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幕間・①〜アミュのとある1日

今回はアミュを中心とした回です。

本編とは無関係では無いですが、理解を深めてもらえたら嬉しいです。

 

 アミュの朝━━


 人型の時は誰よりも遅く起床し、蜘蛛のブラックウィドウ時は誰よりも早く起床すると言う真逆な性質。

 今日も誰かに起こされる人型アミュ……。

 人間の子供のように、大あくびしながらボケっとして起床……。数体のホムンクルス達が寄って集り寝癖を直し、ゴスロリメイド服を手直しし、赤いエナメル質の靴を履かせる。寝ぼけ眼で朝食を宿屋1階で済ませる。

 そして苦手な歯磨き。

 アミュは興奮するとブラックウィドウの牙が出て来てしまう。その牙を人間同様に歯磨きするのは慣れないらしい。


 今日はギルド依頼を受けない休日。アミュはオボロ達にカーラちゃんと学舎に行くと告げ、颯爽と部屋を出て行った。カーラは宿屋グーグーの店主グーメラと奥さんのカヌスさんのひとり娘。外見だけで言えば歳も近く長く宿泊してるうちに仲良くなったようだ。


 アミュの実年齢は……生後半年過ぎたくらい。

 蜘蛛のブラックウィドウですから……。


 オボロとクロネは以前から気になっていた……休日のアミュの単独行動に。そしてついに今日━━


 こっそり偵察する事に!


 アミュの魔力感知で恐らくバレる事は承知で決行。


 と、メルが帽子とサングラスとよれよれな作業服をオボロへ、クロネには農作業の女性に見立てダサい地味な服装、羽を隠すためマントも渡す。


 そのコーディネートにやり切った感を出すメル。


 その出で立ちで宿屋を出るオボロとクロネ。その様子を不思議そうに見送る店主グーメラ。


 尾行はオボロの五感オーラを使えば多少見失っても問題無いし、クロネの上空からと言う手段もある!探偵業も向いているなどと考えてしまうオボロ。


 アミュを尾行する2人……。

 見るからに怪しいし、変装してもオボロとクロネだとほとんどの町民は気付く。しかしスーデルの町民は皆優しい。気付いても、見て見ぬふりをしてくれる。むしろアミュがどこに居るか教えてくれる町民も出て来る始末。


 ━━学舎


 学舎には引退した冒険者や町に住む元王国で先生をしていた人、何か一つの事に精通した人が先生として子供達に教えている。無料では無く各家庭の収入もあるため、気持ち程度支払えば通えるシステム。

 ギルドからほど近く大きな平屋に走り回れるほどの敷地。


 平屋の中にアミュは居た!


 カーラの隣で大人しく座っている!先生が文字の読み書きを教えているようだ。一生懸命アミュは小さな手で羽ペンを握り書き取りをしている。そう言えば冒険者登録の時はオボロが代筆してあげた。その後くらいからしきりに文字の読み書きをするようになっていた。ギルドの依頼ばかりで、読み書きをきちんと教えていなかったオボロは、必死に読み書きをしているアミュの健気な姿に目頭を熱くする。


(ごめんなアミュ……俺がもっとしっかりしていれば……)


 親心か責任感か、自分を責めてしまうオボロ。


 ベルが鳴り、休み時間のようだ!


 子供達が庭へ走って各々遊びたいように遊び始めた!即座に屋根に身を潜め、こっそり観察する2人。


 カーラ含め数人で鬼ごっこらしき事をしている様子……。

 鬼の男の子が追い掛ける━━

 逃げる子供達━━

 アミュも一緒になって逃げる━━


 ……


 ……


 2人は気付く!


「━━!……魔力使ってない?」


 オボロとクロネは顔を合わせた!魔力で身体機能を向上させれば捕まることは無い!なのに使っていないアミュ!


「もしかしてですが……人間の子供達に合わせているのでしょうか?」


「意識してクロネの言う通りなら……凄い進歩では?」


 オボロもクロネも、アミュの適応力に感心をする。


 しかし実際は━━


 遊ぶ事に夢中で魔力の「ま」の字も忘れているアミュ。


 ぽてっ!


