侵入者 14
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カブトムシは、玄関の靴箱の上の壁に両面テープで張り付けた。
部屋の蛍光灯を消して試してみる。庄助が外からドアを開けて(玄関のスモール灯は点灯)入ると、パッと、丸く白い光が、円形に六つ灯って玄関が明るくなった。部屋の蛍光灯を点けるといっ時して消えて、赤く小さな点滅となった。
「これなら仕事から帰った時明るくていい」と夏子は喜んだ。「でも、監視カメラんなのは見え見えだね」
「壁掛けか置物なんかでカムフラージュすれば、目立たなくなるよ。昼間は赤い点滅さえ遮蔽すればいい」
「そうする」
「でも電池代がバカにならない。夜出入りする時に点灯するだけだから、十日二十日は持つと思う」
見回しても近くにコンセントはなかった。「常備しようと思ったらアダプターを買って、部屋のコンセントから引けばいい。延長コードもいるな」
「わかった、そうする。これ幾らしたの?」
「五千円もしない。プレゼントするよ」
「悪いわ」
「いいんだ」
それから庄助は風呂に入った。
勿論、その前にトイレにテントウムシを仕掛けた。便座の後ろに棚があって、バラやシンビジュームなどの花が盛られたフラワーバスケットが置かれてあった。その中にうまく潜ませたのである。造花なので水やりがないから発見されにくい。発光もしないから電池は長持ちする。取り換えは月に一度くらいが目安と説明書にあった。
何食わぬ顔で風呂から出て、夏子が用意したコーヒーとプチケーキを食べた。
「毎日、というわけにはいかないから、録画は何か変化があった時か、一週間に一度、観ることにしよう」
「うん、そうだね」
「それでは僕はこれで。ゆっくり休むといい」といって庄助は腰を上げた。
「眠れる? なんだったら」
「何とかね。君の方こそしっかり寝なきゃ」
夏子は充血した目と潤んだ瞳で庄助を見つめたが、しいて泊まって行けとはいわなかった。庄助のアパートは覚王山にあり、友達とセアしていることにしてあったから、雨の中、そこまで帰るのは大変だろうという思いは伝わって来た。
庄助がリュックを提げて、玄関に向かおうとすると、夏子が後ろから抱きついてきた。
「オラボニ~イ」
暫時の陶酔の、のちに分別が二人を引き離した。
リュックを背負って庄助が玄関に行くと、カブトムシもどきがこれを捉え、パッと白く明るく輝いて、何年・何月・何日・何時・何分・何秒―というリアルタイムを刻み付けた。