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第5幕〜オボロとメルそしてセリーヌ

 

 スーデルの町━━


 なで肩のオボロがさらに肩を落として噴水広場を歩く……。覇気は無く……哀愁漂う毎日残業のサラリーマンのよう……。


(やっぱり言葉だけでは……この姿では信用無いのかなぁ……。クロネになんて言って叱ろうか……。アミュまで連れてさ……)


 問題有る家庭へ帰宅する父親の心境なオボロ……。

 ふらふら歩きながら、お土産を受け取りにオッテハウスへ……。

 お客の楽しそうな話し声……香ばしい店内……。スコットの彼女のクルミから受け取り、代金を払い、簡単にお礼を言いお土産を爪だけで摘み店舗を後にした……。


(なんかオボロさん……しょんぼりしてたような……)


 オボロを見送るクルミは思っていた。


 ふたたび噴水広場を、ぼうっと歩くオボロ……。

 三つ目兎の串焼きの店主に挨拶されたものの、適当に返事をしてしまうオボロ……。


(長老の頼まれた事、約束は破るわけにはいかない!……とにかくクロネとアミュの帰りを待とう!行動するのは……それからだ!)


 ━━宿屋・グーグー


 オボロ達のお世話になっている宿屋。店主のグーメラは元冒険者、奥さんのカヌスは垂れ耳の犬型の獣人、娘のカーラはアミュと同じくらいな年齢の人間と獣人のハーフ。


 カランカラン……。


 ドアを静かに開け戻ったオボロ。カウンターにカヌスとカーラが寛いでいた。オボロはお土産のクッキーの詰め合わせの袋を開け、カヌスにお皿を用意してもらい半分分けてあげた。喜ぶカーラは丁寧にお辞儀をしてくれた。そんなカーラの頭を撫で、お世話になってるからね、と笑顔で答えた……。しかしその笑顔は……やや引きつっていた事は本人も承知していた……。


 カチャ……。


 身体でドアを開け……ソファーに座るオボロ……。お土産をテーブルに置き、眺める……。


(フルーツタルト……美味しかったな……それに懐かしいマキちゃんの作ってくれるアップルパイの味に似てたし……)


 ……ふぅぅぅ……はぁぁぁ……


 長いため息をしてしまうオボロ……。自慢の髭が力無く垂れ下がる……。


『マスターマスター!』


 メルからブレインマウスが!


 用件はわかっているのでD=D(ディメンション=ドア)を出すオボロ。


 ━━バーン!


 勢い良くドアが開きメル、ホノカが飛び出し、お土産の所へ一直線に向う!


 ……


 オボロの確認も取らず、フルーツタルトの袋と箱を二体でで協力し開封。こういう時は息が合う二体……。

 目も羽も輝き、フルーツタルトの上空を忙しなく飛ぶ二体は


「マスターお土産ありがとう!食べて良い?」

「おぉ!なんか美味そうだ!俺も早く食べたいぜマスター!」


 とは言うものの……目はフルーツタルトを凝視。


 はしゃぐメル達に、クロネとアミュのぶんは残しておいてときっちり釘を刺すオボロ。そうしないと全て食べてしまいそうな気がしていたから。


 一切れをお皿に乗せ換え、各々好きな物を両手で持ち、テーブルにペタンと座り小さな口で頬張る……。


 ……


 ━━!


「なんだよこれマスター!甘くて美味しいぜ」


 興奮し口から超低温ファイアブレスを吐くホノカ!


