幕間
TVプロデューサーの佐伯は、正直落胆していた。
これじゃ、弱い。
たかが殺人事件じゃ、今時珍しくもない、視聴者に訴求力が無いと思った。場所は都内ですらない。殺されたのが中学生だったのも一長一短だった。センセーショナルだが、未成年者は扱いが難しい。
そのうち違うニュースが飛び込んで来て、みんなすぐ忘れるだろうと思った。いつもそうだ。そのうち飽きられる。SNSやニュース記事に批判コメントを書き散らして、次の日には蝗のように何処かに飛び去っていく。とはいえ凄惨な事件に、いつまでも執着し続けられても、それはそれで空恐ろしいが。
せいぜい持って一週間くらいだろう、と佐伯は見積もった。
せめて心臓を抉られて磔にされるとか、首をちょん切られて屋根に飾られるでもしないと、インパクトがない。後輩にそう愚痴ったら、戦国時代じゃないんですから、と笑われてしまった。だが、実際そうなのだ。数字が物語っている。片方でコンプライアンスがどうのこうのと宣いながら、片方では過激さを、より強い刺激を求めている。
机の上には所狭しとモニターが置かれていた。全てのモニターが、同じ顔を、同じ映像を流し続けている。青白く光るそれを見ながら、佐伯は深く座り直した。
TVは嘘ばかりだと良く言われる。
だが彼らが本当に求めているのは、そもそも嘘の方なのだ。真実や事実ではない。真実や事実ほど辛く、痛々しく、直視に耐えないものはない。誰もがそんな現実に耐えられる訳ではない。暗い現実より、明るい嘘がいい。ツマラナイ現実より面白い嘘がいい。
要するに酒や煙草と同じである。情報のアルコール、メディア界のニコチンタールだ。だから免許制なのだろう。酒や煙草に、法令遵守品行方正清廉潔白を求めてどうすると言うのだ。
何かもっとネタになりそうな、刺激的な現実はないか。
そう思って佐伯はネットを徘徊し始めた。ちなみに佐伯に言わせれば、インターネットは『情報の毒』である。もっとも、毒はたまに薬になったりするから侮れない。それはまぁ良いとして、しばらくすると彼は興味深いものを発見した。
「いじめ……?」
それは、被害者と思われる中学生男子Sが、クラスで誹謗中傷などのいじめにあっていた……と告発するカキコミであった。
こりゃあいい。
佐伯は手を叩いた。そのカキコミが真実かどうかは分からなかったが、当然、佐伯にはそんな事どうでも良かった。
果たしてこれが、毒になるか薬になるか。
佐伯は舌なめずりした。いじめの事実が発覚すれば、正義面したいだけの※※がこぞって炎上させてくれるだろう。誹謗中傷に悩んでいるタレントなんかも、日頃の鬱憤を晴らせとばかりに、喜んで薪を焚べてくれるに違いない。それで何処で誰が炎上しようが、後は野となれ山となれ、だ。どうせそのうち忘れ去られる事件だし。
あ〜あ。これで犯人がいじめっ子だったら、もっと視聴率取れるのになぁ。
そんなことを思いながら、佐伯は早速特集を組む段取りを始めた。