第6幕〜大迷宮脱出
━━ゼクセン大迷宮内
「この迷宮から脱出する」
という最終試験が終わろうとしていた。意識が朦朧とする中ナナはぺたりと座り込み視界もぼやけている……。
(何があったの?魔力のほとんどが吸い取られた感覚……)
「━━!先生?」
目を擦りながら、魔石ゼクセンを呼び探す……。
━━!
少し先に粉々になった黒い魔石……。
その欠片を握りしめるナナ。
「私……先生に……大魔導士ゼクセンに、勝てた……の?」
短くも濃密な時をゼクセンと過ごしたと感じたナナは、その記憶を辿り……涙する……。
「うぅ……先生……ぐすん……」
と、頭の中に声が響く━━
『……扉の先……魔法陣……入れ……』
「はっ!先生?先生!」
魔石の欠片を握りしめ答えるナナ!
『扉の……先……魔法陣……へ』
脳内へ繰り返されるゼクセンの言葉……。
ゴゴゴ……ンゴゴゴゴォォ!
天井、壁、至る所に亀裂が走り迷宮が崩れ始めた!
黒い魔石の破片を握りしめたまま、立ち上がりそして振り返り━━扉を開けるナナ!
その奥には━━!
人が数人入れるくらいの赤く光る魔法陣が!
扉の向こうで地鳴りや崩壊して行く音!
体を丸ませながら魔法陣の中心へ!
━━!
魔法陣が光の柱となり、宙を舞いそのまま消えて行くナナ!
(これで……脱出、なの?)
━━どこかの室内
光の柱が消え、目を開けたナナ……。
岩に囲まれた洞窟のような広い空間……。
下を見ると魔法陣らしき紋様が!しかし輝きは……無い。
岩に手を当てながら進むナナ。
階段を登り、朽ち果てそうな扉を開けた。
ギギィ……。
埃っぽい……小窓が3つ、中央には古い箱が置かれたテーブル、壁にはびっしりと本が詰まった本棚……。どれも古さを感じ取れた。
誰も居ないはずなのに……揺りかごのような椅子が、揺れている……。
キィィ……キィィ……。
ゴクリ!
思わず唾を飲むこむナナ。
「誰も……居ないよね?……ハハ……」
異世界へやっと来られ、はしゃぎたいはずなのに萎縮しているナナ。
(……誰も居ないのは……寂しいし……心細い)
部屋を一周するナナ……。
揺りかごの椅子は止まっていた……。
長く使われてなかったのか、やはり埃っぽい……。
部屋の隅でうずくまってしまうナナ……。手の中には黒い魔石の欠片……。
(……先生?……一人じゃ……何も出来ないじゃん……なんか勝手すぎるよ……)
キィィ……キィィ……。
揺りかごの椅子が再び揺れた!
「ひぃぃっ!」
思わず悲鳴を上げてしまう!
……
━━!
良く見ると揺れている椅子に……ぼんやりと輪郭が透けて見えた!
(ゆ、幽霊ってやつ?)
身震いしてしまうナナ!
魔石の欠片が鈍く光るのが見えたナナは手を広げた!ゆっくり宙を舞い……揺れている椅子に座っているであろう透けた輪郭の中へ侵入していった!
━━「バシュッ!」
カメラのフラッシュのような突然の光!反射的に両目を閉じ腕で隠すナナ!
……
……
「うーむ……やっと出られたわい……懐かしい景色じゃて……」
聞き慣れた声が!
ゆっくり目を開けると━━
黒い魔石の欠片がふわり浮いていた!
「先生!先生ぇぇー!」
テーブルに両手を音が鳴るほど叩き、魔石片に顔を寄せたナナ!
「おぉ、無事に脱出出来たのようじゃの」
魔石の欠片を捕まえようとするが、ひらりかわし部屋中を逃げる魔石のゼクセン、それを追いかけるナナ。居るなら返事くらいしてよとか、一人で心細かったなど愚痴をこぼす。ピタッと止まり、ナナを落ち着かせるゼクセンはテーブルに置かれた箱をコツンコツンと突いた。
「まぁ脱出出来たご褒美、じゃて」
埃っぽい箱を持ち上げ外見を眺めるナナは箱を開けてみた。
━━!
「何も……入ってないじゃーん!先生の嘘つきぃ!何がご褒美じゃて、よ!」
ぷんぷんするナナ。
ゼクセンは天井近くまで浮かび言い放つ!
