7 宿屋志望の剣士
ダナとPTを組んでから5日が過ぎた。ダナのおかげで召喚術師のレベルは爆速で上がり、そろそろこの付近ではまずくなってきていた。
「そろそろ他の街へ行く?」
「そうだな」
そもそも一気に強いところで戦おうかとも考えたが、世界のことを学んでいったほうがいいなという結論に至り、召喚術士を上げながら各地をまわろうという話になった。すでに強いしね、焦って強化することはないだろう。それに超アップのおかげで一箇所に滞在する時間が少ないから強敵と会うのもそんなに遠い未来ではないだろうし。
「ダナはなにか目的がある?」
「様々なレースをやっているところがあるって聞いたからそこに行ってみたいな。本来ならそこで自分が最速であることを確認しようと思っていたんだけど。まあ、いつかは私が」
闘志を燃やすダナ。数日付き合って彼女の性格がわかってきた。俺よりも上手、とにかく足の速さにこだわる、そして負けず嫌い。あの涙は本当にくやしくてながした涙だったようだ。一途な切れ者といった印象。いい子が仲間になってくれたとヴァミの神に感謝。
二人で今後のことを相談していると、一人の女の子が俺達に話しかけてきた。
「お二人はこれからこの街を出て旅に? よろしかったら私もその旅に同行したいのですが、いかがですか」
ダナと同じくらいの時期に街へ来た女の子だ。歳も同じ15くらい。大剣を持ち歩き街でもかなり目立っていたから覚えている。おかげですでに彼女の情報がこちらにある。クラスは剣士、剣の腕はかなりのもの。将来は宿屋を経営したい。
「旅をしながらでも快適な安眠を提供できると思います」
どうする? とそっと目配せをするダナ。次に向かう街までは徒歩6日。馬車なら2日で到着するがお金がないので却下。となると野宿は必須。慣れた相手が、しかも宿屋の本業志望がいるならそのほうが安心か。承諾しようかな。断る理由もないしね。
「いいよ、一緒に旅をしよう」
「ありがとうございます! 私はファティマ、よろしくおねがいします!」
とても礼儀正しい子だな。尚更その大きな剣のおかげでギャップがね。3人で旅の相談。地図を見ながら経路を決めた。出発は明日の朝、準備をするということで一旦ファティマと別れる。食事と寝具はこちらで用意をすると彼女が。こりゃ楽でいい。
装備を新調したら? とダナが俺に。まだ布の服に銅の棒。そうだな、お金はそんなに無いけど新調しよう。武器屋で召喚術士の杖、防具屋で動きやすそうなローブを購入。
翌日の朝、街の入口に集合。ファティマがすごく大きな荷物を持って現れた。荷物を持とうかと言ったが、これも仕事ですと一蹴、断られた。にしてもきつそうな顔ひとつせず荷物を背負っている彼女。体は小さいがかなりの力を持っている。大剣といい、やはり只者ではないようだ。まあ、ダナは速いし、俺もおかしなステータスだしと変わり者同士いい仲間になるのではないかな。
「出発しようか」
「おー」
「行きましょう!」
出発から半日、地図を確認すると予定よりも速く移動していることに気がつく。皆身体能力が高いからかな。大荷物を持って移動しているファティマは全く疲れを見せない。タフだな。
夕方、今日の進行はここまで。早速テントをたてるファティマ。手慣れたものだと感心しながら見ているとすぐに完成。風がないから上部に布を乗せる程度にしたとの説明。次に川へ水くみに。帰ってくると火をおこし、鍋に水を入れ沸かし始める。
今度は透明なビニールのようなものを持ってまた水くみへ。少しして戻ってきた彼女を見ると、ベッド2つ分はあろう大きさのモノを持ち上げこちらへ。先程のビニールの中に水を入れたのかな。それをテントの下に。
「特製のベッド、スライムベッドです! 良い眠り心地ですよ」
触ってみる。ちょうどよい弾力、反発、触り心地。これはウォーターベッドだな。ダナはかなり気に入ったようだ、感触を楽しみながらはしゃいでいる。外皮はあるスライムの体液で出来ているという。本当に特別なもので人に見せるのは初めてだとか。いやいやしかしこれはありがたい。正直干し草を詰めただけの宿屋のベッドでは安眠とはいかなかった。それがまさか旅の途中でウォーターベッドにありつけるなんて。
鍋に近づき具材を投入するファティマ。いい匂いがこちらに流れてくる。今度は肉を焼きだす。こちらもいい匂い。焼き終わったら皿に置きパンを並べて晩御飯が開始。
肉に噛みつき食いちぎる。う、うまい! 肉に色々とまぶしていた。調味料かな。とにかく臭みもなく柔らかで味もいい。すかさず味覚を50に変更。うめえ!! ダナはウマすぎるせいか肉とファティマに視線を行き来させていた。気持ちはわかる。スープもパンも美味しい。「喜んでもらってよかった」と彼女。川が近くにあるので水浴びも可能。野宿は悲惨なことになると考えていたがむしろ街にいるときよりも充実している。この世界へ来て今が一番満たされているのではないだろうか。最高だ!
水浴びをしてそろそろ寝ることに。交代で見張りを、まずはファティマから。スライムベッドに沈み込む俺。ああ、このまま遠い世界へ連れていってもらおうじゃないの。ファティマが動き出す。魔物だな。走っていって敵を斬る。瞬殺。大丈夫そうだな、では寝よう。
と、いきたいところだけで気になることが多すぎるんだよね。