「うんうん!思った通り美味しい!」


 メルは手をほっぺに当て感想を言う。


 嬉しそうで楽しそうなメル達を半分羨ましそうに眺めるオボロ。


(ホムンクルスに悩みってあるのかなぁ……)


 そんな事を思いつつオボロはフルーツタルトを美味しそうに食べるメルとホノカに質問する。


「なぁメル、ホノカ?人間は好きか?」


 ホノカが早速答えた


「俺はまだ産まれたばかりだから好きも嫌いも、わからないぜ!」


 クッキーの詰め合わせを開け、袋の中に侵入して行くホノカ。


 メルはフルーツタルトの欠片を食べ終え……べとべとの指先を舐めながら


「マスター?私はともかく……他のホムンクルスは人間じゃなくても興味のある物は好きなはずだよ。私は……人間には興味あるよ」


 ホノカがクッキーをグーパンチで割り、欠片をポリポリ食べ始めていた。メルもその欠片を手に取り眺め、口に頬張る。


(……そうかぁ……ホノカとメルでは……生きてきた時間違うもんな……)


「ほら、転生前は人間だったからさ……このガイアールの人間とも良い関係築けるかなぁってさ……」


 カリカリ!


 ポリポリ!


 メルとホノカのクッキーを噛む音……。


「外見、第一印象って……大切だよなぁ……クロネとアミュが魔獣化したら……騒動なるよな……」


 カリッポリッカリッカリッ!


 独り言になっているオボロ……。


 口の周りにクッキーのカスを付けホノカ


「その時はその時だぜマスター!俺が一面火の海にするからその隙に逃げれば!」


「ホノカー!そんな事したら大事件よっ!マスターに迷惑かけないことっ!」


 ぷんぷんしながら叱るメル。


 口を尖らせて、ご機嫌斜めなホノカ……。


「んーホノカ?さすがにその作戦は……俺も良くないと思うぞ?」


 クッキーの欠片を手に取りホノカ


「マスターがそう言うなら……我慢するぜ」


 カリッ……


 クッキーの欠片を小さく噛み口へ入れるホノカ……。


 オボロもクッキーを一枚爪で摘み口へ放り込む。


 カリカリッカリカリッ……。


 オレンジ色の夕陽が窓から差し込む……。


 ……


 メルがふわっと飛び


「ねぇマスター?師匠が何で『ブルーレディ』って呼ばれてるか知りたい?」


 ━━ブルーレディ


 セリーヌの通り名……悪い方の!

 工房でお世話になっていた頃、セリーヌからスーデルの町で人間達に何かされたら……


「ブルーレディが現れるぞ」


 って言ってみなさね、とニタニタしながら言われた事を思い出すオボロ。


「あぁそう言えば……人間達に何かされたら、言ってみなさねって」


 メルはオボロの膝の上に座りセリーヌの昔話を語り出した……。ホノカはテーブルに座りフルーツタルトの欠片を頬張っている。


 ━━まだスーデルの町すら無かった昔……この辺りは大小の集落がぽつんぽつんとあった……。崩れそうな家屋に住み、痩せた畑で取れた麦や野菜を食べる日々……。そんな一つの集落の片隅でひっそりと暮らす人間と魔族のハーフ、半魔のセリーヌ。人間から見れば半魔は目立つし、恐れられ、煙たがれる存在……そんな事もあり、都市部から遠く離れたこの土地で身を隠すように生活していた。

 話しかけられたと思えば……


「魔族の住処はここじゃ無いだろ!」

「いきなり魔法出すなよ?婆さんの心臓止まるからよぉ!」

「最近……獣が何度も襲って来るけど……貴女が居るからじゃない?」

「ちょっと!近寄らないでくれる?子供が怖がるでしょ?」


 ……と、辛辣な言葉ばかり毎日浴びせられていては気が滅入るし、表情も自然と悪くなるセリーヌ……。それを紛らわすために度々お酒を浴びるように飲むようになった……。


(セリーヌさんの酒癖悪いのは……これが原因か……)


 そう感じながらメルの語りを聞くオボロ。


 昼間から酒を飲むセリーヌにも、数人ではあるが話し相手をしてくれる人間も居た。

 酔っ払い……談笑し、泣き、怒り……色んな感情を酒を頼りに吐き出すセリーヌと人間達……。半魔の自分を同じ人種として対等に接してくれるその人間達には感謝していた。

 そんな日々が変わらず続いていた……。


 そんなある日━━


 集落の権力ありそうな家族の子供が大型の獣に襲われ……亡くなった。その権力者はセリーヌの手引きと考え、あろうことかセリーヌの家へ出向き……藁を巻き……松明で家を燃やした!

