第6幕〜合流
ブレインマウスでオボロ
『馬車が着いたから、川岸まで行くよ!クロネ、アミュ』
『……すでに確認してますわ……』
『……アミュ、も……』
返答の声のトーンが低いなと感じたオボロ……。
はにかみながらエレナータに手を引かれ馬車を降りてくるオボロ。本来のマナーであれば男性が手を引くのだが……。
「も、もう大丈夫ですよ……エレナータ……さん」
まだ緊張が解けぬオボロ。
エレナータは微笑みながら
「川向こうにお連れの方がいらっしゃるので?」
まだ軽く手を触れたままオボロ。
「少し先へ行けば、見えるかと……」
━━!
アミュを抱き水面ギリギリで猛烈なスピードで飛んで来るクロネ!飛沫が飛び……虹がかかる!
「アミュ!行きなさい!」
雑にアミュを投げるクロネ!
「わかった!クロネちゃんっ!」
しゅるしゅるしゅるしゅる!
アミュの指先からの半透明な糸がオボロを絡め取り━━!
「お兄ちゃんはっ!渡さないよっ!」
エレナータの手から離れ、アミュの方へ引き寄せられ後方へ転がってしまうオボロ!
━━!
(はい?こんな手荒な再開なの?)
突然の出来事に戸惑うオボロは、アミュの糸に絡まり動きが取れない!
オボロから離れ威圧的に前に立つクロネとアミュ!
(人間と……獣人……それに……オボロ様を誘惑したメス)
(お兄ちゃんと手を繋ぐのは……アミュだけ!)
━━!
「お嬢ぉぉ!離れて!」
現れた女性二人に危険だと本能で感じ、盾のように立つジルファスは、無言の威圧にグッと堪える!エレナータは声をあげるジルファスに驚き尻もちをついてしまう!
(こ、こいつら……何者?やたら殺気があるんだが?オンボロの連れ……なのか?)
「……ご機嫌よう……狼の獣人さんそれと……人間様」
嫌味混じりで挨拶するクロネは目線と態度で威圧する。アミュも幼い顔ながらも、目を釣り上げ怒ってる表情へ変わっている。
「オボロ様を返してもらいましたわ!ここまで送ってもらい感謝いたしますわ!」
隣で首を縦に振るアミュ。
「それで……?そちらのメスがオボロ様を誘惑したのです?」
羽扇子を持つ手が強まる!
アミュも、腰にある撚糸輪に手を当てている!
「誘惑だぁ?お嬢がそんなことする訳ないだろっ!」
クロネの圧に負けぬよう答えるジルファス。
(誘惑って……よっぽどアンタの方が誘惑してるじゃねーか)
クロネの胸元が開き、太ももまで見えるチャイナドレスに目のやり場を困らせるジルファス。
「ちょっとボサボサな狼さん?どこを見てるのかしら?」
視線が気になり思わず口に出すクロネ。
と、目線をアミュの方へ向けるが━━!
口からキラリと牙を光らせ出しているアミュ!
(どっち見ても危ねえじゃねーか!)
「何も言って来ないのでしたら……」
羽扇子を前に出し魔法陣を展開したクロネ!
アミュの糸にぐるぐる巻きのオボロはやり取りを見ていた。明らかに感情が高ぶっているクロネとアミュ!なぜそうなのかはわからぬオボロは静観していたが……クロネが攻撃しそうなのを確認し━━
(アミュの糸って中々切れないじゃん!きっと声を上げても聞く耳ないだろうな……こんなので使いたく無いけど……)
集中するオボロ!
【血の盟約】
クロネの胸元、アミュの額に魔法陣が浮き出て来た!
━━!
羽扇子の先の魔法陣が消え、クロネもアミュも身体が震えている!
(ま、魔力が!)
(アミュ……動けないよ?)
急に殺気が消え、震えているクロネとアミュを不思議がるジルファス。
(なんだ?急に……)
スルスルとアミュの糸が解け、立ち上がりクロネとアミュの後ろへ行くオボロ……。
……
静かに怒るオボロ……。
ゆらゆらとオーラが無意識に漏れる……。
「こんなことで……使いたく無かったよ……」
目だけ動かすクロネとアミュ!
