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第5幕〜疑惑解消と期待

 

 ━━宿屋・グーグー


 一夜明け、少し遅めに起きてしまったオボロ。昨晩、お風呂にじっくり浸かりリフレッシュしたからである。もちろんメルもホノカも一緒にお風呂。窓を開け外を見るが……クロネ達が戻る気配は無かった……。


 そして今━━


 部屋は凄いことになっている!

 メルを含め二十数体以上いるホムンクルス達が、部屋のベッドメイキングをしたり、清掃したり、オボロの毛を整えたり……忙しなく動き回るホムンクルス達!メルとホノカが特に何もしていないのが気にはなるが……あえて何も聞かないオボロ。と、メルが


「どう?マスター?この子達の働きっぷりは?」


 後ろに手を組み、お褒めの言葉を待っているかのようなメルと……後ろに何故かホノカ。


(確かに素晴らしい働き……次に何をするのか考え、理解して動き、何かあればメルに聞きに行く……)


「ありがとう!みんな!でも……ちゃんと休んでな」


「ピピッ!ピッ!」


 声を揃えて鳴いてくれたホムンクルス達は、オボロの周りを隊列を組み一周しD=D(ディメンション=ドア)へ戻って行く。遅れてチビちゃんも、ペコリと挨拶して戻って行った。


「で?……ホノカはどんな働きをしたのかにゃ?」


 ニタニタしながら聞くオボロにホノカは……


「え?俺はぁ……マスターの隣で寝たり……お風呂入ったり……」


 呆れるオボロとメル……。


「まぁ……ホノカの火は有り難いから……な」


 パチンと指を鳴らしホノカ


「だろう?マスター?」


 と、勝ち誇ったようにメルを嘲笑い、それに苛立つメルが追いかけ回す!いつもの二体のやり取り……。


 ━━ゴーン!ゴーン!


 昼の鐘が町全体に鳴り響く!


(もう……昼かぁ……)


 ━━『……ちゃんっ!』


『お兄ちゃんっ!』


 と、微かにアミュのブレインマウスが!

 魔力が少なく上手く扱えないオボロはメルにブレインマウスを頼んだ!


 ……


「もうすぐ着くみたいだよマスター」


 メルが教えてくれた。


 しばらく待つ……。


 バサッバサッバサッ━━!


 窓の外にアミュを抱えたクロネ!メルとホノカが窓を開け、中へ入れた!


 滑り込むように部屋へ入るクロネ……アミュも疲れた様子……。

 叱りたかったオボロだが……自分のためにしてくれた事を考えると……言い出せない……。


 呼吸を整えクロネは床に片膝をつき━━


(きちんと伝えないと!)


「申し訳ございませんオボロ様!私の勝手な判断で飛び出してしまい……アミュまで巻き込んで!」


 クロネの真剣な眼差しと……張りのない羽を見れば痛いほど気持ちが伝わってくるオボロは


「俺のために……頑張ってくれたんだよね?とにかく無事に戻って来てくれて良かった!」


 気が抜けたのか……片膝状態を崩し、ペタンと座るクロネ。


「なんてお優しい……ありがとうございますオボロ様!」


 ベッドで寝転がるアミュにオボロ


「アミュ?クロネや村の人に迷惑かけなかったかい?」


 ベッドからむくりと起きアミュ


「大丈夫だよっ!クロネちゃんと狩りもしたし、おじいちゃんにも皆にも会えたしっ!楽しかったっ!」


 身振り手振りで楽しかったアピールをするアミュはリュックを降ろし、長老の手紙と瓶をテーブルに置き、クロネが説明する。

 手紙には、敵意は無く町に危害を加える事は無いことと、私達を信じて見守って欲しい事が書かれており、何か細工されていて、町長とギルド長の二人だけに見せて欲しいと。瓶の方はメルに、頼まれていた「亀孔雀の涙」で、大切に使って欲しいと。


 メルは両手を広げクロネに抱きつく!


「ありがとうクロネ!やっとこれで薬丸とか作れるよぉ!」


 どんな手段で聞き出したか不明だが……どうやら長老しか作れない薬丸の製法を教えてもらう約束をしていたらしい。暇そうなホノカを呼び、瓶を一緒にD=Dへ運んで行った。


 クロネとアミュは、何があったかどんどんオボロに話し、教えてくれた。あまりに情報量が多く何が大切な情報がわからなくなるオボロ……。


「うんうん。ダリルもゴーラさんも、問題無く生活してたんだな……それに見張り台や門、村の入口付近の整備まで!……あぁ!教えた甲斐があったよ!」


 少し目頭が熱くなるオボロ。


「クロネ、アミュ……教えてくれてありがとう!」


 そう感謝され二人も自然と笑みが溢れた。


 オボロは、お土産のフルーツタルトとクッキーをテーブルに広げ……


「フルーツタルトは冷めちゃったけど……皆で食べようか!」


 真っ先にアミュが飛び付き口へ頬張る!上品に口へ運ぶクロネは……


(冷めていても……なんだか美味しいですわ)


 ━━町長の屋敷


 先にギルドへ寄り、トスクールに事情を説明し、町長の屋敷の応接室に居るオボロ達……。


 宿屋の硬いソファーとは違い座り心地良いのに慣れない三人の対面に、町長のギラクとギルド長トスクールは座っている。緊張している人間……とオボロ。クロネは背筋を伸ばし強気な態度……アミュは落ち着き無くキョロキョロ部屋を見ている。


 アミュのリュックから手紙を取り出し……テーブルへ静かに置くオボロ。


(細工って何だろう?)


