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第6幕〜オボロとエレナータ

 

 恵みの森の湖畔にて宿蛇を護衛の狼獣人と、それなりに共闘し駆除したオボロは、一人の簡素なドレスの女性に声をかけられた。


 その女性は妻のマキに似ている……。


 呼び止められ、背を向けたままで直立不動のオボロ!


(どうしよう……マキちゃんに似てるから……どうしても意識してしまう!)


 振り向かずに


「あっ!はい!何でありましょうか!」


 どこかの一等兵のような言い方のオボロ。


 その女性は振り返らないオボロのことは気にせず


「一言お礼だけでも言わせて下さい!」


(それくらいなら……良いか)


 ゆっくり振り返るオボロ━━


 ━━長く桜色の髪、風でなびいて右目尻の小さなほくろが見え隠れしている!


(……似ている!マキちゃんに……)


 背筋を伸ばしドレスの裾を少し上げ女性は


「大変申し遅れました。私はアルス伯爵領の娘、エレナータ=アルスと申します。此度は私達を助けていただき誠にありがとうございます!」


 裾を持つ手を胸の下あたりで合わせ……直角に頭を下げた!


 ……


 そしてサッと上体を戻し━━


 広角をゆっくり上げ美しい笑顔を見せた!


 その一連の流れを直視したオボロは重ねてしまった━━!


 ━━転生前のオボロ=青葉爽太がマキと高校の渡り廊下で初めて出逢った時、卒業式の後に手紙とアップルパイを渡された時のお辞儀……それからマキの告白の返答をした時に見せてくれたあの時の笑顔!普段は表情をあまり崩さないマキが広角をゆっくり上げて微笑むのが、爽太は気に入っていた!その微笑む顔が見たくて色々頑張った事もあった……。


(その微笑み方!右目尻の小さなほくろ!やはり似ている)


 そう考えてしまうと懐かしさ、嬉しさ、そして照れもあるオボロは……


「……エレ……ナータ……」


 小さく口にする。


「さ、さ、先程、湖ではぁ人が居るとはぁ知らずぅ……た、た、大変、しつっ、失礼、いた、致たしましたぁです!」


 動揺し裏声かつ、きちんと言えてないオボロ!


 口に軽く手を触れ微笑しエレナータ


「まぁ!そんなに緊張なさらなくても良いのですよ、猫の獣人さん!」


 両手を太もも脇にピタリと付けオボロ


「あっ!はい!その……宿蛇はきっちり駆除しましたので!」


 目線はエレナータでは無く……ジルファスの方を向いていた。


「あぁーん?お嬢がわざわざお礼言ってるんだから……見る方向違うだろ?……オボロさんよ?」


 少し上から目線なジルファス。


 と、軽く手を合わせエレナータ


「オボロ……と言うお名前なのですね」


 にこりと微笑むエレナータの目線はオボロに向けられている。その視線にそわそわしてしまうオボロ……。


(マキちゃんに見られているようだよ!)


「あの、オボロさん?私達はこれからスーデルの町へ向かうのですが……もし方向が同じなら途中まで馬車に乗って行きませんか?」


 お礼を続けるエレナータにジルファスは口をあんぐり開け


「お嬢?……そこまで親切にしなくても……」


 近寄り小声で訴える。


「━━ジルファス?父上から何を教わったのです?」


 強い口調で言い返すエレナータ!


「……な、何を、と言いましても……」


 咄嗟に言えないジルファス。


「助けてもらったら感謝を伝え、お礼する!それが他種族であっても!です!……全くジルファスは……まだまだですわ」


 ぷいっと顔を横にし臍を曲げるエレナータ。


「あっ!いや……それは……そうですが━━」


(なんかあいつには……負けたくない!)


 そんな気持ちが込み上げ


「━━お礼も言った事だし……そこまでしなくても良いかと……それに獣人ですよ?お嬢がいきなり襲われでもしたら……」


 まだ横を向きながらエレナータ


「ジルファス!私が決めた事ですの!これはアルス家の信用にも関わりますわ!」


 ピシャリと否すエレナータ!


「……わかりましたよ、お嬢……」


 しぶしぶ返事するジルファス。


 小声で話していてもオボロの聴覚では普通に聞こえていた……。


(言う時は言えるあの性格も……なんだか似てるなぁ)


 ━━!


(ん?確かスーデルの町へって言ってたな……川は通行出来ないはず!)


「あ!あのぉ……」


 手を挙げ話に入ろうとするオボロに、エレナータとジルファスは反応する。


「えーと……スーデルの町へ行く途中の川の橋が……崩壊してる事はご存知です?」


 ━━!


