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第5幕〜ぶらりスーデルの町

 

 クロネの様子を見つつ町をぶらつく事にしたオボロ。宿屋から路地を歩き噴水広場へ━━


 朝から陽射しが強く噴水の水に反射しキラキラと輝く開けた広場。大小の露店が軒を連ね、町の人々が買い物をしたり世間話をしたり子供が遊んでいたりと……活気を見せていた。


(今まで猿やマーマンしか見てなかったから……新鮮だし……人間が生活する空間が懐かしい……)


 元の世界を思い出し懐かしむオボロ。


 アミュが噴水まで走って行く━━


 ━━ビッターン!


 石畳みの出っ張りに躓き、豪快に前に転けたアミュ!


 うつ伏せのアミュ……。


 両手を付き、ゆっくり立ち上がり……オボロの方を向く……。

 唇が微かに震え……目がうるうるし始めたアミュ!咄嗟に駆け寄り━━しゃがみ手を取るオボロ!


「うっ……うぅ……お兄ちゃんっ!……アミュ……泣かないよ?」


 弱弱しくも強く訴えるアミュ!


 近くのベンチで本を読んでいた老人


「偉いねぇお嬢ちゃん!私のだけど食べるかい?甘いよ」


 と、不格好な小さな飴をアミュの前に差し出してくれた。


 オボロを一旦見るアミュ……静かに頷くオボロを確認し……


「ありがとっ!おじいちゃんっ!」


 ニコッと笑顔で飴を口に放り込み、中でコロコロ転がす。

 飴を貰った老人に代金払う旨を伝えたが……笑顔で断られたオボロ。きっちり頭を下げ感謝の気持ちを態度で伝えた。

 アミュの服を整え、手を繋ぎ広場を歩くオボロ。


(増々子供化してる気が……)


 クロネも急ぎ足で追う。


(アミュはワザとなのかしら?それとも……人型にまだ慣れてないのかしら?)


 疑念と疑問のクロネ……。


 露店を覗きながら広場を一周巡り終えたオボロ達は、空いているベンチに腰掛けた。相変わらずアミュは噴水が気に入ったのか、近くまで行き真上に飛ぶ水と色々な場所から下へ流れる水を楽しそうに見ている。

 広場を一周してる最中……やはり周囲の目やひそひそ話は……気になってしまっていたオボロ……。クロネは少し険しい顔で警戒しながら歩いていた様子……。


 ひゅ━━っ!ひゅひゅ━━っ!


 狭い路地からビル風のように強めな風が広場を抜ける!


 ━━!


 と、鍔の広い帽子が風にさらわれ上空へ!


 ベンチを足場にジャンプするオボロ!


「━━っ!届かにゃーい

 !」


 さらに上空へ舞う帽子!


 落下して行くオボロの真横をクロネ━━!


「お任せ下さい!オボロ様!」


 と、帽子目掛け上空へ飛ぶ!


(オボロ様の失態を最小限に!)


 風に流される帽子を、サッと掴み……ぐるり広場を旋回するクロネ……。

 帽子を掴んだクロネに広場に居る誰もが歓声を揚げていた!


(あのご婦人かしら?)


 オボロ達の反対側で慌てた感じの女性を見つけたクロネは静かに降り立ち……


「この帽子は……貴女のかしら?」


 クロネにしては精一杯とも言える笑顔で話しかけた。


 上から下までジロジロ見る女性……恐る恐る自分の帽子を取り━━


「あ、ありがとうございます」


 逃げるかのように足早に去って行ってしまった!


 クロネに声を掛けようと向うオボロ……それよりも先にクロネの周りに人だかりが!

 背の高いクロネは頭一つ飛び出していた。クロネに触れるか触れないかくらいの距離を保ち、群がっている……良く見ると人だかりはほとんど女性!男性はその人だかりより離れて様子をみている雰囲気。


(人間臭さに……何かやらかしてしまうかも!)


 ━━オボロ妄想


『ちょっと何かしら?私はオボロ様の所へ行くので』


『それ以上近づかないで下さるかしら?』


『人間臭いので……もっと離れて下さるかしら?』


 など……クロネなら言い兼ねそうな台詞を思ってしまうオボロ━━


 羽扇子を広げ口元へ当て、苦笑いと言うか困った顔のクロネがいた。


(ちょっと何ですの?急に集まってきて!ただ飛んで帽子を取っただけですのに!……こ、こんなに人間臭さに囲まれるのは……きつい、ですわ)


 辛辣な言葉では無いがあながちオボロの妄想は外れてはいなかった……。


 人だかりでは━━


「空を飛ぶってどんな気分?」


「その綺麗な髪は……どんな手入れを?」


「そうよそうよ!その肌の艶の秘訣は?」


「その体型維持はどのように?」


 と、ほぼクロネの容姿に関して女性からの質問攻め!


 何から答えて良いか困る顔へ変化するクロネ……広げた羽扇子を持つ手が小刻みに震えてる!


(やばい!羽扇子振り回しそう!)


 人だかりに走り込むオボロ!


 ━━と、羽扇子を威勢良くパチンと畳み……周囲を黙らせた!


