8 転生者
「タカオ」
「わかってる」
ここまでとてつもない体力と怪力を見てきたが、剣技もまた凄まじいものがあった。飛びついてきた魔物を高速の剣速で迎撃、更に斬った部分を凍結させていた。ほぼ同時に、他の魔物が吐きかけてきた酸を炎をまとった剣で斬りつけ蒸発させ、魔物を突き刺し凍らせた。
魔法剣士。剣に魔法をまとわせ敵を攻撃するクラス。弱点に合わせ魔法を切り替えることで威力が増大する。
問題は速すぎる剣技。幼少から英才教育を受けていたとしても、あの歳であそこまで強くなるのは難しい、無理なのではないかな。
これだけ強力な人間が宿屋をやりたいからといって我々についてきたのだろうか? なにか狙いがある、もしくは理由があるのでは。彼女が帰ってきてから直接聞くことにした。
「実は転生者なんです」
あっさりと自分の正体を語るファティマ。裏はないように見えたけど、こうもすぐに話してくれるとは。
「ダナさんとタカオさんのやり取りを見ていたんですよ。それでこの人達も普通ではないな、と」
あのやり取りを見ていたのか。一般人や普通程度の冒険者では我々の動きは見えなかったはず。やはりかなりの手練。
聞くと、転生前はとある場所で宿屋を経営していたという。その場所は彼女にもわからないようだ。物心ついたとき自分とおじいさんの2人だけ。周りは魔物だらけで、人の気配は全くなし。結局死ぬまでお客さんは来なかった。
ゲームをやっているとなんでこんなところに宿屋とか、道具屋がってのはあったな。その爺さんが変わり者だったのだろうか。転生して生まれてからしばらくは村で過ごし、最近になって宿屋のことを勉強、活動をはじめた。
「それで、転生後しばらくしてから、最近になって問題が起きるようになったんです。たまに意識が飛びそうになったりするんです。かなり嫌な気配がするモノです」
彼女は決した表情をして言い放った。
「私を殺してください」
劇的な告白に言葉を失う。続けて彼女は語る。
ずっと装着していた首輪があった。お風呂のときも取り外せなかった。爺さんに聞いても説明してくれずうやむやにして「決して外さないこと」と言うばかり。思えばここになにか秘密があったのかもしれない。転生後、首輪はなくなっていた。数年たっても特に問題は起きず、次第にその事を忘れていった。そして最近になって発作が起きるようになる。首輪のことを思い出し行動しようとしたがもはや手遅れ。今後、何回後かの発作で意識を保てなくなるだろう。自分の中に自分とは違う何かがいることを感じる。もしかして暴れる可能性が。そこで強者を探すことに。
大体把握した。これは厄介だな。つまり、何が起こるかわからない。涙ながらに訴える女の子。……のるか。
「分かった。ただ、殺すかどうかは状況を判断してからな」
「ありがとうございます」
ダナを見る。うなずく彼女。
少ししてから発作が始まった。先程食べたものをすべて吐き出し、苦しそうにもがくファティマ。彼女の体からどす黒い光が溢れ出てくる。その光が少しずつ強くなり、瞼を開けていられないくらい強烈な光を放ってから徐々に光が収まっていく。目が慣れ見えるようになったとき、そこには白く巨大な剣を携え、重装備の鎧を身に着けた女性が立っていた。
「迷惑をかけたようだなあやまろう」
「貴方は」
悪魔でも出てくるかと思ったが、現れたのは話が通じそうな女性。肩透かしとともに安堵を。何故こうなってしまったのか彼女が説明してくれた。
その昔ある国を救ったが国王の裏切りにあい、仲間を殺され最後は自分も殺されようとしたとき、国を呪って死ぬ。そしてその呪いは不幸にもファティマにかかってしまい、彼女の祖父が隔離して呪いが発動しないように首輪に特殊な魔法を施したという。
現在会話ができるのは1000年の時間を経て冷静になったから。だが所詮は呪い。存在していてはファティマに害をなす。最終的には呪いが永続発動、ファティマは白剣の剣士になってしまう。彼女を救いたい。この剣を破壊してくれれば呪いは解ける。そのために強者が欲しかった。
「では頼むぞ。もし君が不可能と判断した場合はすぐに逃げ、代わりの強者を連れてキテクレ」
言葉の調子がおかしくなると同時に鉄兜のバイザーが下った。ダナがしまったという顔をする。そうか、もっと色々聞きたいことがあったな。だがもう戦闘が始まりそうだ。声をかけたが返事がない。先程の怪しい光を発し始める。そして剣が巨大化。おいおい、まだでかくなるのか。この剣を高速で振るう可能性がある。一旦バックジャンプをして様子を見る。最終的に剣は大人3人分くらいの長さに。
ウォーミングアップかな、剣を振り回す剣士。速い。ダナの足以上だ。切れ味も抜群。木、岩は簡単に切り刻まれた。もしかしてファティマの力も加算されているのか? ダナに逃げるよう伝える。剣を止め、こちらに向かって駆けてくる剣士。