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幕間・②〜クロネのお使い

今回はクロネ中心な回となります。

本編とは無関係ではありませんが理解が深まれば嬉しいです。

 

 ━━スーデルの町・ギルド


 受付業務を行うミティーラ他女性スタッフ達は、今日も雑務に追われている。そんな中最近話題になっている依頼、それは━━


 クロネを指名での護衛依頼!


 しかも依頼内容はどれも簡単な内容。薬草採取や定期巡回、野犬の駆除など……。


 ━━バンッ!


 カウンター奥で大きな音が!


「こんなのさぁ……私が行っても良くなぁい?新人一人でも問題無いってーのっ!」


 テーブルを強く叩き愚痴るミティーラとそれに同調するスタッフ達。そして隅っこにギルド長トスクール。


「まぁ皆さん落ち着いて」


 なだめるトスクール。


「これ絶対クロネさんと二人きりになれるから!━━でっしょう?」


 女の第六感発動のミティーラは強めに発言する。


 ……


 実際トスクールも同じ事は思っていた。なので、クロネ指名の依頼はどれも保留にしている状態……。早めに手を打たないと余計な仕事が増える……。


 と、ギルドにクロネが一人で訪れた。


 ふわりパーマの金髪、谷間が露わで太ももまでスリットの入ったチャイナ服!そして長くしなやかな脚!背も高く黒光りする羽!

 ギルド内の冒険者達はそのモデルのようなスタイルに魅入ってしまう。特にオスは!

 鉤爪をカツカツ鳴らしカウンターに来るクロネは


「オボロ様に頼まれて、報酬をいただきに参りましたの」


 そう告げカウンターにもたれ掛かる。


 ……


 女性スタッフが報酬を持って来る。そして受け取った報酬と一緒にメモが!


「ギルド長室までお越し下さい」


 ━━ギルド長室


 トスクールとミティーラが疲労感を漂わせていた。ギルド内で話題のクロネ指名の依頼が多くて困っていることを、恐る恐る説明するトスクールと補足するミティーラ。


「……別に私でなくとも済む問題ではなくて?それに……」


 羽扇子をバサッと広げ口元へそして目を細め


「私よりも弱いオスはお断りですの!」


 ぴしゃりと言い放った!


 ミティーラはクロネの言いっぷりに思わず頷く!クールで容姿端麗そして気高いそんなイメージをしていた。トスクールに至っては、説明した時点で諦めていたのか、何も言い返せずに


「すいませんクロネさん……ご迷惑かけてしまい……その、こちらでなんとか処理します」


 結局、説明損してしまう。


 ギルドを後にしたクロネはそのままカインツの雑貨店へ向かった。


 ……


 先ほどのトスクールの話を思い出すクロネ。


(全く薬草くらい一人でも可能ではなくて?巡回だって一人でも十分ですわ!この町のオスは見事にだらしない!)


 そんな事を考えていると苛立ち、どんどん表情が険しくなるクロネ!そしてその表情を見て、クロネから遠ざかる町民達!


 ━━雑貨店


 スーデルの人々の生命線とも呼べるカインツが経営する雑貨店。売りは豊富な品揃え!食品から衣類、道具、本、カインツの趣味で集めたのか怪しい骨董品まで!だが品数が多過ぎて通路が狭い!大人がすれ違えるかどうかな通路。


 クロネは困惑する。


(羽……確実に迷惑になってしまうわ)


 クロネ自身のモデルスタイルならば問題無いが有翼人として生活しているため羽を含めると二人分になってしまう。

 人間の往来の隙を見て奥へ行くクロネ。


(ここまで密集してると……人間臭さが……)


 羽扇子を少し広げ口と鼻を覆い進む。クロネは人間の匂いを感じ、そこだけは慣れていない事をオボロには伝えてある。作業しているスタッフに声をかけ要件を伝えたクロネは、キラキラ輝くステンドガラスのコーナーに目を奪われ本能のままそこへ向かう。黒鳥であるクロネはキラキラ光る物を好む。それが高価な貴金属ではなくとも。

 ちょっとしたアクセサリーから大小の置物、食器……どれも見る方向で輝き方が違う!目で楽しんでいるクロネ……の隣では男性が唸っていた!


