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第6幕〜帰還

 

 川より少し離れた場所━━


 ジルファスや護衛兵が荷造りする中、オーノルとエレナータが談話している。オボロはクロネ、アミュを離れた所で待機させて皆の所へ向かう。足音に気付き振り返るエレナータが声をかけようとすると━━


 ━━それよりも真っ先にオーノルが話しかけた!


「おぉ!生還出来たんだなオボロさぁん!」


 泣きそうであった。元気アピールをするオボロはエレナータ達との経緯を話し、護衛と道案内がてらスーデルまで一緒に行動して欲しいことをお願いし、快く応じてくれたオーノル。そんな二人の会話もしっかり聞き逃さないエレナータは、彼の言葉遣いや立ち居振る舞いに視線を預けてしまっていた。そんな視線を怪しいと勘ぐるジルファス。オーノルから、スコットに声をかけて欲しいと言われたので休んでいるスコットの所へ向かうオボロ。


 ……


 長い草陰の先にスコットは丸太に腰掛け地面を見つめていた……。


 近づくオボロに気付き目が合う……。


「……無事に生還したから……気を落とさないで欲しい、かな」


 気遣うオボロに、枝を地面にトントン軽く突き刺すスコット……。


「……俺はよ……皆に合わす顔なんてねぇよ!俺だけ生きていたんじゃ意味がない……ほんと情けない奴だよって……」


 地面が涙で湿って行く……。

 涙でぐしゃぐしゃな顔を上げ、膝立ちで移動しオボロにすがるスコット


「だすげでぐれで……ありがどぉぉう!オボロざぁーん!生ぎででぐれで……よがっだよぉぉ!」


 気持ちは受け取ったオボロは、スコットの頭を軽く触れ


「町の皆も心配してるだろうから……とりあえず戻ろう!クルミちゃんも待ってるだろ?」


「ううぅ!ぐず!」


 鼻水混じりな返事のスコット。


 そしてオボロはクロネとアミュの所へ戻ろうとするとエレナータが声をかけてきた。


「あっあの!オボロさん!何度も私達を助けていただきありがとうございます。町へ着きましたら改めてお礼を申し上げに伺います」


 深くお辞儀をし、ジルファスの方へ戻って行った。途中何度も振り向き笑顔を送りながら……。

 その笑顔は……オボロが転生前の妻、マキに酷似していて脳裏から離れなかった。


(ほんと……似ているマキちゃんに……)


 ちなみに、クロネもエレナータと同様に遠巻きながらもオボロの行動を目で追っていた……。


 アミュはオボロに駆け寄り手を取りクロネの所まで引っ張っていく。幼女体型ながらぐいぐいと力強く。


「オボロ様、あちらの話はまとまりまして?」


 少し小声で話すクロネに、問題無いことを告げるオボロ。


 大きく背伸びしオボロ


「んじゃ俺達も戻ろっか!無事な事を少しでも早くさ」


 歩き出すオボロの前に魔獣化し態勢を落としクロネが陣取る!


(黒鳥のしきたりなんて……もう知りませんわ!)


「急ぐのであれば……どうぞ私の背中に!」


「え?でも……認めたオスしか乗せないって言ってなかったっけ?」


 目を丸くし確認するオボロにクロネは


「……今までオボロ様と共に行動をした結果!……それと血の盟約の効果、とでも言いましょうか……覚悟は決めておりますわ!」


 いつでも背に乗れるよう低い姿勢を保ちつつ決意を口にしたクロネ。


 ぴょん!


 アミュが先に乗ってしまった!


「ほらお兄ちゃんっ!」


 両手を広げている。


(以前に乗りたいと言った時は頑なに黒鳥のしきたりでとかで拒否していたのに……気持ちの変化なのかな……)


「わかった!クロネ頼むぞ!」


 アミュの手を取り、クロネの背に乗るオボロ。


「では参ります!」


 鉤爪で地面を蹴り、大きく羽ばたくクロネ!ゆっくり旋回しながら高度を上げ、オーノル達の上空を通過しスーデルへ向けて飛んで行った!


