第6幕〜貴族として、人として
ギルド長トスクールの話が終わりロビーへ戻ると、そわそわしながらクルミが立っていた。クルミはスコットの彼女でフルーツタルト店舗の看板娘。ミティーラに後押しされ前に進み始めた。
「あ、オボロさん、その、スコットを助けてくれて……ありがとうございました!彼、頭よりも体が先に動いちゃうんですよ……だから、その、本当にすいません」
確かにクルミの言う通りかもと思ったオボロとクロネ。
クルミは大きな篭をオボロに手渡す。見るとオッテハウスで売られている焼き菓子が大量に!
「フルーツタルト……焼き上がるのが間に合わなかったので……間に合わせですが、皆さんで食べて下さい!」
オボロの返事を待たず、ギルドから走り去ってしまったクルミにミティーラがフォローする。
「あの子、まだ人見知りしちゃうんだよねぇ……気にしないでぇ。━━おっと、そうだ!おかえりなさい、だねぇ」
とは言え、感謝の気持ちだけでも有り難いのにお礼まで持ってくるなんて……しっかりした子だと感じたオボロ。焼き菓子の篭はもちろんアミュが大事に抱え持つ。
ギルドから出ると……今度はヌイケンと在住してる獣人が数人揃っていた。これだけ獣人が集まると……襲われないと理解してても、人間は寄り付いていない。数歩前に出たヌイケンはオボロに話しかけた。
「俺は信じてたぜ!獣人の生命力とオボロさんをよ!」
後ろの獣人達もにこやかに同意していた。
「あぁうん!ギルドの皆には心配かけたけど……この通り無事だよ!クロネもアミュも駆け付けてくれたし」
笑顔で答えるオボロ。ヌイケンはチラッとクロネを見て、オボロの耳元に小声で伝える。
「クロネさん凄い剣幕で救援に戻ったトスクールを責めちゃってよぉ……よっぽどオボロさんのことが心配だったんだろうな」
ニヤニヤしてるヌイケンにクロネは2度咳払いし━━
「丸聞こえですわよ……それに……仲間を心配するのは当然の事では?」
と、本心を隠しつつピシャリ言い返した。
(そうだよな……クロネにもアミュにも心配かけたことは事実)
宿屋でオボロ達はグーメラ達に無事な事を伝え部屋へ戻った。オボロにとっては久しぶりないつもの宿屋。早速アミュはもらった焼き菓子をねだり、オボロは頑張ってくれたからと許可。独り占めする事なくオボロとクロネに数枚ずつ配ってくれたアミュ。焼き菓子を頬張りながらD=Dを出し扉を開放させた。予想通りメルを先頭にホムンクルス達がオボロ目掛けて飛んで来る!
━━さらに多数飛んで来る!
半べそなメルは
「マスター!ミナモから聞いたよぉ!お互い無事で良かったぁよぉ!」
と、ふかふかの胸元へ飛び込む。
クロネとアミュは部屋中に飛び回るホムンクルス達の量に驚いていた!さすがのオボロもD=Dから出て来る量をメルに追求した。
「頑張って仲間増やしたんだよ!効率もあがるから!」
目をきょろきょろさせながらオボロ
「なぁメル?全部で何体だ?」
「んー100体くらい?」
大雑把に答えたメルに対しオボロは口髭をピンとさせ
「仲間良くすること!きちんと統率とること!これだけ居たら何かと問題あるだろうから、話し合って解決すること!」
マスターらしく諭すオボロ。
後方でチビちゃんが飛び回るホムンクルス達に呼びかけていた。すると━━
一斉に集まり隊列を組みオボロの前に集結した!
先頭はメル、後ろにホノカ、ミナモ、チビちゃん、それぞれ後方に並ぶホムンクルス達!
小さく愛らしくも頼もしいホムンクルス達の姿に圧倒されたオボロ達。
(こ、これだけ居ると……何か軍隊みたいだな……)
(メル、どれだけ頑張ったのかしらね……オボロ様のためとは言え……)
目を輝かせ隊列を色んな方向から見るアミュは
「すごぉい!メルみたいのがが沢山だぁ!アミュだよ!みんなよろしくね!」
腰に手を添え何か得意気なメル。圧倒されつつもオボロは
(マスターとしてしっかりしないと!)
