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対決! 迷惑をかけたくない貴族令息 対 婚約破棄なんて御免な貴族令嬢

作者: 千葉竜太

剣も魔法も無いお話です。

婚約破棄しません。

ただの茶番劇をお楽しみください。


 とある貴族のお屋敷、貴賓室でこそこそと男女が話し合っていたと思いきや婚約破棄だった。


「自己都合により婚約破棄を申し込みます」


 いきなりこれである。


 貴族の子息が何だか退職届にでも書いてありそうな一文でも読み上げる感じで婚約破棄をキメてきた。


「ちょっとよくわからないのですが、自己都合って何ですか?」


「この場合は婚約破棄が誰の都合で行われたかを明確にする言葉ですね。

 俺の都合で婚約破棄をするから責任は俺にあるって意味で大体問題ないと思います」


「いやそっちじゃないです」



「そっちじゃない?」


「内容ですよ。自己都合の内容が知りたいんですわ」


 令嬢の質問に唸り声を出しながら虚空を睨む子息。


 どうやらとても言いにくいらしい。


「真実が……」


 その一言を聞いて「ああ」と令嬢は納得する。


 真実の愛。


 世間を賑わす魔法の言葉だ。


 愛に真実もクソもあるものか。令嬢はそう思う。


 少なくとも一緒に暮らして不快でなければ愛と呼べるんじゃないか。


 彼女の中では愛とはそのくらい軽いものだった。


「宇宙の真実が知りたいんだ……」


「思っていたのと違う」



 宇宙の真実。


 割と漠然とした言葉である。


「異世界からの知識で知ったんだけど、

 この世界は星という名前の球体で宇宙の中を浮かんでいるんだそうだ。

 俺はそれが真実なのかどうか、生涯を賭けて調べ上げようと思う」


「え? 何それ怖い」


「ああ、怖い話だよな。

 俺も、ずっと世界は平べったいものだと思っていたし」


 うんうんと頷きながら子息は満足気だ。


「まずは簡単な高い所から見た方が遠くが見えるかどうかを確認しようと思う。

 これは世界が平面なら見えている場所は障害物以外に遮るものは無いが、

 大きな球体なら視界を離せばより広い範囲が見えるのではないかと言う仮説があって」


「いえ違います。そうじゃありませんわ」


「え?」


「それ、婚約破棄をしてまでする事ですか?」



 令嬢としては彼が何をしようとそこまで気にするつもりは無かった。


 彼女にとって必要なのは将来夫婦になる人が不快ではない事だけだ。



 例えば酒を飲んでは暴れない等、暴力的ではない。


 近付くだけで異臭がわかるほど不潔ではない。


 女癖が悪く平気で自宅に愛人を連れてくるような節操なしではない。


 金遣いが荒くて家が傾くような危険もない。



 そんな一緒に居て安心できる男性を望んでいるだけなのだ。


 だがそんな男を探し当てるのは、実を言うと難しい。


 貴族社会は欲望が渦巻いている。


 暴力的な男はいくらでも居るし、同様に見た目のだらしない男もたくさんだ。


 社交界に出席しては女漁りを自慢する男もそこら中に居る。


 金に関しては横領に手を出して家どころか国まで傾けるつもりかってヤツまで居る。



 なので、その真実の探求で婚約破棄をしなければいけない理由がちょっとわからない。


 変わった趣味ですね。


 それで済む話では?



「金も時間もすごい使うんだ」


「ああ、それで」


「これから俺がやろうとしている事は利益に還元が可能とは限らないんだ。

 君には迷惑をかけたくない」


 彼としては今後の人生を赤字しか出さないだろう事業と心中するつもりだった。


「まあそういう理由ならわかりますわね」


「わかってくれたか」


「なら婚約破棄はしません」


「えっ!?」


「黒字経営にしてくださいな。それで済む話でしょう?」


 ばっさりと令嬢は言い捨てて見せた。


「え……えぇ?」



 利益を出し続ける。


 彼はそれが出来ないと判断したから出した結論だった。


 まさかそれが真っ向から否定されるとは考えてもみなかった。



「私にとってあなたよりまともな婚約者を見つけるのって出来るかどうかわからない事なのよ。

 変な趣味に目覚めたくらいで手放す気は無いの」


 真実がどうのと言い出した時はついに狂ったかと思った。


 そのくらい彼は真面目だし貴族社会を生きる者にしてはまともな精神をしていた。


「だっ……だがその君の言う変な趣味は君に迷惑をかける。

 俺にとってそれは不本意だ」


「そんな事を言える貴族がどれだけ貴重かわかって言ってらっしゃる?」


「え、いや……知らない」


「私もあなた以外に見たことが無いくらいですわ」


「そんなに」



 婚約者に迷惑をかけるくらい平気な貴族は多い。


 妻に迷惑をかけるのが平気な貴族は更に輪をかけて多い。


 大体の貴族は伊達と見栄で生きているのだ。


 金が無いなら税を取れば良いじゃないってノリだ。


 何しろ彼女の知っている貴族の中には税率100%を超えた徴収をしたヤツが居た。



 税率100%。


 つまり年内に税金として計算される物の利益を全部もらうという事だ。


 それを超えるという事は、つまり本来税金として計算されない利益からも取る。


 彼らのいる国で言えば農家は小麦が税金として徴収されるが、小麦以外も全部持っていく。


 今までの貯蓄も全部持っていく。


 もう何も無いという所で最後に残った民を売る。


 その貴族の領地からは文字通り何も無くなって滅びた。


 そしてその貴族はこう言った。


「どうしてこの国はこんなに貧しいんだ」


 彼女が知っている限り、こんな貴族が二桁は存在する。


 まともな貴族は貴重だった。



「それで、まず高い所という事ですが、何か高い建築物でも作るのですか?

 塔を作るというのでしたらまあ確かにお金は必要でしょうけど」


「いや、高い塔を建てると言っても人も金も限界がある」


「まあそうでしょうね」


「だからまずは空を飛ぼうと思うんだ」


「はあ?」


 どうにも彼が手に入れた知識は、異世界産というだけあって彼女にとっては意味不明だ。


 人間が空を飛べるなんて聞いたことが無い。


 なので彼女がするべき事は決まっている。


「じゃ、まずは空を飛ぶことを利益にしましょう」


 金に換える手段を作り出す。


 どうやら障害はそれだけのようだから。


「利益に……なるかなあ?」


「あら、絶対にしてみせるわよ。任せて」


 ばっちり断言して見せた。


 もう婚約破棄なんて言わせない。


 貴族の令嬢は貴族の子息を逃がさないのだ。



作中のやばい貴族は平安貴族を参考にさせてもらいました。

このでたらめな貴族は歴史上に存在するのです。

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