 地上ではまだ荷造りしていたオーノル達。上空を旋回するクロネに気付き手を振ってくれた。もちろんエレナータも手を振りながら、憧れの眼差しで。


 ジルファスがこっそり近付き


「あの……お嬢?まさかとはぁ思いますがぁ……アレに乗りたい、とか考えてないですよねぇ?」


 飛んで行くクロネを見つめエレナータ


「誰だってあんな自由な姿は憧れませんか?ジルファス」


 笑顔で答えた。



 ━━上空


 オボロがアミュを前に抱え込むように黒鳥クロネの背に乗る。人差し指をピンと伸ばし、独り言かオボロに教えるかのように目に入るものを言い当てるアミュ。


「草原!山!あっちにも山!クロネちゃんよりも小さい鳥!猪の親子!」


(はしゃぎすぎだろ?アミュよ)


 とは思いつつ、「自分に子供が居たら」と考えると……ニヤニヤしてしまっていた━━!


(ん?頭痛!……子供?……あれ……俺、マキちゃんと結婚して……子供って居たっけ?……飼い猫のきぬは居たよな……)


 片手で頭を押さえ頭痛を堪えたオボロ!


「わぁー!あの雲ってお菓子みたいっ!クロネちゃん!あの雲の中に突入してっ!」


 喜びはしゃぐアミュの口から無意識に牙が出ていた。


「クロネちゃんっ!クロネちゃんっ!」


 小さな手でぺちぺち首元を叩くアミュ!


 クロネはそれどころではなかった!普段は絶妙な距離感でオボロの隣や後ろに居て、触れる機会など数えるほど。だが今は自分の背にオボロが座り、密着状態!抑えきれない優越感に心酔し飛んでいた。


(背中にオボロ様の感触がぁぁぁ!)


 と、アミュの声にようやく気付き……


「ふぅ……全くアミュは……しっかり掴まってなさいよ!」


 渋々高度を上げ真っ白な雲海へ突入して行く。


「あーんっ!あんんんっ!」


 大きな口を開け雲を食べようとしているアミュ。後ろでアミュを抱えるオボロは、純粋な好奇心を微笑ましく見守る。


 雲海の隙間から見え隠れする青空、光注ぐ陽射し……どれも幻想的に映る。転生前の青葉爽太だったころは飛行機は一度も乗ったことが無かったため、オボロも少し興奮気味。


 雲海を突き進む景色がどれも同じように見えて来た頃、それは突然訪れた━━!


【願いの首輪】が鈍く光る!


 一本の糸がぷつりと切れるかのように━━オボロの意識が飛び……クロネの背から落ちて行く!


 オボロの感触が無いことに即座に気付くクロネ!下を見れば、雲海の中に吸い込まれるように落下しているオボロ!


 ━━!


 さらにはるか遠方から爆発的な魔力を一瞬感じとったクロネは急降下する!


「アミュ!糸でお願い!」


 落下するオボロを補足し魔操撚糸でオボロを絡めとるアミュ!


 速度が落ちないクロネは急降下のまま!


 雲海を抜け、地上が目の前に!


 咄嗟に地面に向けてエアショットを放ち速度を和らげ━━オボロ、アミュを乗せたまま地面を削りながらも着地!


「━━オボロ様は無事?」


 即座に自分の事よりもオボロを気にかけるクロネにアミュは


「呼吸はしてるみたいだけど……寝てるのかな?」


 人型へ戻るクロネは心音を聞く。一定で聞こえる心音。


 オボロをお姫様抱っこし、その場から見えた川辺移動するクロネ。


(本当は私がこのようにしてもらいたいのに……)


 良からぬ願望を思うクロネであった。


 ━━渓流の流れる音……。


 小さなうめき声を漏らしながら目が覚めたオボロの視界には━━


 澄んだ青空が下半分、上半分は弾力有りそうな黒い影!


