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第5幕〜昇格

 

 クロネは自分の顔が緩んでいる事に気が付くと、直ぐにキリッと表情を変え、何事も無かったかのように振る舞う。


 オボロは落ち込んだクロネから普段のクロネに戻ったと思い込み……肩に手を当て


「判断ミスした事はキッチリ受け止めて……次からそうならないように気を付けるにゃ!」


 と、アドバイス。


 この短時間に、落ち込んだクロネと普段のクロネの狭間に━━


 ━━素直なクロネ


 が、存在していた事は……クロネ本人しか知らなかった……。


 ……死骸が灰になるまで、見守りがてら休憩する三人とホノカ。


 壊れそうな借り物の荷車を眺めるオボロはメルを呼び、同じようなのを作れないか質問する。メルは荷車の周りを一周し……作れると思うけど……道具と材料が足りないかもと答えた。材料は木材だとは思うが……道具が足りないとはどう言う事だとさらに質問。


「ねぇマスター?私達だって万能じゃないのよ?知識も経験も必要だし、それに……マスターの元居た世界の道具とか知識の方が凄く便利だと思うの!」


 力説するメル。


(ん?現代の道具?知識?確かにあれば効率良くなるだろうが……)


「なぁメル?何を目指してるんだ?」


 アバウトに聞くオボロ。


「マスターの旅が楽になるように一生懸命みんなで頑張ってるんだよ?」


 メルもアバウトで返す。


 ……


 さらにモヤっとしてしまうオボロ……。


 と、メルが話す。


「その荷車なら……木を切る道具でしょ?それから組み合わせる釘と金槌かなぁ」


(あーなるほど)


「良し!また町で可能な限り揃えようか」


 オボロの周りを飛び回りメルは


「さっすがマスター!話がわっかるぅ!」


 喜びながらホノカにちょっかいを出し、追いかけっ子が始まる……。リボンで巻きロープのように結った長い髪が尻尾のように動き逃げ回るホノカ……文句を言いながら黄色いロングヘアーをなびかせ追いかけるメル。そんな二体を見て笑うオボロ達……。


 ……


 麦食いの残骸が骨まで見事に灰となっていた。草原にそよぐ風に流される灰……。それを見届け町へ戻る。


 麦畑の脇を荷車で通過するオボロ達に、畑仕事中の人間の夫婦が何かを決意したかのように話しかけて来た。


「あ!あのっ!」


 呼び止められるオボロ達。荷車を停車させ、夫婦の方を向く。


「麦食い達を沢山駆除してもらい……ありがとうございます!……それに……最近出没し始めた手配書の獣まで……退治してもらい……なんとお礼を言って良いか……」


 夫と思われる男性は、オボロ達に萎縮しながらも一生懸命伝えてくれた。その心意気を感じたオボロは


「ギルドの依頼で……仕事だから!俺達の出来ることをしただけですよ。町の人が麦を育てたり、お店で商売したりするのと何も変わりませんよ」


 オボロのどこか人間らしい言葉に驚かされた感じの夫婦。荷車の荷物を見た夫は……


「えーと……見たところ手配書の獣の一部が見えないようですが?……ギルドへ持って行けば報酬もらえますよ」


 と、笑顔で教えてくれた。


(何?……D=D(ディメンション=ドア)の中だ!)


 荷車を持ち上げ、夫婦に教えてくれてありがとうと、感謝を伝え、人の居ない場所を探すオボロ。


 ……周辺を確認しD=Dからメルに首長コンドルの頭部を持って来させた。ちょっと不満そうなメルには……報酬が貰えるからと押し切った!


 首長コンドルを肩に担ぐオボロ……荷車はクロネとアミュで引いてもらうことにした。


 スーデルの町━━


 舌をベロンと出した首長コンドルを担ぐオボロは、人間からしてみたら野蛮な獣人に見えているであろう……。


(布か袋で隠すのが正確だったか?)


 そんな事を思いつつギルドへ向う。


 町長の屋敷の前を通りギルド前へ荷車と、首長コンドルの頭部をドスンと置くオボロ。


 あっと言う間に見物人が群がりざわつく。


 スコットが窓から見ていて、ミティーラにトスクールを呼びに行かせ、外へ出た。


 荷車と━━首長コンドルの頭部!


(手配書の獣?こいつは俺でも無理だぜ?)