「……あっ!」

「……あら?」


 クロネと男性は同時に発してしまった!その男性とはスコットであった。

 何かそわそわしているスコット……。

 何か狼狽えてしまうクロネ……。


(なんで雑貨屋にクロネさん居るんだよ!しかも一人でとか!)


 クルミへのプレゼント選びを難航していたスコット。


(こんな安っぽいアクセサリーに目を輝かせている所見られてしまいましたわ!よりによって……このオスとは!)


 スコットとは、どうも調子が狂ってしまうクロネ。


 店内には人々の話し声……。


「こりゃークロネさん、珍しいですねぇ……お一人ですかい?」


 羽扇子は口元へ当てたままクロネ


「えぇ……オボロ様にお使いを頼まれまして……」


 鋭い目つきに脅されたかのようにペラペラ喋り出すスコット


「ほら!俺、オボロさんに助けられたけど大怪我しちゃって、クルミを心配させたからさ……何か良いの無いかなぁって」


(へぇ……特別な日でもないのにプレゼント、ねぇ……)


 羽扇子越しに、キラキラ輝く置物を見ているクロネは、ステンドガラスで張り合わされた兎の置物を指差す!


「こ、これなんて良いのでは?このか弱そうな兎ならメスも喜ぶのでは?」


 ━━!


(おっ?大きさも手頃だし……邪魔にならなさそう!うんうん!クルミ小動物嫌いじゃないしな!)


「良し!それにする!ありがとうクロネさん!」


 兎の置物を奪う様に持ち購入しに向かったスコット。


「え?……私が決めてしまって良かったのかしら?」


 その後、注文した品物を購入し、両手に荷物を持つクロネは雑貨店を出る。


 少し休憩しようとベンチへ向かうクロネ……すると━━


 一つ外れた路地から幼い兄妹が逃げるように走って来る!その兄妹よりも大きな野犬が後を追って来る!壁の隙間から町へ侵入したのだろうか……。

 噴水広場はちょっとしたパニックに!


「落ち着いて!野犬を刺激しないで!」


 真っ先に声を出したのは……購入したステンドガラスの兎の置物を両手で大事そうに持つスコット!さすがDランク冒険者!


 走り疲れたのか妹がしゃがみこみ、半べそをかき始めてしまった!それを見逃すはずも無い野犬は唸り、吠えた!


 妹のリュックにはガラス製のキーホルダーがキラキラと光を放つ。


 スコットは大事そうに置物を持ち町民を避難させつつ、野犬の動きにも注意をしている!


(あの野犬……もしかして)


 尚も吠え続ける野犬!


 兄は震える身体を動かし妹の前に身を挺して立った!


「うぅ……く、来るなぁ━━!」


 兄の精一杯の声!


 周りの男達は自分の事で余裕が無い様に感じたクロネは


「これだから……弱いオスは……」


 両手の荷物を置き、羽を広げ低空飛行でスコットの所へ!


「悪いわね!もう一度買い直してもらえるかしら?」


 と、ステンドガラスの兎の置物を奪い、野犬の後方へ投げた!


 放物線を描き陽に照らされ、キラキラと様々な色を出す兎の置物に目を奪われ、追い掛ける野犬!


 ━━ガッシャーン!


 石畳みに落下し、ただの色付きガラスの破片へ!


 そして鉤爪で野犬をがっちり掴み上空へ舞い砲弾の様に脚で遠くへ投げ飛ばすクロネ!


 その鮮やかな対処に歓声が飛ぶ!