 アミュが躓き転んだ所へ……すかさず鬼の男の子がタッチをした!


 ……


 ゆっくり立ち上がり、膝の砂を落すアミュの顔は少し歪んでいた。破れたニーハイも気にせずアミュが鬼になり続く鬼ごっこ。


(アミュ泣きそうじゃないか!)


 今にも屋根から飛び降り助けたいオボロ!それを食い止めるクロネ!


「オボロ様!これは子供の遊びですわ!オボロ様!オボロ様!」


 ……


「あぁ……すまん、なんかつい」


「見守りましょう」


 と、オボロを諭すクロネの手にはしっかりと羽釘弾(うていだん)を飛ばす準備をしていた!


 過保護なオボロとクロネ……。


 鬼ごっこはいつの間にか終わり、砂場で砂遊びをし始めていた。


 カーラと2人仲良く何かを作っている……。


 大きなフルーツタルトを砂で再現している。アミュよりも大きな大きなフルーツタルト!まるでフルーツタルトのベッドのような!


(アミュはお菓子……好きだもんな)


 微笑ましく見守るオボロ。


 ━━ざくっ!


 飛んで来た木の棒が、アミュとカーラの作品に見事に突き刺さった!

 近くで木の棒を振り回し遊ぶ男の子達の動きが止まった!


 大きな砂のフルーツタルトに亀裂が走り……無残にも崩れ……呆然と立ち尽くすアミュ!カーラは顔を歪め……残念そうにしていた。


「これはお砂のお菓子……お砂で作ったお菓子……食べられない……食べられない……カーラちゃん……悲しんでる……悲しんでる……」


 ぶつぶつ呪文のように言い聞かせているアミュ。魔操撚糸(まそうねんし)を指先からゆらゆらと伸ばし……木の棒を絡めとる。


 そして男の子達の方へ静かに歩み寄るアミュ。


 屋根の上では━━


 クロネはアミュが魔獣化するのではと危惧し飛び出そうとしていた!


 サッと手を出しクロネを制するオボロ!


「大丈夫だ……アミュを、俺は信じてる」


 生唾を飲み込んだオボロ。


 そしてアミュは男の子達の前へ!


 びびっている男の子達!


「アミュ達、お砂で遊んでるの!危ないから……もっと遠くで遊んでっ!」


 カランカラン……


 魔操撚糸で巻き取った木の棒を地面へ放り投げた!


 男の子達は何か言いながら逃げて行った。


 オボロの聴覚によれば……


「おい!今日アミュ来てるって聞いてねーよ!」


 とか


「ぶっとい牙出されて、可愛く笑顔出されても怖いよぉ」


 とか、言っていた。


 アミュはカーラの方へ振り返ると━━


「アミュちゃん!牙!牙!」


 カーラに牙を指摘され、慌てて両手で口へ押し込み、恥ずかしがるアミュ!


 ━━お昼


 豪華では無いが、空腹が満たされる程度の食事が出る学舎。今日は小ぶりなパンと野草のサラダとビスケットに子山羊のミルク。


(なんか給食みたい)


 思わず転生前の時を思い出すオボロ。


 さすが雑食のブラックウィドウ!野草も残さずぺろりと食べきる!人間の子供なら十分な量だが……アミュにしてみれば……おやつ程度。


 お昼の後は……勉強する子供、帰宅する子供とそれぞれ別れた。カーラは家の手伝いがあるため帰宅。


 残されたアミュは……先生や子供達に手を振り学舎を後にする。


 ━━噴水広場


 尾行することしばし、アミュは噴水広場にいた。手には貰ったであろう串焼きを持ち、ぶらぶらと食べ歩き。立ち並ぶ露店の店員の仕事ぶりを眺めたり、散歩する老夫婦と一緒に散歩したりと何気に町に馴染んでいるアミュ。


(アミュ……意外と溶け込んでますわね)


 と、感心するクロネ。


 とは言え、噴水広場には多くの町民が集まっている。良く観察すると……やはり距離を取る町民がいる事は否めない。


 と、アミュが今度はギルド館へ入って行った!