 一瞬静まる女性達……



「……慕う……恋……かしらね?」



 目を細め遠くを見つめるクロネ。

 その言葉に周囲の女性達から、悲鳴とも聞こえる高い歓声が広がった!そして女性達は恥ずかしながら、そして羨みながら散って行く。何かしでかさないか不安なオボロは、クロネが何を言ったのか聞く余裕など無かった。


「クロネー!大丈夫か?」


 噴水の縁に立ち声をかけたオボロ。

 後ろの噴水の落ちる流水が、風になびかれ飛沫を飛ばし、陽に反射され宝石のようにひと粒ひと粒煌めく!その前に心配そうにするオボロが手を差し伸べていた!


 ━━!


(何?この感じ?……普段のトキメキよりも……違うわ!私を心配し想って待つオボロ様!)


 カチッ……カチッ……カチカチ!カツカツカツ!


 徐々に早足になるクロネ!


 オボロの手を取りクロネ。


「ええ!何とか我慢できましたわよ!」


 やはり強がってしまうクロネ。


(本当は……とてもしんどかった……あの人間臭さに……)


 ━━!


 もふん!


 強がってはいるが……どこか不安そうな表情に思わず━━

 メル達の入った鞄を首から外し、クロネの顔を胸のもふもふに押し当てたオボロ!

 噴水の縁に立つオボロはクロネよりも背が高くなっており、ちょうど良く胸のもふもふに収まるクロネの顔!


 小声でオボロ


「人間臭さ……しんどかったんだろ?」


 もふもふな胸元に顔を埋めるクロネは……そのまま縦に顔を動かす……。


(嗚呼オボロ様のこの匂い……落ち着きます……)


 ほんの数秒程度ではあったが……クロネに取ってはそれ以上の価値のある時間であった!


 メル達の入った鞄を再度首から下げたオボロ。カタカタと動く鞄……。


『ちょっとマスター?何恥ずかしいことしてるのよ?』


『や、やるなぁマスターも』


 メルとホノカから抗議のブレインマウスが!


『あっ……いや……アミュもクロネも……大変そうだなって……俺が味方になってやらないとさ』


 呟くように伝えるオボロ。


 飴を舐めながらアミュも合流し雑貨屋を探すオボロ達。


 雑貨屋━━


 ギルドから数件離れた大きめな建物。店舗前には売り出しのような商品が並び、外にも店内にも買い物客が居た。クロネとアミュには並んであるのは手にしても良いが元の場所へ戻すことと、持ち出さないことを注意し、店内へ……。

 金物から洋服、生活雑貨と言った商品が並べられている。アミュは見る物全てが初めてで忙しなくキョロキョロする。

 本は店の奥の方のようなので、キョロキョロするアミュを呼び本の一角へ……二つ大きな棚にびっしりと本が目移りしそうなほど詰まっていた!古そうな本から新しい本まであり、ジャンルも様々……。


 首から下げた鞄を両手で持ちオボロはブレインマウスで


『メル?見えるか?』


 鞄の隙間から覗くメルとホノカ


『うんうん!見えるよマスター』


『火と炎の本は無いのか?マスター?』


 意味不明な事を聞くホノカ……。


 本棚前を左右に何度も行き来するオボロ……。


『あっ!マスター!上の棚にある図鑑!植物のと……獣の奴!それから……隣の魔法の奴!……でぇ……農耕の奴と、鉱石の図鑑!』


 言われるがまま両手で持つオボロ……。


(本……重たいなぁ……)


 とりあえず購入するため店員の所へ……。


 ドサドサッ!


 カウンターへ本を置くオボロ!

 それなりな量に困惑気味な店員は、計算し始めた……。

 銀貨三枚と大銅貨五枚と言われたので、銀貨四枚を渡し大銅貨五枚を受け取るオボロ。

 図鑑ばかりだから、価格は高かったのだろうか……。

 クロネとアミュにも手伝ってもらい……一度路地裏の人気の無い所へ……。


 D=D(ディメンション=ドア)を小さめに出し、買った図鑑と本を放り込むオボロ。


『あっりがとっ!マスター!まだ色々欲しいのあるから……頑張って稼いでねっ!』


 メルのブレインマウスの言葉の意味を真正面から向き合いたく無いと感じてしまうオボロ……。


(んー……メルが奥さんだったら……旦那は苦労しそう……)


 そんな気持ちなオボロ……。


 再び噴水広場へ向うオボロ達……何やら肉の焼けた良い匂いが!


 たまらずアミュ!


「お兄ちゃんっ!あれ食べたいっ!」


 本能で言い切った!


(小腹空いたし……)


「よーし食べようか!」


 露店まで行き購入するオボロ。

 この辺りに生息してる「三つ目兎」をさばき下味をして串焼きにした物。一本豆銅貨三枚!アミュもクロネも食べるだろうから……調子に乗り買い占めるほど買ってしまったオボロ!その量に喜ぶアミュ!横目でチラリと見て心で喜ぶクロネ。


 空いているベンチに座り、三つ目兎の串焼きを堪能する三人!


 青空の下、食べるのはやはり美味しいと感じたオボロ。


 それぞれ食べるペースは違うものの、その食す姿を通る人間は良く食べるなぁと言いたそうな顔で見て行く。


 言わずとも……幼児体型のアミュが串焼きを両手にペロリと食べる姿に、である……。



     【獣ファイル】


 ・三つ目兎


 額付近に目と同じくらいの模様がある事から、そう呼ばれている。比較的大人しく狩る側よりも……狩られる側である。繁殖力はそれなりにあるため個体数は多いと思われる。後ろ脚が発達しているため、その部分の肉は引き締まり食べやすい。



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