第6幕〜別れそして武芸団
━━ギルド前
エレナータ達がアルス領へ戻る準備をしている。アースランナーに馬車を引かせ、狼の獣人ジルファスと護衛兵一人もアースランナーにまたがる。早朝にも関わらずエレナータをひと目見ようと町民が集まっている。オボロ達はと言うと……自分達で用意した荷車に予め用意してもらった野営道具や水、食料のチェックをしている。アースランナーにまたがりオボロ達を眺めているジルファス。
(……馬に引かせるのか?まさかオンボロが引く……訳ないよな)
「じゃあアミュお願い」
「はーいっ!」
幼女体型からの━━魔獣化し本来のブラックウィドウへ!
集まる町民はどよめき、悲鳴を上げる者までいた!ジルファスも突然の出来事でバランスを崩しアースランナーから落ちそうになってしまう!
魔獣化したアミュは大人しく微動だにせず、オボロとクロネが荷車を取り付けているのを待つ。
ざわめく町民達……。
━━カチャ!
馬車からエレナータが降り
、ざわつきを遮るかのごとく━━
「スーデルの皆様!楽しい時をありがとうございました!獣や災害に負けぬ事を私は信じております!」
馬車へ戻るため階段に脚を掛け、再度振り向き
「私達は、そこにいる彼らが居なければフルーツタルトが食べられていませんでした!私は彼らに心より感謝の気持ちを伝え続けていきます!」
次第に町民達が静かになって行く。自分達の事を公然と言われ萎縮してしまっていたオボロ……。
(こう言う力……いや権力か……効果は凄いな)
改めて腕力の強さでは無く、権力と言う力の有り難さを痛感した。
スーデルの町の門までギラクとトスクールが見送り、エレナータ達は出発した。
荷車を引くブラックウィドウのアミュ、荷台にはオボロ、クロネそれぞれ警戒しながら座っている。その少し後方からエレナータの乗る馬車。窓を開け風を感じながらジルファスと会話をする。
「ねぇジルファス?彼らをどう見ます?」
「そりゃお嬢、どう言う意味合いですかい?」
「言った通りですわ」
……
「知らぬ者が見れば……危険。しかし話の通じぬ相手では、無い。数日の間ですが周囲の人間からの会話と……俺の勘、ですかね……あぁそれと、個人的に気に食わねえ!あの猫獣人は」
「あら?同じ獣人ではなくて?」
「……お嬢……一言に獣人っても種族が違えば……色々とあるんですよ……」
「人間には理解し得ない事もあるのですね……でも私は彼らは悪いとは考えていませんわ」
と、会話するエレナータは終始オボロを見ていた。
警戒しながら先頭するオボロ達。軽々荷車を引くアミュに頼もしさを感じ、時折クロネは先を飛び斥候のような役割もしてくれる。そんな二人に信頼を寄せているオボロは今朝の事を思い返していた……。
━━夢?現実?
美術館のような建物に一人立つオボロ。先は暗闇で自分の周囲だけが視認出来た。真上からスポットライトでも当てられたかのよう。目の前には額縁……絵画とも写真とも言えぬ描写。自分とクロネとアミュが楽しげに食事をする場面……。右隣にはクロネとアミュが初めて人型になったセリーヌの工房での場面……。左隣には……あまり思い出したくも無いが……濁流に飲まれ流され助かった時の場面……。メル達が心配そうに自分の周囲を飛んでいる描写……。
また右側へ視線を移し、かろうじて数枚先が見えた。
アミュと初めて会った時……。
はぐれ島を脱出した時……。
クロネと初めて会った時……。
その隣には━━
白い布がかけられ全体がわからなかったが……転生前の描写━━
公園……であろうか……微かに転生前の自分と小さな女の子が遊ぶ描写が見え隠れしていた!
と、仮面をかけた黒服がその額縁を外し……新たな額縁を掛けた━━
白い布はそのままで!
その黒服達は何か呟いていた!
