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悪党の復讐  作者: 島津宏村
誕生と暗躍
7/22

計画と準備3

羽島に連れられもう一度、被害者宅のマンションへ向かう。


「証拠品は鑑識が全てかっさらっていきましたよ。」


「そんなことはわかってる。さっきは頭に血がのぼっていたからお前には言ってなかったが、細田の若造の言う通り、捜査方針を変えねばならん。」


「そうなのですか?では、容疑者の候補者を増やしていくと?」


佐々木は不服そうに聞く。それは聞いた彼自身がこのやり方は非効率な上、単に所轄の刑事を押し退けたいだけなのだと気付いているからだ。


「お前はどれだけ直球な男なんだ?俺たちは細田の指令とは逆のことをする。お前は今回の事件の犯人が警察内部の人間だと思っているか?」


「ええ。その可能性は十分あるかと。」


「もちろんその可能性はある。だが、今は犯人が外部の人間の可能性を考えに入れないわけにはいかない。」


「ではどうしますか?」


佐々木は見かけとは裏腹に繊細な性格だ。そんな性格とは反対に羽島はおおざっぱな性格と言える。彼には細かいことがわからないが、直感が外れることは佐々木から見てゼロといっても過言ではない。羽島、佐々木コンビが二年間に渡って何の問題も無しに続いているのは、羽島と佐々木の性格がぴったりと合うからに他ならない。


「それはお前の仕事だろう。だが、一つ方針を示しといてやる。被害者である、武田が何を見て何を聞いたか、そして何をしたか、もしくはしようとしたかを調べにゃならん。」


要するに羽島は細かいことを放り投げてきただけなのだと佐々木は思う。


「ではなぜここに?」


わかっていることだが、聞いてみる。


「それはもちろんお前に推理してもらうためだ。」


「何をですか?」


「とぼけるな。犯人がここでどんな風に武田を殺したかだよ。幸い、資料は俺の手元にある。」


抜け目のない刑事だ、と思う。


「わかりました。では鑑識に出された証拠等を教えてください。」


「分かった。では読み上げよう。被害者は武田健25歳。殺害方法は毒殺。ソファーに座って死んでいるところを武田の友人の刑事が発見。司法解剖の結果、胃の内容物に青酸カリが含まれたケーキが入っていたようだ。」


武田の部屋はそれほど広いものではなく、風呂とトイレ、洗面所台所、ダイニングとリビングがあるのみで、一般的なマンションにみられる『部屋』は寝室以外にはなく、マンションらしくはないなと思った。そしてダイニングには大きな机と椅子が2つ。リビングにはソファーそして絨毯が引いてあるが、それほど大きいものではなく、中央においてあるちゃぶ台と人二人が向かい合って座れる程度のものだ。


資料に目を通しているため、分かっているが一応聞いてみる。


「被害者は婚約はしていなかったのですか?」


「ああ、してないな。」


「あともう一つ。部屋の毛髪は調べ終わりましたか?」


「いいやまだだ。」


「鍵の状態は?」

これは必要な質問だ。被害者が自ら扉を開けたか、犯人に開けられたか。これによって捜査対象が変わってくる。


「こじ開けたような形跡はない。」


現場が荒らされていなかった。

被害者はケーキを食べて死亡。


「ケーキの賞味期限と被害者の死亡した日は同じですか?」


「少し待て…ああ同じだ。」


佐々木はもう一度ダイニングの机の写真を見る。フォークが一つと牛乳を入れたコップが一つ。ケーキと牛乳が合うものなのかと考えていると、ある仮説を思い付く。

刑事の仕事は一般の企業などと違って、8時間と決まっているわけではなく、泊まり込みで仕事をすることがある。となると、被害者はケーキを貰うもしくは買ってきて、家で食べるなどしただろうか。

ただでさえ忙しい日々だ。佐々木も例外ではなく、仕事が終わればすぐに家に帰って寝たいものである。ケーキの消費期限は長くても3日ほどだが、もし買ってきたとして、せっかく買ってきたケーキを食べないなんてことがあるのか。

となると、誰かが被害者の自宅まで毒入りのケーキを持ってきて食べさせたのか。それなら説明がつく。毒を本人にばれないようにケーキに忍ばせる工夫をしたために消費期限当日までてこずった。

だが、説明がつかないこともある。飲み物は一つしかなかったということだ。普通、客人が来れば中の良い友達でも飲み物くらいは出すだろう。しかし、現場に残されていた飲み物は牛乳のみ。


佐々木の仮説は現実味を帯びてくる。


次に武田の部屋を出る。扉を確認する。ベルは旧式のもので、相手の顔が部屋からモニターで見えるというような機能はない。

しかし、現場の毒の位置が仮説を否定するかもしれない。写真を見るに、毒はダイニングの棚に入っている。


「なにか分かったか?」


「少なくとも仮説はあります。まだそれと決まったわけではないですが。」

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