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第1話 ありがちパターンです!

10話完結+番外編1話です。

2話は9時30分頃に投稿します。

「エメルダ‼なぜアリスのブレスレットを捨てたりしたんだ‼」


金髪碧眼、いかにも王子といった風貌の青年、クライス・タナティオス第一王子が私の前に立ちはだかり、声高に叫んだ。


王立学園の廊下、大勢の生徒が見物出来るそのど真ん中で。


(前はもっと理知的だったのに……)


毎度のやりとりに私、エメルダ・オーウェンは頭痛を覚えながら毅然と返す。

「殿下、何度も申し上げておりますが全く身に覚えが」


「クライス様!エメルダ様は何も悪くありません!ちょっと嫉妬しただけで」


クライス殿下の後ろで裾に捕まっているピンク色の髪の毛、ピンクの瞳をした可憐な少女アリス・キャメルがハキハキと表向き私をかばった。


人の〝セリフ〟に被せて話さないで欲しい。そして私が悪くないならなぜブレスレットのことを殿下に言ってここまで私の事を追いかけてきたのか……。




(セリフ?)





こめかみを抑える私の手がピタリと止まった。


私は今、なぜ自分がセリフを喋っているなどと思ったのだろうか。

ふと気がつけば、今、こうしている光景にも見覚えがある。


いや、連日濡れ衣を着せられてかなり見覚えがあるにはあるのだが、そういうことではなく視点が違った気がする。


現在ではなく、もっと前の記憶……。

横の窓ガラスに写った自分の姿を見て、私はハッとした。


そこには金髪に血の様な赤い瞳、いかにも気が強そうな大人びた少女が居た。


あ!


頭の中で電気が走った様に前世の記憶が駆け巡る。

前世で私は平々凡々の女子高生だった。なぜ、自分が今ここに居るのかは分からないがこれだけは分かる。


この世界は乙女ゲーム『ブーゲンビリア』の世界だと。


確か花言葉が愛に関する物でそこからタイトルが……いや、そうではなくてこの状況はまずい!



ブーゲンビリアはありがち設定まんさいの乙女ゲーム。


今目の前にいるメイン攻略対象の第一王子、クライス・タナティオスとその隣の少女、主人公であるアリス・キャメル男爵令嬢は絶対的な正義!


対する私は悪役令嬢のエメルダ・オーウェンは絶対的な悪‼



王立学園入学から今に至るまで数々の謂れのない罪を着せられたが、このままいけば半年後の卒業生パーティーで私は無一文で国外追放のはず。



「殿下‼私は彼女の事を虐めてなんて―」


いません!まで言おうとしたが既に二人は立ち去っている。


いや、普通に婚約者にひどくありません?


婚約者を罵倒して話を聞かず、別の少女の肩を抱いて立ち去るのは流石におかしいでしょ。

とは、思うものの時既に遅し。


まぁでも仕方がない。そういうルートよね。こうなったらやるっきゃないでしょ!


そう!アレを‼



【婚約破棄】を‼




ただし、謂れのない罪で断罪され婚約破棄、無一文で国外追放のハッピーエンドなどごめんなのでここは円満婚約破棄を目指す。


私はグッと拳を握りしめて決意を固めた。





その後、私はすぐに殿下に婚約破棄を希望しておりどうにか円満に破棄出来ないか相談に行った。


いや、行ったのだが。


「殿下は今貴方の様な者にお手を煩わせる時間は無い‼」


二人目の攻略対象者で宰相の息子、エレン・カーティスが立ちふさがった。


黒髪に緑の目を持ち眼鏡をかけた彼は、自分が正義です‼と私の事を睨みつけている。

彼の奥では殿下とアリスが手作りであろうマフィンを食べながらキャッキャウフフをしている。



公爵令嬢にやる時間は無くて男爵令嬢にやる時間はあると。

あっそう。


宰相の息子であるエレンと殿下、3人目にして最後の攻略対象者の騎士団団長子息、クリス・マクミルとは小さい頃から家族ぐるみの付き合いでその性格もよく知っている。


昔は、というよりも入学前は皆もっとかしこく常識的だったのだが変わってしまった。

ゲームの強制力というものだろうか。



「では、後ほどお時間をいただけ」

「殿下はお忙しいんだ!何で気遣ってやれないんだ‼」


護衛についていた赤髪赤目の青年、クリスが叫ぶ。


いや、だから被せないで欲しい。そして君らどうしたの?落ち着いて?