「みんなメルの指示に従って日々励んで欲しい!あ!それと、きちんと睡眠をとること!」
なぜ睡眠か。メル達ホムンクルスは睡眠という考えは無いらしく常に活動する。その事をメルから聞いたオボロは人間同様、休憩と睡眠の概念を教えていた。
煌めき半透明の羽でオボロの目の前に行くメルは
「ちゃーんと交替制にしてるから安心して!マスター!」
もらった焼き菓子を全員で分け、オボロの事故など無かったかのように楽しく時を過ごした。ホムンクルス達の踊りに合わせてアミュも踊る、メルとホノカのいつもの漫才のようなやりとり。オボロの隣に座るクロネも
(たまにはこう言うのも、悪くはないわね)
━━夜中
寝相の悪いオボロの周りにはメル、ホノカ、ミナモが寄り添うように共に寝ている。クロネ、アミュはそれぞれのベッドで眠る。数体のホムンクルスが屋内を見張りのように徘徊している。
むくりと起き窓際へ行くメルは、夜の町並みを眺める……。
(メルか……)
目が覚めてしまい薄目状態のオボロ。思う事はやはりエレナータ。右目尻の小さなほくろ、あの広角を上げる笑顔、雰囲気全体がマキに酷似してる事を。そこを意識してしまい、うろたえる自分……そして確認したいが、言い出せない自分……。なんともみっともないと思うオボロ。
(そうだ!何か贈り物をしよう!)
『メル!起きてるよな』
ブレインマウスで言葉を送るオボロ。窓際から動かず体の方向を変えメル
『起きてるよぉ。なぁにマスター?内緒話?』
ニタニタしてるメル。
『あぁ!内緒話だ。メルに至急頼みたいことがある』
『なになに?何だろう?』
『……エレナータさんに何か贈り物をしたいんだが━━』
両手を口に当てメル
『きゃー!どうしたの?マスター?何か失礼な事でもしたの?そ・れ・と・もぉ……』
それ以上は言わず声を抑えるように笑うメル。茶化されることは予想していオボロは冷静に
『こんな獣人でも、恐れず接してくれた事が嬉しくてね。それで感謝の気持ちを何か形にと……』
本音は隠したオボロ。枕元まで移動するメルは
『任せてマスター!』
ブレインマウスで何を送れば良いか話し合ったオボロとメル。
翌日━━
昼前に起き出したオボロ達は、ギルド長室に居た。
捻挫をしているトスクールは椅子に座ったまま
「なるほど……崩壊した橋の建設と周囲の整備がしたいと……」
転生前のオボロは建設会社に務めていて現場監督として、その経験と知識を発揮したいと考えていた。
「ぜひ町長のギラクさんと話し合って、前向きに検討して欲しいです!」
「私だけで判断する訳には行きません。ギラクに話してみますよ」
深く頭を下げるオボロ。
「ありがとうございます!」
ギルドを後にするオボロ達。
夕方━━
豪華な馬車が噴水広場を通り町長の館へ入って行った。町民達は高貴な身分の人が訪れたと、良いも悪いも話題になる。豪華な馬車と同時に川の状況を確認しに行ったオーノル、スコット他数名も帰還。彼らは報告のためギルドへ。
ギラクの館へ招かれるエレナータ達。
(話には聞いてましたがエービーの襲撃……復興がまだまだのようですね)
馬車から町並みを見ていたエレナータは館に入る前に町並みを見るため振り返り、そして悲しむ。
ギラクは、エレナータに本来ならいつも泊まっている宿の予定だが、家が倒壊した町民達を一時的に住まわせていると伝え、今回の滞在は自分の館に宿泊して欲しいことを願い出た。自分の領地ではないが交流のある町、それに家族との思い出のフルーツタルトがある町。もちろん快諾したエレナータ。
(貴族として、一人の人間として、何かやらねばなりませんね)
固く誓うエレナータ。
そして翌日━━
