第5幕〜遺品整理
現代の回は近いところで、
第83、84、90話となっています。
現代━━
クリスマスも終わり年末年始で慌ただしいこの時期に、爽太とマキの通夜と葬儀はひっそりと行われた……。にも関わらず予想以上の弔問者が来て、対応に追われてしまったサキ。懐かしい面々にも会えたが……
「落ち着いたら……また今度ね」
と、返すのが精一杯。
葬儀が終わり、住職に呼ばれたサキ。
「無事にお二人とも、新たな旅路へと向かわれました。妹さんの方は、とても貴女に対し感謝をしておりました。旦那さんの方は……憂う面持ちで、涙を流しておられました……」
「わざわざありがとうございます」
丁寧に頭を下げたサキ。
(マキに私の頑張りが届いたみたいね……爽太君は……なんで涙を?……やっぱりナナちゃんの事が……心配?)
━━そして新年を迎えた。
ハッピーニューイヤー
何を持って幸せなのか……
今のサキ、ナナ、ダイキには、亡骸が見つかり無事に見送ってあげられたことだろう……。
今年の年末年始は、慌ただしくも静かに過ごすサキ達……。
冬休みが明け新学期が始まる。ナナは中学二年生、ダイキは高校一年生。ナナはそろそろ受験を考える時期でもある。志望校をある程度絞りそこへ向かい勉強に励むことになるだろう。
葬儀で、ようやく会えた亡骸にきっちりお別れを言えていたナナ。完全には吹っ切れてはいないが、退院した頃に比べれば数倍も良い笑顔を見せてくれる。飼い猫のきぬ、その仔猫のおぼろ、そして一人息子のダイキ、妹マキの愛娘のナナ……みんなまとめて面倒みる覚悟で新年を迎えたサキ!
ダイキは、爽太の遺品の針の止まった時計を形見として貰っていた。
勉強机の一番目に付く所へ大切に飾り、決意を口にしていた━━
「爽兄ぃ!俺、建築業界で仕事するよ!決めたんだ!強い道路や天候にも負けない壁とか子供みたいだけどさ……それに……爽兄ぃみたいに……作業服が似合う大人にもなりたいなって」
形見の時計に、気持ちを熱く語るダイキ。
寒空の下ベランダで白い息を吐きながら星を見ているナナ。首からは両親の結婚指輪が通されたネックレス。手のひらに乗せ顔と星が同じ位置になるくらいに掲げた。
「私……14歳になったんだよ。パパとママが今の私くらいの時はどんな子供だったのかなぁ?パパは反抗期だったって話をしてたけど……ママはどんな感じだったのかな?……あっ!サキさんに聞けば良いんだぁ!ふふふっ」
ベテルギウス、シリウス、プロキオン━━冬の大三角形の頂点が、爽太、マキ、ナナと重なり……三人の絆の線で結ばれ……キラリ輝く。
「はぁぁぁ……ママのアップルパイ……また食べたいよ……」
大きく吐き出された深いため息は真っ白く、夜空へ立ち昇り……静かに消えて行った……。
リビング━━
ナナもダイキもそれぞれの部屋へ行き、リビングにはサキときぬ、おぼろ。寒いのかきぬに寄り添い二匹とも丸くなり、きぬはおぼろを優しく毛繕いしていた。目を細め気持ち良さそうなおぼろ。
カーテンの隙間から月明かりが射し込むのを、ぼんやり眺めソファーに座っているサキ。
(慌ただしい年末年始も終わって子供達は新学期始まって……少しは日常に戻ってるわね……)
珍しく缶ビールをちびちび呑んでいるサキ。
「そろそろ、二人の寝室とか片付けしないと、ね」
一月半ば━━
青葉家二階、階段を登り直ぐ目の前の部屋はマキと爽太の寝室で……今は━━
開かずの間
とは言っても、自然とそうなってしまった。いつでもマキと爽太が帰って来ても良いように少し整理し、たまにサキが窓を開け空気の入れ替えをする程度と、きぬが勝手にドアを開けベッドで寝るくらい。ダイキもナナも、帰って来ると信じて、入らないようにしていた。
