侵入者 7
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庄助は老人と別れて、覚王山のマナカのアパートに向かった。
連絡は取っていないけど、留守でも構わない、合鍵を持っているから。時間潰しに部屋でテレビでも観ていればよい。
だけどマナカはいた。マナカだけではなく、客人が二人いた。
マナカの紹介によれば、二人ともイラン人の同胞で―見るからにそうだった―背が高く痩せている方がウマル、太った方をジャミルといった。マナカもそうだけど、彼らは眉毛が濃く、黒目で、鬢から顎にかけての髭も黒い。端正で彫りが深く、人懐こい顔立ちのマナカと違って、二人は人相が悪かった。凄みのある顔をしていた。年齢はよくわからない。
庄助は不安になり、マナカの表情を窺った。
マナカは、庄助の不安を感じ取ってか、「お二人は観光ビザで来日しているけど、就労ビザを取得して日本で働きたいといっている」と、硬い表情でいう。親しい間柄でないことは読み取れた。
大丈夫かという目で庄助はマナカを見る。
マナカは、「受け入れ企業があるかどうか、尽力してみるつもりだ。君がそうしてくれたように」という。
マナカが彼らに庄助を紹介すると、彼らは砂漠のタカのような鋭い眼差しで庄助を見た。庄助は軽く会釈した。そして、「言葉の問題は大丈夫か?」とマナカに訊く。
「大丈夫じゃない。そこが問題よ」
マナカは同胞の二人にペルシャ語で早口に何かいった。すると機関銃のような言葉が相次いで返って来た。
マナカは閉口したように肩を上げ、頭を振って庄助にいう。
「ここに間借りして、日本語を学びたいというんだ」
「それは出来ない。勝手に同居も間借りも出来ない契約になっている」
「さっきからそういっているよ」マナカは庄助のいった通りを通訳した。
「第一僕は君を信じて保証人になっている」と庄助。マナカはそれは通訳しなかった。
イラン人二人が機関銃を撃ち合うように口論を始めたので、庄助は小声でマナカに訊いた。「どういう関係?」
「同胞というだけで、一面識もない。何処で知ったのか、突然押しかけて来て、弱ってるよ…」
「だったらキッパリ断った方がいい。(彼らを)距離を置いてサポートするのは良いことだけど、同胞というだけで、素性の知れない者に深く関わらない方が―」
「でもショウスケは信じてくれたよ」
「それは君が留学生という身分だったのと、話していて、信用がおけると判断したからだよ。多少の不安は今でもあるけれど」
険しい表情で彼らが庄助を見た。庄助は冷や汗をかいた。言葉が通じないことを前提に話していたけど、油断のならない目つきだった。
人に会う約束があるからといって、庄助は早々に退散した。
マナカが押し切られて、あの部屋がイラン人のたまり場にならなければ良いがと思いながら。