第5幕〜エービー襲撃・① アミュの怒り
行きよりも多めに休憩を取り、のんびりスーデルの町へ戻る定期行商のオボロ一行。
━━!
「うにゃ?何だにゃ!この匂い!」
突然鼻を両手で押さえるオボロ!猫獣人なので匂いには敏感。クロネとアミュが警戒モードになった!
先の状況を見に飛んだクロネが戻って来て
「オボロ様……町の方から紫色の煙が沢山立ち昇ってますわ!」
「火事?」
━━!
カインツが悲鳴を上げた!
「いや……火事ではありませんよ……オボロさん……」
身体を縮こませ怯えているカインツ!
鼻を押さえながら、事情を聞くオボロ達。
数年前にエービーと言う蜂の様な群れが町を襲い、ペットや家畜……それに小さな子供まで連れ去られ餌食になってしまった悲しい事を話してくれた……。
━━!
「クロネ!アミュ!間に合うかわからないが……駆除の時間にゃ!」
「承知しましたわ!」
「お兄ちゃんっ!アミュ頑張るっ!」
クロネはアミュを抱えて、紫色の煙の立つ町へ飛んで行った。
二人を見送り辺りを見渡すオボロ……。
(あの倉庫が良さそう)
少し先に倉庫の様な家屋が見えた!
オボロは鼻を押さえながら、カインツを麦畑の作業道具がある倉庫までアースランナーと荷車を誘導させた。
カインツの両肩を優しく肉球で包み、まん丸な瞳で見つめオボロ
「カインツさん!静まるまでここに!危険を感じたらアースランナーでザザ村へ全力で逃げてくれ!守ってくれるばずにゃ!」
身震いしながら頷くカインツ。
「荷物よりも自分の身の安全を優先にするにゃ!」
(こういう時はパニックにならないようにさせるのが一番)
倉庫の扉を静かに閉め、町へ向うオボロ!
エービーの怖さを知っているカインツは身体を小さく丸ませ
(獣人を嫌っている人間もいるはずなのに……オボロさん……貴方達は……)
スーデルの町・噴水広場━━
バタン!バタン!バタン!
どの家も店舗も戸締まりをし、室内が見えないようにしている!スーデルの町全体、活気ある噴水広場は閑散となり、居るのは戦える冒険者や大人達!
空から━━
地上から━━
エービーが飛び回り、石畳みを這いずりまわる!
長年の相棒のボーガンを撃ち撃退するギルド長トスクール!
短い杖を握り、エアカッターで切り裂くミティーラ!
「これ……きりが無くなぁい?」
飽きてきているミティーラ。
「そういう文句を言わなければ……良い女なのですがね?ミティーラさん?」
褒めて機嫌を良くさせようとするトスクール。
町にはまだ逃げ遅れている町民も居る!数人で行動する冒険者達はそれを手助けする!
町へ迷い込んだ野犬や野良猫を長い前脚で抱え巣へ連れ去るエービー!誰かのペットの
犬を連れ去るエービー!
(前回よりも多いかもですね!)
気を引き締めてボーガンを撃ちまくるトスクール。
「よぉっ!遅くなったトス!」
ボーガンと剣を携えたグーメラがゆっくり歩き隣に並ぶ!
足を見てトスクールは心配そうに、
「大丈夫なのです?足の怪我は?カーラちゃんと奥さんのためにも、無理はしないで下さい」
片足に踏ん張りがきかずふらつくグーメラは、ボーガンを撃ちながら
「やっとお前に習ったボーガンの腕前を今見せないでどうするよ?」
ため息を漏らしボーガンでエービーを撃ち落とし
「危なかったら……無理矢理にでもギルド館へ放り込みますからね!」
それを受け失笑するグーメラ。
ミティーラはトスクールとグーメラの後方で援護する。
━━!
噴水広場上空に黒い何かが!
「あわゎゎゎー!いきなり落とさないでぇー!」
━━とんっ!
赤いエナメル質の靴を鳴らし両足で上手に着地するアミュ!
撚糸輪を構え、付近のエービーをスパスパ切り倒す!
「闇巻き」
上空で獲物を探すエービーを黒い竜巻に巻き込み地面に叩き落とすクロネ!
━━!
「アミュちゃん?」
ミティーラは叫ぶ!
(定期行商から戻るのは……あと数日は先のはず……だがこれは心強い!)
