第5幕〜商人魂・そして誕生
私はスーデルの町の雑貨店店主カインツ……代々町の生活のために商品を仕入れ、販売し利益を捻り出しています。久しぶりの定期行商に来ていますが……今までと雰囲気が違う!
━━マーマン達が楽しそう
今までは特に余分な会話もせず仕事をこなし町へ戻る定期行商……今回は近くにオボロさんがいるせいか……私にまで話しかけて来るマーマン達。
(この村で、オボロさん達は頼られ、信頼されているようですね)
我々人間と違い、気さくに話しかけられ、笑い合うオボロさん達とマーマンと猿達。少し威圧的な黒い羽のクロネさん……彼女もあんな表情で笑えるのか。そしてまだ子供のようなアミュちゃん……長旅で疲れているだろうに、どこにあんな体力があるのか、子供達と遊び楽しそう……。
(スーデルの町民……いや人間達は……私も含め外見で判断し過ぎてる……安全にかつ速くザザ村に来られたことは感謝しなくては……)
あれは雑貨屋のルーベさん……オボロさんが紙を渡し何か話している。
「ルーベさん、猿達に大きな弓は持ち歩き難いから……こんな感じなのを作成してみては?」
紙を見ながらルーベ
「ふむふむ……片手で持ち……ここに伸びる革を張って……石を放つ……うーん……それならアミュちゃんの糸なんてちょうど良さそうです」
頭上に豆電球が光るオボロ!
「それだ!アミュの伸びる糸なら威力も上がるかも!手伝えないけど……色々試作してみてよ!ルーベさん!」
何か道具でも作るのか……そんな内容の会話が聞こえた。
スカートを履いた猿と話をしているクロネさん……。
「で、ミリルはその若い猿に求愛されてるのね……」
少し困ったような顔で頷くミリル。
「想う人が居るなら……きっぱりお断りするのがよろしくて?」
自分と重ねたかのような回答をするクロネ。
「やっぱり……そうです……よね」
と、言うミリルの目線はオボロを見つめていた。
どうやら恋愛相談らしい内容だった……。
「うわぁ!高い高いっ!ローグすごーいっ!」
ローグと呼ばれた大きな猿に肩車してもらっているアミュちゃん。確かさっきまで子供達と遊んでいたはずだが……。なんとも活発な女の子だ!
「ローグの腕ふとーい!ほらアミュぶら下がれるよっ!」
今度は長く太い腕に両手で掴みぶら下がり楽しんでいる。
(オボロさん達は、ここの村に馴染んでいるんだな……しかし町では……怖いと感じたり……あからさまに距離を取る人間も居る……)
雑貨店店主カインツは、行商をしながら、オボロ達を観察し、色々な事を考えさせられた……。
思いのほか持ち込んだ商品が、ほとんど物々交換出来たので、一泊させてもらい明朝立つことに話はまとまった。
集会所に大柄なローグがオボロさんに何か果実を抱えて持ってきた……。それを見て直ぐに走り……戻って来た!
「ここの土地でも実がなったんだ!やるじゃないかローグ!」
ぱしぱしと、背中を叩くオボロさん。
「キキッウキキッ!」
ローグは低い声で喜んでいるようにも聞こえた。
「引き続き世話を頼むぞ!で、これは貰っても良いの?」
両手を前にひょこひょこ差し出すローグ。
と、果実を私に山なりに投げたオボロさん。
「カインツさん!食べてみてよ!」
そう言われ……妙な形の果実を手で回し安全性を確かめた私。
(見た事ない果実ですな……)
ニコニコしているオボロさん……。
……かぷり……しゃくしゃく
━━!
なんだ?このみずみずしさと甘みとほんのり感じる酸味!歯ごたえは……フルーツタルトのメインのレッドサニーよりも柔らかく……喉越しも良い!
思わず全て食べ終えてしまった!
「どう?人間の口にも合うかにゃ?」
目を輝かせ聞くオボロさん!
「これが答えですよオボロさん!」
と、食べ終えた妙な果実の芯を振って見せた。
「それは良かったにゃ!」
と、嬉しいに答えたオボロさん。
(この果実……店舗で販売出来るかも……それに……町の名物フルーツタルトのメインにもなり得るかも……)
そんな閃きが私の商人魂を熱くする!
「あの!オボロさん!」
妙な果実をかじりつきながら振り向くオボロさん!
「んにゃ?」
私はオボロさんの前に赴き、頭を下げた!
「どうかそちらの果実……私の店舗で販売してもらうことは可能でしょうか?」
町の人が見たら……獣人に頭を下げる私を見て……指を差し嘲笑うでしょうね……。それでもこの果実は……魅力的!
「んーまだ果実……売れるほど実ってないんだにゃぁ……何個か分けるくらいなら可能だけど」
ここで諦めてはいけない!私の商人魂が強く訴えている!
「わかりました!では……そちらの果実が豊作でしたら……買い取りまたは物々交換をしていただきたいと考えております!」
しゃりっしゃりっ!
妙な果実を食べるオボロさん。
「わかったにゃ!カインツさんのお店には色々揃ってるし、きっとこれからもお世話になるから。……そうそう、これは……ひょうたん梨って言うにゃ」
「ほぅ……ひょうたん……梨……ですか……」
(始めて聞く名だ)
セリーヌの工房━━
水色の魔石の入った生成基と丸一日以上過ごしているセリーヌ……。
(私の魔力……かなり注ぎ込んでるさね……もしかしたらメルよりも賢くて良い子が産まれるかもさね!)
そんな期待をしているセリーヌ。
オボロの血と口髭を吸い込んだ水色の魔石……。残りわずかな血の小瓶……。
(残りは一気にやるさね!)
培養液に小瓶を真っ逆さまにし垂らす……。オボロの赤い血が培養液にゆっくり混ざりながら底へ沈む……。
コトコトッ……コトッ
反応し動く水色の魔石。
両目を閉じ……魔石を注ぐセリーヌ……。
……
(さあ!どうさね!)
椅子にどっしりと座り、生成基を見つめる……。
コトコト動き水色の魔石が血を吸い込み……薄く赤い培養液が……通常の透明な培養液へ戻って行く!
動かない水色の魔石……。
(駄目ならもう一本口髭さね!)
━━!
水色の魔石が静かに生成基の中程に浮かんでいく!
ゆっくり回転し、水色の魔石が光った!
(産まれるさね!)
水色の魔石は粘土のように柔らかくなり……人型に変化して行く!
(頑張るさね!)
応援するセリーヌ。
ニュルリ……ニュルリ……
培養液の中で、二枚の大きく透き通った羽が現れた!
身体から光りは消えホムンクルスとなり誕生した!
「美しい……さね!」
声に出し、見惚れるセリーヌ。
培養液の中の産まれたてのホムンクルスはまだ目を閉じている。
(これで目を開けてくれれば!)
産まれたてのホムンクルスを凝視するセリーヌ!興奮からか、息が荒い……。
培養液の中で細部が作られていた。
肌は向こう側が透けるような水色で、少し濃い水色のロングスカート……金色の腕輪……乳房が隠れるくらいの大きな貝……両肩に星のような物……髪の毛と言えるのか、流れるような水色の髪が肩くらいまで……。
その変化を息を荒くして見ているセリーヌ!
(今までとは全く違うさね!)
そして目を開ける産まれたてのホムンクルス!
……
セリーヌと目が合う水色のホムンクルスは━━
「……貴女……誰?」
(ん?何て言った?……聞き違いかもさね?)
目を丸くするセリーヌ……。




