第6幕〜ゼクセン大迷宮・①
青葉ナナ→青葉爽太と青葉マキの一人娘。事故で両親を無くし今は叔母の水嶋サキとその息子ダイキと飼い猫きぬ♀とその子供のおぼろ♂と暮らしている。
聞き覚えのある声に導かれガイアールへ転移してきた。
黒い魔石のゼクセン→大魔導士ゼクセンの蓄えた魔力で生きている魔石。口調は死ぬ間際の老人ふう。
自分の意思で赤く光る大きな魔法陣から一歩出たナナは深呼吸し、改めて室内を見渡す。黄土色の艶々の壁に青く光る線が流れている。黒い石のゼクセンの台座周りには広めな台が数個点在している……。
……扉と呼べる物が無い!
不安そうな表情へ変わるナナ!
「閉じ込められてる……の?」
台座から浮かび上がるゼクセン
「ここはわしが生涯をかけて作り上げた━━」
「ゼクセン大迷宮」
「沢山の冒険者や盗賊が有りもしない財宝を探しに訪れる……」
━━「はずじゃった!」
(……はず……だったんだ……)
少し笑いを堪えるナナ。
ゼクセンは大迷宮を作った経緯や身の上話を語りだした……。
人間なのに魔力量が多く、悪魔と罵られ、嫌われていた。魔力が最高潮だったころは、魔族と人間、獣人、一部のエルフやドワーフの連合の争いが各地で広がっていた。のんびり暮らしたいが、行く先々で争いが起こる。気がつけば当たり一面焼け野原……で記憶が無い!……自分が行く先々で同様な事が起こる……誰がそうしたのかやっと理解出来たゼクセン。
大陸中央の町に滞在している時、魔族と人間と獣人連合の大規模な争いが始まった……やはりここでも……大陸一部を破壊、消滅させるほどの魔法を放ち……そこに居た魔族も人間も獣人達も殺してしまった事。
「後日知ったのじゃが……わしがその大戦を終わらせたとか……世界を滅ぼそうとした奴だとか……噂されとった」
(この人もしかして凄い人?)
目を輝かせ話を聞くナナ。
その後は、人目を避けるようにひっそりと生活し、森の奥地に小屋を構え結界を張り日々を過ごす。そして有り余る魔力を活用し、生涯をかけてこの大迷宮を作り上げた。
「と、まぁわしはこんな感じじゃ……後は……見ての通りわしはすでに死んでおる……」
前のめりなナナは
「うんうん!見ればわかるよ!」
くるり一周する黒い石のゼクセン
「わしはこの魔石に自分の魔力を蓄えて死んだ後も、この大迷宮を見届けられるようにしといたんじゃ」
「おぉぉ!凄い凄い!ねぇねぇ!どんな魔法使ったの?でっかい火の玉とか?大きな竜巻とか?それとも……雷、沢山とか?」
嬉しそうに憧れるように思いつくままにまくし立てるナナ!
(な、なんじゃ?わしが恐くないのかのぉ?……人間も獣人も魔族も見境なく殺しておるのに……)
「すまんのぉ……その時どんな魔法使ったかは……覚えておらぬ……でも、当時はさっき見せた数十倍の魔法は放っておったぞ!」
少し自慢気に話すゼクセン。
大きく首を縦に振るナナはある疑問を抱き右手を上げた。
「はーい!ゼクセンはいったい何歳ですか?」
……
くるくる回転する黒い魔石のゼクセン
「んー死んでからは……ニ百年以上は経ってると思うのぉ……段々数えるのが億劫になっての……大迷宮の外はどうなっておるかは……知らぬ」
ナナは当たりを見渡し
「じゃー外に行こうよ!私もガイアールって世界、早く見てみたーい!」
と、好奇心優先になる。
ピタリと宙で止まる黒い魔石のゼクセン。
(……さすがに……わしの大失態を言う訳には……)
一つ咳払いし
「えーここを出るには……数々の試練を乗り越えた者のみ……扉が開かれる!」
「と、言うことで……」
後半は小声なゼクセン。
口元が緩み早口でナナ!
「もぉ!試練とか異世界の定番じゃない?大きなモンスター倒さないと駄目?それとも沢山モンスター倒さないと駄目?んんー!なんだろー!」
……
(えらく楽しそうじゃの?……試練とは言ってしまったが……何も考えておらんし、こやつの魔力量に期待しとる事は……否めないしのぉ……)
「試練の前に……少し魔法について覚えてもらわんとなぁ」
「やったぁー!魔法!魔法!」
両手を上げて喜ぶナナ!
「お主はガイアールの人間では無さそうだからの……一つ大魔導士ゼクセンの教えを受ける事も……試練じゃ」
と、ゼクセンは魔法でナナを巻いていた布をワンピースのように変化させ、床から机と椅子を出した!
「ほれ、まぁ座れ」
(凄い!あっという間にこんなのが!……服は少し微妙だけど……)
薄茶色単色のワンピースがお気に召さないナナは、とりあえず椅子へ座る。
(なんか学校みたい!)