 そっと兄に近寄るクロネはこう告げた。


「貴方の勇気には価値があったわ。オボロ様のような素敵な大人のオスになったら……ふふふ」


 顔を寄せ、両手で頬を優しく包み込むよう触れたクロネ。


 兄は突然の出来事に頰を赤くし、妹を抱き走り去ってしまった。


 石畳みに両膝をつき項垂れていたスコット。


「あんまりだぜ……クロネさん……」


 もう一度クルミへのプレゼントを買い直すはめに……。


 野犬騒動を見ていた町民の中には、クロネと近付きたくギルドに護衛依頼をする者も居た。


(間近で見るとやっぱ怖いな……)


(綺麗な女性に守ってもらう大人って……どうなんだろ)


 考える事は違えど、数日後にはクロネご指名の護衛依頼はゼロになっていった。


 ベンチでひと息つくクロネはブレインマウスでメルと話す。要件が済んだらそうして欲しいと言われていたからである。


『え?もう済んだの?もーっともーっとのんびりしてて良いんだけど?』


 何かメルの言い方が……変。


『それで?荷物はオボロ様に渡せば良いのかしら?』


 ……


 直ぐに応答が無い


 ……


『あ!えーと、宿屋の前にね、アミュを行かせるから、アミュに渡して?』


『アミュに?』


『そ、そうよ!アミュに、ね』


 何か含みのある話し方のメル。


 宿屋グーグーの前に行くと、階段に座っていたアミュが立ち上がり、魔操撚糸で両手の荷物を受け取り2階の窓から受け取るオボロは、ありがとうと言い窓を直ぐに閉めてしまった。そして━━


「あ、あのねクロネちゃんっ!おにいちゃんがね、お魚食べたいんだって!だから……一緒に付いてきて欲しいの!クロネちゃんお魚捕るの上手でしょ?」


 何か誰かに言わされてるようにも取れるアミュの言葉。


「……えぇわかったわ」


(オボロ様が望んでいるのなら)


「えーと、近くじゃなくて、もっと向こうで捕れるお魚が良いって、おにいちゃんが」



 数時間後━━


 陽が水平線へ沈みかけた頃、バケツいっぱいの小魚と大物1匹を持ち戻って来たクロネとアミュ。グーメラに小魚をお裾分けしたアミュ。階段を登り部屋へ。


 カチャ……。


 クロネが扉を開けると隙間を縫うようにアミュが侵入し、バケツごとオボロの前へ置く。


(もぅ今日はなんか疲れましたわ)


「戻りましたわ、オボロ様」


 声のトーンが低いクロネ。


「おかえりクロネ!今日はお使いありがとう!すごく助かった!」


「ごめんねクロネ、今日はマスター独占しちゃって」


 笑顔で迎えたオボロ、珍しく素直なメル。


「魚は、十分ですの?」


 首を上下に大振りしオボロ


「全然!大物もあるみたいだから、メル達にも行き渡るね」


 と、部屋を見渡すクロネ……。


 ……


 何か違和感。


 ……


 自分が寝ているベッドの所だけホムンクルス達が密集しているのに気付く!


「あの……オボロ様?」


 ━━パーン!パーン!


 クロネの後方からホムンクルス達がクラッカーを鳴らす!


 びくっとなるクロネ!


 オボロは1歩前へ出て


「いやぁ……前から気になっててさ……」


 クロネ「?」


「いつも窮屈そうにベッドでクロネが寝てるから」


 クロネ「!!」


「じゃーんっ!ベッドを広げて見ましたぁー!」


 と同時に密集したホムンクルス達が部屋中へ散っていく!


 ━━!


 幅が拡張されたベッド!


 その場で膝を崩すクロネは両手で顔を覆い更に両翼で隠す!


「こんな……私なんかのために……」


「クロネにはいつも世話になってるし、前からこうしてあげたいって考えていたし」


「嬉しい……です」


「本当に嬉しいです!オボロ様!」


「それなら、今夜から羽を広げて寝られるな!」


 終始照れ臭そうに話すオボロ。



 そして夜━━


 拡張されたベッドに座るクロネはシーツを指でなぞっている。


 相変わらず寝相悪いオボロの寝顔を愛でるように眺め


「わざわざ私に隠れてまで拡張しなくても……私と……オボロ様のベッドを寄せ合えば……良いだけではありませんか」


 そう口走ったのが恥ずかしいのか羽で自分を包み込み、さらに毛布に包まるクロネ。


 羽を広げて寝られる日は、まだ先のようだ……。



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