第5幕〜ミナモ
「やっと逢えた……マスター!」
そう告げた人魚型のホムンクルスは小さな両手で、オボロの片手を持ち上げ……肉球の上へ自ら立つ。
鱗の下半身と尾鰭が透き通る大きな二枚の羽に戻り……大人しく立つ。
窓から射し込む光で透ける身体も羽も乱反射しキラキラと眩しい。その場に居る誰もが魅入ってしまうほど……だが一人いや、一体だけ怪訝そうな表情の者がいた!
オボロと人魚型のホムンクルスの間に割り込むホノカ!口から煙を漏らし
「なんだよ!いきなり現れて!まずは俺とメルに挨拶だろ?」
ホムンクルスの序列を説くホノカ!
表情変えず黙っていた人魚型のホムンクルスは……
「貴女は……私の……下なの」
「はぁー?俺が先だぜ!」
左右に超低温ファイアブレスを吐きまくるホノカ。
「私が……先に……見つけられたの」
ホノカを退かしオボロを見つめる人魚型のホムンクルス。
(この子が先でホノカが後って事?)
「セリーヌさん?素材は何を?」
質問するオボロ。
チラリとメルを見てセリーヌは罰が悪そうに
「オボロちゃんから……譲ってもらった……水色の魔石さね」
メルがセリーヌに体当たりし、魔石は貴重だって散々言ってたじゃないと猛烈に文句を言う。
(水色の魔石は確か……シーサーペントで……ホノカはあの洋館で倒したいけ好かない蜘蛛の死骸から……)
……
(シーサーペントの角の下にあって……ルーベさんからもらって……その後二度目に洋館に訪れて奴の死骸から俺が取り出したんだよな……)
と、思い出しているオボロ。
━━!
湿った鼻先に口づけをした人魚型のホムンクルス!
(まっ!いきなり馴れ馴れしいですわね!)
羽扇子を折りそうな勢いで苛つくクロネ!
驚くオボロへ
「マスター?早く……私の名前……呼んで?」
と、囁く。
口づけをされた瞬間……魔力のようなのが身体へ流れ込む感覚を覚えたと同時に頭に文字が浮かんでいたオボロは、静かに口を開く……
「……ミ……ナ……モ……ミナモ!」
肉球に立っているミナモから自分のオーラが吸い取られる感覚に襲われた!ホノカの時と似た感覚!
目を閉じオボロのオーラを感じ取り安心したかのような表情のミナモは深く息を吐き出し……。
「これからよろしくね……マスター!」
「とりあえず……皆とは仲良くしてもらいたいかな……」
メルとホノカをチラリと見て答えたオボロ。ホノカはちょっぴり不機嫌な様子……。
ミナモは腰から生えた羽を両足に巻きつけ人魚型へなりオボロの周りを飛ぶ。
「マスターの魔力量……上がったよ」
━━!
「え?ほんと?」
飛ぶミナモを目で追いながら言うオボロ。頭に座るミナモは
「元々魔力量少ないマスターだから、僅かだけど……あの扉の魔法扱うくらいは、簡単」
「それは有り難い!凄いなミナモは!」
目線を上にしミナモを見ようとするが頭上のため見られないオボロ。
早速オボロの信頼を得たミナモはふわりふわりとクロネとアミュの前へ……。
ちょっと敵対心のあるクロネ……色んな方向からミナモを見ているアミュ……。
「クロネ、アミュ……私のマスターを今日まで守ってくれてて……ありがとう」
オボロと同じように……二人の鼻先に口づけをするミナモ。
アミュは鼻先がむず痒いのか手で払っている。
「ちょっと貴女!」
突然の口づけに動揺するクロネ!
薄く笑うミナモは
「そこならファーストキスでは無い」
と、意味深発言し、クロネを黙らせてしまった!
複雑な気分なクロネは下を向いてしまう……。
(全くメルと言いホノカと言い……彼女達は理解出来ない部分がありますわね……)
黙っていたセリーヌがミナモに質問する。
「で、私の事は放ったらかしさね?一応作ったのは私さね、ミナモ?」
尾鰭を揺らしながらセリーヌに寄るミナモは
「貴女には感謝してる……けれどマスターでは無い」
きっぱり断られてしまうセリーヌは落胆する……。
「そこまで言われたら……仕方ないさね……私がマスターじゃない理由を教えて欲しいさね」
追求するセリーヌ。
オボロもメルもそこは気になっていた。
(さすが師匠!良い質問よ!)
人任せなメル……。
ミナモはD=Dへ入り……桶を持ってきてテーブルに置き……水球を出しそのまま落とす……その中にチャポンと浸かり淡々と話始めた。
「私は海神から溢れ落ちた魔石の欠片……深く暗い海底でずっと一人だった……一体の海洋獣に食べられ……その海洋獣も別の海洋獣に食べられ……その繰り返し……」
(え?ミナモって長老の魔石なの?)
長老=海神と知っている皆は驚く。
「どのくらい経ったか……一番長続きしたのは……シーサーペント。乱暴で暴食……騒がしかった……そんな時マスターが現れた」
(現れたってより退治しに行っただけなんだよな……)
思い出すオボロ。
「見えてはいなかったけど……マスターの声、オーラを感じた……どこか懐かしく……また一緒に居たいって不思議と感じた」
(懐かしい?一緒に居たい?どういう事だ?)
