第6幕〜決意と行方不明
ふわり浮かぶ黒い石の大魔導士ゼクセンから突然の選択権を与えられたナナ!
黒い石は赤く光る魔法陣から少し離れた台座にすっぽり納まり、ただの置物のようである。
魔法陣の中心で体育座りするナナ……。戸惑いつつも……考えている……。
知らない世界で生きる……それは不安で不安で仕方がない。元の世界へ戻れるのなら……それが一番良い……。
(でも!あんな魔法見せられたら!)
異世界系のライトノベルを好んで読むナナにしたら……その世界へ飛び込みたいくらい!
(……サキさんも……ダイ兄も……おぼろもきぬも……心配してるよね……。急に居なくなっちゃって……)
━━!
体育座りのまま周囲を見渡すナナ!黄土色の壁に青い光りの線が走っているだけ……。
(私を呼ぶ声がして……ここに来たんだ……よね)
「誰の声だった?……男の人の声……くっ!痛っ!」
また頭を押さえるナナ!
(駄目だ……良く思い出せないし……でも……凄く懐かしくて……包み込んでくれる声……気になる……)
ぼんやりしてしまうナナ……。
「あのー……あとからでも戻る事って可能?」
右手をゆっくり上げ、黒い石のゼクセンに話しかけたナナ。
……
台座から動かないゼクセンは
「それは断言出来ぬわい!そもそもその魔法陣は……わし特製の召喚魔法陣。この世界でしか通用せぬよ……」
━━!
(え?でも……確か魔法陣が……)
「私!詳しくはわからないけど赤く光る魔法陣で、ここへ来たよ?」
手を胸に当て話すナナ。
……
台座から浮かび上がりゼクセン
「ほぉ……なるほど……」
(このわし特製召喚魔法陣……この世界よりも広く作用しとるのかのぉ……)
「仮説であるが……その魔法陣からなら……戻れる可能性はあるかも知れん……」
伝えるゼクセン。
立ち上がるナナ!
「可能性あるなら……ここで生きてみたい!」
(私を呼ぶ声の事も……凄く気になるし)
「お主……本気か?」
「だって可能性あるんでしょ?……だったらさ……ここの世界とさ、私の世界が行き来出来たら……素敵だと思わない?」
にっこり楽しそうに笑うナナ!
何故か震える黒い石のゼクセン!
(なんとも肝の座った娘だわい……)
「わかったぞい!お主が行き来出来るようなんとかするわい!なんせ大魔導士ゼクセンだからのぉ!」
魔法陣の縁から立ち昇る光を解除するゼクセン。
ゆっくり歩くナナ……。
魔法陣の縁ギリギリで止り……。
(サキさん……ダイ兄……きぬ……おぼろ━━!)
「━━ちゃんと戻るからぁぁ━━!」
ペタリ!ペタリ!
魔法陣から出るナナ!
赤く光っていた大きな魔法陣は……役目を果たしたかのように光りが消え……残ったのは魔法陣の下書きと思われる紋様のみ……。
現代━━
一階リビングでナナに頼まれていた湯豆腐を作りながら、ラフな服装に着替えるサキにきぬが寄って来て……自分の匂いを擦り付ける。しかも頭をグイグイ押し付けながら!
(あら?珍しいきぬちゃん)
たまにしか寄って来ないきぬを愛でる目で見つめるサキ……。
湯豆腐が直ぐに出せるようお皿を用意しておく。
三十分後……
(だいぶ爽太君とマキに話してるのかな?それとも……泣いちゃってるのかな?)
ソファーに座り寛ぐサキ。
一時間後……
(……二階、静かねぇ……。寝ちゃったとか?)
湯豆腐はすでに冷めてしまっている……。
一時間半後……
(ちょっと様子を見に行くか……)
ソファーから立ち上がり、二階のナナの部屋へ……。
静かに階段を登り……。
「ナーナー……ナァ、ナァ……ナー」
━━!
ドアが少し開いていて、おぼろの寂しそうな鳴き声が!
部屋へ顔から入るサキ━━!
さっきまで着ていた制服と下着、靴下を残しナナの姿が無い!
机には充電されたままのナナのスマホと、卒業証書!
脱いだ制服の周りを、ナナを探すかのように鳴きながらウロウロするおぼろ!
制服を胸に抱え、ペタリと座るサキ……。
(ちょっと?何で居ないの?)
「ナナちゃーん?ナナちゃーん?あー?かくれんぼとか?」
そんな訳は無い!脱いだ制服がそのままはありえない!ナナは身の回りの事は、しっかりしていて……服を脱ぎっぱなしにした事は一度も無かった。
━━!
サキの第六感が働く!
とにかく家の中を徹底的に探した!クローゼット、ベッドの下、机の下、二階も一階も確認出来る所は全て!
しかし━━
(どこ探しても……居ない!玄関には靴があるのに……ナナちゃんの部屋も鍵がかかっていたし……)
ちょっとしたミステリーに巻き込まれたかのようなサキ……。
……ナー……ナー……ナァ……
二階でおぼろの鳴き声が……止まらない……。
玄関でナナの履いていたローファーを抱き締めているサキ。
━━カチャ!
玄関が開く!
「ナナちゃん!!」
大声を張るサキ!
「ただいまぁー」
と、普段通りダイキが帰宅━━!
サキの慌てように驚くダイキは……
「え?母ちゃん?……何か……あった?今日って……卒業式だったよね?」
状況が掴めないダイキ。
ガイアール・スーデルの町━━
(一刻も早く知らせないと!)
アースランナーに乗り闇夜を駆け抜けるトスクール!スコットを助け、そのまま濁流に飲み込まれ流されてしまったオボロの事を知らせるため、橋の崩壊現場から、とんぼ帰りのトスクール!