「……コウカン……コウカン……ムカンケイ……コウカン……コウ……」
━━ドサッ!
相変わらず寝相悪いのか……ベッドからずり落ち目が覚めたオボロであった。
(……夢?……誰だあの女の子?……夢だとしたら……記憶の整理中を覗き見しちゃったってことかな……)
夢を見ると言うのは過去の記憶の整理であると本で読んだことのあるオボロは考えた。
━━何度目かの休憩時
崩壊した橋の川まであと半分と言ったころか、少し奥まった所に湧き水がありそこで休憩を取る。オボロ達はエレナータ達とお互い見えるくらいの距離を保ち休憩。理由は警戒と……人間の護衛兵達が少しオボロ達を恐れていること。エレナータとしてはオボロと会話をしたいようだが……ジルファスは分散させた方が良いとゴリ押ししてしまう。
一人オボロは湧き水の所へ……。
D=Dからメルやホムンクルスが数体現れ食器を洗ったり水の補給をする。
━━カサカサ!
音のする方へ向くと、ジルファスがいた!
(気配が……感じられなかった!)
流れる湧き水で食器を洗うホムンクルス……水を補給してるホムンクルス……メルに至っては湧き水の溜まり水で水浴びをしようとまさにワンピースを脱ごうかと言う場面!
「━━ひきゃっ!」
メルの声を抑えた悲鳴!直ぐにオボロの後ろへ隠れる!他のホムンクルスも同様に!
ホムンクルスを目で追うジルファス……。
「なるほど……この辺りは……妖精の住処か?」
ホムンクルスを見ても全く驚かないジルファスに呆気に取られているオボロ。
「あぁ心配しなさんな!手は出さねぇからよ。俺は獣人だぜ……妖精が居ても驚かねぇ。とは言え、こんな間近では初めてだがな」
「……で、もう出発かにゃ?」
妖精達を怖がらせないよう距離を取り大木に背を預け腕組みするジルファス。
「なに、いくつか質問をってな」
……
「エービーの襲撃……あれだけの個体数に対して被害が少ない!ありゃどう言う事だ?町の人間に聞いてもお前らが退治してくれたと」
「いや普通に俺とクロネとアミュで……」
「……普通……ね」
「アルス領にも、たまに数体程度のエービーはやって来るが家畜や子供が拐われ被害は大きい!なのに……!」
「それはだにゃ!人型のアミュがちょうど良く囮になった事にゃ!」
━━!
目を丸くし驚くジルファス!
「そう言う事か……」
(見た目でならあの幼児体型はエービーの標的……)
D=Dへ戻れないメル達はオボロの後ろにまだ避難している。
「それと……魔獣2体……ありゃどうやって手懐けた?獣人風情が魔獣を手懐けるなんざ……聞いた事ねぇ!むしろ逆の方なら理解は出来るがな」
……
「詳しくは……言えない」
血の盟約自体、魔族が使う特殊な魔法……。
「まぁそうだろうな……言えない理由があるのは仕方ねぇ……けど……魔獣の暴走、凶暴化は大丈夫なんだろうな?そこくらいは知っておきたい」
ジルファスの目を見て真剣にオボロ
「大丈夫だ!そこは信用して欲しい!」
腕組みを解除しその場を去るジルファスは
「ここに妖精は……居なかった」
と、言葉を残して行った。
━━崩壊した橋のある川
到着したのは陽が落ちる頃で、川から距離を取り安全な場所で野営をする事に。
そして翌朝━━
前夜打ち合わせ通りに、以前と同様に川を渡る。
アミュの巣で馬車を包み黒鳥のクロネが鉤爪で掴み飛行し川を渡る。馬車にはエレナータ、護衛兵達が入り……ジルファスは馬車の屋根にしがみつかされる。
「なんか俺だけ扱いがひどくないか?」
「馬車の中は定員オーバーみたいですわよ」
せせら笑うクロネは飛行しながら答える。
2回目で残ったアースランナー達を同様に渡らせオボロもアミュも一緒に川を渡った。