全く身に覚え無いオボロ。
「マスターがシーサーペントを倒してくれた時は……嬉しかった!それでようやく今マスターに逢えた」
チャポン……。
桶に全身を馴染ませ、顔を出すミナモ。
クロネは
「ミナモは海神リヴァイアサンの魔力を持っていると言うこと?」
横に首を振るミナモ
「違うわ……でも海神の溢れ落ちた魔石だから魔力は高い」
納得するクロネ、セリーヌ。
オボロはミナモに
「長い時間一人だったんだな……」
バチャン!
桶から飛び出しオボロのふさふさの胸元で濡れた身体を拭き取るように飛び付くミナモ!
「そう……だからマスターに逢えて……凄く嬉しい……」
抱き付かれて少し嬉しそうなオボロ。
「それとさ……懐かしいとか言ってたけど?どういう事?」
チャポン……。
再び桶へ戻るミナモは
「そこは私も良くわからない……漠然とそう感じた」
パタパタとミナモの前に浮くメル!
「そろそろ良いかな?私とマスターは同格よミナモ!」
ホムンクルスの序列を確認するメル。
桶から浮かびメルよりも下に座るミナモは顔を上げ
「それは理解してるメル。マスターとメルは同格」
絶対反発食らうと思っていたメルは拍子抜けし
「そ、それなら問題ないわ!」
ミナモは続けて……
「ホノカよりも上と言う事実は譲れない」
きっぱり宣言する!
「あぁー!納得行かねーよマスター!」
オボロの周りをあたふたしながら飛ぶホノカ!
「ふっ……ほらオボロちゃんがしっかりしないと、さね」
含み笑いのセリーヌは言う。
マスターとしての威厳が試される時!考えるオボロ……悩むオボロ……。
(これなら当たり障りない!)
目を大きくしオボロ
「んにゃ!ホノカもミナモも……同格!それなら争わなくて良いにゃ!」
「マスターの仰せの通りに」
ミナモは顔色変えず即答し、ホノカは……
「うぅーん……マスターが言うなら……それで手を打つぜ」
微妙な返答であった。
ザザ村━━
天気も良く、陽気が良い。
いつもの長椅子に座り村内を眺める長老……。
「私と似た魔力の反応がするぞえ……そうかそうか……可愛らしい孫でも出来たと思うぞえ……」
朗らかな微笑みをする長老が居た。
スーデルの町━━
町長の屋敷に集まる面々……。
ギルド長トスクール、冒険者スコットとヌイケン、まだ療養中のギルド受付ミティーラ、そして町長ギラク。
もちろん議題は……オボロ達の件。
ここに居る連中は多少なりともオボロ達を知る面子で助けられ、協力してもらっている人ばかり……。
色々飛び交う意見の中ギラクが話す
「町民の意見は……ほぼ半々と見て良いか?」
「見聞きしたところではそんな感じですね」
トスクールが発言する。
「私はさぁアミュちゃんが獣でも……問題無いけどぉ」
麻痺毒から助けられたミティーラは言う。
スコットもヌイケンも似たような意見で
「クロネさん、アミュちゃんは……オボロさんを信頼していると思うぜ……だから町の人を襲ったりは絶対無い!とは言い切れないが……俺は町に居ても構わない!」
横で聞くヌイケンも大きく首を立てに振る。
静かにトスクールが話す
「スコット達の話す通り……オボロさん達が来てから、大きな鳥や蜘蛛に襲われたなどの報告は受けておりません……それに麦食いの駆除を中心に町のために頑張っていた事はギラクもご存知でしょう?」
「そうだったな……私が地道に自ら町民に訴えるのが一番、か……」
少し自信無く話すギラク。
━━バタン!
応接室の扉が突然開き━━
「突然申し訳ありません!」
息を切らせ、汚れた服で、少しやつれた雑貨店店主のカインツが現れた!
扉の方を一斉に見るギラク達!
カインツは定期行商の帰りにエービーの襲撃があったのをオボロに説明すると、自分と荷車を麦畑の倉庫へ非難させ身を守るよう告げて、町へ直ぐに向かった事を話した!
「町長!オボロさん達を非難しては行けません!……もしオボロさん達が町を出て行くのなら……私はオボロさん達を追います!お店を閉めてでも!」
決意を伝えたカインツ!
「カインツ!お主の雑貨店が無くなれば我々の日々の生活は?」
慌てて聞くギラク!
テーブルの水挿しからコップに注ぎ一気に飲み干すカインツは
「そこまでは考えてませんでした……。私、定期行商でオボロさん達、ザザ村のマーマンや猿達を見てきました!皆、笑顔で楽しそうでした!オボロさんから頂いたこちらを食べてみてもらえませんか?」
使用人にひょうたん梨を一つ渡し、人数分に切ってもらう。
「オボロさんから譲ってもらったひょうたん梨と言う果実です」
それぞれ口に入れ食べる……。
━━!
(これは!食べた事の無い味と食感!)
皆同じ事を感じていた!
「このひょうたん梨……ザザ村で実っているようで、オボロさんがザザ村の猿達に世話させているようです!この果実は人気が出ます!この町の経済の新たな主力にもなり得ます!私の商人魂がそう告げているのです!」
力説するカインツ!
「仮に……オボロさん達がこの町から出て行ってしまったら……この果実……ザザ村へ行っても物々交換させてもらえない可能性が!」
……
「カインツ……お主がそこまで力説するのは久しぶりだな。……そうだな……町長権限とここに居る皆で、オボロさんの非難を減らして行くと言うのでいかがか?」
その場に居る一同賛成し
「ギルドとしても、町民の説得や協力をしますよギラク」
トスクールは伝える。




