第6幕〜再開
目を手で隠しじっと待つエレナータ。
(あら?なんか甘い香りが!)
オボロから声をかけられ……両手を降ろし……ゆっくり目を開けると━━!
━━三匹の手のひらに乗せられそうな可愛らしい羽の生えた妖精が立っていた!
どの妖精も個性的な外見で羽の数、形……髪型、服装……どれも違い、目移りするほど魅入ってしまったエレナータ!
(湖で見たのと同じ!……信じられないわ!)
「とても……愛らしい妖精さん達!……私はエレナータ!はじめまして!」
前のめりで名を告げるエレナータ。
また悲鳴を上げられないか不安だったオボロはひとまず安堵し、次はメル達が何かしでかさないかも心配ではあるが、任せてとメルに言われた事を信じて見守る。
メルの両隣にホノカとミナモ……三匹同時に舞うそして声を揃えて━━!
「はじめまして!人間さん!私達の事が見えるのね!私はメル!こっちがホノカでこっちがミナモ!」
三匹手を繋いでゆっくり上げ、足を組み会釈した!
「エレナータ!よろしくね!」
三匹隊列を組み、エレナータの前をゆらゆらと飛ぶ!
━━オボロは驚いた!
普段とは全く雰囲気の違うメル達に!振る舞い方、話し方、顔の表情……全てが普段と違う!それに……三匹同時に話している事にも驚いていた!それに……可愛らしい!
(ホノカなんて内心嫌々だろうな……ミナモは慣れない笑顔振りまいてるし……メルはこの二人をどう説得したのだろうか?)
両方の手のひらを掲げ、周囲を飛ぶメル達を、嬉しそうな顔で楽しむエレナータ!
メル達が飛んだ後には、ほんのり甘い香り……。
(私……夢を見てるのかしら?)
エレナータの周りだけメルヘンチックな空間に変わっていた!
喜ぶエレナータを見てしまうオボロ。
(似てるなぁ……確証は無いけど……似ている)
メル達はエレナータの視線と追いかけっこをしているかのように飛び、そして愛らしく笑う!それに反応するようにエレナータも笑う!
馬車の外のジルファスは、エレナータの笑い声しか聞こえていない……。とにかく馬車の中が気になるジルファスは……殺気を漂わせていた。
(あのオンボロの野郎!お嬢に何かしたら……尻尾引っこ抜いてやろうか!)
エレナータの手のひらに自分から乗っかるメル。ホノカとミナモは後ろで静かに宙に立つ。その突然の行動に声を上げそうになるが、気を取り直しエレナータは手のひらのメルを全方位見てしまった。
(透き通る羽……!このサラサラで艶のある髪!貴族でも王宮でも中々居ないわよ!)
「はっ!じろじろ見てしまって……ごめんなさい!」
後ろに手を組み笑顔でメル
「全然平気だよ!エレナータ!」
目の前のメルの笑顔に圧倒されて、何か質問したかったが言えなくなってしまったエレナータ。
と、メルが話をはじめる!
「私達を見ても幸運は訪れないわ!それはきっと……恵みの森の湖の水が海神様の物だからよ!」
と、エレナータの前を隊列を組み数回飛び
「私達は戻るね!楽しかったよエレナータ!」
と、オボロの方へ飛んで行く。
「あっ!あの!メルちゃん達と……オボロさんとは……どのような関係なのでしょう?」
エレナータが質問した!
メル達は振り返り……声を揃えて
「私達のマスターよ」
きょとんとした顔でエレナータ
「マ、マスター?」
オボロの後ろへ隠れるメル達!
『マスター!そろそろ戻るよ!』
ブレインマウスで伝えたメルに、コクリと頷きオボロは
「えーとエレナータさん?そろそろメル達が帰るので……また目を閉じていて下さい」
目を両手で覆うエレナータ
(マスターって……オボロさんはどこかの偉い方なのでしょうか?)
エレナータに背を向けD=Dを出し静かに戻るメル達。
━━D=D内
キキィィ……バタン!