無事に川を渡り終えたエレナータ達。再度出発準備をする護衛兵達。エレナータが馬車から降りオボロ達の前へ。3人の目を順に見て言葉を贈る。
「此度のご助力、誠に感謝申し上げます!アルス家は勇敢で自由な貴方達に敬意を評し、こちらを授与致します」
と、少し不服そうなジルファスがガラスケースに入ったアルス家の家紋の入ったハンカチをエレナータに渡す。
(俺は認めないけどな)
「貴方達の旅路で何かあればこちらを見せれば、きっと助けになりましょう。弱小ではありますが……これでも貴族ですので!」
背筋を伸ばし受け取るオボロは言葉を詰まらせながら
「ま、誠に……こ、光栄で……あります!」
「ふふふ、初めて声を掛けた時も、緊張されてましたよね……どうか力を抜いてくださいな」
広角を上げ微笑むエレナータと、妻のマキの笑顔が重なってしまうオボロ……。
「それでは、ご機嫌よう。我が領地はいつでも貴方達を歓迎します」
と告げ馬車へ乗り込むエレナータの両耳には、メル達がプレゼントした水滴型のイヤリングに朝日が反射され光っていた。
馬車が見えなくなるまでその場から動かないオボロ。
(……未練ってやつかにゃ……)
……
緊張の糸が解けたのか……猫背で木陰まで歩くオボロ。人目を考え少し奥まった所の木陰でべたりと座り込む。微妙な距離を保ち隣にクロネ。アミュは幼女体型のまま糸を垂らしぶら下がる。D=Dからメル、ホノカ、ミナモを呼び出すオボロ。
いつものメンバーがオボロを中心に集まる。
「ひとまずは……お疲れ様ですオボロ様」
何気ないクロネの一言が心に染みたオボロ。
「そう……だにゃ」
「ねぇねぇマスター?あのイヤリング……びっくりしたでしょ?」
含み笑いで話しかけるメルにオボロ
「うん……メル達は本当、器用だな」
ぶら下がるアミュの周りを嬉しそうに飛ぶメル、それを追い掛けるホノカ。ミナモはオボロの尻尾を背もたれにし座っている。
今、オボロの頭の中では崩壊した橋の建設の他にもう一つやりたい事が発生していた。
エレナータとの会話で何度も登場していた事。
「まるで曲芸のようです」
「見ていて興奮を覚えましたわ」
など、自分の戦う姿をまるでエンターテイメントのように捉え話してくれた事。
(そう言えば……クロネも出会ったころ良く話していたな)
「クロネ?」
突然呼ばれてドキッとしたクロネは
「はい?」
「今でも……俺の戦う姿は……出会った頃と変わりない?」
(急にどうしたのかしら?)
と思いつつも
「ええ!全く変わりませんわ!オボロ様の戦う姿は自由でそして華麗に!私は常に目で追ってしまいます!」
多少誇張したが、クロネの言葉に嘘偽りは無い。
歯茎が露出するほど声を出さず笑うオボロ。
スッと立ち上がり、己を鼓舞するように
「んーにゃ!決めた!」
クロネ達はオボロに自然と注目する!
「武芸団!立ち上げにゃ!」
━━!
一同は驚く
「武芸……団?」
皆の顔を見ながらオボロ
「にゃ!これからはギルドと武芸団をして生きて行くにゃ!ギルドの依頼も受けて、武芸団で色んな町で人々を楽しませて……旅をする!」
━━【武芸団】
聞き慣れない言葉にクロネ達は多少困惑気味……しかしオボロの顔付きは真剣であった。
(確かオボロ様は……こっちの世界に居るかも知れない娘さんを探すのが目的だったはずでは?)
オボロと共に居るのが一番長いクロネは、そう思ってしまった。
(あれ?マスター?娘の事は諦めちゃうの?それとも……どうでも良くなったの?)
オボロ=転生前は青葉爽太とは繋がりが深いメルはそう感じてしまった。
第6幕〜終幕
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