休日を利用し皆で遺品整理をする事に。一日では終わるはずもなく、二連休のうち一日は遺品整理の日にしばらくなる。
ゴミ袋に不要な物を選別し入れていく……。
ナナは、両親の身に着けていた物、愛用していた物、そこにある物は捨てたくない気持ちでいっぱいで、涙ぐみながら作業する……。
そんなナナをサキは作業しながら、目を合わさず
「ナナちゃん?苦しかったら、休んでても良いのよ?ここにある物はナナちゃんにとって宝物だもんね……」
作業する手が止まりサキを見るナナ。
(サキさんも……つらいはず……)
「このゴミ袋に入ってる物は……パパとママに返さなきゃ!」
強がるナナだが、目と口が震えていた。
サキもダイキも頷きながら作業を再開。
と、ダイキ
「なぁ……母ちゃん……爽兄ぃの仕事で使ってた道具とか本……俺が貰っても良いかな?」
サキ、ナナ「?」
「え?何?どう言う事なのダイキ?」
自発的なダイキに少し驚くサキ。
ダイキは少し恥ずかしそうに
「あー……なんて言うか……俺……爽兄ぃと同じ仕事……したいなって……」
頭を掻きながら気持ちを言ったダイキに━━
サキは飛びつき抱きしめた!
「あんたから……そんな言葉が出て来るとか……嬉しい事言えるようになったね!」
苦しそうなダイキ。
母親に抱きつかれ、恥ずかしいダイキ。
それを見て、微笑するナナ。
(ダイ兄……将来の事……考えてるんだ……偉いな)
休憩を挟みながら遺品整理するサキ達。たまに様子を見に来るきぬ隊長とおぼろ隊員。遊んで欲しそうに、部屋を出たり入ったりするおぼろ。ナナが抱っこし撫でると、喉をゴロゴロ鳴らし嬉しそう。
ダイキは爽太の愛用していた工具箱や道具、本を自分の部屋と往復し運ぶ。
ナナは手に取る物一つ一つに
(ありがとうパパ、ママ)
(大好きだよパパ、ママ)
と、色々な気持ちを伝えながらゴミ袋へ入れていく。
サキはマキのクローゼットを開け選別していた。
(はぁ……本当物持ちが良いんだか、物を大切にするんだか……)
呆れていたサキ。
マキは子供の頃から、物は大切にする方で文房具や鞄、衣類もそうであった。
(これなんて……二十歳の時私があげたジャケットよね?……スタイル変わらないマキだから着られて……当然、か……)
自分の体型と比べてしまっていたサキ。
━━!
クローゼットの奥にノートが!
手に取り……ページをめくる……
━━!
(これは……料理のレシピ?……それも手書き!)
さらにページをめくるサキ……
(マキが良く作る料理ばかり……もしかして……将来のナナちゃんのために残したのかしら?)
そう考えながら、さらにページをめくる……。
まだ白紙のページがあるが……最後に書かれたレシピは━━
『アップルパイ』
マキの昔からの得意料理!いや得意お菓子!
マキの用意周到さと、家族への愛が伝わって来るようで、目が熱くなるサキ!
(あんたには……敵わないわ)
と、ノートの隙間から一枚の紙がスルリと正座しているサキの太ももへ落ちた……。
別のノートを破って書かれたと思われる一枚の紙……
それに書かれた内容を、何度も目で読み返すサキ……。
━━!
(このノート……ナナちゃんじゃなくて……私に?)
その一枚の紙には……
料理が苦手なサキ姉さんへ
このノートを参考にして
次の旦那さんの胃袋を掴んでね
マキより
サキの目頭から大粒の涙が溢れた!
(本当何なのよ!お節介にも……程があるのよ!)
ノートとメモ紙を床に置き
「マキ……心配してくれてて……ありがとう」
ぼそりと呟き、静かに遺品整理しているナナの背中を見つめ……
(……このノート……今は私が預かるね……ナナちゃんが……お嫁に行く時に……返すから)
いつからそこに居たか定かではないが……
クローゼットの上で、きぬ隊長とおぼろ隊員は仲良く並び、皆の働きぶりを観察していた……。




