終結2
証拠は揃った。
あとは逮捕するだけだ。
佐々木は今日、早速伊々橋逮捕の準備を進めようとしていた。鑑識からの報告で、防犯カメラの解析より、伊々橋はトイレにたったあと、別の人物と変わっていることがわかった。以上のことを羽島に伝え、逮捕状の請求を雷田警部にしてもらうよう説明した。
これで、一件落着と思っていたが違った。
羽島と伊々橋を逮捕しようとしていたところ、三集警部が逮捕状を持っていたのだ。佐々木がそれに気付いたときは既に手遅れだった。
「伊々橋刑事ちょっといいかな?」
三集は容赦なく伊々橋の逃げ道を他の三集班の刑事に防いだ。伊々橋は怯えていた。
「はい。警部何でしょうか?」
「君を武田健刑事殺人の容疑で逮捕する。両手を出してくれ。」
伊々橋は憑き物が落ちたようにうなだれる。
心なしか安心したようにも見える。珍しいことではない。佐々木も逮捕の瞬間をよく見るが、追いかけられていたことが一種の不安材料となるのだろう。逮捕の瞬間に安堵の表情を浮かべることはある。
「羽島警部補!これはどういうことですか?
証拠は警部補にお任せしたはずですよ。本来、私たちが逮捕するべき容疑者をみすみす三集班にとられるなんて。私は責任を取れませんよ。」
佐々木は激昂はしないものの、羽島を責め立てる。
そんな佐々木を諭す様に羽島はゆっくりと話し始める。
「お前が怒るのも無理はない。だが、これはお前のためにやったことだ。」
佐々木が必死に考えて、犯人を推理した事件を羽島はみすみす他の班に教えてしまったのだ。
佐々木には理解できない。
不満を隠そうともしない佐々木を見て羽島は続ける。
「まさかお前は今回の事件で堂々と成果を挙げられると思っていたのか?もしそう思っていたのならお前は先読みができない男ってことだ。」
佐々木は羽島が何を言いたいのかがわからなかった。
「同族の首を取れば恨まれるに決まってるだろうよ。だが、三集警部が後始末をするなら、組織として何の問題もなく受け入れられる。その上、粛清の嵐が起きなくてすむんだぞ。これ程好条件なことがあると思うか?」
「確かにそうですが、それでは私たちの苦労はどうなるのですか?少しくらい昇進に繋がらないとやってられませんよ警部補。」
ここで、あえて警部補と呼んでみる。
「安心しろ。お前は昇進できる。階級が上がるわけじゃないが、もうすぐ、国北県警本部に配属されるぞ。こんなとこにいちゃ昇進なんぞできっこない。本部で成果を挙げてこい。」
まさか羽島がこんなことを考えていたとは。
佐々木は意外に思う一方気になることがあった。
「羽島警部補はどうなるのですか?」
「どうにもならんよ。このまま早田署の主として君臨してるさ。」
羽島らしいと言えばそうだが、できれば羽島も県警本部にきてほしいものだった。
「だがな佐々木、まだやることが残ってるぞ。」
「そうですね。」
まだ残っていることそれは早田署に紛れ込んだスパイを締め出すことだ。
羽島と佐々木は伊々橋を逮捕したばかりで忙しい三集班を訪ねる。
「三集陽実警部。少しよろしいかな?」
『三集陽実』突如現れた凄腕の警部。班に過半数の新人を抱えながらも、検挙率をトップレベルで保っている。
「ええ。構いませんよ。ですが、ご覧の通り、伊々橋を逮捕したばかりですので、単刀直入にお願いします。」
望むところだ。佐々木はストレートを繰り出す。
「今回の事件に、深く関わっているのは三集警部ということを申し上げたいまでですよ。」
さて、どんな反応をするか。『尋問はリング場で戦っていると思え。』羽島にそう叩き込まれた。
「その言い方は誤解を招く言い方ですね。確かに私は伊々橋の班長ですが、事件が行われることは知りませんでした。」
早くも選手交替だ。ここからは羽島のターン
「ほほう。あなたもなかなか手強いですな三集警部。しかし、あなた以外考えられんのですよ。佐々木説明しろ。」
「我々はまず伊々橋がなぜ犯行におよんだのかを考えてみることにしました。いわゆる動機というやつですね。」