エレナータは町の視察をしていた。案内にギラク、ミティーラ、護衛にジルファス。本来であれば町民と楽しく触れ合うのだが……完全に復旧していない町並みを見るばかり……。穴の空いた屋根や壁、陥没した路地……。唯一見られそうな所は、噴水広場周辺くらい。エレナータは視察しながらギラクに相談する。
「ギラクさん、噴水広場に町民達を集められますでしょうか?訪れた挨拶をしたいと考えておりますの」
ギラクの指示で近くの町民が急ぎ櫓に登り……
カーン……カーン……カーン……
時間を知らせる鐘とは違う音が町全体に響き渡る!この鳴り方は何か重大な事を知らせる鐘の音。町民達が多方面から噴水広場周辺へ集まりだす。鐘の音の意味を教えてもらったオボロ達も移動した。
町長館前に豪華な馬車……その上には━━
着飾ったエレナータが背筋を伸ばし、凛と立つ!その少し後ろには護衛としてジルファスが控え目に立っていた。
ざわつく町民達……。
オボロは馬車の上に凛と立つエレナータに魅入っていた。
広場のざわつきを制するギラクとトスクール。
形式的な挨拶から始まり、訪問の目的、町の状況を悲しむ言葉……。普段高貴な身分など接する機会などない町民達は次第に聞き入っていた。
「━━皆さんもご存知の通り橋は崩壊していました。幸運なのでしょうか私達は少数の有志により今日スーデルへ来られました!私達を助けてくれた方々!この場を借りて、厚くお礼を申し上げます!」
直角になるほど頭を下げ、しばらくそのままのエレナータは、綺麗に表を上げた!
そのお辞儀の所作……転生前では何度も見てきたマキに酷似してて懐かしくも切なく感じたオボロ。
「……これは我が父であり領主からです」
と、後方のジルファスが小箱の蓋を開け皆に見えるようにした。そこには金貨がびっしりと入っていた。
「こちらを町と橋の復旧のためにお使い下さい」
どよめく町民達!
さらにエレナータは、自ら身に着けているネックレスや指輪、貴金属をその場で外し━━
「これは……私個人としてです!」
と、用意していた皮袋へ丁寧に収めた。見るからに高価そうな貴金属!売ればどれ程の値がつくのか……。エレナータの覚悟が垣間見えた行動であった。挨拶と言うよりもパフォーマンスとも感じたオボロはエレナータの凛とした態度と民を思う心に感銘を受けた。
(こう言う人が上に立てば良いのにな……)
「アルス領とスーデルの未来に繁栄あれ!」
最後、高らかに宣言し護衛兵やジルファスに支えられながら馬車を降りたエレナータ。
「……役に立ちましたね」
ジルファスは馬車の座席の下に非常時の金貨が隠されていたのは知っていた。対盗賊用の金貨なのだが、こう言う使い方をするとは考えてもいなかった。
「お父様には、きちんと説明しなくてはですね」
と、ジルファスに目配せしたエレナータ。
(しっかり伝えて来るのですよ)
挨拶も終わり噴水広場から町民が去って行く……。オボロ達も宿屋へ戻ろうとしていた。
と、息を荒げ小走りなジルファス━━
「やい!オンボロ!」
また名前間違えられたと思いながらも振り向いてしまうオボロ、そしてクロネとアミュは警戒気味。よほどジルファスに良い感情が無いようだ。
「あぁ……なんだ……その……」
(なんだ?じれったいなぁ)
「今夜、お嬢がお前らをパーティーに招待したいそうだ!」
━━!
「俺達……を?」
エレナータの頼みとは言え、妙にオボロにライバル心を出すジルファスはもどかしくも
「そ、そうだよ!」
オボロは突然の誘いに一瞬躊躇してしまったが、きっと自分達へのお礼だろうと考え招待を受けることに。
「夜の鐘がなる頃に町長の館で!」
と言い残し走り去るジルファス。