「まぁ?」

「はぁ?それは本当か?」


 エレナータ、ジルファス共に信じられないような顔で。


 オボロは自分が今ここに居る経緯を簡単に説明する……。


「うっ……うぅ……ぐすん」


 ハンカチを顔に当て静かに泣くエレナータ……。


(死を恐れず……濁流から人間を救い出すなんて……中々出来ませんわ……)


「そんな悲運に見舞われてもなお、私達を助けてくれただなんて……」


 腕を組みジルファス


(自然の猛威……か……厄介だな)


「お前がそういう経緯があったとは知らずに……無礼をして…その……すまなかった……」


 軽く頭を下げたジルファス。


 自分の話を真剣に聞き……涙まで流すエレナータと、マキを重ね合わせて見てしまうオボロ……。


(くっ!どうしても……マキちゃんと重なってしまう!)


 そう考えると……今にでも優しく抱き締めて落ち着かせてあげたいと言う衝動に駆られてしまう!


(マキちゃんが転生しているとは……確証が無い……)


 グッと堪えオボロは


「馬車での迂回は厳しいと思います……支流の方はいくつも浅瀬や悪路があります……」


 ……


「……だろうな!確か魔消石の多い地域だから……あまり通りたくは無い!」


 地面に胡座をかき話すジルファス。


 先程まで静かに泣いていたエレナータは淡い桜色のハンカチをしまい


「予定は変更出来ません!行ける所まで行きます!」


 強気な発言の裏には……ディオーレ王国の第一王子クランとの婚約発表の日にちに間に合うように戻らなくてはならないからであった!


 ゆっくり歩いてくるエレナータは━━軽くオボロの手を取り━━


「さぁ!馬車まで案内しますわ!」


 と、優雅に簡素なドレスを揺らし歩く。


 突然手を繋がれたオボロの心音は高鳴り━━!


(は?え?……いきなりですか?)


 かなり動揺していた!


 エレナータの積極的な行動に大声を出すジルファス!


「━━お嬢ぉぉ!手を握るなんて!なりませんよ!」


 叫んだ時にはもう遅かった……。


(お嬢のあんな積極的な行動は……子供の頃の初恋相手以来じゃねーのか?)


「……まさか?婚約前に……?」


 良からぬ憶測が過るジルファス!


 恵みの森・入り口付近━━


 馬車の中にはエレナータ……と、オボロが対角線で座っていた。

 オボロは護衛も兼ねて徒歩で移動するつもりだったが……エレナータの強い希望と、それに折れたジルファスが無理矢理馬車へ押し込んでしまった……。


 窓に張り付くように顔を近づけジルファス


「お嬢!何かされたら直ぐに大声を!」


 そしてオボロの方へ牙を剥き出しにし


「グルルゥ!やいっ!オンボロ!お嬢に手ぇ出したら……噛み千切るからなっ!」


 と、言い放ちアースランナーの手綱を握り進行方向を向いてしまった!


(……名前……言い間違えられたよな?……わざとか?)


 普段であればツッコミを入れたくなる状況ではあるが……オボロにとっては、マキに似ているエレナータと二人きりと言う状況の方で頭がいっぱいであった。


 アースランナーが引く馬車が動き出す……。馬車に舵取りの人間と、後方にアースランナーに乗った人間の護衛……馬車の脇にジルファス。出入口のドアのカーテンは……ジルファスから中が見られるよう開けられたままで……。


 膝をピタリと合わせ……その上に手で掴むようにし、顔をやや下にし座っているオボロ……。エレナータは普段通りなのか上品に座り……視線はオボロ。


 ガラガラ……ガランガラン……


 ザクッザクッ……ザクザク……


 馬車の車輪の音とアースランナーの歩く音……。


(何か会話をしないと!……何を話せば良いか……思いつかない!くっ……意識してまうと……こうも駄目になってしまうのか!頑張れ……俺!)


 自分で自分を励ますオボロ。


「ジルファスよりも強く見られましたが……何か特訓などされていたのでしょうか?」


 唐突に聞いてきたエレナータは微笑んでいる。


 直視出来ないオボロは、俯いたままで


「……自己流ですが……走り込みやオーラを使い身体訓練のような事は……していました……」


 その後もエレナータからの質問攻めが続き、可能な範囲で答え続けるオボロ……。時折エレナータの方を見るが……右目尻の小さなほくろが、マキと重なってしまい目も合わせられない……。


 エレナータは少し前のめりになり……


「そう言えば……湖で……オボロさんの周りにいた妖精さん達は……今頃どうしているのでしょう……」


 ━━!


(あー!やはり見られていたか!)


 前のめりのまま俯くオボロを覗き込むエレナータ


「オボロさんは気付いてらしたのかしら?貴方の周りを飛ぶ妖精さん達の事」


 ━━!