(ん?仰向け?後頭部が柔らかい……)


「目が覚めましたね!オボロ様」


 上から覗き込むクロネの微笑み!


(んにゃ!……膝枕?)


 起き上がろうとするオボロは両脇を羽で抑えられ、クロネは離れたくない気持ちからか


「駄目です!まだ起き上がるのは……駄目です!」


 と、アミュが狩りから戻り網を広げ獲物を自慢する。


「お兄ちゃん……これ食べて元気出そう!」


「ありがとう……アミュ」


 D=D(ディメンション=ドア)を出そうとするが、いつもみたいにすんなり出せない!


「ぐむむむぅ!」


 魔力を絞り出すようしてやっと発動したD=Dは普段のより一回り小さかった。

 扉が開き、虹彩流れる空間からはミナモが慌てて飛んでくる!


「メル倒れた、体調不良……今は休んでる」


「オボロ様の意識が無かった事と関係が?」


「……あるかも……」


 膝枕されているオボロの周りを飛びミナモは、魔力薬丸を出し口へ落とした


「マスター、魔力切れ」


 何があったか質問するミナモ。ゆっくり起き上がり思い出すように話すオボロ。クロネは隣で支えるように座る。

 雲海の景色を眺めているうちには、体が硬直し、力が抜けて意識が遠のいて……気がついたらこの状態と。頷くミナモも、メルが突然倒れ、同じような事を口走っていたと。


「不思議なこともあるものね……」


 ぽつりと口にするクロネ。


 オボロの周りには数体のホムンクルス達が心配そうに浮いていた。


「大丈夫だから……ありがとうみんな」


 優しく声をかけた。


 アミュとホノカがこんがり焼けた肉を持って来る。笑いながら肉を食べるオボロを横目で見るクロネはふと思う。


(一瞬でしたが……先ほどの爆発的な魔力……何か関係あるのかしら?)


 日の出前に再度飛び立ったオボロ達はスーデルの町の近くに居た。黒鳥のまま町へ侵入すれば驚かれるため、徒歩で町まで行くことに。メルも体調は回復し、何だったのだろうねと話ししていた。



 ━━スーデルの町・ギルド


 町のあちこちで、エービー襲撃の片付けや復旧が進んでいる。広場は露店が営業再開し賑わいもある。オボロ達を心配し声をかけてくれる町の人々。一行は報告の為にギルドへ向かう。


 何事も無かったのように受付のミティーラからギルド長室へ通された。

 椅子に座るギルド長トスクール。脇には松葉杖らしき物もあった。


「……生還出来たようで安心しましたよオボロさん。あぁ、ちょっと捻挫してしまいましてね……お気になさらず」


 ちょっと弱々しい口調。

 オボロは、報告する。

 流された先で一命をとりとめ、途中アルス領主の娘のエレナータ達と知り合い、目的地がスーデルだったため、オーノル達に同行と道案内をさせ明後日には到着すること。そして、死人は無く怪我人が数名いる事と。


 静かに報告を聞くトスクール。


「あの脳天気は……いや、スコットは助かったのですね……」


 オボロは黙って頷く。


 ━━━


 エレナータ達はこまめに休憩を取りつつスーデルへ向かっていた。


 休憩中のスコットやオーノルの雑談でオボロの話題になると、目を輝かせ聞き入るエレナータ。ジルファスも妙なライバル心か耳がひょこひょこ動いてしまう。ギルドでの獣の駆除やエービー襲撃での活躍。その雑談の中で、オボロはザザ村の出身と言う事を知るエレナータとジルファス。


(ザザ村って……確かマーマンの村だろ?何で猿達と共存なんてしてるんだ?そもそも、あのオンボロ達全く種族違うだろ?)


 色々と疑問が湧いてくるジルファスに対し、エレナータは嬉しそうにそして憧れるように話を聞いていた。



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