「わしの固有魔法、D=D……の劣化版」
劣化版の所だけ、ボソボソ話す。
「そ、そうなの?」
「うむ!物資であれば箱の中の空間へ収納可能、出し入れも可能じゃて!」
得意気なゼクセンに対しいまいち理解していないナナは、きょとんとしていた。
箱を覗き込む魔石片のゼクセン……。
(わしの魔力は空っぽ、か)
「魔法陣を2つ重ね、それぞれを違う方向にゆっくり回転させとくれ。お主なら出来るはずじゃて!」
頷き、実行してみるナナ。
2種類の魔法陣を言われた通り回転させてみる……。
魔法陣の中央の紋様だけが変化する!
「何これ?先生何これ?」
「その木箱の近くで魔力を送って欲しいんじゃ」
「や、やってみる!」
ゆっくり木箱へ魔法陣を近づける━━!
「んあっ!ぁぁあ!」
ナナのうめき声!
魔法陣の中央から木箱へ魔力が注がれていた!
「こ、これ……魔力吸われてるの?」
「いんや……逆じゃて。その魔法陣からお主の魔力を分け与えるイメージじゃて」
……
「うむ!もうええぞ!」
息切れ気味なナナ。
木箱の中には虹彩が蠢いている。
「さすが我が弟子じゃて!D=D劣化版復活!」
ゼクセンは中に生前、金貨や宝石、生活雑貨など保管してあることを話してくれた。
恐る恐る手を忍ばせ……くじ引きのように虹彩の中を弄るナナ。何かを掴み手を出すと━━!
金貨や銀貨、そして高そうな貴金属!
「おぉ!……先生ってお金持ち?」
驚き、ニヤけるナナに、ゼクセンは
「備えあれば憂い無し、じゃ」
嬉しそうに首を縦に振るナナは、出し入れを不思議そうに、また楽しそうにしていた。そして━━
ナナがつぶやくように━━
「ねぇ先生?……私……どうやって魔石の先生を倒したの?……私あまり覚えてないんだ……」
「そうか……ではどこまでなら覚えておる?」
……
思い出しながら話すナナ
「んー先生の氷の魔法で身動き取れなくなって……先生からバチバチ火花みたいなのが出てきて……意識がぼぉってなっちゃって……そしたら、粉々の魔石の先生が床に……」
(あの魔法……いや魔力は無意識または無自覚で発動したんじゃろか?)
「お主の背後から、羽の有る女神像のようなのが現れてな……そやつに動きを封じられての……その後お主の足元から黒い人影で現れ……真上から拳で思い切り粉砕されたのじゃて……」
金貨を見つめいじりながらナナは、聞き流すように返事をした……。
(やっぱりあれは私の魔法だったのか……先生が覚えててくれて良かった)
ようやくゼクセンの方を向き笑顔でナナ。
「教えてくれてありがとう!先生!」
木箱をまた見るナナ……
「D=DのDって……ドアなんだよね?」
「ん?そうじゃが?」
ニヤニヤしながらナナ。
「どう見てもぉ……ドアって感じじゃないよねぇ?先生ぇ」
「━━はっ!た、確かに……」
木箱を両手で持ちナナが言う
「じゃあ……ドアじゃなくて……ボックスだよ!」
「D=B」
どうだと言わんばかりなナナの態度にゼクセンは
「わしはドアだろうがボックスだろうが……何でも良い……好きに呼ぶがええ」
「えっへへ!そうさせてもらう!」
何だか嬉しそうなナナであった。
ストーン!コロコロ……
━━先ほどまで浮いていた魔石片のゼクセンが床に落下!
弱々しい声でゼクセン
「す、すまぬ……どうやらこの魔石片……魔力が枯渇しておる……魔力を……補充……して……く、れ……」
「えぇー!せ、先生もなの?」
右往左往してしまうナナは、気を取り直し、魔石片を両手に乗せ、自分の魔力を送った。
重なる魔法陣からナナの魔力が注がれる。
ほんのり光る魔石片……。
ふわぁ……。
「まさかこの魔石片まで充電式だとは思わんかった!助かったわい!」
……
「私……まだ一人じゃ心細いんだよ……ほんとだよ……先生の……バカ!もう驚かさないでよね!」
と言い放ち、そっぽを向くナナの表情は安堵と不安が入り混じっていた。




