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第5幕〜どうせならまとめて……

 

 ぴちゃん……ぴちゃん……


 狭いお風呂場の天井から水滴が虚しく落ちる……。

 オボロの背中をメル達と流し終わり……残ったクロネは独り湯船で羽と身体を休め、大きくため息を漏らしてしまう……。


(はぁ……オボロ様に裸を見られ……なんて失態を……それに……メル達に後で小馬鹿にされますわ……きっと)


 羽と身体はリフレッシュしたが……心は……リフレッシュされなかったクロネ……。


 翌朝━━


 昨日とは違い毛艶が良いオボロとクロネに気付くアミュが、やたらと二人を触りまくる。


「ふーんお風呂入ったんだ!アミュも今度入ってみたいっ!」


 昨夜の出来事を何も知らないアミュが希望を伝えた。それに対しオボロは、狭いお風呂場だから、メル達と入ろうねと提案しておいた。


 軋む階段を降り一階へ行き、何故か困った顔のカヌスに挨拶し宿屋を出る━━!


 宿屋の前に数人の人間が!

 そして大声を出すグーメラも居た!


「だからっ!個人への直接の依頼はギルドでもルール違反なんだって!」


 中年の男性


「ギルドに依頼したっていつやってくれるかわからんだろーが!だから直接頼もうとしてるんだ!」


 頭を抱えるグーメラは、出てきたオボロに気付き━━体当たりで宿屋へ押し込んだ!そして内側から鍵をかけた!

 何度も叩かれる宿屋のドア……。


 カウンターの椅子に座り水を飲み干すグーメラは


「すまねえ、オボロさん!あいつら……昨日の麦食いの依頼の結果が噂になっちまって……オボロさんに直接頼みに来た連中さ……」


 ぽかんとなっているオボロ。


「で、直接の依頼はギルドではルール違反でよ。まぁ金目的で請け負う奴もいるがな……」


 真剣な眼差しでグーメラ


「オボロさん!何があっても直接依頼を受けちゃいけねぇ!はっきり行ってトラブルの種だ!……冒険者だった俺が言うんだ……気に留めていて欲しい」


 オボロが質問する。


「と、言うことは……ギルドに依頼もしくは指名の依頼をしてくださいって言っておけば良いのか?」


「あぁ!それが正解とは言えないが……問題は無い」


 人払いに疲れた様子のグーメラは言う。

 カヌスが窓から外を伺い、内鍵を解除してくれた。

 静かにドアを開け……ギルドへ向うオボロ達。


(新入りの獣人に対して文句や距離を取る癖に……役に立ちそうなら掌を返したかのように態度変えやがって……)


 コップを持つ手に力が入るグーメラ。


 ギルド━━


 数人の冒険者が居た……が、町の人とは違い視線はあまり変わっては居なかった……。むしろ一日で大量の麦食いを駆除し、手配書の獣まで片付けた冒険者となれば一目置く存在としての視線へと変化する。

 ミティーラが手を振りオボロ達を呼ぶ。昨日の精算あるからギルドパスを準備して、奥の部屋にと伝えられた。


 ギルド長の部屋━━


 すでにソファーに座り待ち構えていたギルド長トスクール!


「昨日は大変ご苦労様でした。あの依頼の場所の麦畑が一番広く収穫率も高い畑なので、麦食いに壊滅されては町も困るんですよね」


(優先順位ってやつか……)


「他の麦畑を使っている者からは、文句ばかりで……」


(だろうな……)


「前置きが長かったですね。こちらが昨日の依頼の報酬です」


 と、トレイに銀貨が並べられた。その隣に大銀貨も!


「こちらの銀貨が麦食い駆除のぶんで、大銀貨が手配書のぶんです。大銀貨なんて私でもあまり手にした事はありませんよ」


 袋に数えながら詰めるオボロ……。


(銀貨五枚と……大銀貨が二枚)


「ありがとうございます!」


「それでは皆さんのギルドパスを」


 オボロ達はそれぞれギルドパスを手のひらから出しトスクールへ渡す。

 ギルドパスがちょうど収まるくらいな台がテーブルに置かれた。


「依頼を達成したら、この台に置き、依頼の結果を記録させます」


 と、説明してくれたトスクール。


 作業するトスクールを見ているオボロ。

 ギルドパスが時折光るのが確認できた。


 ……


 それぞれにギルドパスを返すトスクールは


「ギルドパスを良くご覧になってもらえますかな?」


 ニコリと微笑む。


(何ら変わりはなさそうだが……)


 ━━ん?


 ギルドパスの左上!


 グレードGだったのが……Fになっていた!


