第三話
貴方は今まで誰かをいじめたり、いじめられたりしたことはありますか?
学校で。
職場で。
恋人同士で。
友達同士で。
直接いじめに関わらずとも、誰かがいじめられている場面に出くわしたり、それを傍観したり……なんて経験をした人は少なくないでしょう?
勘違いしないで欲しいのだが、僕はこの物語で「いじめをなくそう」だとか、「いじめは良くない」とか、そんな心底分かりきった主題について話すつもりはない。
赤信号で止まらなきゃいけないのは誰だって知っている。
じゃあ交通事故がなくなるかというと、それは別の話だ。大体、今まで散々、ご高尚なことを訴えてきたじゃないか。それでイマどうなった? 「いじめをなくそう!」と訴えていじめがなくなるのであれば、少なくとも僕がいじめられることはなかった。差別をなくそう、戦争をなくそう、偏見をなくそう……。
なくならない。何もなくなったりしない。大人はいじめが「なくなるもの」だと勘違いしているから、いつまで経っても、誰も報われない。
この物語は……いじめられたことのある人間なら分かるかもしれないが……そんなことは分かりたくないと言われるかもしれないが……この物語は全く貴方の助けにはならない。
誰も助けには来ない。もう知っているはずだ。だから貴方はイマ苦しんでいるはずだし、いくら親に、家族に、友人に、先生に、警察に、政治家に、神に、私を助けて! と 叫んだところで、何も起きやしない。正義の味方はやってこない。ある日突然、異世界の扉が開いて、世にも奇妙な能力を手にいれる……なんてことは決してない。
この物語は問題提起でも、英雄譚でも、お説教でも、ましてや遺書でもない。僕の生存報告書だ。如何にして生き残ったか? 周りから蔑まれ、疎まれ、時に命の危険を感じながら、毎日敵に囲まれた生活をどうやって生き延びたか? 一種のサバイバル本だとでも思ってくれればいい。
そんな大げさな……と言える人は、やはり今までいじめられたことのない、幸せな人生を送っている人なのだろう。だけど、物理的にも、精神的にも、毎日が死と隣り合わせというのは、何もジャングルの奥深くだけの話じゃない。
池に突き落とされたら、どうやって泳げばいいか。
運動器具の下敷きになって、倉庫に閉じ込められたらどうやって脱出すればいいか。
クラスメイトに万引きを強要されたら、いかに逃げればいいか。
そういう物語だ。
バイクがいきなり突っ込んできたら?
相手がバタフライナイフを取り出したら?
SNSで世界中に個人情報をばら撒かれたら?
誹謗中傷を受けたら? 炎上したら? 村八分にあったら? 勘当されたら?
教室で突然殺人事件に巻き込まれたら?
まぁここで結論を言ってしまうと、「逃げろ」としか言いようがないんだけど。「どこにも逃げ場なんてない!」と思っている人に、「僕はこうやって逃げた」と教えるくらいはできるかもしれない。特殊な道具や、特別な能力は必要ない。あり合わせのものでナントカしてこそサバイバルなのだから。
だがしかし、そうだ、僕の場合は……正義の味方とは言い難いけど、アイツがやってきたのだった。少年『X』。僕がこの物語の少年Aだとすると、彼はさしずめ『探偵役』と言ったところだった。