「……血の盟約……?」
「そうだよ……正解、クロネ!」
……
「本当は一度も使いたく無かったけど……」
……
オボロは、ジルファスに話をしてくるから待ってて欲しいと告げ、クロネ、アミュを連れ遠くへ歩って行った。
(あの二人……いや二匹がオンボロの連れだと?……お嬢連れて戻るか?)
悩むジルファスは怯える他の護衛、アースランナー、エレナータを確認する……エレナータは怯えつつも、馬車に手を掛け立ち上がって、唇を震わせ
「助かったの?ジルファス?何か恐ろしい雰囲気でしたが……」
「今の所は、ですかね……」
静かに告げるジルファス。
「私はオボロさんを信じて……待ちますわ」
顔を正し決意を現すエレナータ。そう言われては意見を変えないのを知っているジルファスは
「最悪、お嬢だけでも逃げて下さいよ」
アースランナーの頭を撫で安心させる。
━━馬車より離れた岩場
オボロの血の盟約により魔力を制御されたまま連れて来られたクロネとアミュ。
(これが血の盟約の能力?全く魔力が使えませんわ!)
クロネもアミュもオボロが血の盟約を使用したことに戸惑う。オーラが溢れ出ているオボロは静かに
「悪いな……こんなことで使いたく無かったよ……とりあえず俺の話を聞いてくれ」
ぺたりと胡座をかき、濁流に流された後の事を話すオボロ……。クロネもアミュも座り大人しく聞く。
かろうじて助かったこと、魔消石の地域を抜けメル達と合流し助けてくれたこと。あの人間達とは恵みの森の中にある湖で知り合った事。
「ちょっとあの狼獣人とやり合ってさ……宿蛇って獣が割り込んできて……二人で駆除して……スーデルの町に向かう途中だったからさ、同行したんだよ」
「お兄ちゃんっ!人助けしたんだね!凄い!」
何故か嬉しそうなアミュは、オボロの胡座の上にちょこんと座り安心している様子。
「……とにかくオボロ様が無事で私は安心しましたわ……それで……あの上品な女性は?」
勇気を出し聞き出すクロネ。
一瞬身体がビクッとなるオボロ!
(さすがにマキちゃんに似てるとか言えない!)
「あー……あのドレスの女性は……エレナータさんって言って貴族の娘さんなんだよぉ……なんか俺の話を聞きたいって言ってさぁ、色々経験した事を聞かせてたんだーよぉ」
動揺隠しつつ言い訳じみた感じで説明したオボロ。
クロネの目には薄く涙が溜まっている……。
「……私あのメスにオボロ様が誘惑されたのかと思いまして……その……自分を見失ってましたの……少しオボロ様のお顔が緩んでいたもので……」
さらに動揺するオボロ!
(いや誘惑は無いとしても……顔が緩んでいたのは……否めない!クロネは勘が鋭いな……)
「そう見えてしまったのは仕方無い!お、俺は獣人だぞ?に、人間の女性に誘惑なんてされてたまるか!」
強気で言ったものの、クロネの目には涙が光るのが見え、悲しませてしまったと感じた。
サッと立ち上がりクロネはオボロに背を向け黒く大きな羽を見せつけ
「オボロ様がそのように言うのなら……私は信用しますわ……あまり待たせても仕方ありません……行きましょう」
クロネは気丈に振る舞ってはいたが……羽と三つに割れた尾が寂しげであった……。
(……血の盟約なのかしら……納得してしまう自分がいますわ……)
そんな寂しげなクロネの背中と無邪気なアミュを見てオボロは━━
初めて二人に『嘘』をついてしまった事に気付いてしまった!
━━馬車付近
オボロ達が歩いて行った先をじっと見ているジルファス。エレナータは馬車の中へ避難している。
クロネを先頭に現れ、静かに頭を下げた。
「先ほどは失礼致しましたわ……オボロ様をここまで送って頂き感謝致します」
あまりの変わりように目を丸くするジルファスは
「まぁ……話がまとまったんなら良い。俺達はスーデルの町へ行きたいだけだから」
オボロのハーフパンツにしがみつくアミュはジルファスを無表情で見ている……。
(お兄ちゃんとは違う獣人さんだ……なんか目が怖いな……)
クロネはオボロの方へ振り向き、この者達を川向こうまで運べば良いのかと聞き、オボロは少し下手にお願いをした。
(さて運ぶとはいえ……仮設の橋を作るのも時間かかるし……)
川の緩急ある流れを見て思案するオボロはクロネとアミュを呼び、ヒソヒソ会話する。
「えっと、これから皆さんを運ぶのですが……決して驚かないで下さい」
皆に告げるオボロに不思議そうに返事をするエレナータ、ジルファス。
バサバサッ!