哀れみの目で彼らを見ながらひとまず、学園が終了すると帰宅した。

そしてすぐに、殿下の都合の良い時間を教えて欲しい旨を手紙にしたためて送る。



が、しかし待てどくらせど返事はおろか、殿下に近づくことすら出来ない。


「殿下、婚約の破棄についてご相談が」

「今忙しい‼」


彼はアリスお手製マフィンを食べるのに忙しいらしい。

いや、ほんとしょっちゅう食べますね。いいですけど。時間さえくれれば!





「ふぅ、どうしようかしら」

侍女が入れてくれた紅茶を自室で飲みながら、私は目の前に置いてある手紙を見つめていた。


差出人はリント・カーティス。

宰相の次男で私にとっては二歳年下の弟の様な間柄。

家族ぐるみの付き合いということもあり、彼も殿下と親しく、攻略対象はおろか国内にすら居ない彼は多分私の周囲で今一番正気な人。


リントは10歳で隣国に留学、14歳で留学で通っていた学園を飛び級で終了し、そこから2年間は外交補佐として既に宰相である父の手となり足となっている。


つまり、6年顔を会わせていない。


手紙のやりとりは頻繁にしているが、6年会っていない弟みたいな子に殿下の婚約破棄の件を知られるのはなんというかこう……姉、ではないけど年上として微妙な気がする。


「まぁでも、背に腹は代えられないわね!」


己のプライドと無一文の国外追放という実害、どちらを優先するのかは明らかだった。


うん、と一人で頷き、意を決してリントに婚約のことで殿下に相談したいが、殿下が会ってくれず口添えしてくれないかを書いた。







返事が来ない。


1週間経ったがリントからの返事は来ず、3日と開けずに来ていた手紙もパタリと止まった。

「兄に止められたのかしら」


私はというと相変わらず殿下とは会えず、入学までは殿下が通い詰めていた王宮の図書館に来ていた。


殿下の待ち伏せ兼、王族の婚約についてどうにかこちらから一方的に破棄出来ないかを調べている。

ペラペラと本をめくっていくと、目の前の席に男性が座った。


顔は確認していないが、こちらを見ている気配はする。

周囲の椅子は空いているのにわざわざ目の前に座るなんて嫌な感じだ。


私はすぐさま読んでいた本を閉じて無言で立ち上がった。



「嫌だなぁ、6年も会わないと人の顔って忘れちゃうんだ?」


かけられた言葉に目を丸くして目の前に座った人間を見ると、そこには銀髪に新緑の目をした青年が頬杖をついて悪戯っぽく微笑んでいる。



「…………リント?」

「名前は憶えていてくれて嬉しいよ。久しぶりエメルダ」


「リント!何でここに‼え⁉」

「ハハッまず座んなよ」


リントは外交補佐として働いているはず……まさか。


「無断欠勤?いえ、この場合無断帰国?」

「残念、愛しいエメルダのためでも無断欠勤は出来ないなぁ、ちゃんと父さんに言って休みをもらっているよ。それより婚約のこと殿下に相談したいって何があったの?」


「あぁ、私、婚約破棄をしたいの」

「そっか、協力するよ」



「そうよね、でも婚約破棄しないと……ん?」


協力する???今、協力するって聞こえた気が。



リントはこてんと首を傾げた。体は大きくなっているが少々甘い顔立ちだからか様になっている。

「協力するよ?何かプランはある?」


「反対しないの?」

「貴方が婚約してからの6年で情勢は変わったんですよ、エメルダさん」


茶目っ気たっぷりにリントは前髪を搔き分ける。


その様子を見てついクスクスと笑ってしまった。


この感じ、懐かしくて安心する。



リントは無表情がデフォルトの兄と違い、よく笑い、賢いのに威張ったところがなく、それでいて掴みどころが無い。


6年も会わず、年下なのに既に外交補佐をしているとなると手紙のやりとりをしていても彼が何か変わってしまったのではないかと少し怯えていたが、何も変わっていない。


体は大きくなってもリントはリントね。



「ではリント先生、どう変わったのか教えて下さる?」

私も冗談まじりに背筋を伸ばして顎を上げ、偉そうに聞く。


「ハハっエメルダ変わってないね、安心した。でも、まずは今の状況教えてもらえる?」


面白いと思っていただけたらやる気に繋がるので、ブックマークや評価(広告下の★)をしていただけるとありがたいです。

よろしくお願いします。


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