計画と準備1
「首相だと?」
「ああ。そうだ。首相を消す。」
俺はこの組織をみくびっていた。まさかここまでの目標があるとは。
「君が驚くのもわかる。しかしやらなければいけない。君には現在の状況を教えよう。
昨今の日本の政治家はある団体が牛耳ってる。
勿論、シンジケートもその団体の壊滅に取り組んだ。
団体の名は『A』。
Aは日本だけではなく、世界の国の政治家を取り込もうとしている。
彼らの目的は『A』つまり、全ての原点に立つこと。
これだけ聞けば君もシンジケートと手を組めばいいと思うだろう。
ただ、話はそう簡単にはいかない。Aの目的はある宗教と深い関わりがある。
その宗教の名は『源』。
人間をもとの姿に戻すと主張している。
もとの姿というのは、農耕にいそしみ、神を敬うことらしい。」
「それなら我らが神の意向にも沿ってるんじゃないか?」
「ただ、この話には続きがある。
さっき話したのはAの表向きの主張だ。
エージェントが持ち帰った情報によると、Aの目標はAの幹部に近い人物や、いわゆるAよりの政治家はある一つの場所に集まって、優雅な暮らしをする。
勿論、近代化された最新の都市で。
これが奴らの計画だ。
今の政治家や富豪は金は持っているものの、マスコミや警察に取り締まられることを嫌う。
だから何も言われず、好き放題できる島に住めるとなれば喜んで参加するわけだ。」
「その島ってのはどこなんだ?」
どうやらAはシンジケートの敵と見なされているようだ。
「本州一帯だ。」
「まさか」
「そのまさかだ。Aは日本を狙ってる。
だから奴らは政治に目を付け、影響や圧力を強めていた。
そしてとうとう議員全員がAの派閥になってしまった。
我々の目標を達成するためには政治の力が不可欠だ。そこで」
俺は割り込んで言う。
「首相を殺してAに揺さぶりをかける。」
「その通り。だがそれは大きな目標だ。まだすることがある。」
それは俺が考えている。
「ああ。そうだ。首相を殺して、どうなるか。代わりの政治家がやってくるだけだ。となればどうするか。お前たちはどうしたかった?」
「それは…君の仕事だ。」
「つまり、お前たちは何も考えていないということだな。どうやって揺さぶるかは俺に任せろ。」
今の俺には何でもできる。勿論政治家の揺さぶりも。
「今さらだが、あんたの名前は?」
「本当に今さらだな。私のことはrと読んでくれ。」
「分かった。ところでrお前には何ができるんだ?ある程度の知識はあるようだが。」
「ばれてしまったか。まあいい。その通りだ。私は根っからの軍人でね。最近は訓練をしてスパイとしても活動できるが、戦略を立てるほどの知恵がない。」
「計画を立てて相手に勝ちたいなら、まず自らの戦力を知っておく必要がある。」
「なら教えよう。
シンジケートのメンバーにはそれぞれアルファベットで名前がつけられている戦闘員が、p~zの11人非戦闘員がa~oの15人。
民間の軍事企業などとの契約があるから、人数は気にしなくていい。
ところで、君はどうするつもりだね」
俺は中学生の時に感動したことがあった。
それが1次方程式だ。
電車に轢かれる前ならこんなことは思い付かなかっただろう。
だが今は違う。
神によって俺の頭の効率は上がった。
1次方程式は適当な数を両辺にかけたり、わったり、足したり、引いたりすることでXの解が面白いように単純にでてくることがある。
相手の揺さぶり方も同様だ。
一目見ただけでは崩せないような方程式。
だが、一つの鍵となる数をいれることでいとも簡単に崩れ落ちる。
すなわち揺さぶるポイントは多くなくていい。
鍵となる人物をピンポイントで狙い、組織全体を崩す。
これが俺のやり方だ。
「ケーキ食うか?」
「食べる。作ったのか?」
「いいや、買ってきたのさ。」
唐突な誘いだが背に腹は変えられない。ここに来て、甘いものは食べてなかったからなおさら食べたいものだ。
うまかった。今までろくなものを食べてなかったことも関係しているのか、高級レストランに行った気分になった。
ついでだ。
「ケーキも買っとくか。」
友達にも食わせてやろう。