 ギラクとトスクールは目を合わせ、トスクールが手紙を手に取り……ペーパーナイフで封を切ろうとする━━!


 広角を上げニヤつくクロネ!


 ペーパーナイフが焼き印の蝋を切れない!


 トスクール「?」


 何度か試すが……切れない!


 と、ギラクが


「もしや……魔力による施錠では?」


 ━━!


「私、実際に触れるのは始めてですが……」


 弱気なトスクールはオボロを見る。魔力で細工されたのとか、良くわからないオボロはクロネに目配せしてしまう……。

 そのクロネは長老から手紙を受け取った時から魔力が込められていたのは気がついていた。


 スッと立ち上がりクロネ


「オボロ様からのお願いですので……私が開けて差し上げますわ!」


(あーなるほど、ね……機転効くなぁクロネ)


 手紙を預かり……魔力を注ぐ━━!


 封の蝋が蒸発し、開封された!


「では……どうぞ……長老様からのお手紙ですわ」


 勝ち誇ったようなクロネの態度。


(魔力じゃ……俺、無理じゃん?)


 役に立てなかったオボロ……。


 恐る恐る手紙を受け取り、中身を広げ……ギラク、トスクール顔を並べ、じっくりと読む……。


 ……


 読み終えたくらいだろうか……手紙の文字が浮かび上がり魔法陣へ変化していった!


 その魔法陣から━━


 海神のような姿の龍が現れ、大きく口を開き……音は無かったが威嚇している感じであった!


 それを見たアミュ


「あっ!おじいちゃんだっ!すごーいっ!」


 と、無邪気に拍手する。


 ギラク、トスクールは……海神を目の当たりにし……声を失い身体が震えていた!


(ザザ村の守り神……海神様……本当に居たのですね)


 ギラク、トスクール共に同じ事を思っていた。


 オボロも魔法陣から現れた海神に思わず声を出しそうになったが、咄嗟に口を押さえ平静を装っていた……。


(ネタばらしくらいしておいてくれよぉ……長老さんよぉ……)


 この細工にはクロネも驚いていた!


(長老さん……やっぱりご立腹だったようですわね!本当……有り難いですわ)


「ここまでされては……異論はありませね?トス?」


 ハンカチで汗を拭うギラクは同意を求め、無言で頷くトスクール。


「取り乱してしまい……申し訳ありませんな……」


 紅茶を一口飲むギラク。


「ザザ村にはこちらに危害は加えない事が書かれており、今後も友好的な関係でいたいとも書かれていました。そしてオボロさん達を見守って欲しいとも」


 ━━!


 オボロはニンマリと微笑んだ!


「━━それでは?」


「ええ、武器防具の大量購入、許可致しますよ」


 と、ギラクは快諾してくれた!


 オボロは思わずクロネとアミュにタッチを求めピンク色の肉球の手のひらを出す!それにアミュが最初に掛け声を出し答えた!クロネは少し恥ずかしそうにタッチした!


 ━━!


『クロネ、アミュ!ここは勢いに任せて……二人の魔獣化の事を見せておきたいんだけど?』


 と、オボロからブレインマウス


『それは良い考えかと!海神様の効果があるうちに!』


『アミュは別に良いよっ!』


 クロネもアミュも賛成してくれた!


 ギラクとトスクールは、紅茶を飲んでいるが……カップを持つ手は微かに震えていた……。


 オボロは二人の人間に対し


「ギラクさん!トスクールさん!ちょっと見てもらいたいものがあります!」


 紅茶の入ったカップをカタカタさせながら置く二人……。顔を見合せ……不思議そうにオボロを見る。


「えーと……カーテン閉めて良いですかね?」


 と、応接室の大きな窓から見える庭と噴水広場……。

 言われた通りカーテンを閉めたトスクール。薄暗くなる応接室……。


「とりあえず見て下さい」


 と、クロネとアミュを見るオボロ。


 応接室の空いたスペースへ移動するクロネ。


 胸元の魔法陣が赤く光る!


 ソファーに立ち上がるアミュ。


 額に魔法陣が赤く光る!


 クロネとアミュの身体がほんのり光り━━!


 応接室を埋め尽くすかのようにクロネは黒鳥……そしてアミュは蜘蛛のブラックウィドウになり本来の姿を見せた!


