第5幕〜機嫌と帰還と危険
「……貴女……誰?」
産まれた水色の魔石のホムンクルスから言われた最初の一言目!
(ん?聞き違いさね?)
目を丸くするセリーヌは、聞き直す。
「産まれて来てくれてありがとうさね!私はセリーヌ!あんたのマスターさね!」
背筋を伸ばし軽くポーズを取り話しかけるセリーヌ。
(最初くらいマスターらしく振る舞わないとさね!)
……
……
コポン……コポンコポン……
培養液の動く音……。
新たなホムンクルスは無言……。
(何か様子が変さね……)
……
培養液の中で首を左右に動かす新たなホムンクルス。
「貴女……マスター……違う」
━━!
(はぁ?マスターは生成した私さね!……反抗的なやつさね!)
と、思いつつセリーヌ
「作った私が……マスターさね?理解するさね?あんた達はそう言う生き物さね?」
説明するセリーヌに対し新たなホムンクルスは培養液の中でキョロキョロし……
「貴女……マスター違う……マスター……どこ?」
拒否する新たなホムンクルス……。
頭を抱えるセリーヌ……。一体のホムンクルスが心配そうにセリーヌの周りを飛ぶ。
「だ、大丈夫さね……ありがとう……」
(この子は……ホノカみたいな特殊な個体みたいさね……産まれて直ぐに話す……外見も他とは違う……それに魔力量も多そうさね……)
など思案しているセリーヌ。
━━バシャーン!
培養液から飛び出し、腰から生えた大きく長い二枚の羽を両足に巻き着けた━━!
その両足は魚の鱗状となり大きな尾鰭になり、そのまま静かに飛んだ!
━━まるで空に浮かぶ人魚のよう
(羽ってあんなふうに使うんだっけさね?)
そんな疑問も持つセリーヌは━━
「ちょっとどこ行くさね!」
人魚型のホムンクルスを追う!
工房の庭まで追いかけたセリーヌ……。以前オボロが水浴びが出来そうと言っていた穴の所に居た人魚型のホムンクルス!
水球を出し、その穴に溜め……少し高く浮かび……頭から飛び込んだ!
━━パチャーン!
水面に気泡が現れ……気分良く顔を出し静かに泳ぐ……。
近くで見届けているセリーヌ……。
(ホムンクルスと言うより……人魚みたいさね!それにメルやホノカよりも……どことなく気品がある)
まるでメルとホノカには品が無いような言い方のセリーヌ。
「……もう一度聞くさね?」
知らんぷりして尾鰭をゆっくり動かし泳いでいる……。
……
「あんたの言うマスターって……誰さね?」
……パチャパチャ……
人魚の姿で縁の岩に座るホムンクルスは
「マスターは……マスター」
冷めた言い方で答える。
(……作り手とマスターはこの子にしたら……別ってことなのさねぇ?)
「ここから先は危険だから……遠くまで行かないで欲しいさね……」
と、これ以上のやり取りは無意味なのと機嫌を損ねてはいけないと考え、セリーヌは人魚型のホムンクルスに告げ、逃げられても困るので一体のホムンクルスに見張らせた。
工房の窓から優雅に水浴びしている人魚型のホムンクルスを眺め……。
(あの子の言うマスターは……やはり……)
なんとなく結論が出ていたセリーヌ。
ザザ村・入口の門━━
長老はじめ船長ゴーラや手長猿のダリルらに別れと感謝を伝え雑貨店店主カインツとオボロ達はスーデルの町へ戻る。
荷車を引くアースランナーの背中に乗りはしゃぐアミュ!
「おぉ!うわぁ!ゆーれーるぅー!」
物々交換をした物が気になるオボロは、手綱を握るカインツに聞く。魚や貝などの干物、香辛料の元になる木の実、薬草や解毒作用のある薬草……貝殻や骨、革を使った装飾品……換金出来そうな鉱石や鱗……。
「あとは……海鳥の羽、ですかね。羽ペンの本体となりますので、結構有り難いんですよ」
(羽ペン……ね……)
直ぐにクロネの光沢のある黒い羽に目が行くオボロ。
その視線に気付くクロネ━━
(あら?オボロ様の熱い視線が……)
「オボロ様……私に何か?」
「あーいや……クロネの抜け落ちた羽って……羽ペンになりそうかなって」
羽を前に出し、一枚抜きオボロに渡すクロネ。
「差し上げますわ」
羽をくるくる回し、全体を見てカインツに渡すオボロ。
「使えそうかにゃ?」
渡されたクロネの羽を細部まで観察するカインツ……。羽を何度もしならせたり、根元の構想を見たり……。
「んー羽自体は海鳥よりは質が良さそうですし、何か高級感が伺える……ちょっと先端の加工が難しいそうですね……」
「はぁ……」
「クロネさんの羽の根元の軸が太めなんですよ……それに合うペン先を作れる職人がいれば……とは思います」
(羽ペンの加工の職人なんて居るんだ!)
