侵入者 12
12
庄助と夏子は仕事が終わり後片付けを済ませてから、荒木が下におりたので二階の奥の部屋で話しの続きをした。
「完全密室の中でそういうことが二度も起きたのだとしたら、これはもうストーカーしか考えられない。君がいう通り、君を怖がらせて楽しんでるんだよ」
「でも、そんなことが可能なの」
「一つだけ可能性がある」
「ホントに? ドアノブごと鍵を取り換えたのに?」
「これでも検察官になるつもりで、司法試験の勉強をしていたんだぜ」
「名古屋大学法学部中退って本当なの?」
「ああ…そ、」
「頭いいんだ。でもどうして中退したの?」
「前にいった五年前の事故なんだけど、居眠り運転による死亡事故だったんだ。遺族のことを思うと、申し訳なくて。家族にも迷惑かけたし。一挙に自信を失くして、自分は生きていけるのか、自分に生きる価値があるのかと思ってね」
「まあ…そうなの…」
「君と一緒なら立ち直れるような気がする。この一件が解決したら、オレたちの恋は実だろうか」
「断然! だってあたし、イトコのお兄ちゃん以来初めてだもん、人を好きになったの」
そういって夏子は庄助の腕を取って体を寄せてきた。
二人はいつものように残り物を夜食代わりに食べるみなを尻目に店を出て、公然と寄り添って駐車場のアルトに向かった。
この様子をマネージャーの白木が店の入り口からメガネを光らせて見ていたけど、気にもしなかった。
マンションでは同じような点検をして夏子を安心させ、コーヒーを飲んだだけで、「準備に三四日かかるけど、それまでは毎晩サポートしてあげる。だけど、長居は出来ない。敵は、君から安眠を奪おうとしているんだ。その手に乗らないように。しっかり睡眠をとること」と言い聞かせて、絡みついてくる手を解いてから、思い余って、ぎゅっと抱き寄せた。二度とこんな機会はないかも知れないと思えたからだ。
そして、部屋を出た。
ネットカフェに行き、パソコンから通販で防犯カメラを二つ注文した。
一つは手の平サイズ、もう一つは親指サイズ、二つ合わせても一万円もしない安価なもの。手の平サイズを玄関に、親指サイズは密かにトイレに仕掛ける。バレたら大変なことだけど―。
送り先はやはりマナカのアパート。マナカにメールで受け取りを頼む。マナカの部屋には、六畳と四畳半の二部屋しかないのに、イラン人が五人に増えて居座っているという。
《入管に通報してやるよ。君も取り調べを受けるけど、君には就業ビザがある。連中は不法滞在で強制送還される。そうなるともう、君のアパートは目をつけられているから、不法滞在の同胞は誰も寄りつかなくなるさ》
《それはやめて欲しい。彼らはショウスケを警戒している。何をするかわからない》
《だけどこのままでは君の生活が脅かされるだろう》
《まあ、何とかなると思う。君には迷惑かけないよ。荷物が届いたら連絡する》
《オーケイ!》