「まだ何とも言えぬが……お主の魔法……ちと制限と言うか……隠した方が良いと感じてな」
(先生も同じ事思ってた!)
「先の娘が放った魔法見たじゃろ?実戦で使うには頼りなさすぎじゃ!」
(ちっちゃいファイアボールだったもんね……)
「派手禁止!」
「風か土の初級魔法のみ!」
「後はわしが判断する!」
テンポ良く言い放つゼクセン!
「えぇー!制限してたとしても、きっとあの子の数倍だよぉぉ」
「それでも、じゃ!」
しょぼくれて返事をするナナ。とは言えナナはゼクセンの言った「隠す」と言うワードに食いついていた!
(本当の力を隠すってぇ……なんか魔法少女みたいじゃん!そう言うのも……有り、だよね)
「なんか魔法少女、みたい」
「ん?お主はもう魔法少女じゃろ?」
ほっぺがはち切れるくらいぷくっとむくれるナナは
「あぁもう!先生は夢が無いなぁ!」
そして再度魔力サーチし方向を確認し一番近そうな所を目指す事に。その道中、さらにゼクセンから提案があった。しばらくは会話をするときはブレインマウスで伝えた事をなるべく話すと。簡単に言えばナナはゼクセンの腹話術の人形のようになると言うことであった。多少困惑気味なナナではあったが、異世界から転移した人間となれば騒ぎになり、ボロが出ない処置と説得したゼクセン。
しばらく進むと農作業をする人間がちらほら見えてきた。レッドポニーを解除し、徒歩へ切り替えるナナ。早速ゼクセンのブレインマウスが!
「あー、こ、こんにちは。わしは……私は旅をしていて……町は近くにあるじゃろ……あ、ありますか?」
ゼクセンの言い回しをそっくり真似ると……違和感あると直ぐに気付くナナ。
(慣れないとぉぉ!)
特に怪しまれず町の方向や名前を教えてくれた夫婦に会釈をし進む。
町の名前は━━「ディナン」と言うらしい。
町へ近づくほど農作業帰りや背中に鉱石の詰まった籠を背負う人間が多く見られる。怪しまれぬよう最低限挨拶程度はするナナ。そして町の入り口へ━━
━━ディナンの町
ディオーレ王国より南西寄りにある町。山脈を隔て迂回するように町の正門があり、王国から近い大きな町。領主兼町長はバーレン=ネスク。娘はヘレン=ネスク、年は14。親の権力を武器にわがまま放題。最近の流行りはギルドでの討伐依頼を受けることなのだが……護衛兵2人にやらせ、仕留めるのはヘレン自ら行う。なので冒険者達は依頼も横取りされ、陰口を叩き不満の声も上がる。しかし領主の娘なため、表立って話せないのが現状。ギルド長のバルスも領主には逆らえないため、冒険者と領主の板挟みで苦労していた。
ここディナンは主に兵士の武具、衣服、家具の製造および兵士が乗る馬やアースランナーの飼育、販売と収入のほとんどがディオーレ王国との取引。そのため町の財源は安定している。それを良いことに領主ネスクは左団扇での気楽な生活。
━━町の入り口
門番らしき兵士が数人……。緊張しながら進むナナ……。1人の兵士に声をかけられた!
「わし……わ、私は旅をしています」
「こんな小さな女の子が独り旅、ねぇ……ギルドパスとか持ってるかな?」
(ギルドパス?)
「いえ……持ってません」
「それじゃ、これを首からかけて」
と、薄い鉄製の板を受け取るナナ。
「町への出入りと滞在の許可証だよ!あんまり人気の無い所は行かないようにね」
何ともあっさり入場出来たナナは早速ブレインマウスで
『先生?こんなので良いの?』
『まぁ怪しまれず済んだのじゃから問題なかろ……まずは泊まる場所と……お主の身なりを整えんとな』
『ありがとう!先生』
ゼクセンは色々と考え予想していた。生前貯め込んだ金貨や銀貨は確実に使えないことを。数年ならまだしも、800年も経っていれば貨幣価値もデザインも変化していると。そこでこれまた貯め込んだ貴金属や鉱石を売り資金作りをすることに。
ナナは露店の優しそうな女性店員に貴金属や鉱石を換金してくれる所を訪ねていた。その女性は、一番確実なのはギルドが良いと。他にも換金してくれる店舗もあるが、どれも怪しいから気をつけるようにと。ゼクセンの読み通りどの時代も怪しい商売は無くならないのだと感じていた。
━━ディナンのギルド館
大きく広い間口の入り口ドア。建物のデザインは至って普通な石造り。ギルドに出入りする人間が行き交う。
(おぉ!やっぱり異世界ってギルドがあるんだ!)