カチャカチャ!
━━クロネとアミュが魔獣化した!
「ヒッ!」
「んぐ!」
エレナータは口を両手で塞ぎ、ジルファスは声を押し殺した!
(黒い鳥もやばいが……あの巨大の蜘蛛の方が……やばい)
本能で感じ取るジルファス。
魔獣化したアミュはお尻から大きな巣を地面に張り、エレナータの乗った馬車を巣で包みあげ、クロネの鉤爪へ誘導する。馬車の窓から不安そうに見るエレナータ。
「少し揺れますが、ご安心を」
優しい目で伝えるオボロに安心したのか微笑み会釈したエレナータ。クロネに手を振り合図し、ゆっくりと浮上。
バサッバサッバサッ
巣に包まれた馬車が揺れながら川向こうへ飛んで行く。
……
「ん……えいっ!」
アミュのお尻からまたも巣が噴出され地面へ広がる。
「残りは相乗りで行くから」
と、ジルファスと他護衛、アースランナー達を巣の中央へ押し込むオボロ。
「やいオンボロ!なんか雑じゃねぇか?」
文句を言うジルファスにオボロ
「ん?クロネに何回も運ばせるのは可哀想。だから少し我慢して欲しい。……騎士様なら大丈夫だろ?」
含み笑いで答える。
と、クロネが戻り、巣に包まれるジルファス達……アースランナーの尻尾が護衛達に絡まり、ジルファスのボサボサの尻尾が護衛やアースランナーで潰れる。
「クロネは降ろしたら待ってて」
そう告げられ頷くクロネは、先ほどとは確実に違う飛び方で低空飛行で川面を飛んで行った!ジルファス達の悲鳴が遠くで聞こえる……。
残ったオボロとアミュ。
「じゃ……よろしくアミュ」
川向こうにあるロックピラーで作った石柱を確認し、こちらにも同様にロックピラーで石柱を作るアミュは、腹部を大きく膨らませ……糸を発射した。川面の上を勢い良く通過し……対岸の石柱に張り付かせた!
川を繋ぐ一本の太めな糸。
石柱上から張り具合を確認するオボロは満足そうにし、アミュの頭部を撫でた。
「お兄ちゃんっ!先に行くね」
と、アミュは八本の脚を器用に使い糸に捕まり背面を川面にしロープウェイのように滑らかに対岸へ行く。
対岸ではクロネが心配そうにしてた……。
(なるほど……アミュならではな渡り方ですわね……オボロ様は……どのように渡るのかしら?)
カサカサカサァ━━
トスン!
人型へなりクロネの隣に立つアミュ。上手く渡れたようでにこにこしている。
オボロは石柱の上で唸るように気張っているのが見えた。
(良し……大丈夫だ!落ちそうになればクロネもアミュも助けてくれる!)
一人では心細かったオボロはクロネとアミュの存在を頼もしく感じていた。
キュルキュルキュルキュル!
「行っけぇ━━!肉球脚星!」
脚の肉球をオーラで包み高速回転させ、糸の上をバランス取りながら走る!
「まっ!」
「おぉ?お兄ちゃん糸の上を滑ってるっ!」
驚くクロネ、アミュ。
多少バランス崩すも持ち直し渡り切るオボロは、体操選手の様に宙返りをしクロネとアミュの前へ降り立つ!
「よっと!……ふぅぅ……なんとか渡れた!」
黒い羽を広げオボロを包み込む様に抱きしめるクロネは
「お帰りなさい……オボロ様……」
「お、おぅ……ただいま」
照れながら答えるオボロ。
馬車の中からオボロをずっと目で追っていたエレナータがいた。
(なんて身のこなしなのでしょう!見ていて気分が良いですわ!それに……)
両手を胸にそっと合わせ……鳴り止まぬ鼓動を感じていたエレナータ。