(ん?そうか!俺の、ではなく……湖に居る妖精だと思っているのか!)


 少し冷静になり聞いていたオボロは、肯定の相槌をしようとした━━が、エレナータが先に


「私の聞き違いではなければ……オボロさんと妖精さん達は楽しげに会話をしていたように思われたのですが……」


(先を越されたー!)


 膝を持つ手が強くなるオボロ!


(そこまで聞かれていたか……油断していたな……)


 今更後悔しているオボロ。


 姿勢を戻し窓から景色を眺め、恵みの森の妖精伝説を語り出す……。


(昔からあそこにはメルみたいのが居たのか……それに……見られたら幸運、か……)


 サッとオボロの方へ向きエレナータ


「そう!妖精さんを三体も見た私には……どんな幸運が待ってるのかしら!」


 まるで少女のように嬉しさを伝えた。


(……三体、ですとー!……メルにホノカにミナモ……バッチリ合ってるじゃないかー!)


 エレナータがマキに似ていること、メル達が見られてしまったことが合わさり、さらに動揺してしまうオボロは、全身の毛がゾワァと逆立つ!


 エレナータは、見た妖精達を思い出すかのように窓の景色を楽しそうに眺めはじめた。


(……なんだこの間は!……俺の返答を待っているのか?しかし、メル達を人前に出すのは……セリーヌさんからもきつく言われているし……)


 身動きせず、悩むオボロ……。


『ねぇマスター?話聞いてたけど……』


 と、メルからブレインマウス!


『あぁ聞いていのか……メル』


『魔消石の妨害も減ってきたし……途切れ途切れだけど……』


『どう答えようか……悩んでいるんだよ』


 助けを求めるオボロに対しメルは


『私は、その人なら別に姿見せても良いよ!ホノカもミナモも同じ意見なの』


 ━━!


(どういうことだ?)


『でもセリーヌさんとの約束が、さ』


 約束をなんとか守りたいオボロにメルは説得し始めた。

 メルは漠然と……その人なら姿を見せても良いと感じとったと。


(……漠然とって……?)


 はっきりしないメルの説明にどう答えて良いかと思案してしまうオボロに、景色を楽しげに眺めているエレナータの横顔が映り込む!


(この人の笑顔が、喜ぶ顔が見たい!)


 マキに似ている事が勝ってしまったオボロは


「あ……エレナータさん?」


 即座に反応しオボロを見るエレナータ!


「一つお約束して欲しい事が……」


 不思議そうな顔をするエレナータ。


「その……秘密厳守と……この馬車の中でのみ、と言うことで良いですか?」


 ゆっくり広角を上げ嬉しそうな表情のエレナータは━━


「もちろんですわ!」


 馬車の小窓を開けジルファスに━━


「ジルファス!私とオボロさんを信じて下さいね!」


 と、言い放ちカーテンをシャっと閉めてくれた!


 窓の外からはジルファスの慌てた声が聞こえる……。


「しばらく目を閉じて欲しいのです……合図したら目を開けて下さい」


 ゆっくり話すオボロ。

 それに従うエレナータ。


(なんかドキドキしてしまう……また妖精さんが見られると思うと!)


『じゃ、良いかい?メル、ホノカ、ミナモ』


『うん、良いよぉ』

『あっ……あぁ……大丈夫だぜ』

『問題、無い』


 三体とも返事をするが、ホノカだけいつもの勢いが無いように感じた。

 念の為……エレナータに背を向けるように座り直し……


 D=D(ディメンション=ドア)をお腹の前に出し、メル達を開放した!


 静かに飛ぶメル、ホノカ、ミナモは、エレナータの前の座席に立つ。


 ……!


(ん?何かみんないつもと雰囲気違うぞ?)


 メルは普段プライベートと作業のオンオフは激しい……そして今はホムンクルスのトップらしく背筋を伸ばし頼もしい雰囲気。

 ホノカにいたっては男勝りな仕草や態度だが、全くの別人と思うほどしおらしく振る舞っている。

 無表情が多いミナモだが……どことなく笑顔を出しているようにも感じた。


(なんだなんだ?雰囲気違くて……逆に不安だ……)


 と、大人しく立っているメルからブレインマウスが!


『ねぇマスター、とりあえず私達に任せてくれる?』


 何やら策があるような口ぶり……。


『……わかった……メル達を信じよう』


 オボロは小さく深呼吸し、決意を固め……


「お待たせしました。どうぞ目を開けて下さい」


 と、エレナータに告げた。



X→→@kuinagokyuu


登場キャラのイメージAIイラスト有ります。

今はまだメルのみですが、順次増やそうかと考え中。

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