第5幕〜エービー襲撃・③ 瞬撃の長次郎
スーデルの町━━
第二陣と思われるエービー達の塊を追うクロネとアミュ!二人とも魔獣化から人型へ戻り追う。
━━闇巻き!
黒い竜巻でエービーを飲み込み放り出し、地面に落ちる前に羽扇刀やエアカッターで仕留めて行くクロネ!
お尻から糸を出し木から木へ、屋根から木へ移動しながら撚糸輪でエービーを斬って行くアミュ!
無表情で仕留めるクロネ。
先程オボロに褒められ……ニコニコ笑いながら仕留めるアミュ。
(お兄ちゃんに褒っめられったっ!)
家々から覗き見する町民達は二人の異様さに恐れを成す者もいれば……ひっそりと祈り応援する者もいた。
エービーの巣周辺━━
鮮やかにキャプテンエービーを始末した白髪混じりの初老の男性が振り返りオボロの方へ歩み寄る……。
茶系の着流しに草履……シンプルな杖にもなりそうな鞘の剣……。
「始末するまで……気を抜くで無い若い獣人よ」
「あ、ありがとうございます!」
(どう見ても……日本の着物!長年着ている様な古さも感じられる)
驚きつつも礼を言うオボロ。
離れた所で見ていたスコット……そしてヌイケンは憧れの眼差しで言う。
「……瞬撃の長次郎!」
━━!
ヌイケンを見るスコットは
「聞いたことあるぜ!グレードS冒険者!すでに引退してるって聞いたが?」
ヌイケンは興奮しながら
「いや……引退し気ままに旅をしてるって最近は聞いてる……こんな所で遭遇するとは……厄日は取り消しだ!スコットさんよぉ!」
スコット「?」
「俺は見るのは二度目だが……戦う所を見るのは……初めてだ……スコット、瞬きせず見といた方が良いぜ!」
少し前のめりになり、長次郎を目で追うスコット。
オボロの前に立ち長次郎は
「昔は……瞬撃の長次郎など言われてましてねぇ……今では冒険者を辞め……気ままに諸国漫遊している爺さんですよ」
オボロ「はぁ……」
初対面でどう接して良いか悩むオボロ……。
長次郎の後ろから一体のキャプテンエービーが細長い前脚を広げ襲って来る!
(後ろ!)
角錐を突き出そうとするオボロ━━よりも速く動いた長次郎!
━━!
身体を一回転させ数回斬撃!
━━スン!スンスン!
ドサッドサッ……。
真横に……斜めに……違う向きに斜めに斬られ、地面に転がるキャプテンエービー!
角錐を突き出したオボロはそのままの態勢で
「え?……もう仕留めた?」
━━「直刀式武術……抜刀円」
静かに技名を告げる長次郎。
(オーラを使っているのは理解出来たが……速過ぎて目で追えなかった!)
あまりの速さと鮮やかさに見惚れてしまうオボロ!
顎を触りながら長次郎
「若い獣人よ……先程見させてもらったが……無駄な動きが多すぎる……」
(見られていたのか?)
「まぁ……見ておれ」
一体のキャプテンエービーに狙いを定めた長次郎━━
鞘を腰に当て、持ち手を握り━━
一気に間合いを詰めるように素早くキャプテンエービーを通過した!
━━スン!
通り抜けながら一太刀入れたのか……真横に斬られ、ずれ落ちたキャプテンエービー!
「抜刀刃……」
思わず拍手が出そうなオボロは
(目で追うのが精一杯……)
猫の目で精一杯なら、人間のスコットにはただ通り抜けただけとしか見えていないだろう……。
まさにその通りで、スコットもヌイケンも目を擦り……きょとんとしてしまっていた。
「わしら直刀式武術の『流足』と『流転』」
静かに告げた長次郎。
「そのような武術なのですね」
当たり障りない返しをするオボロ。
「流足とは……流れるような足捌き……流転もまた同様に……流れるような体捌き……オーラを使えば……さらに効果も上がる」
(俺に教えを説いてくれてるのか?それとも……自分の武術の営業か?)