 ━━!


 トスクールはヘナヘナと腰を落とし座り込む!ギラクは顎が外れそうなくらい大口を開けていた!

 しばらく動かない二人の人間!


 薄暗い応接室に光る黒鳥クロネの黄色い目!

 ブラックウィドウ、アミュの赤く光る八つの単眼と八本の腹部の赤いライン!


 まぁ無理もないと感じるオボロは……


「出来れば他言無用でお願いしたいなぁ……なんて」


 無言で首を縦に振るギラクとトスクールは、まだ動けない。


(これは……獣では無くて……魔獣?)


 ギラクが思う。


(元冒険者として……萎縮するのは情けない……が、これ程の獣……いや魔獣を目の前にしたら……逃げ出したくなりますよ)


 トスクールの素直な気持ち。


 黒鳥のままクロネは


「そう言う事ですので……しばらくお世話になりますわ」


 黄色い嘴で羽を二枚取り、テーブルへ置くクロネ。


「これはお近付きの印ですわ」


 牙をニョキッと出しカチカチ鳴らしアミュ


「アミュだよっ!お兄ちゃんの事いじめたら……めっ!だからねっ!」


 ブラックウィドウの顔では無表情なので、可愛く言っても威圧もしくは脅しにしか聞こえないアミュの発言……。


「じゃー二人とも人型に!」


 言われた通り人型へ戻り、ふかふかのソファーへ座るクロネとアミュ。オボロは動けない二人に変わってカーテンを開けた。陽射しが入り込み応接室に明るさが戻る。


 まだ身体の震えが止まって無い二人……。落ち着くまで待つことに……。


 紅茶を飲むオボロ、クロネ……角砂糖を沢山溶かしてから飲むアミュ……。


(二人の心臓が止まらなくて……良かった……)


 そんな不安があったオボロ……。


 トスクールが膝を震わせ立ち上がり……ソファーへ座る……。


「オボロさんのオーラの量もですが……お仲間の二人の魔力量には……何かあるなとは感じていましたが━━」


 深呼吸し


「これで納得しましたよ!」


 少し平常心へ戻るトスクール。


「ギラクさん……私はオボロさん達を信用させてもらいますが……よろしいですか?」


 まだ動揺しているギラク


「あぁ!構わん!トスがそう言うなら!」


 と、ソファーに座り直し心を落ち着かせギラクは


「私はこの町が好きでねぇ……のどかだし……空気も良い!無駄な垣根は無しで……人間も獣人も手を取り合い生活出来れば良いと考えておる」


(見かけによらず……きちんと考えがあるんだな……それに俺の考えに近いかも)


 共感するオボロは


「ギラクさん!この町の全員に好かれようとは考えてません。俺達も含めこの町の獣人と人間が協力しあえれば、と考えてます」


 ━━!


 固まっていたギラクの表情が和らいだ!


(私の考えに共感してくれるのか!)


「オボロさん!クロネさん!アミュ……ちゃん!貴方達の気持ちを無駄にしないよう協力させてもらいますよ!」


 立ち上がり握手を求められた!

 オボロも立ち上がり、それに答えるように手を出し強く握手をした!


 海神、黒鳥、ブラックウィドウの脅しとも見方はあるが……オボロのスパイ疑惑が晴れた瞬間であった!


 ━━セリーヌの工房


『オボロ』と言う言葉に反応したように思えたセリーヌ。


 コポコポ……コポンコポン……


 生成基の培養液の音……。


(この水色の魔石がオボロって名前に反応したさね?)


「オボロ……ちゃん」


 静かに発音するセリーヌ。


 コトコトコトコトッ!


 培養液の底で動く水色の魔石!


「オ……ボ……ロ」


 コトコトッ!コトコトコトッ!


 転がるように動く水色の魔石!


(間違い無いさね……理由はわからないが……オボロちゃんに反応してるさね!)


 齢百を超える半魔のセリーヌは今までの経験、失敗、知識から何かを導こうと頭を抱えた!


(普通のホムンクルスの素材では……目立った個体差は無いさね!でも……ホノカは赤い魔石から……メルはオボロちゃんの身に着けていたネックレス……)


 唸るセリーヌ!


(魔石からの生成には……何らかの条件がある!さね?)


 今一歩近づけそうで近づけ無いセリーヌ……。


 ━━!


 部屋を飛び出し……何かを持って戻って来たセリーヌ!


(捨てなくて……良かったさね)


 手に持っていたのは……オボロの血の入った小瓶と……口髭数本!


 それを試しに生成基に近づけてみたセリーヌ━━!


 ━━コトコトコトコトッ!


 ━━コトッ……コトコトッ!


 培養液の中で、激しく転がり、跳ねる水色の魔石!


(可能性が見えて来たさね!)


 自分の推測が外れて無かった優越感と期待で……静かに……ゆっくりと口元が広がるセリーヌ。



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