表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/166

第6幕〜視察の思い出

 

 今回の視察は娘の婚約が決まり、それまで自由を与えたいと言う両親の計らいでもあった。もちろんその事を知るエレナータは公務と自由を使い分ける。

 非公式パーティーの翌日は前半を町の視察、交流ある人物との会食、もちろん予定の中には、一番の目的のフルーツタルトも含まれている。厳選されたフルーツをふんだんに使用し生地も丹念に下ごしらえし、アルス家限定の甘さ控えめなフルーツタルト。エレナータはジルファスも護衛兵も席に座らせ、まるで家族のようにフルーツタルトを堪能した。光沢あるフルーツタルトの表面からある事を連想してしまったエレナータ。


(……妖精さん達)


 エレナータ達が公務を全うしている頃オボロ達は橋の建設の件でトスクールの元へ。小難しい話は苦手なアミュはロビーにてお手伝いらしき真似ごとをする。椅子の上に立ちカウンターからちょこんと顔を出し、にこにこと見渡す……すると数名の冒険者から挨拶や応援の声を貰って嬉しそうなアミュ。どうやらギルドへ出入りする冒険者達とは打ち解けている様子。

 トスクールからは橋の件の前にエレナータ達を川向こうへ運ぶ事とそこまでの護衛をお願いされた。


「橋の無い状態では……頼れるのはオボロさん達のお力。特に今回はクロネさんの飛行能力にすがるしか無い……どうかお願いしたい!」


 机に額が付くほど下げるトスクールにオボロは


「頭を上げてくださいよ。エレナータさん側からもそれとなく打診はされていたし、そのつもりですよ」


「私はオボロ様に従うまでなので」


 サッと頭を上げ安堵したトスクールは、橋の建設の件へ話を進めた。崩壊の原因は山間部に無数にある大小の窪みに溜まった雨水が溢れ押し寄せたためだろうと。元々あの地域は雨量が多く過去にも被害があり、その度にスーデルと王国の共同で橋の建設をしていた。


「町としては……我々だけで建設をしたいとギラクは考えています。王国とやり取りしてる間にも川が通行出来ないのでは元も子もない。早急に仮設の橋を作り、その後本格的にした方が良いと」


 感心し頷くオボロは、ギラクの意見に賛成し、エレナータ達を渡らせたら現場の状態を見て仮設だけでもやってみる事を伝えた。


 滞り無く話を終えたオボロはアミュを引き取り噴水広場へ。


 まだ陽は高い。


「お兄ちゃんっ!……捕食してきていーい?」


 両手をお腹に当て空腹感をアピールするアミュ。クロネを見ると照れ臭そうに少し俯き加減でアミュに共感していた。オボロは町の安全も兼ねて二人を送り出す。


 オボロ達の居る噴水広場のほぼ反対側では視察中のエレナータの一行が移動していた。何気無く遠くを見たエレナータの視界にオボロの後ろ姿が入る。


 視察のエレナータ達が移動し終えた後にオボロはその辺りを歩き宿屋へ一人戻った。


 ━━宿屋グーグー


 暇を持て余すオボロはD=D(ディメンション=ドア)を発動しメル達を呼ぶ。ホノカがビスケットを片手に飛び出す!そして追い掛けるメル!ミナモはそんな二体に関心無くゆっくりと出て来る。


「マスター、一人?」


 ミナモが話しかける。クロネとアミュは捕食しに行って夕方には戻るだろうと説明したオボロ。


(……橋の建設……河川の整備……)


 オボロはメル、ホノカ、ミナモを集めテーブルへ座らせた。メルとホノカは叱られるのではとドキドキし……ミナモは平然としている。オボロは橋の建設の事、それに関連して必要な知識を話始めた。転生前の建築関連の知識を真剣に説明し伝えるオボロの眼差しに


(あれ?これマスター本気だ)


 と、いち早く気付くメルとミナモは同調するように知識を蓄えていく。ホノカは……中盤になってようやく話の重要性に気付く始末。紙に絵を書き説明したり身振り手振りで伝えたり……まるで転生前の職場で仕事をこなしてるかのように!


「……全部は伝わってないとは思う。それでも力になって欲しい!俺の知識と経験を少しでも活かしたいんだ!メルは俺の転生前の記憶や思い出が少しあるから理解してくれたと思う」


 こくりこくりと頷くメル。


「可能な限りマスターの理想になるようにしてみる!さらに忙しくなるね!」


 と、クロネとアミュが満足そうな表情で戻って来た。オボロはクロネに転生前の建設の知識をメル達に教えていたと話し協力を求めた。


 ……


「私の能力がお役に立てるのでしたら問題無いですわ」


 ホノカと追いかけっ子しているアミュも


「アミュもぉぉ!お兄ちゃんの事手伝うよっ!」


 きっと何の話をしているか理解はしていないだろうが、返事をしてくれた。


 宿屋グーグー、1階━━


 カランカラン……


 扉がゆっくり開き着飾った女性と獣人が入ってきた。


(んん?ありゃエレナータ様では?)


 身なりで直ぐに理解した店主グーメラは


「こんなみすぼらしい宿屋へどのような御用でしょうか?」


「……オボロさんはこちらに宿泊されていますよね?」


 黙って頷くグーメラは小声で


「2階の直ぐの部屋です」


「ありがとうございます……ジルファスは店主さんとおしゃべりでもしていて」


 と、カウンターに大銀貨一枚を置き心配するジルファスを制し2階へ向かった。


 宿屋グーグー・2階━━


 ━━!


