第5幕〜武器調達
オッテハウス━━
スコットの彼女クルミが看板娘を務めるお菓子屋。そこでフルーツタルトをご馳走してもらったオボロ達。無理を言ってお土産として、二枚のフルーツタルトとクッキーとビスケットの詰め合わせを購入する事に。焼き上がるまで二階テラスから見下ろせる町並みを皆で見ていた。
後ろから声をかけるスコット
「どうだいオボロさん達ぃ!良い眺めだろ?」
自慢気に話す。
行き交う人々……中央の噴水……町の郊外に広がる黄金色の麦畑……少し見下ろす感じが……穏やかな気分にさせる。
(言われてみれば……気分良いな)
オボロの茶トラ柄の毛が緩く風でなびく……。
(上空から見下ろすのも良いですが……こういう角度も……悪くありませんわね)
オボロの隣に微妙な間隔を開け隣にいるクロネ。黒い羽を広げ……先だけオボロの背中に触れている……。
(人間が……小さく見えるっ!噴水の水がキラキラしてるっ!)
背伸びして覗き込むアミュ。
つま先がぷるぷる震え必死にテラスから覗き込む後ろ姿を、微笑ましくそして愛でるような視線のミティーラが居た。
(一生懸命なアミュちゃんも……可愛い!)
スコットは続ける。
「ここのテラス席は……予約しないと来られないんだぜ?王国の関係者とか貴族……平民でも金持ちな奴とかさ」
(そんな席だったのか……気を使わせたかな?)
「負けの約束を果たすのと……ここから見える景色をオボロさん達に見せたかった」
後ろで語るスコットを振り向いて見るオボロ。
「町には色んな人間が沢山生活してる。獣人もね。人間同士でも好き嫌いや、アイツとは合うとか、合わないとか、さ……」
(まぁ……そうだよな……)
人間として生活経験のある転生者のオボロは、首を大きく縦に振り頷く。
「その人間の中にも、獣人と協力したり、ともに生活したり、酒を飲んだりする連中もいる!……だからよ……嫌う人間は相手にしなきゃ良いだけ!」
(あからさまにってのは……後味悪いしな……)
「俺達を励ましてくれたのかにゃ?」
口髭をピンとさせたオボロ。
頬を指でなぞりスコット
「あぁ……うん……そんな感じ!」
照れ臭そうに笑っていた。
オボロはちょうど良いと思いスコットに相談した。
「この町に武器とか防具買えるお店はあるかな?」
「何件かあるが……俺が贔屓にしてる店で良ければ案内するぜ?……て言うか……オボロさん達には武器要らなく無いかい?」
オボロ、クロネ、アミュを順に見て答えたスコット。
「あーちょっと頼まれ事されててさ」
「今からお店行こうか!」
即決するスコットは下へ向う。ミティーラはアミュの手を取り一緒に歩いてくれた。クロネは……羽を広げテラスから店前へ降りてしまった。最後にオボロがトボトボ一階へ……。お土産は後で取りに来ると伝え店を出る。
━━武器と防具屋
スコットが小さい頃からの馴染みの店舗。古い建物の中に武器や防具が飾られている。定番のロングソード、弓、槍……革製の鎧やマント、鉄製の胸当て、鎧……兜。手頃なナイフや護身用なのか木製の剣もあった。
オボロ、クロネ、スコットは店内に、ミティーラは店前でアミュと遊んでくれていた。その姿を窓から見るスコット……
「アイツ……ミティーラはぶっきらぼうな所あるけど……小さい子供には優しいんだよ……」
(へぇーだからアミュのこと見てたのかぁ)
「歳の離れた弟がいてよ……可愛がってたんだ……けど、元々体の弱かった弟は……高熱を出して……下がらず……そのまま亡くなって……」
(身内の死は……つらいよな)
「俺が見るに……アミュちゃん相当気に入られてるぜ!」
「なんかそんな感じですよね」
遊んでもらってるアミュの笑顔を見ながらオボロは答えた。
クロネは店内を見ていた。
(人間も、こういう物騒な物を使うのですね……)
興味と言うより、どんな物か確認するようなクロネ。
オボロはロングソードや弓、革製の鎧を手に取り見て行く……。
(マーマン達にはサイズ合いそうだけど……小猿にはぶかぶかだよな……弓も人間サイズみたいだし……持って移動するとなると……せっかくの機動力が落ちるかも)
「うぅぅーん」
両腕を絡ませ唸ってしまったオボロ。
(弓は諦めよう……)
スコットと談笑してる中年くらいの店主。品揃えや質はどうかと聞かれ……オボロは
「それなりに使えれば良いんだよ……それに沢山必要なんだよね……」
と、店主
「大量となると……ギルドパスをお持ちでも……そのぉ……理由を聞かせてはもらえませんかな?」
オボロはザザ村の状況を二人に説明した。
マーマンと手長猿が住み分けをし手を取り合って生活をはじめたこと。そして自衛のための武器防具が必要なことを。
……
(その話……真に受けて良いものか……)
スコットは冒険者、町の守り手として直感で鵜呑みには出来ないと!
「すまねぇ!オボロさん……大量購入となると……はい良いですよ、とはいかねぇ!」
「あっ!ちゃんと代金ははらうよ」
オボロとスコットで話の論点が違ってくる。
「それはもちろん払ってもらう事にはなるが……人数分の武器や防具を買うのとは……ちょっと違う」
ちょっと焦りながら話すスコット!
オボロ「?」
(大量購入なんて、お店からしたら喜ぶべきだろ?)
「ちょっと待っててくれ!トスクールさんに相談してくるからよ」
と、言い残し走って出て行くスコット!
店舗内の椅子に腰掛け待つオボロ、クロネ……。店主は奥へ引っ込んでしまった……。
ギルド長の部屋━━
━━バン!