(寝てなどいられませんよ!アースランナーにも頑張ってもらわないとです)
眠気を堪えアースランナーの手綱を強く握る!
町の復旧作業をお手伝いしているクロネとアミュ。
今日も作業が終わりお腹もペコペコ……。宿屋へ戻り夕食を貰い……そのまま町の外へ行き魔獣化し狩りをするクロネとアミュ。
最近の狩り場は、エービーの巣があった付近。襲撃があったため人間も寄り付かなくて好都合であった。まだ焼け跡の残る雑木林で獲物を食べるクロネとアミュ。
(もうあれから三日……オボロ様は無事でしょうか……)
ちびりちびり嘴で啄むクロネ……。
ガツガツ獲物に噛み付きゆっくり噛み砕きながら飲み込んでいるアミュ。
(お兄ちゃん……遅いなぁ……)
夢中に食べるアミュを眺めるクロネは
「ねぇアミュ?身体の具合は……どう?」
ごくりと飲み込みアミュは
「沢山動くから……お腹が凄く空く!」
(アミュは気になってないのかしら?私は……)
「他には?……そうねぇ……魔力関係とかでは?」
続けて質問するクロネ。
「あー!魔操撚糸が上手く使えなくなった!」
(やはり……)
「私は……人型の維持が長く出来なくなってるのよ……」
「ふぅぅん……そうなんだ……」
次の獲物を口にするアミュ。
(何かオボロ様の身に起きてなければ良いのですが……)
首を伸ばし現場の方角を見るクロネ……。
翌日・夕刻━━
噴水広場には瓦礫もエービーの死骸も撤去が終わり、少しずつ露店やお店も再開し活気も出て来ていた。
ギルド館で今日の報酬を貰うクロネとアミュ。
受付のミティーラは
「アミュちゃん、クロネさん!凄く助かるわぁ!本当ありがとぉう!」
と、アミュに飴玉を渡そうとすると……口を開け待ってるアミュ。
(え?私が放り込んで良いのぉ?本当可愛らしい!)
ニコニコしながら、ポイッと飴玉をアミュの口へ放り込む。
「うん!甘くて美味しいっ!ありがとうミティーラちゃん!」
飴玉を口の中で転がしながらお礼を言うアミュ。
アミュの頭に触れクロネ
「オボロ様と私達の生活のためですわよ!」
と、ギルドを後にする。
外へ出ると━━!
目が血走ったトスクールが走って来た!着ている服も破れ足も泥だらけ!噴水広場に居る町民達は騒ぎ出す。
クロネとアミュを発見し、その場で━━
「オボロさんが!オボロさんがぁぁ━━流されてしまいましたぁ!」
大声で叫び……崩れるように倒れるトスクール!
━━!
(今、なんて?)
駆け寄るクロネは崩れたトスクールに、片手で胸ぐらを掴み持ち上げ
「もう一度仰ってくださる?」
鋭い目つきで聞くクロネ!
トスクールはクロネに会えた事に安心したのか……静かに
「オボロさんが……スコットを……助けて……そのまま……濁流に……落ちてしまい……流されて……しまいました……」
━━!
さらに強く胸ぐらを掴むクロネ!
(ほ、本当なの?オボロ様が!)
「貴方いい加減な事を仰るのは止めてもらえませんこと?」
持ち上げられたトスクールは両手を少し上げ
「クロネさん……冗談では……ありませんよ……助けようとはしました……しかし……助けに行けないほどに……流されてしまってて……。私が……寝ずに……戻って……来ました……本当に……申し訳……ありま……せん」
(この姿と慌てよう……本当のようですわね)
……ドサ
ゆっくりトスクールを降ろすクロネはそのまま膝をつき両手で顔を覆い……涙を流す……。
(オボロ様……やはり私も付いて行くべきでしたわ……)
━━!
突然立ち上がり、座り込んでいるトスクールに片脚を上げ鉤爪を突き立て━━
「━━ちょっと貴方!オボロ様が死んでいたら……どう責任取るおつもりなのかしら?」
流していた涙を堪え、さらに鋭い表情で追求するクロネ!
(クロネさんの怒り方が……異常だ)
眠気も疲労もあるトスクールにとってはこの上ない恐怖でしかない!
後ろで話を聞いていたアミュは、舐めていた飴玉をガリガリ噛み砕いて飲み込み━━
「クロネちゃんっ!」
普段のアミュの声とは大きさが違っていたのに身体が反応し、鉤爪を突き立てた片脚を降ろす。
「うぅぅ……死んでないっ!……お兄ちゃんはっ!……まだ死んでないよぉぉぉ!」
身体を震わせ小さな手を強く握り、今にも魔獣化しそうな勢いを抑えているアミュ!
(アミュが……怒っている?それとも悲しんでいるの?)
まだ必死に堪えているアミュ。
(きっと私と同じような気持ちですわ)
クロネも魔獣化を抑えつつトスクールに追求していたのは事実であった。
オボロが死んでいるかも知れない不安感……一人で行かせてしまった後悔……今何も出来ない惨めさ……何より救助してくれなかった人間への憤怒!複雑な気持ちが絡み合い正気が保てないほどのクロネとアミュ!
コツコツ……コツコツ……
下を向きながらクロネの真横へ来るアミュ……
「……アミュもクロネちゃんも……まだ……生きてる……【血の盟約】だよ……」
小声で伝えたアミュ!
━━!
「アミュ……貴女の方がよほど冷静でしたわね……」
アミュの一言でオボロが生きていると確信したクロネ!
【血の盟約】
『盟主が死ねば従者も死す
従者が死んでも盟主は死なず』
本来魔族が主に使用する魔法による従者契約。半魔のセリーヌから勧められ、オボロが盟主で、クロネとアミュは従者の契約をした。