「クロネさん!緊急事態です!どうかエービーを追い払って下さい!」
上空に浮くクロネに向かって大声で伝えたトスクール!
チラリとトスクールの方を向き、羽扇刀に魔力を込め縦横無尽に飛び回りエービーを斬って行くクロネ!
アミュは地面を這いずりまわるエービーを蹴り上げ、撚糸輪で斬り、あちこち動き回る!
町の通路、噴水広場、屋根の上……エービーの死骸がどんどん増える……。
クロネとアミュの奮闘ぶりを……カーテンを少し開け、窓を開けて見ている町民達……。二人の奮闘をどう見ているかは……なんとなく想像つくクロネであった。
一方でトスクール達の士気は上がる!
「ここは彼女達に任せて、我々はおこぼれを仕留めましょう!」
頷くグーメラとミティーラ。
クロネは上空から追い払いながら地上を見る……。アミュの周りにエービーが集まり、だいぶ苦戦している……。
━━!
と、カインツの話を思い出すクロネ!
(家畜や小さな子供を連れ去る……)
クロネはブレインマウスで
『アミュ!あなた狙われてるわよ!』
『えーアミュ人気者なのっ?』
『えぇ……間違いでは……ないわね』
『羽音が気持ち悪くて捕食する気にならないよぉ』
『良いアミュ?ロックピラーに乗って私の高さくらいまで来られるかしら?』
と、少し低く飛ぶクロネを確認し、足元に魔法陣を展開するアミュ!
「ロックピラーッ!」
魔法陣からアミュを乗せた石柱がそそり立つ!
「どう?クロネちゃん!」
「上出来よ」
ロックピラーの頂点に立つクロネとアミュ!
地上のエービー達はロックピラーをよじ登り、上空からはアミュを狙って長い前脚を使い襲う!
━━!
「アミュちゃんを……囮に?」
トスクールがつぶやく。
それを聞いたミティーラがトスクールに詰め寄る!
「ちょっとぉ?それどういうことよぉ?アミュちゃん可哀想じゃなぁい?」
「いや!大丈夫だ!クロネさんも居るし!」
はぐれたエービーを仕留めているトスクール、ミティーラ、グーメラ。
そびえ立つロックピラー周辺ではクロネとアミュで撃退中!
だいぶ数は減ってきた!
タッタッタッタッ!
エービーの死骸を乗り越え、錆びたフライパンを持ってフルーツタルトの店舗の看板娘のクルミが噴水広場へ走って来る!
「ミティーラァー!手伝いに来たよぉー!」
━━!
(え?ちょっとぉ?クルミ危ないってぇ━━!)
クルミがエービーの死骸に躓き転ぶ!
ブブブブゥゥ!
一匹のエービーが低音の羽音を立て転んだクルミに襲いかかろうとする!
「クルミィィッ!」
クルミに覆い被さるように盾になるミティーラ!
ガブッ……プスッ!
ミティーラの背中を噛み毒を注入した一匹のエービー!
「がはっ!」
声を出すミティーラ!
「ミティーラァー!」
泣きそうなクルミ!
(何?私……噛まれた?)
意識が朦朧とし始めたミティーラ!
━━!
異変に気付き、小さな魔法陣のエアカッターで狙い撃つクロネ!真横に分断され体液を飛ばし石畳みに倒れるエービー!
撚糸輪で撃退しながら、一部始終を見ていたアミュ!
(あれ……ミティーラちゃん……背中から血が出てる?)
撚糸輪でエービーを斬るアミュ……。
(クルミちゃん大丈夫かな?)
向かってくるエービーを斬るアミュ……。
(泣いてる?……クルミちゃん……)
撚糸輪を強く握りエービーを斬るアミュ……。
(クルミちゃんのお菓子食べられなくなる?……ミティーラちゃんと遊べなくなるの?)
さらに撚糸輪を強く握りエービーを細かく切り刻むアミュ!
(━━やだっ!そんなの、やだっ!やだっ!)
「んんんん━━!」
アミュが唸った!
「魔操撚糸・糸鋸ッ!」
両手の五本の指先から細く鋸状の糸を操り……ロックピラーの周囲のエービーが広範囲で切り刻まれた!
ロックピラーからミティーラの所へ飛び降りるアミュ!
「いっ・やっ・だぁぁぁぁぁっ!」
アミュの額に赤い魔法陣!