 中には酒を飲み明かし寝てしまったセリーヌ以外の人間達……。


 セリーヌはと言うと……まだ起きない人間達のために、酔い覚ましに効く薬草や木の実を森深くに採取に行っていた……。


 集落に戻ると━━


 自分の家が墨になり……ちょっと前まで酒を呑んでいた人間達の焼け焦げた姿!セリーヌの家の前では権力者が、ざまあみろと言うような態度で一人笑っていた!火災の処理を他の人間にやらせておきながら……。


 ポトッポトッ……パサッパサッ……


 両腕に抱えた木の実、薬草が足元へ落ちた……。


 セリーヌの頭の中で、わずかながらも気の合う人間と酒を飲んだ楽しい日々が巡る!と、同時に人間への憎しみ、怒り、救いようの無い幼稚な思考……も、腹の底から沸き立つ!


 まだ声を枯らし、息子の敵を取ってやったぞと叫びながら、笑い続ける権力者!


 この頃は……堂々と右頭部に角を生やし右目も青く半魔の姿で生活していたセリーヌ。


 その青い右目が血走った!目の周りに血管が浮き出る!


(抑え……られない……さね……)


 しゃがみ込み、ふくよかな乳を鷲掴みし、耐えるセリーヌ!


 さらに青い右目が血走り━━光る!


「あぁぁぁ……もう……どうでも……良い……さねっ!」


 背中からブラックウイングを生やし、魔法陣を展開し、有り余る抑えていた魔力を放出するセリーヌ!


 逃げ惑う集落の人間達と、笑いを止め慌てて逃げる権力者!


 その権力者はあっけなくセリーヌのファイアボールで炎に包まれた!

 燃え広がる家屋……人間。

 切り裂かれる柵や大木……人間。


 集落を飛び周り、叫びながら……涙を流しながら……魔法を放つセリーヌ!


 ……


 一晩……いや二晩暴れたセリーヌ……。


 ほぼ裸同然で、崩壊した集落の地面で目を覚ます━━!


「これは━━?」


 見渡す限りの焼け野原……倒壊した墨の家屋……人骨と思われる骨……。


 ゆっくり立ち上がるセリーヌ……。


 少し遠くに居合わせた、盗賊と思われる数人の人間は、セリーヌを見て━━!


「ブ、ブルーレディだぁー!」


 と、叫び走り去って行った!


(私のことさね?)


 群青色の肌、真っ青な長い髪……確信したセリーヌ。


「半端者は……馴染めない……さね……」


 焼け野原を後にし、どこかへ消えて行くセリーヌ……。


 語り終えたメルは


「これが最初の師匠のお説教なのよっ!」


 と、自慢気に話し、フルーツタルトを頬張った。


(セリーヌさん……つらかったよな……それでも……くじけず生きている!)


「話してくれてありがとうメル」


 セリーヌの昔話を聞き、自分も負けてはいけないと思ったオボロ。


 セリーヌの工房━━


 コポン……コポコポ……


 生成基に入れられた培養液の音……。


 奥の部屋の椅子に座り……水色の魔石を入れた生成基と、にらめっこしているセリーヌ。鼻がむずむずし━━


「ハックション!ハックション!……あぁ!ハックショーン!」


 鼻をすするセリーヌ。


「もしかして……誰か噂してるさね?」


 近くに居たホムンクルスが慌てて毛布を取りに行く!


(他の素材で生成するのは産まれて来るのに……この子だけ反応薄いさね……)


 毛布を受け取り足に掛けるセリーヌは、毛並みを撫でながら……


「良いさねぇ!このもふもふの手触り!『オボロ』ちゃんみたいさね!」


 ━━コト……コトコト……


 ━━!


(今、魔石動いたさね!)


 何に反応したのか思考を巡らすセリーヌ!


 ……


「……毛布」


 ……


「もふもふ……」


 ……


「オボロ……ちゃん?」



 ━━コトッコトッ!コトコトッ!


 生成基の底で水色の魔石が今までと違うように動いた!


(ど、どう言うことさね?)



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