ノックも無しに慌てて入るスコット!事務仕事中のトスクールは、何事かと言う顔で見上げる。身振り手振りで説明するスコット。とりあえず落ち着けと、水を飲ませるトスクール。
(オボロさんが武器防具を大量購入したい?……ザザ村のマーマンと手長猿のために?……スコットの慌てようからして……危険か……)
席を立ち上がるトスクール
「考えられることは……オボロさんがザザ村のスパイの可能性……それが事実なら友好関係であるはずのマーマンが、町に攻めてくる可能性も!理由までは不明ですが……」
壁を強く叩くスコット!
「あぁ!その線は大有りだぜ?……くそっ!俺がバカだった!強いオボロさんと仲良くなって……自分も強くなれるかも!って……」
頭を抱えトスクール
「定期行商人も護衛の冒険者も猿が村に居たと……それに皆、オボロさんのおかげとも話していたそうだ……」
しゃがみこむスコット
「マーマンと猿達が攻めてきたら……俺達だけでは太刀打ちできねぇよ!」
立ちながら慌てて手紙を書いていたトスクールは、スコットへ渡す!
「この手紙をオボロさんへ……内容は、ザザ村の長老に武器の大量購入の真意が知りたいことだ!」
その手紙を奪い取るようにして部屋を出たスコット。
町長の屋敷━━
自分で庭の木の枝切りをしていた町長ギラクの元へ、目が真剣なトスクールが駆け込んでくる!
梯子からゆっくり降り枝切り鋏を置き、話を聞くギラク……。
━━!
「オボロさんがスパイの可能性ですと?……確かに武器の大量購入には理由の届け出は必要ですな……」
落ち着いて話すギラクに対し興奮気味に話すトスクール
「あくまでも可能性の話で!仮に本当であれば、何かしら対応しなくてはなりません!町民の避難!冒険者や兵の応援依頼!防衛の柵の設置……」
トスクールを落ち着かせながらギラク……
「トスらしくないですよ?冒険者の頃はもっと冷静に判断してたと思いますが?」
その言葉に落ち着きを取り戻すトスクールは、深く深呼吸する。
「そうですな……オボロさんがまだ町に居るのなら……あからさまに動くのはまずいでしょう……それに、大量購入の真意はまだです。何か理由をつけて購入を先延ばしするのはどうでしょう?」
「ギラクさん、申し訳無い!少し熱くなってました!確かに仰る通りかと。私とスコットと腕の立つ冒険者にだけでも用心するよう伝えておきます!」
と、冷静さを取り戻したトスクール。
武器屋━━
バッターン!
ドアが勢い良く開き息を切らせて現れたスコット!
オボロの背中の跳ねた毛を直していたクロネ。二人ともスコットを見る。
「どうした?慌てて?」
のんびり尋ねるオボロ。
(この冷静さが……余計に怪しくみえてしまう!)
トスクールからの手紙をオボロに見せたスコット!
息を整え……
「大量購入のことなんだが……色々手続きが必要なんだわ……だから……この手紙をザザ村の長老に渡して返事が欲しいってトスクールから頼まれた」
(なんかお役所仕事みたいだな……)
「武器を売らないって訳じゃねぇ!ただ……その……オボロさんの話が本当かどうかで……」
オボロの跳ねた毛を直す手が止まり━━
クロネは羽扇子をスコットに向け━━
「ちょっと貴方!オボロ様の言う事が……嘘とか怪しいとか言いたいので?」
オボロを悪く言われ、だいぶご立腹なクロネ!
後退りするスコットは
「いやいやクロネさん!そんな事は言ってねぇ!」
スコットに詰め寄るクロネ!
「いいえ!私にはそのように聞こえましたわ!」
(クロネ……そんなに怒りを露わにしなくても……)
クロネの勢いに手が出しにくいオボロ……。
クロネの圧に負け床に座り込むスコットは、弱気で話す……
「俺だって……オボロさん達を信じてぇ……けど、トスクールの判断でよぉ……」
━━パシッ!
クロネはスコットの手紙を奪い取り━━
「オボロ様?私が飛んで、疑いを晴らして来ますわ!」
と、オボロの返事を待たずドアを強く閉めて出て行くクロネ!
「あっ!……とりあえず気をつけてぇ……」
聞えていないが……見送るオボロ……。
(何か……大事になっているような……)
武器屋前━━
ミティーラとアミュが、地面に絵を書いて楽しんでいた。
━━バタンッ!
周囲にわかるくらいの音でドアから出て来たクロネの顔は険しかった!
羽を最大で広げ、砂埃が立つくらいその場で羽ばたかせた!
顔を腕で防ぎながらミティーラ
「えぇ?ちょっと何?何?」
「クロネちゃん……?怒ってる……?」
珍しく冴えているアミュの発言!
アミュを見下ろしクロネ
「えぇ!アミュにでもそう見えます?」
真上に飛び、ザザ村の方面へ向きを変えたクロネ。
『クロネちゃん?もしかして狩りに行くの?』
アミュからブレインマウス
(オボロ様だけではアミュを面倒見られるかしら?)
……
『狩りもするけど……付いてらっしゃい!アミュ!』
それを受けアミュは指先から魔操撚糸を飛ばし、クロネの脚に絡ませた!
「では、参りますわよ!」
そのままアミュをぶら下げ町を後にするクロネとアミュ。
カチャ……
武器屋のドアが静かに開く……。
砂埃でむせながら入ってくるミティーラ……
「クロネさんとアミュちゃん……飛んでちゃったけどぉ……何かあったぁ?」
店内であった事を知らないミティーラ。
━━!
「はぁ?アミュまでぇ?」
慌てたオボロは窓から除くが二人の姿は……もう無い……。