ドアが閉まるなりその場で胡座をかき背筋を伸ばすホノカ
「んあぁぁ!つっかれたぁ!あの外面……俺にはきついぜ!……てかミナモ!お前あんな笑顔出せんのかよ?」
澄ました顔でミナモ
「……外面大切……マスターに恥、かかせない」
「ふぅん……なるほどねぇ」
と、ストレス発散の超低温ファイアブレスを吐くホノカ。
「ホノカァ!ミナモォ!協力ありがとう!」
メルが飲み物を人数分持って来て配り、緊張の糸が解けたのか、ぺたりと座り込む。
「ミナモの海神様のアイデアは良かったよね!ありがとうミナモ!それと……ぷぷっ!ホノカも……あはっぷぷっ!協力ありがとう!」
お礼を伝えるメルにホノカは
「おぉーい!笑うなよっメル!」
膨れっ面をする。
お腹を抱えホノカを指差しメルは
「あはっあはっ!だって!全くの別人じゃん?ホノカ!私……笑いを堪えるの……ぷぷっ!必死だったんだからぁ!」
「……私も」
笑い転がるメル、ホノカを横目で見るミナモ。
サッと立ち上がりホノカ!
「だぁー!俺だって……頑張ったんだからな!マスターに後で褒めてもらう!」
と、ガッツポーズを決める。
しばらくD=D内での話題は、別人ホノカになりそうだ。
━━馬車の中
メル達が居なくなり……静かな馬車内……。
妖精の余韻を楽しんでいるエレナータの表情はえらくご機嫌そうに見えた。
オボロはカーテンを開け、外にいるジルファスに問題無いアピールをしておいた。
(王宮にある芸術品を見たようだわ)
一生に一度見られるか見られないかくらい、貴重な体験をさせてもらったとも感じていたエレナータは
「オボロさん!無理を言って妖精さん達に会わせてくれて感謝致します!素敵な体験させてもらいましたわ」
広角をゆっくり上げ、綺麗な笑顔をしていた。
(あぁ……そんなマキちゃんそっくりに微笑まないで欲しい!)
「あっ……いえ、とんでもない!エレ……ナータさんに喜んでもらえて……良かったです」
目線をキョロキョロさせながら答えるオボロ。
ゆっくり首を横に降るエレナータは
「他言無用の件、必ずお守り致しますわ!」
と、今度は凛々しい顔で話し、遠くを見つめ妖精の余韻に浸った。
その横顔をちらりと見るオボロ……
(マキちゃんって事を確認したいが……どう言えば……伝わるだろうか……)
中々踏ん切りがつかない。
と、メルからブレインマウスが━━!
『マスター!クロネとアミュと繋がったよ!ブレインマウスが飛んできた!』
思わず立ち上がるオボロ!
何事かと見るエレナータ!
「あっ……!な、何でもありません……」
ゆっくり座り直すオボロ。
「馬車の中って以外と窮屈ですものね……」
つぶやくエレナータ。
『で?こっちの状況は伝えた?クロネとアミュ心配してるよね?』
ブレインマウスで伝えるオボロ。
メル『橋が崩壊した方へ向かってるって伝えたし、二人とも……凄く心配してたみたい。ちゃんとマスターは生きてるって伝えといたから!』
オボロ『ありがとうメル!』
メル『それで、クロネ達も橋の崩壊現場へ向かってるって!近くになればマスターでもブレインマウス届くかもぉ』
(そうだな!今は俺の安否が伝えられれば良い)
橋の崩壊現場━━
崩壊現場より少し離れて野営している棟梁オーノルと数名の冒険者……それと助けられたグレードD冒険者スコット。
(━━眩しい!……俺……助かった?)
太陽の光が降り注ぐ中、静かに目を開けると、近くにオーノルが座ってた。
(俺を手当てしててくれたのか……)
目を覚ましたスコットに気付いたオーノルは手首を掴み、まだ安静にしてろと伝えた。スコットがオボロに助けられ、そのまま濁流に飲まれ流されてしまったこと、救援とクロネ達に連絡するためトスクールが直ぐに町へ戻った事……そして━━
「お前……一日以上は寝ていたぞ……」
「……オボロさんは?見つかったんだろ?……なぁ?見つかったんだよな?」
痛む身体を我慢し声を張るスコット!
……
悲しそうな顔で横に首を降るオーノル……。
握り拳をするスコット!
