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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

3分短編シリーズ

幼馴染の公爵アハツェンは、幼馴染の男爵令嬢アンネリーゼを抱きしめる

作者: さとう

ヤンデレ推進委員会用の小説です。


「あなた、幼馴染でしたっけ? だからといって、アハツェン様の特別だと勘違いでもしているのかしら? だとしたら非常に滑稽ね……たかが男爵令嬢が、公爵である彼と釣り合うなんて本気で思ってる?」


 ああ。まただ。

 こうやって絡まれるのは、もう何度目だろうか。

 わたしは、ため息を堪えつつ笑顔を向ける。


「嫌ですわ、ドロッセル令嬢……わたしは、アハツェンの幼馴染ではありません。幼い頃、公爵様と何度かお会いしたことがあるだけで」


 わたしの名前はアンネリーゼ。田舎のしがない男爵令嬢だ。

 流行りのドレスなんて持ってない。化粧品だって市民が使う安物だし、癖の強い金髪を祖母からもらった古めかしい髪留めで留めている。どう見ても田舎令嬢そのものだ。

 今日は王都で開催される国王主催のパーティー。いちおう貴族だし、こうしてお呼ばれした以上、パーティーには参加している……でも、わたしはいつも、王都に住む貴族令嬢に絡まれていた。

 理由は簡単。


「失礼するよ」

「わっ」


 わたしの背後から音もなく現れ、そっと髪に触れる青年……アハツェン。

 この国で最も金持ちである公爵当主で、わたしの幼馴染……ということになっている。

 

「やあアンネリーゼ。今日も美しいね」

「あ、ありがとうございます。公爵様」

「公爵だなんて、アハツェンと呼んでくれよ。昔みたいにさ」

「あ、あはは」


 わたしは曖昧に笑うしかできない。

 目の前にいる令嬢……名前なんだっけ……が、顔を赤くした。


「アハツェン様! 初めまして。私はアーモンド侯爵の───」


 と、ここまで令嬢が言ったと同時に、アハツェンは手で制する。


「静かにしてくれないか? 今、アンネリーゼの髪に触れてるんだ……この極上の絹糸よりも柔らかで肌触りのいい感触を楽しむのに、きみの声は不愉快だ」

「え」

「きみの名前、容姿、生い立ち、家業、全てに興味がない。ああ、話をするのもつまらない。ここから消えてくれ」

「…………」


 令嬢は凍り付いていた。

 取り巻きの令嬢もまた、凍り付いている。

 アハツェンは、餞別とばかりに輝くような笑みを見せた。


「さ、行こうかアンネリーゼ。部屋を用意してある」

「あ、あの……」


 わたしの手は、アハツェンに掴まれていた。

 離せない。離すつもりがない。まるで手錠のように、わたしの手を掴む。


「ふふ、細くしなやかで、国宝の銀聖剣の柄よりも手触りがいい」

「…………」


 わたしはそのまま、別室へと連れて行かれた。

 そして、部屋に入るなり抱き上げられる。


「ああ、アンネリーゼ。もっときみの匂いを堪能させておくれ。きみの香りに包まれているだけで、ボクはもう……!」

「アハツェン……」

「覚えてる? 初めて会ったあの日のこと」

「ええ……覚えてる。


 アハツェンとの出会い。それは、忘れられるはずがない。


 ◇◇◇◇◇◇


 アハツェンとの出会いは、もう十年ほど前だ。

 わたしの父が治める領地は田舎も田舎。広大な農地ばかりで大自然に囲まれている。

 療養。幼い頃、身体が弱かったアハツェンは、うちの領地で静養する目的で来た。

 わたしと出会ったのは、お父さんと公爵様が挨拶している時。


「娘の、アンネリーゼです」

「ご丁寧に。こちらは息子のアハツェンだ。身体が弱いからあまり遊べないと思うが、仲良くしてやってくれ」


 アハツェンのお父さんと、うちのお父さん。爵位や階級こそ違うけど、昔一緒に戦場を駆け抜けた仲間だとか……そんなつながりがあり、アハツェンの療養先がうちになったとか。