「メル!ホノカ!誰か来る」


 ミナモはそう告げD=Dへ戻った。後に続き2体も戻りD=Dを解除したオボロ。


 ……


 ……


 コンコン……コンコン……


 返事をするオボロ。


 静かに扉が開き、訪れたのはエレナータ!


「え?……なんで?」


 思わず声に出してしまったオボロ。


 エレナータは訪問した理由を話す……。


「突然で申し訳ありません……もう一度……もう一度で良いので妖精さん達に……メルちゃん、ホノカちゃん、ミナモちゃんに会いたくて、訪問致しましたの」


 ブレインマウスでメル達に伝えているオボロ。


 ……


「わかりました。では扉の方を向いて目を隠していてもらえますか?」


 言われた通りにするエレナータは、また妖精達に会えると鼓動を抑えられなくなっていた。


 ベッドの下にD=Dをエレナータに見えぬように出し、メル、ホノカ、ミナモ……それと3体の計6体のホムンクルスがオボロの前に並んだ!と、同時にクロネとアミュにブレインマウスを送る!


『これから起こる光景は……忘れるんだ!』


 クロネ、アミュはオボロの言う意味が理解出来なかった……がその真意は直ぐに理解出来た。


 メルを先頭に隊列を組みエレナータへふわり飛んで行き……


「ご機嫌よう!エレナータ!また会いに来てくれたの?」


 普段よりも1段階上の声質で話すメル。


 振り向き微笑み返すエレナータはミナモ、ホノカに手を引かれソファーへと誘われた。普段だらしないホノカがしゃきっとし、普段笑顔など出さないミナモが笑顔!


「なんかいつものメル達じゃ━━ふがふが!ふが!」


 咄嗟にアミュの口を手で塞ぐクロネ!


(こ、こう言う事ですのね……初めて見ますね。しかし、臨機応変と言おうか……無理をしてると言うか……)


 エレナータの座るソファーの周りにはメル達が半透明な羽を輝かせ飛び回り、メルヘンな空間へ!

 肩に乗るミナモは笑顔を振りまき、メルはエレナータの手のひらに慎ましく立ち、ホノカと他のホムンクルスは隊列を組み空中を踊る!


 メル達の見事なおもてなし。


「また会えて嬉しいわ!ありがとう!間に合わせだけれども……こちらを」


 と、包み紙を広げると……甘い香りの砂糖菓子が!


(やばい!ホノカあたりが食いつきそう!)


 そう感じたオボロはホノカを見ると……案の定、口元が緩みながら砂糖菓子へ突進!メルも砂糖菓子へ直行し、1つを取り合いかと思われたが……ホノカが力任せでほぼ真っ二つにしてみせた。オボロには砂糖菓子の取り合いとしか見えていなかった。それでもメルとホノカは、可愛らしく半分に分けましたよ的な雰囲気にしてみせた。エレナータにはどう見えていたか不明だが、楽しそうにメルやホムンクルス達を目で追う表情はやはり……マキの笑顔に酷使していた。


「エレナータはどんな男性が好み?」


 メルの唐突に質問した内容にオボロはむせてしまう!


 はにかみながらエレナータ


「あら?メルちゃんは恋のお話がしたいのかしら?」


「んー私はマスターが居れば大丈夫だからなぁ」


「ふふふ、そうねぇ……肉体的にも精神的にも強くて頼れる男性が良いかしら。でも私と居る時は……弱い部分もさらけ出してくれるのが良いかしらね」


 チラッとオボロを見るエレナータ。


「じゃあエレナータが幸せになりますように」


 エレナータの手のひらにイヤリングを落すメル。


 一滴の水滴の形でホムンクルスの半透明な羽のように透き通るイヤリング!


「まぁ!こんな素敵な物を!」


 指先で摘み色んな方向から見るエレナータ。光加減でイヤリングの色が変わって見えた。まるで妖精の羽のように!


「本当に……本当に嬉しいわ!こんな出逢いに体験!ありがとうメルちゃん達!それとオボロさん!」


 嬉し泣きになりそうなエレナータの笑みは……どこか儚げなかった。


 イヤリングを大事そうにポケットへ忍ばせソファーを立ち上がり


「急な訪問にも対応していただき感謝致します。一生の思い出となるでしょう」


 深々と頭を下げるエレナータ。


「そう感じてもらえたなら……俺も嬉しいです」


 それなりな返答するオボロ。


「では、明日の護衛と同行、よろしくお願い申し上げます」


 エレナータは少し浮足立って部屋を退出して行った。


 ……


「ぶっはぁー!やっぱ無理がある!」


 ベッドに大の字になるホノカ。ミナモは既に普段通り無表情モードへ。メルは残った砂糖菓子をアミュも含め配り回る。


「ねぇお兄ちゃん!メル達なんでいつもと違ってたの?」


 当たり前な疑問であろう……アミュは正しい。その問いにオボロはこう答えた。


「メル達にも、人間に好かれようって気持ちがあったんだろうね!だから、おしとやかに笑顔で礼儀正しく、行動したんだよ」


 砂糖菓子を頬張りながらアミュ


「ふぅぅん……なんかメル達も大変なんだね」


 何かを感じ取ったような返答。


「ええ……さすがの私も驚きましたわ!」


 クロネもメル達の変わりように驚いていた。


「まぁまぁ……気にしない!気にしない!外面よ、外面!クロネ」


 いつもの軽い感じなメルのお言葉に、安堵してしまうオボロとクロネ。


 そして翌日、エレナータ一行とオボロ達はスーデルを出発する事となる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