自分の愚かさ、不甲斐なさ……経験不足……沢山のマイナスな気持ちしか出て来ない……。
「くっ……俺だけ生きてて……オボロさんが居ないんじゃー……クロネさんやアミュちゃんに……会わせる顔がねぇよぉー!」
悔し泣きを流すスコット。
━━バッサバッサバッサ!
黒鳥のクロネ、糸でぶら下がる人型のアミュが現れた!
降り立つと同時に人型へ戻るクロネ。アミュは広く大きな川を背伸びして見ている。
静かにオーノルやスコットの居る所へ歩くクロネは……目を細め冷ややかな視線でかなりの威圧感……。右手には羽扇子を握っていた。
「皆さんご機嫌よう……」
言葉は丁寧だが……怒りを抑えたような言い方にスコット、オーノルは全く身動きが取れない!
「……助かって良かったですわね?スコットさん?」
何を言われ、何をされるか不安な二人……。
「今日は……あなた方の心配をしに来た訳ではなくてよ?」
冷や汗が垂れる二人……。
「ある方と待ち合わせなので……あなた方を構う暇がありませんの!」
羽を大きく広げ、サッと振り返りアミュの方へ歩いて行くクロネは、羽扇子が握り潰せそうなくらい力を入れ怒鳴りたい気持ちを我慢していた!
スコット、オーノル共に静かに息を吐く……。二人とも餌になる事を覚悟はしていたが、クロネの大人な対応に救われたと思った。
「クロネさん……俺達の事、許してる訳では……無いよな?」
小声でつぶやくスコット。
「大人の余裕か……相当我慢していたか……」
オーノルも小声で返した。
川岸━━
溢れ返った川の水量も戻りはじめ、水質はやや濁り気味。土砂や枝、大木、岩が散乱し景観としては良いとは言い切れない。両岸には少し泥濘んだ泥……。
お気に入りの赤い靴を汚したくないアミュはじっとしていた。その隣にクロネが立つ。
(アミュはあの人間達にもう怒りの感情は無くなったのかしら?)
「あっ!クロネちゃん!人間達に嫌がらせして来たの?」
「いいえ!私達の成すべき事をしに来ただけ、と伝えただけよ!」
(あぁ!オボロ様……!お身体は大丈夫でしょうか?……きっと毛艶も薄れ……ぐったりしていることでしょう!……早く会いたい……出来ることなら……直ぐに抱き締めてあげたいわ!)
クロネの心配と希望。
アミュはクロネを見上げ
「メルに着いたよってブレインマウスしといたっ!お兄ちゃんは元気だって!良かったねクロネちゃん!」
口から牙を出し、カチカチ鳴らし伝える。
その言葉に安心したクロネは、メル達にきちんと感謝しないといけないと感じていた。
『おーい!クロネェー、アミュゥー!もう着くぞ!』
━━オボロからブレインマウス!
『お兄ちゃんっ!アミュだよ!……アミュ!町で頑張ったんだよ?後で褒めてねっ!』
『あぁ!オボロ様、ご無事で何よりです!……凄く心配しましたわ……私が川を飛んで迎えに参りますわ!』
飛べる事を有利にしたクロネ!
……
『あっ!えーと……俺、だけじゃないんだよ、ね……』
申し訳なさそうに伝えるオボロ。
クロネもアミュも不思議がる。
━━!
と、川向こうにアースランナーが引く馬車と、数名の人影!
目を凝らし良く見るクロネ、アミュ。
(オボロ様……おりませんわ……)
(お兄ちゃんっ!どこ?)
馬車の扉が開く━━
一人のドレスを着た女性に手を引かれ━━
何か照れているオボロが出て来た!
━━!
「はぁぁぁ━━っ?」
……ペタリ!
オボロが見知らぬ女性と馬車から手を繋ぎ現れたショックで、静かに崩れたクロネ!
(ちょっと!何ですの?あの女性は!オボロ様!まさか浮気?それとも……愛人?)
クロネの妄想が広がってしまった!
アミュの顔からは笑顔が消え……呆然としていた。
(あれ?お兄ちゃんは……アミュの王子様だから……そこは手を引くの……アミュだよね?)
子供ながら焼きもちを覚えたアミュ。