 初めて見た印象は、「弱々しい小リス」だった。


「ち、ちちうえ……」

「ほら、挨拶なさい」


 父親の影に隠れる、わたしよりも小さな男の子。

 わたしは前に出て、スカートの裾を持ち上げる。


「はじめまして。アンネリーゼです」

「……あ、アハツェンです」


 最初は、かわいい弟ができた……こんな風に考えていた。

 でも、その考えはすぐに違うと思い知らされる。


 ◇◇◇◇◇◇


「アンネリーゼ、一緒に寝ない?」

「え?……んー、いいよ」


 アハツェンがうちに来て数日。

 挨拶や軽いおしゃべりができるようになり、そこそこ打ち解けた。

 そんなある日。寝間着姿でお喋りしていると、アハツェンがそんなことを言った。

 わたしはまだ六歳だったし、淑女らしくないとか、結婚してない男女が~とか考えてなかった。なので、軽い気持ちで一緒に寝たのだ。

 

「アンネリーゼ……いい匂い」

「ふふ、アハツェンもいい匂い」

「アンネリーゼ……ぼく、アンネリーゼがすき」

「わたしも好きだよ、アハツェン」


 子供同士の、他愛ない会話。

 でも、この日からだったと思う。

 アハツェンは、毎日私と一緒に寝るようになった。

 そして、わたしの匂いを嗅ぐ。ちょっと恥ずかしいくらいにしか考えてなかったけど、アハツェンにとってはそうじゃなかった。


「はぁ、はぁ……アンネリーゼ」

「あ、アハツェン? 顔が赤いわ。熱あるの? 誰か、誰か!」


 一緒に寝ていたある日。アハツェンは熱を出した。

 わたしはすぐに医者を呼び……この日から、一緒に寝ることができなくなった。

 わたしは、責任を感じた。

 もしかしたら、わたしが一緒に寝たせいでアハツェンは。そう考えてしまう。

 それから、アハツェンとはなんとなく距離を取り……一年ほどで、アハツェンは王都へ戻った。

 帰りの馬車で、わたしはアハツェンとお別れする。


「アンネリーゼ……また会おうね」

「ええ。また」


 アハツェンと最後の抱擁をする。

 やはり、アハツェンの息は荒い。


「はぁ、はぁ……はぁ、アンネリーゼ」

「アハツェン?」

「アンネリーゼ……ぼく、決めたよ。ぼく……きみを」

「え?」


 アハツェンが、わたしの発する「フェロモン中毒」になっていたのは、ずいぶんとあとで知ることになる。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから、数年。