「ありがとうございますカインツさん!」
(メル達なら出来そうかも!)
そんな考えを持つオボロ。
クロネは二人のやり取りを聞いて
(私の羽が何か役に立つのでしょうか?)
荷車の荷物を見てカインツが、大量のグンカンドリはどうするのか聞かれ、オボロは丸焼きにして食べる予定と答える。休憩がてら、一匹丸焼きにしてカインツに良さそうな部位を食べさせた。誰も火が使えないのでカインツにはクロネとアミュで目を逸らさせ、その隙にホノカのファイアブレスで火を付け、じっくり丸焼きに。
熱々のグンカンドリの胸肉を食べるカインツ……
━━!
焼き立てだからか……柔らかく噛みやすい!味のある肉汁!
「これは三つ目兎とは……また違う食感!美味しいですよ」
「村にいた時は毎日のように食べてて……懐かしくてつい持ち帰ろうかと」
理由を話すオボロ。
二切れ目を食べるカインツにオボロは
「良かったら何羽かあげるにゃ!家族や店員さんと食べて欲しいにゃ」
と、勧めたオボロ。
美味しそうに食べるカインツは、皆にも味あわせたいと意気込んでいた。
(このグンカンドリの肉も……販売出来そうですね。それに……私のためにこんなに良くしてくれて……)
と、カインツが、ザザ村と定期行商をする理由を話始めた。最大の目的は、「海産物」と「薬丸」特に薬丸はザザ村でしか手に入らず、高めのポーションよりも効果が良い。当然そうなると高値で販売し、王国からも高値で買い取ってくれる。数は少ないが冒険者や騎士には有り難い品だと。
(え?薬丸ってそんな貴重なのか!……確かに長老しか作れないってゴーラさん話してたし……)
━━!
(そう言えば……メルがその製法教えてもらってたよな?)
『メル?薬丸って作れそうなの?』
ブレインマウスで聞くオボロ。
『えーとね……長老の製法メモ見てるんだけど……中々上手くいってないのが現状よマスター』
メルが答えてくれた。
(海神が作るんだから、メル達でも難しいんだろうな)
休憩を終え、再びスーデルの町へ向うオボロ達。
スーデルの町━━
オボロ達の定期行商がザザ村に到着した頃……。
南門から少し離れた高い木々が密集したし陽の光が遮られた場所……。昼間でもそのせいで薄暗くあまり人は寄り付かないような場所。そこに依頼終わりのグレードD冒険者スコットとグレードE冒険者大型犬の獣人ヌイケンが居た!
「おいおい……ヌイケンさんよぉ……この辺の見回りはいつしたっけ?」
物陰に隠れ、双眼鏡のような物で対象を見ながらスコット。
嗅覚と聴覚を活用し感知するヌイケン
「半年……いや一年はしてないと思う……」
ギルド依頼の中には町周辺の見回りがあり、獣の大量発生や縄張り、巣の有無をチェックする何気に重要なものがある。早めに対処するために。
鼻をくんくんさせ、耳を細かく動かすヌイケン……。
「スコットよ……間違い無く……『エービー』だ!」
━━『エービー』だと?
双眼鏡を降ろしヌイケンの方を向きスコット
「やばいねぇ……凄くやばい……あいつらって前に襲って来たのって……確か……三年くらい前だったよな?」
無言で頷くヌイケン。
三年前━━
スーデルの町の中にまでエービーの群れが現れ、ペットや家畜……それに小さな子供まで連れ去られ……奴らの食料となってしまった悲しい事案。
「とにかく……トスクールに報告して……奴らの苦手な煙を焚く準備しねーと!」
額から冷や汗が垂れるスコット!
「あぁ!早いに越した事は無い!」
ヌイケンは湿った肉球の手を強く握る!
二人は走ってギルドへ向かった!
木々の密集した奥の方では、土を集めて形成されたと思われる巨大なエービーの巣が周囲の木を巻き込み要塞のように構築され、その周りにはヌルっとしたカプセル状の卵が無数に巣穴から地面へ落とされ━━
まさに今、産まれようとしていた!
白濁色のヌルっとしたカプセル状の卵……。
バリ!バリ!バリバリ!
卵の中から自ら殻を割り、強靭な顎で噛み砕き……それを食べ始める者もいれば……巣の周りを四枚の羽で鈍い音で飛び始める者……。
産まれたてのエービー……体調は1メートルから1メートル半ほどか……。
下部は海老の尻尾の様な表皮で丸まっていて、胸部、頭部は蜂に酷似し、細く硬い骨の様な前脚が印象的……。
空腹なのか……産まれたエービー同士で共食いをする者も居た!
体当たりをし、顎で噛みつきそのままバリバリと食べる者……。
下部の海老の尻尾の様な部分で卵から産まれて来たエービーを叩き、気絶させ食べる者……。
巣の周囲には無数の空腹状態のエービーが活動し始めた!