ゼクセンは魔法について教えはじめた。
この世界で人間は魔法紙により契約、そして習得し、魔法陣を出現させ発動させる。初級、中級、上級……さらにはその上も。魔法陣の種類も多く、伸縮魔法陣、多重魔法陣、並列魔法陣、設置魔法陣、飛投魔法陣、転瞬魔法陣など。魔法の威力は込める魔力量や魔法陣の大きさで変化する。
(とりあえず基本的な所だけでええじゃろ)
説明しながら実演するゼクセン。
黒い魔石の前に魔法陣!それを広げたり狭めたり……。魔法陣を横や縦に何個も並べたり、何層にも重ねたり……。ナナの机に魔法陣を設置し、ファイアボールを打ち出したり、魔法陣を遠くに投げ……頃合いを見てアクアボールを放ったり……。最後に黄土色の室内の色んな場所に大小様々な魔法陣を出現させたり……。
ナナは首が疲れるほど、キョロキョロしながら、目を輝かせ見ていた!
(へぇー魔法ってそんな仕組みなんだぁ!魔法陣もなんか光って綺麗だし!)
ビシッと右手を上げナナ
「はい!先生!私にも魔法使えるようになりますか?」
思わずゼクセンのことを先生と呼んでしまい……照れてしまったナナ。
(学校みたいって思っちゃったから……思わず言っちゃったよぉ)
「……先生?……わしの事……先生?」
ほっぺを人差し指で描きながらナナ
「思わず言っちゃったの……学校の先生みたいだなって……あはは」
「まぁ何でも良いわ……。お主は魔力量がありそうじゃから……わしが教えれば使えるようになるじゃろ!」
━━!
机に両手を置きナナ!
「本当ぉぉ?やったぁー!良し!……が、頑張らないとぉ」
意気込むナナ!
と、黄土色のから引き出しが現れそこから数枚の魔法紙と針を机に置いた。
(ざっと見る限り……こやつの適応属性は全て……とりあえず習得かの)
ゼクセンはやり方を説明し、好きな魔法紙から契約するが良いと伝える。
(じ、自分でやるのかぁ!なんか……緊張!)
心音が高くなる……。
指に針を指し……ファイアボールの魔法紙の魔法陣へ血を垂らす……。
魔法陣が光り出す!
(おぉ!光ったぁー)
自分の身体に魔法紙を近づけると━━!
直ぐに魔法陣だけがナナの身体へ染み込んで行く!
(あっ!そうなるんだ!)
残った魔法紙はすーっと消滅した。
……特に身体の異変を感じないナナ……。
「せ、先生?」
(すんなり魔法陣と契約しおったのぉ)
「ん?問題無さそうじゃの!ほれ次じゃ!次!」
催促するゼクセン。
同じように魔法紙に血を垂らし契約して行くナナ。どの魔法も問題無く習得出来た。
覚えたのは……
ファイアボール
アクアカッター
エアショット
ロックシュート
どれも初級魔法。
(ふむふむ……適応属性が四つは相当筋があるわい!)
色々期待するゼクセン。
「先生ぇー!喉乾いたぁ!」
背もたれで伸びをしながら訴えるナナ!
……
「水しかないぞ……」
机からコップがモゾモゾと形成されそこへアクアボールで水を入れる。
「飲めるんだ!魔法の水!」
驚くナナ!
「まぁ……害は無いはずじゃ」
一気に飲み干し、おかわりするナナ。アクアボールで足すゼクセン……。
(こやつの居た世界には……魔法というのは無さそうじゃのぉ……)
「落ち着いたら次じゃ!次!」
魔法の発動の原理を教えるゼクセン……。
頭の中に習得した魔法陣を思い描き……魔法陣に魔力を込め展開させ……放つ。説明は簡単であるが聞くのとやるのでは全く違うと。
広めな所へ移動するナナ……。
(ええーと頭の中に魔法陣……魔法陣……魔法陣……)
目を瞑り思い浮かべるナナ……。
(あっ!覚えた魔法陣が全部ある!とりあえず……これ、だよね!)
頭の中で選ぶようにしたナナの目の前に自分と同じくらいな魔法陣が現れた!
(いきなりこの大きさか?)
見ているゼクセン。
「初めての魔法陣!」
声に出して喜ぶナナ!
「よーし!」
集中し発動するナナ!
「ファイアボール!」
大きな火球が魔法陣から放たれ━━!
ボボボォォ!
いきなり真上へ飛び……天井へ吸い込まれてしまった!
……
「せ、先生ぇ?」
ゆっくり横目で見るナナ。
左右に揺れる黒い魔石のゼクセン……。
(こやつノーコン……か?)
「魔法……出せた……よ?あはは……」
自分の思った通りに真っ直ぐ放てなかったナナは……嬉しさ半分、落ち込み半分……。
「……そのうち……慣れるじゃろぉ……」
ふわり浮かぶ黒い石のゼクセン。
(……魔力量は豊富でも扱いが素人以下じゃな……こりゃ……鍛えんと……な)
【能力】
・ナナ
ファイアボール
アクアカッター
エアショット
ロックシュート