 わたしは十五歳になった。

 そして、初めて王都で開催されるパーティーに、お父さんと出席する。

 お父さんは、わたしのためにドレスを買ってくれた。

 気分はお姫様。でも……わたしは、王都の令嬢たちに洗礼を受ける。


「あーら? あなた、どこから来たのかしら?」

「え、えっと……エンデヴァールから来ました。アンネリーゼと申します」

「エンデヴァール? ああ、あの田舎の……皆さん、田舎のエンデヴァールから来たご令嬢が挨拶したいそうで!」


 馬鹿にされた。

 わたしは、社交界の闇を知らなかった。

 くすくすと嘲笑されるのに耐えられず、涙を堪えうつむいていた。

 すると───嘲笑がピタッと止む。


「会いたかった───僕のアンネリーゼ」

「えっ」


 ふわりと、背後から抱きしめられた。

 大きな、包み込むような腕。わたしより身長が高く、胸板ががっしりしていた。

 いきなりのことで混乱するわたし。

 すると、目の前にいた令嬢たちが青くなっていた。


「ネイブリー侯爵令嬢、セレナ伯爵令嬢、ウェイン子爵令嬢、アーベル男爵令嬢、ユリアナ男爵令嬢……」


 わたしを抱きしめる誰かは、目の前にいる令嬢たちを一人ずつ名指しで呼ぶ。


「彼女を愚弄し嘲笑した罪、後悔するんだな」


 ゾッとするような冷たい声だった。

 わたしを抱きしめる誰かは、わたしを抱き上げる。


「きゃっ!?」

「久しぶり。アンネリーゼ」

「……え?」


 誰かわからなかった。

 サラサラの銀髪。宝石のような碧眼。がっしりした体格は騎士のようで……でも、着ている服はまぎれもなく貴族。

 銀髪、碧眼。わたしは幼い記憶が揺り起こされるのを感じた。


「まさか、アハツェン?」

「うん。父から爵位を受け継いだから、もう公爵だけどね」

「こ、公爵様!? もも、申し訳ございません。こんな」

「駄目。ずっとこうしたかったんだ。このままキミの匂いを堪能させてよ」


 アハツェンは、わたしの首元に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。


「すぅ───っ……ああ、アンネリーゼ、この豊潤でかぐわしい……」

「や、やめ」

「駄目。さぁ、部屋に行こうか」

「え、ええっ!?」

「幼いころのように、一緒に寝よう。キミの胸の中で」

「~~~っ」


 子供のころならともかく、今はいろいろまずい。

 互いに成長したのだ。冗談では済まされない。

 でも、わたしは結局部屋に連れ込まれ───。


「アンネリーゼ……ああ、美しい……まるで泉の女神。ぼくの、ぼくだけの女神……」

「ま、待って……ダメ、こんな」


 抱かれる───のではなく、アハツェンは上半身裸になり、わたしの首元の匂いを嗅いでいた。

 

「ああ、狂ってしまいそうだ……アンネリーゼ、ぼくのアンネリーゼ」


 幼児退行。という言葉をわたしは知らない。

 狂ったように匂いを嗅ぐアハツェンは、子供のように見えた。

 この日から、わたしはアハツェンの『抱き枕』となった。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 領地に帰ることは許されなかった。

 アハツェンは、貴族街に大きな屋敷を買い、わたしに住むように命じた。

 お父さんとどんな取引があったのか知らない。いつの間にか、わたしとアハツェンは婚約していた。

 アハツェンは、仕事が終わると必ずわたしの元へやってきて、服を脱いで抱きしめてくる。

 

「愛してる。愛してるアンネリーゼ……ぼくの、ぼくだけの女神。ああ、アンネリーゼ」

「……わたしも、愛してる」

「あ、ああああぁぁぁぁぁっ!!」


 そのまま、狂ったように匂いを嗅がれる。

 抱かれるわけじゃない。強く抱きしめられ、これでもかと匂いを嗅がれる。

 わたしのドレスはくしゃくしゃになり、髪もボサボサ、汗だくになる。

 ようやく気付いた。アハツェンは、変態だった。

 そんなある日。

 アハツェンは、仕事を終えて上機嫌でわたしの元へ。


「アンネリーゼ、今日はいい報告があるんだ」

「いい報告?」

「うん。以前、パーティーできみを侮辱した令嬢たちがいたろ?」

「……ええ」

「ネイブリー侯爵令嬢、セレナ伯爵令嬢、ウェイン子爵令嬢、アーベル男爵令嬢、ユリアナ男爵令嬢。彼女たちの実家をようやく全て壊滅させたんだ!」

「……え?」


 アハツェンは、子供のように笑った。

 無邪気な子供は続ける。


「罪を着せて爵位没収。さらに家業をツブして、悪評をばらまいた。それと家の使用人に金を握らせて大量解雇。貴族は使用人がいないと何もできないからね。もう少し時間がかかると思ったけど、早く片付いたよ」

「…………」

「それと、きみの父親にお願いして、この件の事態を収拾させる指揮を執ってもらった。この功績でエンデヴァール男爵家は爵位が上がる。ふふ、嬉しいかい?」

「え、え……? れ、令嬢たちはどうなったのです?」

「さぁ? 平民落ちしたと思うよ。自殺したのもいるみたいだけど……ぼくのアンネリーゼを愚弄したんだ。死んで当然さ!」


 アハツェンは、そっとアンネリーゼを抱きしめた。


「待っててね、アンネリーゼ。きみを馬鹿にする奴は全員、ぼくが粛清してあげるから。ぼくの女神……ああ、なんて美しい」

「…………」


 わたしは、ようやく知った。

 天使のような笑みを浮かべ、悪魔のように嗤う子。それがアハツェン。

 わたしのためなら、アハツェンは子供や赤子ですら始末する。

 アハツェンと真正面から向き合い……その碧眼の奥が、ドロドロした『愛』で満たされていることを知った。


「愛してる、アンネリーゼ……」

「……わたしも、よ」


 悪魔の両腕は、きっと永遠にわたしを離さない───。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変良い執着、大変良いヤンデレでございました……!!! ヒロイン以外に容赦ないヤンデレ、最高ですね(つω`*) その碧眼の奥が、って所とてもすきです……。 流石さとう先生……!!!! 企画…
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