「えっと……これは?」


 両腕を大きく広げトスクール


「昨日の結果と手配書の討伐!ギルドとしても私としても、文句の付け用のない成果だと言えましょう!特例でグレードを一つ上げさせてもらいました」


 喜ぶべきなのか……悩むオボロ……。

 現代で仕事をしていた頃は地道に勉強し経験して、やっと何ヶ所も掛け持ち出来る現場監督へなって行った爽太。たった一日で昇進、昇格など有り得ないと考えてしまう。


「まぁギルドが認めてくれたのならば……有難くグレードFで、また頑張りますね」


 と、伝えギルドパスをしまったオボロ。


「いやいやそんなに謙遜なさらずにオボロさん!グレードFなら選べる依頼も増えますし……」


(そうかぁ確かそんなシステムだったっけな)


「出来そうなのから、こなして行きますよ」


 と、伝え部屋を後にする。


 ━━ギルドロビー


 鎧姿で大剣を背負ったスコットがミティーラと話をしていた。


 スコットに声をかけられるオボロ。


「俺も今日から冒険者復活だ!昨日は本当お疲れ様!今日は他の畑の麦食い駆除を、肩慣らしでしてくる予定だ」


 と、言い残し現場へ向うスコット。

 他の冒険者も依頼を受けたのかロビーにはオボロ達しか居ない。


 依頼ボードを眺めるオボロとクロネ。アミュは暇そうなミティーラに捕まって……洋服を触られたり頭を触られたりと、いじられていた。


 力仕事や手伝いの依頼もあるがやはり……麦食い駆除の依頼が多く目立つ。


(クロネとアミュの事を考えると……あまり人間と関わらない依頼の方が今は良いだろう……だったらまとめて)


 パシ!パシ!パシ!


 とりあえず三件の麦食い駆除の依頼書を取りミティーラの所へ。


 目を丸くするミティーラ!


「えー張り切り過ぎよぉ?」


 などと言うが、内心嬉しそうなミティーラは受付を済ませ三枚のバインダーを渡してくれた。



 一件目━━


 クロネが上空から麦食いを探し、オボロとアミュに居場所を教え駆除。そんな作戦で行うことに。

 その作戦が見事に成功し、畑周辺に居た数体を駆除!


 二件目━━


 先程と同様にして、十体ほど駆除!


 三件目━━


 上空からクロネが降りてきて首を横に振る……。周囲には居ないのか?……アミュ囮作戦へ変更するオボロ。アミュのお気に入りリュックに麦の束を詰め込み畑周辺を走り回ってもらった……。


 待つこと数十分……


 走ってくるアミュの後ろから数体の麦食いが!


 オボロの角錐(つのきり)で突き刺し、クロネのエアカッターであっさり駆除。


 荷車に口だけを放り込み一旦ギルドへ……。


 戻る途中━━


 別の麦畑で誰かが依頼を受けている模様……。

 荷車を止めて様子を伺うオボロ達……。

 左腕に丸く小さな盾、一般的なロングソード的な剣の犬型獣人ヌイケンが麦食い駆除をしていた。


(あー確かヌイケンさんだっけか……どんな狩り方するんだろうか)


 麦食いの口から、さほど痛く無い麦の殻が飛ばされた!

 盾で防ぎながら近づくヌイケン……。


 間合いが詰まった所で━━


 剣を振り下ろし一刀両断!


(おぉ!やっぱり剣は格好いいなぁ)


 なんか少しバテ気味なヌイケン……。


 後方の長い雑草に隠れて麦食いが━━!


(んー犬型獣人なら気付くか?)


 ……気付いて無さそう……。


 クロネもアミュもヌイケンには全く興味無い様子……。


(はぁ仕方ない……)


 角錐を握りダッシュするオボロ!


 ヌイケンの背後に立ち、角錐で雑草ごと薙ぎ払う!


 ━━ズバズバズバッ!


 薙ぎ払われた雑草の向こう側に麦食いがラッパ状の口に麦を頬張っていた!


「どれだけ駆除すれば良いんだにゃー!」


 珍しく苛立ちを口にしてしまうオボロは、食事中なのをお構いなしに、角錐で真上から突き刺し、もう一体を水平に突き刺した!


 麦食いから角錐を引き抜き、血を地面に払い捨て、背中に角錐を納めたオボロ!


 その戦いぶりを間近で見たヌイケン……。


(手際良過ぎだな……)


 立ち上がり、オボロへ


「悪いなぁ……手助けしてもらって……」


 振り向きオボロは


「たまたま通りかかっただけだから……怪我なくて良かったにゃ!」


 と、ヌイケンに手を振り自分の荷車へ戻るオボロ。


 その背中を見てヌイケンは


「あんな小せえ背中なのに……見事な狩りだったぜ」


 ギルド━━


 昨日の事を踏まえ、荷車に大きめな布を被せギルド前に荷車を置くオボロ。

 たまたまトスクールが居たので、裏への行き方を訪ね、そこまで移動する。

 裏口からミティーラに三枚のバインダーを渡し完了の確認をしてもらう。


 ……


「ねぇ?まだお昼前よ?良くあんなに駆除出来たわねぇ……」


 関心と疑念が混ざったかの様な言い方なミティーラ……。


「んー三人で力を合わせて?……みたいな?」


 と、メルが良く使う半疑問形で答えたオボロ。


 あまり納得してなさそうなミティーラは、完了の受付を伝えた。


 オボロ達は宿屋へ戻り昼食を取り、午後も麦食い駆除の依頼書を可能な限りこなしていった。


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