身体が光り━━
ドッスン!
土埃と共に現れたのは━━
魔獣化したブラックウィドウのアミュ!
━━!
「アミュ!あなた……なんで?」
上空でエービーを撃退しながら叫ぶクロネ!
魔獣化したままミティーラへ寄るアミュ。
「ミティーラちゃん?大丈夫?」
赤い八つの単眼で覗き込むアミュ!
怖くて声も出せないクルミ!
グーメラも魔獣化したアミュを見て……腰が抜けそう!
噴水広場周辺の家々から、多くの悲鳴が聞こえ始めた!
毒で混濁してるミティーラは
「……アミュ……ちゃん……なの?」
頭を抱えているトスクール!
(こんな時に……さて、どうしましょうか……)
ロックピラーに立ちアミュを観察するクロネ……。
ミティーラを心配し、顔を近づけたり、背中の傷口を前脚で突いたり……。
(あの子……自分が魔獣化してることに気づいてない?)
闇巻きを放ち、上空のエービーを吹き飛ばすクロネはそのままアミュの所へ。
「クルミちゃんっ!ミティーラちゃんっ!」
魔獣化したアミュが二人に話しかけていた!
━━スタッ!
「アミュ?ミティーラさん噛まれて毒を注入されているわ!」
カチャカチャ八本の脚を動かしクロネを見上げるアミュ!
口を開け……
ニョキッと牙を出し……
牙から垂れる液体を尖った前脚に乗せた!
「クロネちゃん!これをミティーラちゃんに飲ませたいっ!」
尖った前脚にちょこんと乗っかる液体!
「それは?」
「アミュの体内の毒の中和液!」
毒、麻痺耐性のあるアミュ特性の中和液。
「……わかったわ」
ミティーラを寝かせ口を開け、閉じないように押さえるクロネ!
ミティーラの口の上に尖った前脚が迫る!
「うぅー!んーっ!んん!」
首を横に動かし色々と拒否するミティーラ!
「大丈夫……ミティーラ……アミュを信じてあげて?」
優しく話しかけるクロネ。
「うん!ミティーラちゃん!元気になって!また遊んで欲しいっ!」
尖った前脚から中和液が垂れる!
クロネは口を閉じしばらく待った……。
バタバタ身体を動かし苦しそうなミティーラ!
「んがっ!ぐぐっ!ばぁぁっ!……はぁ……はぁ……」
落ち着いたようなので口から手を離すクロネは……アミュを見て……。
「ねぇアミュ?魔獣化しちゃてるわよ……」
教えてあげた。
牙をモゴモゴさせながら……アミュ
「うん……知ってる……クロネちゃん……お兄ちゃん……ごめんなさい」
八つの単眼から水分が溢れ落ちる……。
「抑えられなかったのっ……ミティーラちゃんも……クルミちゃんも……苦しそうだったから……助けてあげたくて……」
八本の前脚を畳み……丸く縮こまるアミュ……。
「それに……お菓子食べられなくなるのと……遊べなくなるのが……凄く凄く……嫌だったのっ!」
コロコロ転がるアミュ……。
ため息を漏らしクロネは━━
胸元に赤い魔法陣を出し━━
バサッバサッバサッ!
魔獣化し黒鳥の姿になった!
「クロネ……ちゃん?」
コロコロ転がりながらアミュはつぶやく。
「アミュ?叱られる時は……当然、一緒ですわよ?」
と、羽を広げロックピラーの頂点に行き、甲高く鳴きエービーを威嚇した!
魔獣化したクロネとアミュの禍々しい魔力に恐れたのか……エービーの動きが変化した!
さっさと巣に戻る者、混乱しその場で小さく旋回する者、這いずる者はお互いぶつかり腹を見せ起き上がれない者……。
その行動を眺めるクロネは
(あら?この方が無駄な魔力使わなくて済むのでは?)
黒鳥クロネとブラックウィドウのアミュを中心に、徐々に散っていくエービー達!
「と、とりあえず町は一段落……でしょうか……」
安堵するトスクール。
鼻を両手で押さえ、ようやく駆けつけたオボロは━━!
噴水広場に転がるアミュと、ロックピラーの頂点にキリッと立つクロネを発見━━!
「んにゃ?クロネ?……アミュ?……どうした?」
状況が飲み込めないオボロ……。