 と、感じつつスコットはわざと見物人にも聞こえるようにオボロ達を労い、称賛した!


(少しはオボロさんの力になれたかな……)


 そんな気持ちのスコット。


 ギルド長のトスクールが鋭い眼差しで来た!


 ━━!


(あれは?手配書の獣!ついでに駆除してきたとか言わないで下さいよ?)


 ゆっくり拍手をし、トスクールもオボロ達を褒め称えた!


「いやぁお見事ですな!オボロさん!大量の麦食いの駆除に加え……手配書の獣まで!本当に、素晴らしい!」


(ここまで持ち上げなくても良くないか?)


 と、感じてしまうオボロは


「えーと、その……首長コンドルに……アミュがさらわれてしまったので……仕方なく退治を……」


 現場を見ていない者にしてみたら、嘘っぽく聞こえるが……事実、である。


 トスクールは、スコットや近くの男衆に荷車と首長コンドルを裏へ運ばせた。麦食いと手配書の報酬は明日以降でと言われ、オボロ達は見物人をかき分けギルドを後にした。


(騒ぎになりそうだから、宿屋に戻ろう)


 足早に宿屋グーグーへ急ぐ。


 ギルド周囲の見物人達は……


「獣人はやはり強いが……野蛮だな」


「仕留めたのを想像すると……恐ろしいわ……」


「麦食いの駆除は誰がやっても、わしら農家には有り難い!」


「ギルドのルーキー誕生か?」


 など様々……。


 ━━宿屋グーグー 


 ドアを開けると……何か良い匂いが……。

 カウンターに身を乗り出しグーメラが威勢良く━━


「お疲れさん!今夜は俺からのお礼だと思ってくれ!」


 と、奥さんのカヌスと娘のカーラがテーブルに何品も置いていた!


 テーブルとグーメラを交互に見るオボロ……。


「麦食い駆除に、手配書の奴まで!大したもんだぜ?オボロさんよぉ!」


 凄く嬉しげなグーメラ。


 アミュはすでに椅子に座り、まだかまだかと、そわそわしている。オボロもクロネも座り


「それじゃーグーメラさん……遠慮なく頂きますね」


 と、テーブルに並べられた品々を食べるオボロ達。

 普段の夕食の他に、人数分の三つ目兎の丸焼きに、ザザ村で良く食べた魚の干物、フルーツの盛合せ……どれも美味しそう。

 ばくばく勢い良く三つ目兎の丸焼きを食べるアミュ!今日は頑張ったから大目に見るオボロ。三つ目兎の丸焼きを半分切って分けてあげた。満面の笑顔で答えたアミュ!呆れながらもクロネは、何気に三つ目兎の丸焼きをすでに半分以上食べていた。食べている三人を見てカヌスは、追加で、野鳥の串焼きをお皿に山盛りで運んでくれた!野鳥の肉と野菜が交互に刺され、まるで焼き鳥のよう。

 美味しそうに食べるオボロ達を見ているグーメラ


(俺から見てもオボロさん達は……他の獣人とは何か違う……元冒険者としては目が離せねぇな)


 と、首をほぐすように回しゴキゴキ鳴らした。



 町長の屋敷━━


 ロビーに町長のギラク、ギルド長トスクール……そして何故かグレードD冒険者スコットが立ち話をしている。


 トスクール


「噂は見聞きしているとは思いますが……本日のオボロさんの依頼の結果と、手配書の結果です」


 と、報告書を渡し目を通すギラク。


 ……


 チラッとスコットを見て


「この成果は……今までの比ではないように思われますが……」


 肩身の狭そうなスコット……。

 頷きながらトスクール


「ええ、元冒険者の私ですら無理でしょう……それも一日で……」


 と、スコットが割って入る


「だから言ったでしょ?流しの冒険者よりも凄いって!」


 ……


 スコットの発言をスルーするかのようにトスクール


「特例として、グレードGから……E……と、言いたいですが……周囲の事もありますので……グレードFへ上げようと考えてます」


(俺と同じグレードDでも良いと思うけどな)


 スコット独断の判断。


 報告書を再度見てギラク


「最初にここへ来たオボロさんの言葉遣いや態度、今回の成果を評価するのであれば……グレードEでも良いと思いますが……トスの考えの方が……無難でしょうな」


 ギルド依頼初日にして、昇格を果たすオボロ達!



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