ギルドと言う言葉、冒険者の装備の人間達を見て興奮するナナ。そんなナナを不憫そうに見る人間も居た。それもそのはず、ボロボロの汚れたワンピースに妙な宝箱を肩掛けしている少女……。
そんな視線を多少気にするナナはギルド館へ入る。楽しげに談話する冒険者ふうな人間、掲示板を相談しながら見ている人間。そして獣人も居た!ナナは初めて見る獣人に興味津々!もふもふしてる毛を触りたくて仕方ない!
『ほれ、色々と珍しくて仕方ないじゃろが、まずは目的を終わらせてからじゃ!』
『はぁぁい』
ため息まじりなナナ。
カウンターにて、D=Bを開け虹彩蠢く中から手掴みで貴金属や鉱石をいくつか取り出すナナ。受付の女性スタッフは驚く!
「えーとお嬢さん?その入れ物は自分の?」
━━!
ゼクセンは瞬時に悟った!
『ナナよ!良いからわしの言葉を復唱せい!』
「あ、えと、わし……違っ!祖父の形見じゃ……です!」
未だ慣れないゼクセンの腹話術……。
受付の女性はナナの話し方にも驚き、呼び出しあるまで待っているようにと告げられた。ナナは振り返り隅っこへ移動した。
周囲の声が聞こえる……。
「ギルドバッグ個人で持ってるみたいだぜ?」
「羨ましいわね」
「どこかのお嬢様か?」
「いや、あの古そうな服を見ろよ」
あまり良い気分ではないナナ……。
と、先ほどの女性スタッフから呼ばれカウンターへ。色々説明を浮けるナナ。ゼクセンの選んだ金品はかろうじて換金出来た。そして女性スタッフが小声で
「窃盗とか騙されないようにね」
小さく頷き換金した金貨や銀貨をD=Bへしまい足早にギルド館を出て行くナナ。
それと入れ違いに兵士2人を引き連れた女性が依頼を終え戻って来る。
(あら?あのボロボロな服……あの子もしかして……)
数時間前の出来事なため記憶に新しい女性はそう感じた。
町の中を動き回り商店が立ち並ぶ所へ来たナナ。高級感あるドレスやアクセサリーが飾ってある店舗を見つめているナナ。ゼクセンに「お主にはまだ早い」などと説教され地味な服屋へ入る。店内には作業服らしき地味なものばかり……。店内をうろつきゼクセンの支持のもと肌着と服を選ばされる。そして試着室へ……。
試着室内━━
姿見の前に立つナナは明らかに不機嫌……。ブレインマウスにて会話する。
『ちょっと先生!地味すぎるぅ!せっかく異世界来たんだから━━』
『━━えーいナナよ!まずはわしの話を聞けい』
……
『基本的に魔法使いは後方からの支援や牽制、攻撃じゃ。目立つ服装では獣や敵に見つかりやすい。だから茶系や緑系の服がベストなんじゃて』
『……サバゲーみたいじゃん』
『さ、ば……げー?』
『んーん!なんでもないよ』
『それにお主はガイアールの人間ではない!目立たぬのが一番じゃて』
『……わかったよ』
渋々理解したナナ。
試着室から試着したまま店員のもとへ行き支払いをした。銅貨は持ってないので銀貨1枚でお釣りをもらった。
(金貨、銀貨、銅貨……そのあたりは変わってないようじゃの)
貨幣価値を確認したゼクセン。
ゼクセンが選んだナナの服装は……白いシャツの上にフード付きのジャケット、下は膝が隠れるくらいのスカート、そしてハイカットのブーツ……どれも茶系。ナナは現代では絶対にしない単色のみのコーディネート。
お洒落したい年頃なのにこれは嫌だ!なんとかしなくてはいけないと誓うナナであった。