と思いつつオボロは
「はぁ……勉強になります……」
長次郎は鞘を帯に差し、両手で武器を持ち構えた!
その武器をじっくり見ると……
真っ直ぐで鋭い片刃……反対側は平ら……カーブの無い刀のような形!
(に、日本刀に似てる……)
と、その刀の平らな方を下にし、上段の構えで振り上げ━━!
エービーを袈裟斬りで叩き落とし━━!
そのまま刀の向きは変えず鋭い刃の方で斬りあげた!
……ぶしゅーっ!
体液が斬り跡から噴き出す!
キャプテンエービーは直刀の平面の打撃と鋭い刃の斬撃による二撃で仕留められた!
「直刀式武術……崩落斬」
━━!
(確かに……無駄が無い動き!後ろに目があるかのような感知能力!それに刀との一体感も感じられる!)
「す、凄い!」
口に出してしまうオボロ!
「良く見ておれ……若い獣人よ……」
と、長次郎は残り二体のキャプテンエービーへ静かに歩み寄って行く……。
足音が……しない?空気の上を歩いているかのよう……。
直刀を鞘に納め━━
二体の間を通り過ぎた!
━━スン!ススン!
それぞれ二つに分断され……。
ドサッ……ボトッ……。
地面にずれ落ちたキャプテンエービー!
━━静と動!
そんな強い印象を感じたオボロ!
(見ていて……綺麗……そして鮮やか!……流足と流転……素晴らしい)
キャプテンエービー全てを始末した瞬撃の長次郎……。
固まっているオボロの横へ赴き━━
「そう、焦るでない……オーラを熟知し、鍛錬すれば……いずれ出来よう……若い獣人よ」
━━♪♪♪
そのまま通り過ぎ……鼻唄を歌いながら……静かに歩き……消えて行った……。
……
草原にはエービーとキャプテンエービーの死骸が散らばっている……。
その中に呆然と立ち尽くすオボロ……。
角錐をだらしなく持ち……先端が地面に触れている……。
(時間としては……数分くらい?でも……体感では一時間くらい経ったような気分……)
ポトッ……カランカラン……。
緩く持っていた角錐が、手から滑り落ちた!
(こうもあっさり仕留められてしまうと……何も出来なかった自分が……惨めだし……悔しい!)
強く握り拳をするオボロ。
(世の中には……強い人間も……居るんだな……うん!真似でも良い!強くならないと!クロネもアミュも……メル達も守れない!)
瞬撃の長次郎の戦いぶりを、記憶に刻むオボロ!
スーデルの町━━
噴水広場へ向う幼児体型の人型のアミュは、エービーに狙われ追い掛け回される……が、それを楽しむかのように駆除をする!
「あはっ!これは鬼ごっこだねっ!クロネちゃん!あははっ!」
追いつくエービーを振り向きざまに撚糸輪で斬る!そして逃げる……振り向き、斬る!その繰り返しのアミュ!
アミュを追う最後尾のエービーを羽扇刀で斬り落としながら飛ぶクロネ。
「ちょっとアミュ!建物壊さないようになさいよ?」
(オボロ様は……本当……アミュに甘い……いいえ!甘過ぎますわ)
何かもどかしくなり……羽扇子を強く握るクロネ!
「はぁいっ!大丈夫っ!大丈夫っ!」
調子良く返事するアミュではあるが……魔獣化してた時に移動したと思われる場所は……石畳みが破壊され陥没し、屋根瓦も砕かれ、そこかしこに散乱していた……。
(この代償は……高くつきそうですわね……)
町全体を見て感じてしまったクロネ……。
ここでも家々からひっそりと……二人の奮闘を覗き見する町民が多数いた。
エービーの脅威とはまた別の何かに怯える町民達がほとんどであった……。
【戦歴】
瞬撃の長次郎 VS キャプテンエービー
長次郎の鮮やかな直刀式武術で圧勝