 尾行する2人は窓から覗き込むように立つ。そこへ━━


「んんん?オボロさんと……クロネ、さん?」


 スコットが後ろから声をかけて来た!


 振り返らずにオボロは声色を変え


「だ、誰ですか?そ、そんな人知りませんよぉ」


「いやいやオボロさんとクロネさんでしょ?ギルドに用事?」


 なおも声色を変え


「人違いじゃあ無いでしょうかぁ?」


 あくまでも押し通すオボロ。更に近づきスコットは


「いや、この茶トラの尻尾はさぁ━━」


「━━ちょっと邪魔をしないでくださる?」


 目くじらを立て苛立つクロネが!


「ほ、ほーらやっぱそうじゃん」


 と、クロネの圧に負け後退りするスコットは、ヌイケンに襟を取られ


「お前本当バカだな!察しろよ!少しは」


 と、ギルドのロビーでミティーラと話をしてる楽しそうなアミュを指差す。


 ……


 ようやく理解したスコットは


「あぁ!そう言う事ね!心配なんですなぁ!」


「今はそっとするのが良い」


 掴んだ襟を離すヌイケン。


 窓越しからアミュの様子を観察するオボロとクロネ。

 仕事中とは言え、押しかけたアミュに対応してくれているミティーラが居た。恐らくアミュと一番に仲良くなれた人間はこの女性であろう。なにせエービー襲撃の時、麻痺毒を受けアミュ特性の中和液で助かったのだから……。アミュと仲良くしてくれるミティーラには感謝しているオボロ。


(ギルドなら問題ないか)


 大丈夫だろうと思い、宿へ戻るオボロとクロネ。


 ━━夜


 夕暮れにはちゃんと宿へ戻って来たアミュは、今日の出来事を聞いていないのに話す。メル達は質問したり聞いたりだが……話す内容はどれも知っているオボロとクロネは、相槌をするので精一杯。それでも楽しそうに話すアミュを止める訳にはいかないので気が済むまで話をさせた。


 話終えた頃、紙と羽ペンをメルに用意してもらいテーブルの隅でこそこそと何か書き始めたアミュ。ホノカが覗こうとするが小さな体で必死に隠す。


 しばし見守るオボロ達……。


 ……


 スー……スー……


 寝てしまったアミュ。


 オボロは起こさぬように抱っこしベッドへ寝かせる。


「はしゃぎ疲れたんだろうな」


 テーブルの隅には書きかけの紙……。


 決して上手とは言えないが……読めなくはない……。

 アンバランスな字体、角度が少し違う字体、書き間違え黒く塗りつぶされた箇所がたくさん………。


 時間はかかったが、オボロもクロネもメル達も皆で解読しあった。


 ……


 ……


 メル、ホノカはお互い抱き合って声を抑え泣く……。ミナモはアミュのおでこに口づけをした。


 クロネは窓際へ移動し月夜を見ていた。その目には薄っすらと涙……。


(私は……そうあるべきなのね……アミュから見たら)


 オボロは紙を手に取り、身体を震わせ涙を堪えていた……。


 その紙にはこう書かれていた。


(みてえらちやん、かあらちやん、おともだち


 める、ほのか、みなも、すごいおともだち


 くろねちやんは、たよれる、おねえさん


 おにいちやんは、あみゅの、おうじ、さま


 もうすぐ、あみゅ、いっさい、なる)


 喋れば何て事の無いアミュの言う事ではあるが、いざ文字になると様々な想いが駆け巡る!


 オボロはアミュと出会った頃から思い返してしまい涙が溢れていた。


(成長……してるんだなアミュ)


 アミュの初めての手紙。


 紙がしわくちゃになるほど胸に押し当てたオボロ。そして静かにアミュの枕元へ忍ばせ……。


「寝顔だけは……天使、だな」




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